川村雅則「民間委託における清掃労働者の労働実態(2011年)」

公契約条例制定の取り組みを進める上で、過去に書いたものを整理しています。(1)本稿は、『月刊労働組合』の第563号(2011年10月号、特集:自治体外注先企業での闘い)に掲載された「清掃労働者の実態調査から/高密度労働なのに低賃金──民間委託分野における官民格差を直視し、官民が一体となった労働運動を」の転載です。(2)本稿に関連する資料を付記しました。「自治体発注業務における賃金算出根拠を調べる」という短文をNPO法人建設政策研究所が発行する『建設政策』の第176~第183号(2017年11月号~2019年1月号)に連載してきました。建設工事では「公共工事設計労務単価」が使われているように、委託業務や指定管理では何が使われているのだろうか、という問題意識に基づく内容です。本稿に関連する資料をそこから抜き出しました。/2021年度も、民間委託清掃労働者の話を聞く機会がありました。すみやかにまとめていきたいと思います。

 

 

はじめに

 

公務職場の内部で非正規雇用が増加している。のみならず、公務から切り離された部分(民営化、民間委託、指定管理者など)でも、低賃金雇用がひろがりをみせている(以上を総称して官製ワーキングプア問題)。見方を変えれば、官製市場「改革」の「成果」ともいえる。

本稿では、今年〔2011年〕、ゼミの学生と取り組んでいる前記テーマのうち、民間委託分野で働く清掃労働者の実態を報告する。手元の文献[1]によれば、直営と委託を比較すると、委託は直営の半分以下のコストでごみ収集が可能であるという。そうした官民の「働き量」の大きな差は、官の硬直的な(?)給与の支払いに対して、「民間ではごみを収集する量に応じて給与、手当が増額されるシステムになっており、それが働く意欲への刺激となっている」からだという。この種の文献に目くじらを立てるつもりはないが、委託現場は果たして上述のとおりなのか、みていこう。

なお本稿は、現在進行形の調査の結果を、本号の特集に間に合わせるため急きょ執筆した、中間報告的なものである[2]

 

委託費と清掃労働者の年収の動向

 

図表1 廃棄物の種類

注1:家庭生活にともなうもの。
注2:事業活動で生じたもので産業廃棄物以外のもの。
注3:産業廃棄物の種類については省略。
出所:札幌市資料より。

 

私たちの暮らしは、廃棄物(以下、ごみ。図表1)の収集・処理なくして成立しない。だが、そこで働く人達に世間はさして関心がないようで、彼らの労働条件を規定する委託費に関しても、安ければそれだけ税金が節約できてよいという風潮さえ感じる。

 

図表2 「燃やせるごみ」トン当たり委託費の推移

注1:札幌市から提供された「燃やせるごみ」の収集実績(委託部分)と委託費で算出。収集方法等に変化がないことを前提とした、あくまでも便宜的なデータである。
注2:ごみ有料化や新たな分別収集が始まる前の年度(2008年度)まで掲載した。

 

仕事量当たりの委託費データが入手できなかったので、ここでは、市の資料を使って、便宜的に試算してみた。家庭収集ごみの中でも委託費が最も大きい(2008年実績で委託料全体の半分を占める)「燃やせるごみ」の収集量と委託費データを使い、トン当たりの委託費の推移をまとめた(図表2)。ここ数年こそやや上昇傾向にあるが、かつて1万1千円を超えていた委託費は、いちどは9千円を割るまでに下がっている。

 

図表3 平均年収額の推移

注:清掃労働者は、正確には民営の廃棄物処理業の労働者。
出所:厚生労働省「賃金構造基本調査(各年版)」より作成。

 

図表4 年齢別にみた平均年収

注:図表3に同じ。
出所:厚生労働省「2010年 賃金構造基本調査」より作成。

 

清掃労働者(民営の「廃棄物処理業」の労働者)の賃金データを政府統計で整理したところ、全体平均よりも大きく下落し、両者の差がひらいている(図表3)。委託費と賃金動向のデータ整理が課題である。なお、年功制カーブが低いこと(図表4)も清掃の賃金の特徴だ。

 

ごみ収集量と雇用の不安定

 

市ヒアリングによれば、直営は全員が正規雇用だという。それに対して委託分野では、全員を正規雇用で雇うことはできず、常時・直接雇用している非正規雇用(全体の3~5割)のほかに、「人材紹介」を使っているという。委託料水準の問題に加えて、曜日によるごみの量の変動が、その背景にある(以上、事業者ヒアリング)。

柔軟な雇用の使用を仮に認めるにしても、労働力の調達方法・労働規制のありかたは個別企業に任せず業界全体で取り組むべき課題といえよう。

 

労働者アンケートにみる清掃労働者の姿

 

図表5 雇用形態・主な業務形態別にみた回答者

注:運転と収集の両方に○をつけていた1人(非正規)は除く。

回収されたアンケートのうち、主な仕事内容がごみ収集(さらに、主に運転と主に収集にわかれる)であると回答した123人に限定して結果をみてみる(図表5)。無回答は除いて算出しているので、有効回答は必ずしも一致しない。

 

・非正規は6割が年収200万未満、正規でも3分の1は年収300万未満

図表6 雇用形態別にみた収入状況

注1:aとbの各金額に対する値は、累積値である。
注2:bの対象からは、勤続1年未満の回答者を除いた。
注3:cは世帯の最大の収入源を1つのみ選択してもらった。残りは、「妻」や「親」を選択、あるいは「本人と妻」など複数選択。

 

図表7 札幌市(直営)清掃職員の収入等

注:平均給与月額を12倍したものに、前年度に支給された期末・勤勉手当を加えた試算値である。実際には寒冷地手当等がここに加わる。
出所:札幌市資料より作成。

まず非正規の収入の低さに驚く(図表6)。全体の6割が、毎月の手取りが15万未満で、年収(税込み)が200万未満だ。「他にアルバイトをしなければ生活できない!」との声に納得である。しかも日給月給制ないし時給制なので収入は不安定だ。「運転する日としない日では日給が違い、月の給与が定まらないので生活が不安定。」

一時金や諸手当があるとはいえ、正規雇用でも収入は低いことは強調しておかなければなるまい(図表には示していないが、全体の3分の2、つまり66.7%が350万円未満だ)。

しかも、両者ともに、その多くは、自らの収入が主たる収入源なのだ(同図表c)。

「給料が安くて、生活がぎりぎり。預貯金ができない。」「ゴミ屋に対しては見下してる風潮が感じられる。」「これから結婚を考えているのですが、15万そこそこの月給。」「何年たっても昇給もなければ、賞与も、冬季手当もない。」「会社の決まりで、作業員は何年たっても正社員になれない。」「ボランティアではないので、生きていけるくらいの賃金は欲しい。」

直営の労働者との賃金格差はたしかに歴然だ(図表7)。

 

・ごみ収集業務は楽ではない―─仕事や労働条件にみる悩み

図表8 労働条件・仕事に関する悩み、不満、不安等(複数回答可)

注:実際には、「その他」を含む28項目の有無を尋ねている。訴えの多いものを中心に、内容別にまとめてみた。

 

図表8は、労働条件・働き方や仕事に関する悩みを28項目にわたって尋ねた結果の一部だ。先にもみた、賃金をめぐる訴え(賃金の低さ・昇給のなさ・社会的評価の低さ)がまず目立つが、ほかにも、働き方・ごみ収集業務に関する訴えも少なくない。清掃労働体験・参与観察ということで、一日だけ仕事(資源ごみの収集)を体験させてもらったが、労働密度の高さが印象的だった。

まず作業員は、車両が停止すると同時にすべるように降りていき、ごみを積み、積み終わると同時にまた車両に飛び乗るか、次のステーションまで駆けていく。

もちろん積み込み時には、危険物や別種のごみの混入に注意を払い、乱雑なステーションは清掃も行う。路上が仕事場なので、車両や歩行者との接触にも注意しなければならない。しかも時間内に仕事を終わらせるためには一連の作業にはスピードが必要だ。夏場を中心に、腐敗や悪臭等にも悩まされる。

「燃やせないごみ収集時、頻繁に火災が発生。」「生ごみが特に悪臭がひどい。収集車で巻くとき、袋が破け、中の水分が飛び、全身にかかる。」「車両に冷房がないので、夏は熱中症に。」「ステーションがゴミ箱化。ねずみ、ハエ等の繁殖による健康不安。」

加えて、自らのごみ出しマナーの悪さは棚に上げ、市民からの苦情が少なくない。だが、市の仕事の受託者としては、市民に対しては低姿勢にならざるを得ないのもつらいところだ。

 

図表9 雇用形態別にみた疲労の蓄積

 

運転者の労働密度も高い。街中なので、歩行者等にも気をつけながら、たくみなハンドルさばきで大型(中型)車両を操作し、運転・停止・発進が繰り返される。「同じ大型でも、長距離トラックとは違った疲れがありますよね」とは運転者の言だ。しかも、運転に専念するだけでなく、作業員と一緒になってごみを積む。

運転業務の多い正規で、より疲労の蓄積がみられるのは(図表9)、こうした仕事状況の反映だろうか。

 

官民一体の取り組みを

 

清掃労働体験の日、昼食休憩で立ち寄った清掃事務所の構内で、サッカーに興じている労働者集団がいた。現業職場ではまだこうした風景が残っているのだなとのどかさを感じていたら、「俺ら民間労働者と違って、彼ら公務員は仕事の量も少ないですから。横になって午後に備える俺たちとは違って元気ですよ」と、その日一緒にまわってきた彼の苦々しげなコメントに複雑な気分になった。

巷の公務員バッシングに加担するつもりはないが、ただこうは思う。公務労組が築き上げてきた働き方や賃金に関する規制を、民間部門にも波及させるような、官と民の労組が一体となった取り組みがなければ、民間委託の「外圧」は食い止められないのではないか。

公契約条例案の提出を前にして、どんな運動が今後展開されるのか、労組に問われている。

 

 

[1] 坂田期雄『民間の力で行政のコストはこんなに下がる』時事通信社、2006年。

[2] 家庭ごみの受託事業者とそこで働く労働者、そして札幌市からのヒアリングを行ったほか、労働者を対象としたアンケートを実施。アンケートは、札幌地域労組・友の会(本誌560号を参照)ルートで行った。なお、札幌の清掃事業については前記の号の大島論文を参照。

 

 

資料 民間委託清掃労働者の賃金算出根拠

 

札幌市に対して、「平成29〔2017〕年度分別生ごみ資源化事業収集・運搬業務(単価契約)」で働く労働者の賃金算出根拠と金額に関する情報提供を求めた(事業の内容は、通常業務が「毎週火曜日・金曜日の週2回収集(年末年始以外)」と臨時業務が「組成調査用の検体を収集・運搬」とある)。

まず、同事業において働く職種としては、「技能職員(運転手)」と「単純労務員(作業員)」が想定されている。

そして、予定価格は6,035,040円で、それは次のとおり算出されている。
①通常業務パッカー車(2名乗車)の1日単価×103日(年間収集日数)×消費税=54,000円×103日×1.08=6,006,960円
②臨時業務平ボディ車(2名乗車)×1回(組成調査回数)×消費税=26,000円×1回×1.08=28,080円

問題は、この「パッカー車(2名乗車)」の1日単価である54,000円(税別)と、「平ボディ車(2名乗車)」の半日単価である26,000円(税別)がどのように求められたかであるが、それは、「収集事業者3社から見積を徴収し、最低価格を単価として適用した」とある。

我々の関心事である、単価の内訳(とりわけ人件費部分の詳細)は提供された資料にはとくに記載されていない。

この事業に限ったことではないが(詳細は、拙稿・連載を参照)、合見積もりによる、こうした平均額や最低額の採用で適正な賃金が果たして設定されるのか、という素朴な疑問が残る。研究を深めたい。

 

 

 

 

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