桝井妙子「2013年に発病したゴルフ店店員の労災認定について」

2013年に発病したゴルフ店店員の労災がこのたび認定されました。その経緯などを桝井妙子さん(弁護士)にまとめていただきました。認定NPO法人 働く人びとのいのちと健康をまもる北海道センター発行「NPO法人いのちと健康まもる道センターにゅーす」第442号(2021年10月1日号)からの転載です。

 

 

事案の紹介

 

ゴルフ店店員としての勤務により、2013年にうつ病を発病したAさん(男性)について、業務起因性が認められ、このたび労災認定されました。代理人弁護士は佐々木潤弁護士、齋藤耕弁護士と当職です。

Aさんは2012年春にゴルフ店の契約社員として入社し、店員として業務を行っていました。入社直後から店長に「バカ」や「デブ」といったパワーハラスメントを受け、早朝ゴルフに強制参加させられるなどしていました。また、2013年春には同僚の店員が店内品を窃盗したとのことで解雇され、仕事量が増大するなどの出来事がありました。仕事量の増大に伴って時間外労働が増加し、2013年6月に病院を受診したところ、うつ病と診断されました。Aさんは耐えながら勤務していたものの、同年8月に大動脈解離で倒れて入院し、その後は自宅で療養する日々となりました。

もっとも、Aさんは発病の原因となったゴルフ店を退職後、2016年から就労制限付きで別のゴルフ店に勤めていました。また、発病当時からの主治医が2019年6月に急逝してクリニックが廃院となっており、当時の状況を確認することができないといった事情もありました。

法的には、2013年発病であるが相談を受けたのは2019年であったことから療養補償、休業補償の2年の時効との関係がどうなるのか、発病後に別のゴルフ店に勤務したことが治ゆと判断されないか、といった懸念を抱えながらの申立てとなりました。

 

認定の内容

 

①時間外労働について、2013年3月は39時間であったが、同僚の店員が解雇され、ゴルフのシーズンインとともに仕事量が増大した同年6月には62時間と、23時間増加していました。この出来事について「仕事内容、仕事量の大きな変化が生じた」として心理的負荷が「中」と判断されました。

②また、Aさんはゴルフ店店長から日常的に「バカ」と言われるなどしていたところ、調査官の聴取において店長がこの発言自体を認めたようであり、「上司等からの、身体的攻撃、精神的攻撃等のパワーハラスメントを受けた」として、出来事の心理的負荷が「中」と判断されました。

③そして、これらの出来事が近接していることから、全体評価として「強」との認定になりました。

 

本件で得られたこと

 

発病の原因となった業務上の負荷はすでに6年以上前の出来事でしたが、Aさんが当時のシフト表を保管していて、廃院となったクリニックからカルテの開示を受けていたり、退勤時にも妻に毎日LINEしているなど、認定につながる資料をきちんと残していました。

また、本件の意見聴取は、新型コロナウイルス流行下で行われたため、労基署での聴取において同席するのは代理人1名に限られましたが、2回目以降の調査についてはAさんの体調にも考慮し調査官から電話聴取の提案があるなどしました。電話聴取の場合、聴取書案が書面で送付されるため、ゆっくりと内容を確認し、Aさんの話したことがうまく反映されていない部分について追記を求めることなどができました。

申立て時に懸念していた点について、時効との関係は、労災認定されてから2年分に遡って各給付が支給されることになりました。また、発病後に別のゴルフ店に勤務したことについては調査復命書のなかで特段触れられておらず、勤務の前後を通して一貫して抗不安剤が処方され月1回程度の通院が継続しており、治療継続中で治ゆしていないとの当方の意見が受け入れられたものと考えられます。

 

おわりに

 

今回、Aさんがいの健につながったのは、知り合った別のいの健会員からの勧めでした。Aさんとその妻は、精神的な病に苦しむ人にぜひ自分たちの事件についても紹介してもらい、少しでもみなさんの後押しになればと話してくれました。発病から認定を勝ち取るまで長い時間がかかりましたが、諦めずに取り組んだAさんに敬意を表します。

 

 

 

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