コラム労働組合は「オワコン」なのか?~非正規を踏み台にするのはやめよう

コラム労働組合は「オワコン」なのか?~非正規を踏み台にするのはやめよう

2022年春闘を前に、道労連がこの間提起・実践してきた非正規雇用問題の取り組みに関するコラムです。非正規雇用問題を名実ともに労働組合の中心課題にすえること、意図的に生み出されてきた分断と対立に対抗する軸として「公正」を掲げてたたかうことを呼びけています。

コラム労働組合は「オワコン」なのか?~非正規を踏み台にするのはやめよう

労働組合は誰のために存在するのか

「年越し派遣村」から12年余。労働者が路上に放り出され、衣食住が一瞬で奪い去られる状況を目の当たりにし、多くの人たちが怒り、憤り、支援と連帯の輪を広げたあの時から、何を変えることができたのか。何を変えられなかったのか。コロナ禍で、非正規・女性労働者へ真っ先にしわ寄せがいき、もっとも影響を受けています。2022年春闘を前に、私たち労働組合が何をすべきかが問われています。

1995年の「新しい日本的経営」以降、政官財が一体となって「雇用の流動化」「自己責任」「成果主義」の徹底した刷り込みと、そのための制度・政策を推進してきました。その結果、雇用形態、企業規模、地域間の格差は拡大し、労働者同士を団結させない状況が深く進行しました。

非正規雇用は4割を超え、先進国の中で唯一実質賃金が低下、労働組合の組織率とスト権の行使率も右肩下がりの状況が続いています。非正規雇用の拡大は、正規雇用の賃金を強く抑制し、長時間かつ無限定な働き方を強いる結果が生み出されてきたことを共有し、「公正」な賃金と雇用を求めて広範な労働者・国民と連帯してたたかうことが求められています。

とりわけ、「分断」の大元になっている「非正規差別」を変えていくことが急務です。雇用と暮らしを守るために、いま何が必要なのか。労働者同士が分断され、たたかう力を削がれてきた要因はなにか。どうすれば、この状況を打破できるのか。労働者の最大の力は「団結」であるという労働組合の基本に立ち返った取り組みが重要です。寒冷地に住んでいることを条件・対象にして支給されている「寒冷地手当」(越冬・燃料手当、等)に象徴されるように、なぜ非正規雇用だからといって「除外・排除」とされるのか。この状況が「公正」だといえるのか。

私たち労働組合は、壁をつくる側に立つのではなく、壁を取り払っていくこと役割が求められています。

SOSネットワーク北海道「札幌派遣村」
2009.09.17に札幌大通公園で開催したSOSネットワーク北海道による「札幌派遣村」。街頭相談・炊き出しを複数回行った。

 

問題の本質から目を背けない ~No Pain, No Gain.

道労連は、コロナ感染拡大直前の2019年12月に行った春闘学習討論集会で、ひとつの試みを行いました。

付け足し、あるいは2番目、3番目に据え置かれていた非正規雇用労働者の賃金・雇用問題を第1の要求に据えすること。予算の重点配分化も含めて、非正規問題を労働組合の中心課題に位置付け、名実ともに「私たちの要求」とすることを提起しました。具体的に言えば、要求書の1番目の項目に非正規雇用の賃上げや労働条件改善を書く、などです。

学習・提起に入る前に、①非正規問題を最重点に位置付けてたたかうべき、②非正規問題は重要だが自分の職場での改善は難しい、③正規だって大変なのだから正規の要求をまず掲げるべき、の3つの中でそう思うグループに分かれてもらい「なぜ、そう思うのか」をペアトークで議論することとしました。

これまでは、非正規雇用問題を取り上げると組織内で「分断」が起きるので、非正規だけで議論する(部会、分科会など)というケースが大半でした。しかし、それでは本当の問題解決にはならないし、団結を弱める結果になってしまうという思いから、組織や雇用の違いを超えて課題と解決を共有するための場をつくることにしました。

ほぼ均等に参加者が3グループに分かれ、「非正規というのは名前の違いでしかない。これ以上差別を放置すべきではない」「改善すべきだと思うが自分の職場ではそれだけの財源がないので厳しいと思う」「近年は非正規のことばかり言うけど正規も大変。職場を安定的に回すためにも正規の改善が大事」など、率直な議論が交わされました。

その後、なぜ非正規雇用が増えたのか、その結果何が起きたのか、を報告・提起するなかで理解が深まり、「公正」を掲げてたたかう闘争方針の意義を共有することができました。

 

課題と道筋を共有することが「熱量」を生み出す

本部だけで、ベテラン層の幹部だけで方針決定や議論を行っていると見過ごされがちですが、毎年多数の組合員が新たに加入し、役員も入れ替わっています。

なかには、1年ごとに総入れ替えするような組織もあります。その是非はともかく、みんなが「同じ目線」に立てるようにすること、情勢認識と展望を一致させることがとても重要です。文字だけだと「あたりまえのこと」と思うかもしれませんが、実際には、本部、支部、分会、組合員という段階ごとに熱量の格差が大きくなっています。

そもそも、方針を決める時に、取り組みを決める時に、非正規雇用の組合員が「1人もいない」状態で決めている組織も少なくありません。当事者抜きで当事者のことを決める。これが労働組合と言えるのだろうか。そうした問題意識から方針転換を提起してきました。

労働者間の分断や壁を取り払い、問題を解決していく力を生み出すには、職場の中に重くのしかかっている「あきらめ」や「閉塞感」を払しょくする希望が必要です。

現状から出発しつつ、「変わる!変えられる!」という希望・展望を共有することが大切です。

解雇や雇い止め、配置転換や昇格差別など「モノ言う」ことでの不利益を恐れている人たちに、「発言」と「権利行使」を労組が守り、保障することが希望になります。長時間労働や過重労働で疲弊している人たちに、人員増による労働軽減のための道筋を示すことが希望になります。

賃金が低すぎること、差別的な待遇があることに対して、誰もが健康で文化的な生活を送れるようにすること、非正規差別を是正していくことが希望になります。

正規と非正規、若手とベテラン、性差、民間と公務、大企業と中小企業など、労働者同士が競争して反目すればするほど、自己責任や企業内主義に陥れば陥るほど、財界はいっそう利益をあげ、労働者の雇用と暮らしはいっそう悪化していくことは、この30年の歴史が証明しています。

いま、私たちが掲げるべきは「公正」です。誰もが、どこに住んでいても安心・安全に暮らしていくことができる税と社会保障のための公正な富の再分配が必要です。誰もが尊厳を持って人間らしく生存権が保障される公正な賃金と雇用が必要です。地域経済の活性化と持続可能な社会を求め公正な取引環境が必要です。道労連は、公正な職場・社会・政治の実現を求めてたたかいます。

道労連の非正規差別NGキャンペーンロゴ


筆者:北海道労働組合総連合 事務局長  出口 憲次

ホームページ https://www.dororen.gr.jp/

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