川村雅則「津野香奈美著『パワハラ上司を科学する』を読んで」

昨年(2022年)11月開催の「過労死等防止対策シンポジウム 北海道会場」に講師としてお招きした津野香奈美さん(神奈川県立保健福祉大学大学院)が『パワハラ上司を科学する』を2023年1月に筑摩書房から出版されました

同書を紹介する新聞記事にコメントをする機会がありました(『北海道新聞』朝刊2023年3月2日付)。紙幅の都合で削らざるを得なかった部分を復活させ、加筆もしたのが、この短文です。どうぞお読みください。

 

津野香奈美さんの新著

 

職場のパワハラ被害が深刻である。しかしその対策は遅れている。

与えられる仕事の内容・範囲や量があいまいな日本では、「指導」とパワハラが混在しがちだ。家事・育児など私生活をいとわぬ精鋭であることが求められるなど、働き方に関する法規制の弱さや人権を軽んじる職場慣行が被害に拍車をかける。加害者の「俺が若い頃はこんなの当たり前」「何でもかんでもパワハラと言われるのは心外」というせりふはその象徴だ。

パワハラを誰がしているのか、なぜ起こるのか、パワハラをなくすには──国内外の研究に基づき、こうした一連の疑問に科学的根拠をもって答える本書は、パワハラ問題に真摯に向き合う使用者・管理職や労働組合関係者に必読の書である。

パワハラを引き起こす上司のリーダーシップ形態を記した章では、職場の人間の顔が具体的に思い浮かぶのではないか。自分や自分の職場には関係ないと思うのではなく、そもそもパワーを濫用する人間の弱さやパワハラを助長するような職場環境・組織特性を理解することがパワハラ防止に役立つ。論述は冷静だが、パワハラをなくしたいという著者の熱い思いが伝わってくる。

ところで、本書でも紹介されている、2019年に改正された「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律」は、俗にパワハラ防止法と呼ばれていることから誤解されがちだが、同法にはパワハラ行為そのものを禁止する規定がない。パワハラ防止の行動を関係者に促すためにも、法規制の強化が並行して求められる。そのことを強調したい。

加えて、パワハラに苦しんでいる人たち、とくに、それを指導と錯覚させられている若い人たちに伝えたい。あなたが受けているその理不尽は、耐えなければならぬものでは決してない。あなたを助けてくれる場所はある。そこに駆け込んで欲しい。

職場の労働組合にも助けてもらえずに絶望しているような状況がもしあるのであれば、なお一層、そのことを伝えたい。あなたを助けてくれる場所はある。

 

 

 

(参考資料、関連記事)

佐々木亮弁護士・日本労働弁護団幹事長「先月成立した<パワハラ防止法>の解説と今後の課題」『Yahooニュース』2019/6/20(木) 6:30  

川村雅則「あなたの近くの労働組合──仕事で困ったときには気軽に相談を」

竹信航介「労働者のための労働法トラブルの解決方法」

労働安全衛生活動の歴史と職場での労安衛活動の進め方/職場のパワハラ防止をめざして

 

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