川村雅則「問われる公務職場の〝当たり前〟──非正規公務員の任用をめぐる問題」

雑誌『まなぶ』第741号(2018年9月号)に書いた原稿(「問われる公務職場の〝当たり前〟──非正規公務員の任用をめぐる問題」)の転載です。有期雇用の濫用、すなわち、期限のない仕事に有期で人を雇い続けることの問題性に我々の社会は鈍感でした。民間では、この問題の解決に向けた動きが不十分ながらみられますが、公務の分野では相変わらずです。それは、新たな非正規(地方)公務員制度が導入された今も変わることはありません。

 

 

雇用の〝安定化〞と取り残される人々

*「毎年4月に履歴書提出と面接試験がある。仕事をつづけられるのかストレスを感じる。底辺という立場上、声をあげたりすれば、即、契約更新の打ち切りを感じる」 (50歳代)

*「年齢的にあらたに就活するのはきびしく、職を失くすと生活できなくなると非常に不安。不安なく仕事に従事したい」 (40歳代)

*「就職するのに苦労して、ようやく得た仕事なので、雇い止めになったら、すぐ次が決まるか、生活はどうなるか、考えただけで不安になる。今の仕事にとてもやりがいを感じている。つづけたいと思いながら、つねに雇い止めの不安がつきまとう」 (30歳代)

 

これらは、非正規(有期)で雇われる女性労働者から寄せられた声である。仕事に期限がないにもかかわらず、半年、1年など期間を定めて雇われ、更新がくり返される──こうした有期雇用の濫用をなくし、雇用安定に資するために2012年に改正された『労働契約法』(以下、労契法)では、あらたに設けられた18条(13年4月1日施行)で、雇用安定の道が開かれた。同一の使用者との間で有期労働契約がくり返され、5年を超えた時点で(労働者の申し入れによって)無期雇用に転換されるという内容である。使用者がそれを拒否することはできない。2018年4月1日より本格的な運用が始まっている。

もっとも、冒頭にあげた彼女たちはこの法律では救われない。彼女たちは、非正規公務員であり、労契法は、彼女たち公務員を適用除外としている(労契法22条)からである。本稿で取り上げるのは非正規地方公務員だが、国主導の行財政改革・公務リストラを背景に、地方自治体には彼女たちのような存在が約64万人にも及ぶ(総務省調べ、16年4月1日時点)。

 

あらたな地方公務員制度の下でもつづく雇用不安

労契法18条にもとづく無期雇用転換は必ずしも順風満帆ではない。無期転換権発生前の雇い止めや、労働契約期間をゼロにリセットするための契約空白期間の導入(クーリング)など、法改正の趣旨に抗(あらが)う使用者によって各地で労使紛争が起きている。

しかし、そこで問題になっているのはあくまで違法・脱法行為であり、ここで取り上げる公務員はそもそも法の適用から除外されている。相変わらずいつまでも有期で雇われ、雇い止めに怯えて働きつづけることになる。

民間企業とは異なり、一定の条件を満たしても雇い止めは撤回できない。労使対等の雇用関係と異なり、任命権者の意思が優先される公法上の任用関係にあるという法解釈がそのことを正当化する。公務員であるから民間労働者とは異なる、というわけである。法制度や労働組合(職員団体)で守られている正規の公務員と異なり、非正規公務員という存在が長期で働くことを前提とした法制度の整備もそもそもされてこなかった。

 

表 現在の職場での雇い止めなどへの不安と働き続ける希望

注1:四捨五入の関係で計100%にはならない箇所もある。
注2:北見市以外は非常勤職員に勤続上限が設けられている。
出所:2013~2016年度にかけて道内4市で筆者が行った非正規公務員アンケート調査結果より。

こうした状況に対して任用要件の厳格化を目的に、2017年5月に地方自治法、地方公務員法が改定された。この法改定に対する評価はここでは割愛するが、少なくとも、表にまとめたような、非正規公務員の任用実態にもとづく法改定ではなかったことはあきらかである。そのため、有期雇用(任用)の面では矛盾を残した。むしろ逆行する感さえある。

なぜなら新制度(会計年度任用職員制度)下では、新たな職に毎年あらためて任用される、という考え方にもとづき、毎年、1カ月の条件付き採用期間が設けられることになったのである。ほんらいは雇用安定に結びつくと肯定的に評価されるべき「再度の任用(民間でいう雇用更新)」についても、「身分及び処遇の固定化などの問題」という留意事項とされている。こと「非正規」の領域に関しては、公務員はめざすべき基準たり得ない。

 

安全や健康、いのちであっても差別される公務職場

不安定な雇用や差別的な待遇(非正規公務員の多くは年収200万円未満)の問題だけではない。職場における安全や健康、いのちの面でも差別的な扱いを彼女たちは受けている。

まず、自治体によっては、安全衛生管理体制から臨時・非常勤職員を除外している。職員安全衛生管理規則等の適用範囲に臨時・非常勤職員が含まれていないのだ。また、仕事が原因で病気やけがをした場合の補償制度も複雑である。民間であれば、雇用形態に関わりなく労働者災害補償保険法(『労災保険』と呼ぶもの)にもとづき補償が行われる。

しかし、非正規公務員の場合には事情(制度)は複雑である。任用形態や事業場によって補償制度の取り扱いが異なる。

なかでも労基法別表1以外の事業に従事する臨時・非常勤職員は、地方公務員災害補償法にもとづく条例によって補償が行われるのだが、「職権探知主義」──使用者みずからが労災の発生を探知し補償する、つまり職権により公務災害を探知し認定するという合理性ある考え方が、誤って運用(あるいは悪用)される事例が発生している。

北九州市の事例──同市で子ども・家庭相談を担当する非常勤職員が上司からのパワハラや不適切な労務管理・過重な業務によってうつ病に罹患し、退職後にみずから命を絶った。その後、遺族が市に対して公務災害補償の照会を行ったところ、遺族には請求権が認められないと回答され、現在、遺族が福岡地裁に提訴中──はその一つである(※)。同市では、災害補償の請求権が本人や遺族に認められていないのだ。

※ 「非常勤、労災請求できず 国の条例ひな型、50年前のまま 遺族、北九州市提訴へ」(16年12月13日朝日新聞大阪夕刊)

 

公務職場でこそ、憲法的価値の実現を

「民間の世界ではおよそ考えられない(通常このフレーズは、公務員バッシングのときに使われる)」こうした事態が生じているのはなぜか。行財政改革の激しさはいくら強調しても足りないが、労働組合の「容認」ははたしてなかっただろうか。問題解決に向けた模索・実践が各単組やナショナルセンターの垣根を超えて進みつつある。NPO法人官製ワーキングプア研究会(白石孝理事長)はそのさきがけであり、精力的な情報発信や経験交流が行われている(同研究会のウェブサイトを参照)。公務員労組が平和や生存権など憲法的価値を守り育てる勢力の中心的な存在であったことは疑いのない事実である。足下の公務職場でそれを実践できるかどうかが今問われている。

 

《参考文献》

川村雅則「無期雇用転換運動と公共部門における規範性の回復運動で、貧困をなくし雇用安定社会の実現を」(『月刊全労連』2018年7月号所収)大学・研究機関や公務の労組との座談会「無期雇用転換を求める大学・公務職場の運動」(『経済』18年9月号所収)

■上林陽治『非正規公務員』( 12 年 日本評論社)、同『非正規公務員の現在──深化する格差』(15年 同)

■山下弘之(NPO法人官製ワーキングプア研究会理事)「格差を生み出す制度のカベ:自治体臨時非常勤職員の労働安全衛生」『季刊労働法』(17年秋号)

 

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