本田宏書評 吉田徹『アフター・リベラル 怒りと憎悪の政治』(講談社現代新書、2020年)

『北海道新聞』朝刊2021年2月28日付に掲載された、吉田徹『アフター・リベラル 怒りと憎悪の政治』(講談社現代新書、2020年)への本田宏氏(北海学園大学教授)による書評です。

 

 

「先進国の政治混乱 包括的に分析」

北海道大学の気鋭の政治学者による本書は、先進国の現代政治が共通して直面する混乱の原因を包括的に分析する。

前半では、左右の二大政党で構成される自由民主主義体制が戦後に成立した経緯と、その後の変化を論じる。戦後の経済成長期を過ぎると、製造業の衰退を背景に経済的争点をめぐり、有権者が階層に従って投票する「階級投票」が減少する一方、環境や移民、ジェンダー、歴史認識といった「文化的」争点をめぐる権威主義対リベラルという対立軸が生まれた。1990年代以降になると、リベラル左派・社会民主主義政党が新自由主義路線に接近し、保守政党も文化的な自由化を容認した。このことが移民排斥を掲げるポピュリズムの登場を招いたという。

中盤では、歴史認識問題が紛糾する原因を分析する。歴史は「事実」の集積というより共同体で集合的に作られていくものだが、ある共同体が被害者意識に基づく記憶を選択的に突き詰めていくと、別の共同体の反発を呼び覚ます。和解には相互の忘却や赦しがある程度必要であり、他人と共有できる「公正な記憶」が求められると論じる。

後半では、1960年代以降の社会意識の個人主義化が進み、学生運動の影響を受けた「新しい社会運動」が個人の自律を重視し過ぎた結果、公共意識が解体し、新自由主義の台頭する道が開かれたという。

以上が概要だが、個別の点では疑問も浮かぶ。例えば最近のドイツでは、新しい社会運動を起源とする緑の党が近年党員数を増やし、支持率の点でも社民党に代わる第2党に浮上してきた。メルケル首相の所属する最大政党、キリスト教民主同盟も移民受け入れ積極論で中道化したが、そのことで一時的に伸張した極右政党の支持率も最近低下している。ある大政党が低落しても別の政党が代替するなら、政党政治は弾力性を保持している。現代の社会運動も多様であり、それ自体が集団的な問題解決の表れである。

こうした若干の難点はあるが、欧米知識人の議論の最新動向を知る道案内を提供している。

 

(参考)

吉田徹『アフター・リベラル 怒りと憎悪の政治』(講談社現代新書、2020年)

 

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