川村雅則「労働界における官民共闘で、雇用安定と賃金底上げ・不合理な格差是正の実現を」

労働運動総合研究所が発行する『労働総研クォータリー』第116号(2020年春号)で「労働運動の新たな挑戦」が特集されました。そこに掲載された一本です。「労働界における官民共闘で、雇用安定と賃金底上げ・不合理な格差是正の実現を──非正規雇用をめぐる2020 年の労働組合の課題」。お読みください。

 

 

 

はじめに

政府主導の働き方改革が進められるなかで、その危険性や問題点を的確に批判しながら、一方で、働く側のニーズに沿った実効性ある現場からの働き方改革が求められている。

労働契約法第18条に基づく無期雇用転換、パートタイム労働法と労働契約法第20条が統合されたパートタイム・有期雇用労働法による不合理な格差是正、新たな非正規公務員制度の施行など、非正規雇用問題の改善に限定しても、2020年は重要な年である。運動を前進させるためには、およそ4割にも達した彼ら非正規労働者の組織化と、労働界における官民連携が不可欠である。北海道の取り組みも紹介しながら、労働組合に求められている課題などを提起する[1]

 

 

働き方改革へのスタンスと、本稿の構成

──北海道で、様々な業種の労働者調査に取り組むほか、労働組合や弁護士らと、なくそう!官製ワーキングプア運動や公契約条例の制定運動に取り組む川村雅則さんに、非正規雇用問題を中心に労働組合の取り組むべき課題などを聞きます。

 

働き方改革関連法が2018年6月に成立し、2019年4月から順次施行されている。政府によるこれら働き方改革の内容をどう評価するか。時間外労働の上限規制水準の低さ(過労死認定基準の水準)や高度プロフェッショナル制度の導入、そして、法案から削除されたとはいえ裁量労働制労働運動の新たな挑戦の拡大が企図されていたことなどに象徴されるように、働き方改革は多くの問題をはらんでいる。

また逆に、働く人びとが切に望んでいるものは、そのワンフレーズの歯切れの良さとは異なり、実効性に乏しい。そのことは強調されるべきである。

しかしながら同時に、労働法制は労使間の一方の力だけで決まるものではない。労働者・労働組合側の運動で修正されも前進されもする。建前では掲げざるを得なかった理念を実現させるような運動が必要ではないか。

本稿では、そのようなスタンスで非正規雇用問題と労働組合の課題を扱う。本誌今号に掲載された他の論考との重複をなるべく避けながら、以下のようなことを話す。

非正規雇用問題の問題性にふれながら、関連する法制度を使った雇用安定や均等待遇の実現を提起する。その際に、2020年4月から導入される新たな非正規公務員制度(会計年度任用職員制度)を取り上げる。「周回遅れ」との指摘があるとおり、民間非正規労働者の法制度と比べると公務部門は多くの問題を有しており、民間に追いつくことが課題になる。また、もう一つの官製ワーキングプア問題である公共民間労働者の現状を示しながら、公契約条例の制定・公契約の適正化運動(以下、公契約運動)を取り上げる。紙幅の都合で限定的な問題提起になる。最後に、労働組合への期待を述べる。

2020年という年の重要性を示しながら、現場からの働き方改革を社会的な労働運動に発展させていくことの必要性を伝えたい。

 

 

非正規雇用の問題性と、無期雇用転換(雇用安定化、労働側の発言力強化)運動

──まずは非正規雇用の問題をどうとらえているかお話しいただけますか。

 

非正規雇用の問題性を分解すると、第一に雇用面では、仕事に期限がないにもかかわらず期間に定めのある雇い方がされていること、いわゆる有期雇用の濫用である。雇用のジャスト・イン・タイムを求める企業側の労務と、それに応じる政府側の規制緩和政策が問題に拍車をかけてきた。

第二に賃金面では、低い賃金水準の問題性に加えて、なぜ賃金水準が低いままで上がらないのか、正規雇用者との差の根拠は何であるのかといった、賃金の決定基準の不公正という問題である。

そして第三に、労使関係や労働条件決定の面では、労働条件決定における労使対等原則からはほど遠く、労働条件の決定過程から排除されていることである。この点は、とりわけ未組織労働者全般に共通してみられる特徴だが、ここで強調されるべきは、労働組合がある職場でもそれが確認されることだ。つまり、正規雇用者だけで組織された労働組合・集団的労使関係からの排除である。これは、労働組合側の問題である。

 

──第一点目の有期雇用の濫用については、リーマンショック後の非正規切りという深刻な事態を前に労働規制が強化されました。労働契約法第18条に基づく無期雇用転換規定です。川村(2018a)でも無期雇用転換運動が提起されていますが、現状はどうでしょうか。

 

(1)政府統計にみる無期転換の実現状況

人手不足・労働市場の逼迫という事態もあって無期雇用化が一定程度進んでいる。法制度の定めた5年超より前に無期雇用転換が実現されている事例も聞く。しかしながら一方で、無期転換権が多く発生する2018年4月前後に多くの報道がなされたとおり、無期転換の回避のために5年ないしそれより前で雇い止めする脱法行為も少なくなかった。あれからちょうど2年が経過するが、脱法行為が定着してしまった感がある。

 

図表1 雇用形態別にみた無期契約および有期契約の推移正規雇用者非正規雇用者

注:各年の平均値。2017年の値と2018年の値は連続していないので注意されたい。
出所:総務省「労働力調査(基本集計第II-7表世帯の種類・世帯主との続き柄・配偶関係・年齢階級・従業者規模・産業・職業・月末1週間の就業時間,雇用形態・雇用契約期間別役員を除く雇用者数)」より作成。

 

図表1は、総務省「労働力調査」から作成した、有期労働契約、無期労働契約の規模を雇用形態別にみたものである。統計の分類が途中(2017年~18年)で変更しており連続していない点に注意されたい。

非正規中の有期契約はたしかに減少し無期契約が一定数増加しているが、思うほどには増えていない。非正規中の「雇用契約期間の定めがあるかわからない」が増えていること、正規中の「有期の契約」が増えていることなどが気がかりである。図表は示していないが、同じく「労調」によれば、有期契約で5年以上勤続している者は2019年平均で600万人ほど(593万人)確認される。卑近な事例であるが、無期転換を申し込まないことを条件に、5年超で雇われることが認められたという話も聞く。有期雇用の濫用は、働く側の発言力に関わる重要な問題であって看過できない。

2012年の改定労働契約法の附則では、18条の施行後8年を経過した場合、つまり2021年4月に、「その施行の状況を勘案しつつ検討を加え、必要があると認めるときは、その結果に基づいて必要な措置を講ずるものとする」ことが定められている。後述の不合理な格差是正運動を含め、2020年は重要な1年となる。脱法行為の除去はもちろんのこと、5年より短い期間での無期雇用転換の実現、雇い入れ時(「入口」)での合理的理由のない有期雇用の阻止など、より洗練された無期雇用転換運動を再始動させて、期限のない仕事には無期雇用が当然の社会を実現しよう。

 

(2)問われる労働組合の代表性と、労働条件決定手続きの民主化の必要性

ところで、この無期雇用転換に関連して、残念ながら、労働組合の代表性が疑われる事例が散見された。当事者(非正規労働者)不在の労働組合が、5年で雇い止め、クーリングの導入など、無期転換権の獲得を妨げる内容の条件変更を容認してしまったことである。

就業規則の変更時には、過半数組合か過半数代表者からの意見聴取が必要であり、とりわけ不利益変更に際しては合理的な理由の存在も必要になるなど変更のハードルはさらに高くなる。であれば、労働組合のある職場で、仮に無期雇用転換ができない規定がもしも就業規則にうたわれているとすれば、その決定に労組はどう関わったのか/関われなかったのかが問われる。

もっとも、こうした非民主的な労働条件決定、代表者選出の形骸化は、36協定の締結でも指摘されてきたことである。働き方改革が政府により主張される今、労働組合のある職場はもちろんのこと、労働組合のない職場でも、民主的な決定・手続きを定着させる運動が必要である。

 

公務部門で逆行する有期雇用問題──会計年度任用職員制度の設計

──2020年4月から地方自治体では新たな非正規公務員制度(会計年度任用職員制度)が開始されます。会計年度任用職員制度をめぐる問題、とりわけ有期雇用の問題を川村さんは主張されています。どういうことでしょうか。

 

詳細は川村(2020)を参照していただきたいが、まず非正規公務員の人数規模は、短期間・短時間勤務者を除くなど対象を絞っても総務省調べで全国で64万人(2016年4月1日)、都道府県を除く市区町村ではおよそ3人に1人の計算になることを確認したい。彼らのほとんどが、この2020年4月から会計年度任用職員制度へ移行する。強調したい柱の一つが、民間部門の非正規(有期)雇用政策に逆行するような制度設計である。

そもそも公務部門では、労使対等の雇用関係と異なり、任命権者の意思が優先される公法上の任用関係にあるという法解釈が支配的である。また、労働基本権が制約されている。

その上に新制度では、一会計年度つまり1年以内での任用が基本とされ、再度の任用は可能であるが、民間で言う雇用更新とは異なり、新たな職に就くと解される。そのため条件付き採用期間(試用期間)が毎年新たに設けられることになる。総務省によるマニュアルでは、均等な機会の付与および客観的な能力の実証が強調され、勤務実績に基づく再度の任用は、国の非正規公務員とあわせて、2回・3年までと「助言」されている。3年ごとに新規の求職者とあわせて公募を行うことが地方自治体には求められる。この問題は国の非正規公務員制度で先行している。以上を示したのが図表2である。

 

図表2 民間非正規と公務非正規の制度設計の違い

注:公務におけるaの墨塗箇所は、条件付採用期間(試用期間)。bの点線は勤務実績に基づく能力実証が認められた箇所。cの実線は、公募制による能力実証が必要とされる箇所。
出所:筆者作成。

 

なお、3人に1人の割合と先に述べたが、職種によっては非正規が圧倒的多数である。データは少し古いが、2008年6月1日を基準日に行われた自治労による調査でも、非正規割合の高い順に、相談員(92.6%)、学童指導員(90.4%)、図書館(62.7%)、公民館(64.3%)、学校給食(57.2%)、保育士(51.3%)などの職種で非正規が半数を超えていた。つまり、仕事内容的にも量的にも基幹的な存在の彼らに、長期で働くことを否定するような、こうした雇われ方が設計されたのである。民間部門と同様に、公務の世界にも安定した雇用の実現が求められている。

 

低賃金問題と、賃金の底上げ・不合理な待遇差の是正

──無期雇用転換の再始動と、非正規公務員へのその波及など、雇用面だけで2020年は多くの課題があることをみてきました。賃金面での課題はどうでしょうか。

 

(1)非正規公務員にみる低賃金

個別企業内にとどまらぬ、社会的な賃金制度の確立が必要である。その一つは全体の底上げで、具体的には、働けばまともな暮らしができる全国一律制1500円最賃運動である。もう一つは、(政府の言い方を使えば)不合理な待遇差の是正である。ここでは、地方自治体の仕事に従事する非正規労働者(非正規公務員、公共民間労働者)の賃金情報を取り上げながらそのことを確認する[2]

 

図表3 北海道および道内市町村で働く非正規公務員(全体および医療・福祉職)の賃金水準

資料:総務省「臨時・非常勤職員調査(2016年4月1日現在)」の情報開示請求で得たデータより作成。
出所:川村(2019)より。

 

図表3は、北海道および道内市町村で働く非正規公務員の時間当たり賃金水準を、任用形態×職種別に整理したものである。全体のほか、後の議論との関係でとくに医療・福祉職を提示した。全体から分かるとおり、彼らの賃金は、生計費調査に基づくこの1500円という目標値から乖離している。

このような賃金水準の低さは、底支えと均等待遇の欠落の結果である。「絶望的な格差」(上林陽司氏)と表現されるとおり、公務部門における正規職員と非正規職員との賃金(年収)格差は就業期間が長くなるほどに拡大し、例えば保育士同士でも、同じフルタイムで働きながらも3倍にまで拡大する。

民間では、パートタイム労働法と労働契約法第20条の基本的な枠組みを受け継ぎ、パートタイム・有期雇用労働法が2020年4月から施行される(中小企業は2021年4月)[3]。「民間では」と述べたように、公務員はこれらの法からは除外されている。それどころか新制度では、フルタイム型とパートタイム型とで異なる処遇体系が容認された。フルタイム型であれば、退職金制度の創設をはじめ、諸手当の支給なども認められるのに対して、多くは、期末手当の支給のみが認められたパートタイム型への移行が予定されている。

一点補足すると、非正規公務員のこうした賃金水準の低さは、当事者にとってはもちろんのこと、民間労働者にとっても問題である。彼らの賃金が業務委託や指定管理者など、民間へ仕事が発注される際の人件費を積算する際の賃金算出根拠として使われている、つまり、民間労働者の賃金に直接的に影響を与えるからである(この点は、公契約運動に取り組む者は認識すべきことである)。二重の意味で、彼ら非正規公務員の低賃金を放置してはいけない。

 

(2)パートタイム・有期雇用労働法を活用する──職務評価に基づく同一労働同一賃金への接近

図表4 非正規雇用労働者に対する、待遇に関する諸制度の適用状況(「適用はない」、「無回答」を除く)

注1:役職手当、精勤手当、家族手当、資格手当、作業手当など。
注2:食堂、休憩室、更衣室等の利用。
注3:法定義務以外の、雇入時健診、定期健診、人間ドック助成。
注4:派遣社員を除く数値(合計で100にならない)。
出所:厚生労働省「労働者の雇用形態による待遇の相違等に関する実態把握のための研究会」報告書(2017年9月)より。

 

図表4は、厚生労働省による調査結果で、非正規雇用者への諸制度の適用状況を示したものである。紙幅の都合で「適用はない」と「無回答」を除く。制度によって差がみられるが、休暇制度を含め、適用状況が全般的に低い。

先述のとおり、2020年4月からパートタイム・有期雇用労働法が施行される。同法は正確に言えば、同一企業内における正規雇用者と非正規雇用者の間の不合理な待遇差を禁じたものであり、欧州型の同一労働同一賃金を保障するものではない。

もっとも、だからといって、効力が無いわけではない。いわれ無き格差があまりに放置されてきた日本の職場では、あらゆる待遇を対象とし、個々の待遇ごとに是正が求められ、なおかつ、使用者への説明義務が強化された同法には、使える余地は多分にある。むしろ、格差の存在とその不合理性が労働組合にどれだけ自覚されているかが問われる。

職務分析に基づく「性差別賃金」の撤廃の取り組みや、近年の労契法20条裁判にもならいながら、同法の活用を進めつつ、欧州型同一労働同一運動──「技能・資格」「責任」「業務量・負荷」「労働条件」といった評価項目で職務分析・評価を行い、なおかつ、産業別協約で企業横断型に同一労働同一賃金規制を張り巡らせていく運動──に発展させていくことが求められているのではないか。

 

公契約条例の制定、公契約の適正化運動

──札幌では公契約条例の制定運動に取り組まれています。全国でまだ50超の制定にとどまる公契約条例の制定運動を進める上で何が必要でしょうか。

 

川村(2018b)に書いたとおり、ナショナル・センターの垣根をこえる労働組合のほか、労働弁護士の団体、研究機関など8団体で「札幌市公契約条例の制定を求める会(代表:伊藤誠一弁護士)」を結成し、研究と運動を進め、かれこれ8年となる。その間には、札幌の経験をいかして、理念型とはいえ旭川市での公契約条例の制定(2016年12月)を実現させた。ここで紹介するのは、運動を進める上での基礎的作業とも言える、公契約領域における賃金情報の収集・整理という地味(であるが重要)な作業である。詳細は、札幌市のデータを使ってまとめた川村(2019)を参照されたい。

札幌市では、金額にして合計でおよそ1,900億円の民間発注の仕事が行われている。内訳は、工事が1,558件・1,023.5億円、関連業務が780件・38.4億円、役務が2,498件・499.1億円、物品購入等が2,027件・67.6億円、そして400件を超える公の施設の指定管理が267.3億円(自主事業収入やその他収入などを含む)である。

公契約市場のこうした全体像をまずはふまえた上で、(a)いかなる賃金算出根拠が人件費の積算で使われているのかが賃金調査の第一の課題となる。多くの自治体では、建設工事に関しては公共工事設計労務単価が、庁舎清掃等に関しては建築保全業務労務単価が、それぞれ使われていると思われるが、問題は、その他の委託や公の施設の指定管理者制度で何が使われているか、である。札幌市でも情報収集・整理を行ったが(紙幅の都合でデータは省くが)、元が非正規公務員で担われていた仕事の場合、そのまま彼らの賃金が民間発注時の積算根拠として使われているようであった。公契約の現場に入って労働者に直接アプローチすることだけが賃金調査ではない。まずは、行政内でのこうした情報収集が重要であることを強調したい。

その上で第二に、(b)現場でいくらの賃金が労働者に実際に支給されているかを明らかにする調査が必要になる。この作業は、(b-1)事業者を対象に、あるいは、事業者を介して行う賃金調査と、(b-2)労働者に直接行う賃金調査とがある。自治体による調査が(b-1)にとどまるのに対して、(b-2)まで行うのが目指すべき目標である。

規模が小さくてもインパクトのある調査が実施できれば、条例に無関心な自治体・議会や条例に反発を示す業界団体も無視はできないだろう(本来はこれは、行政の監視役を期待される自治体議員・議会の仕事であることも強調したい)。実際、札幌市では建物清掃業務や建物警備業務に従事する者などの賃金調査のほか、指定管理者制度で働く職員の雇用、賃金調査が行われている。その一部が図表5-1、5-2である。前者の賃金は最低賃金およびその周辺に集中していること、後者の雇用は3分の2が非正規雇用で、時間当たり賃金(賞与や諸手当を除くいわゆる基本給を基礎に算出)は、正規雇用者を含め、我々の目標値である1,500円にとどかぬことが確認される。

 

図表5-1 札幌市発注の建物清掃業務、建物警備業務従事者の時間給の分布(2018年度)

資料:札幌市提供資料より作成。
出所:川村(2019)より。

 

図表5-2 札幌市の指定管理者施設における雇用形態別職員数(2017年4月1日現在)および時間当たり平均賃金(2017年度)

資料:札幌市提供資料より作成。
出所:川村(2019)より。

 

また理念型条例が制定された旭川市でも、工事現場で働く労働者の賃金調査が2019年に行われ、結果が同市のウェブサイトで2020年2月に公開されている。

公契約条例制定に向けた社会的な合意を作るためにこそ、こうした事実の把握や当事者へのアプローチは欠かせない(労働組合にとってそれは、組織化運動の一部をなす)。

先に述べた会計年度任用職員制度の導入を奇貨として、包括的民間委託など、いっそうの民間化が進められようとしている。自治体の仕事に従事する人たちに適切な賃金・労働条件を保障する制度設計を張り巡らせることが課題である。公契約の適正化というシングルイシューを契機にして、自治体の変質を食い止め、住民の暮らしや仕事を守る「砦」に強化していく必要がある[4]

 

労働組合への期待

──官民労組に多くの共通課題があることと同時に、関連する制度が同時並行的に動いている/動く時期に来ていることが示されました。労働組合への期待を最後に一言お願いします。

 

繰り返し述べてきたとおり、労働界の官民連携の強化が必要である。雇用安定の実現、不合理な格差是正、そして、労働基本権の回復や非正規労働者の組織化を通じた集団的な労使関係の再構築が官民共通の具体的な課題となる。会計年度任用職員制度について、多くの自治体では、総務省の資料:札幌市提供資料より作成。

助言に従い3年ごとの公募制が導入されることになるだろう。その発動を食い止める全国的な運動が必要である。

なお、以上に取り組むにあたって、業種や職種を軸にした官民横断的な賃金・労働条件規制というアプローチも有効ではないか。例えば、公務部門(非正規公務員、公共民間労働者)の医療従事者、保育・介護従事者などの賃金・労働条件の低さを、民間の医療・福祉労組と連携して改善する、といった具合にである。

最後に、非正規問題への関心の低さゆえに初動が遅れてしまったり、取り組みに躊躇する(正規雇用者だけで組織された)既存の労働組合を少なからずみてきた。今後も同様のことは起こりうるだろう。古くから指摘されていることであるが、企業別組合主義や本工(正規雇用者)主義の克服、そして、ナショナル・センターの垣根をこえた運動などが必要である。非正規雇用問題に既存労組が取り組むとは、こうした課題の克服が視野に入れられる必要があるのではないか。そうでなければ、現場からの働き方改革は散発的・局所的なものに終わることが懸念される[5]

業種や職種を軸にした、非正規労働者独自の労働組合の結成という試みが始まっている。公契約運動やなくそう!官製ワーキングプア運動など、本稿でみてきたテーマに限っても、ナショナル・センターの垣根をこえた取り組みも始まっている。既存の労働組合はどうか。

 

 

【参考文献】

・遠藤公嗣編著(2013)『同一価値労働同一賃金をめざす職務評価』旬報社

・川村雅則(2018a)「無期雇用転換運動と公共部門における規範性の回復運動で、貧困をなくし雇用安定社会の実現を」『月刊全労連』第257号(2018年7月号)

──(2018b)「社会的な賃金制度の確立めざす」『労働情報』第974号(2018年10月号)

──(2019)「公契約条例に関する調査・研究(Ⅲ)札幌市の取り組み・資料の整理」『北海学園大学経済論集』第67巻第2号(2019年9月号)

──(2020)「地方自治体における官製ワーキングプア問題と、労働組合に期待される取り組み」『POSSE』vol.44(2020年3月号)

・白石孝編著(2018)『ソウルの市民民主主義──日本の政治を変えるために』コモンズ

・永山利和、中村重美(2019)『公契約条例がひらく地域のしごと・くらし』自治体研究社

脇田滋(2019)「日本における「同一労働同一賃金」の課題──2018年改正法活用の意義」『月刊全労連』第273号(2019年11月号)

 

【注】

[1] この間書いてきたものと内容の重複があることをお断りしておく。詳細は、筆者の研究室のウェブサイトに掲載している元の原稿を参照されたい。また官製ワーキングプア問題は、NPO 法人官製ワーキングプア研究会(理事長:白石孝氏)や上林陽治氏(公益財団法人地方自治総合研究所研究員)の仕事を参照。

[2] 非正規公務員・公共民間労働者を起点に賃金・労働条件の改善に取り組む地方自治体の政策を磨き上げる必要があるのではないか。この点で注目を集めているソウル市の実践について、白石(2018)など参照。

[3] 同法の性格などは脇田(2019)などを参照。

[4] 公契約条例が制定されれば、条例を運営する「審議会」を適切に位置づけ、地域における業界労使あるいは公(政)労使の対話の場とすることによって、地域における当該業種の集団交渉機構への発展を展望できると考えている。また公契約運動は、隣接領域にある中小企業振興や経済・産業振興にもウイングを広げていくことが求められるだろう。どちらも挑戦的な課題である。永山・中村(2019)を参照。

[5]現実問題として例えば、無期雇用の維持は、とりわけ中小企業では一企業体では困難な面がある。企業をこえた雇用維持装置としての共同雇用やワーク・シェアリングが必要であり、その実現には文字通りの産業別組合への転換を意識する必要があるのではないか。

 

 

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