川村雅則「(書評)非常勤講師ふくめ5000人強の雇用と尊厳の回復めざし組合がたちあがった」

雑誌『学習の友』第817号(2021年9月号)に掲載された、東北大学職員組合編『非正規職員は消耗品ですか?──東北大学における大量雇止めとのたたかい』学習の友社、2021年5月刊の書評の転載です。

 

 

 

 

非常勤講師ふくめ5000人強の雇用と尊厳の回復めざし組合がたちあがった

 

雇用は、期間に定めのない無期が本来のあるべき姿である──この原則が日本社会では無視されつづけてきた。有期雇用の濫用問題だ。2012年の労働契約法改定(第18条の新設。施行は2013年4月)によりこの問題の解決の道がようやくひらかれた。ところが、当事者らの期待を覆したのがいわゆる2018年問題である。無期雇用転換(雇用安定)の権利を付与しなければならなくなる、労働契約が通算5年を超える前に切ってしまえ、という使用者側の判断である。

多くの職場でこの無期転換逃れが相次いだ。東北大学もその一つである。従来は、3年上限とされていたものの大学内での雇用継続が暗黙裡に実現されてきたのが、5年雇い止めルールが設けられ、起算日を遡って適用された。それでも部局対応で無期転換の道が残されていたその方針も、完全に覆されるにいたった。非常勤講師をふくめて5000人強の雇用にかかわるこの事態に東北大学職組がたちあがった。

機械的な5年雇止めにまともな説明などできるわけもなく、不誠実な団交がくり返され、2018年3月には300人を超える非正規職員の雇い止めが強行されている。外部の法律事務所による介入と当局の責任放棄も事態を悪化させている。もっとも、献身的な弁護団、地域の労働組合の全面的な支援を得た組合が屈することはなかった。約2年半かけて、不当労働行為の救済命令を労働委員会で勝ち取り(2020年9月和解成立)、雇止めは無効との労働審判・裁判を同時並行的にたたかっている。

一点だけ強調したいのは、無期転換が回避されている大学や企業も、そしてそれを黙認する労組も、残念ながら少なくないことである。本書に記されたこの問題をめぐる詳細な経緯、当局の主張の検証などは、無期転換を実現しようとする労組に有益な「教材」となるだろう。原告の救済と尊厳の回復をかかげてたたかう東北大学職組につらなる無期転換運動の再始動が労働界に提起されている。

 

 

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