川村雅則「東海大学非常勤講師の10年雇い止め問題が問うもの」

日本科学者会議北海道支部が発行するニュース第440号への投稿原稿です。ニュースの発行は3月下旬とのことですが、対応が急がれるテーマですから、事務局の了解を得て、先行して配信します。元の原稿とあわせてどうぞお読みください。

川村雅則「東海大学札幌キャンパスで働く非常勤講師のストライキによせて」『北海道労働情報NAVI』2023年1月24日配信

 

東海大札幌キャンパス正門前での抗議行動(2023年1月17日)。筆者撮影。

 

東海大学で働く非常勤講師によるストライキが、昨年(2022年)12月に東海キャンパスで開始され、今年の1月には、ここ札幌キャンパスでも実施されました。本来は5年超で無期雇用転換権が得られるのを10年特例扱いにされ、あげくに、10年目の年にあたる今年度、無期転換を目前にした者を中心に、カリキュラムの改訂を理由に大学側から雇い止めの通告を受けたため、その撤回と無期転換の実現を求め、ストに彼らは踏み切ったわけです。このストによせて、小文を書きました(末尾を参照)。本稿はそこから3つの要点を抜き出したものです。詳細は元原稿をご覧ください。

■非常勤講師も無期で雇われるべき存在である

無期転換制度は、有期雇用の濫用を解消し、非正規雇用者の雇用の安定と権利擁護を実現するために設けられました。大学で働く非常勤講師にこれが適用されない理由はありません。パートタイム型の教員であっても、授業が継続して開講されているなら、当該教員が無期で働くことができて当然です。

しかし実際には、少なからぬ大学で、無期転換回避のために非常勤講師を5年で雇い止めすることが行われているのではないでしょうか。

■非常勤講師を特例扱いするのは誤りである

東海大学では5年雇い止めは行わず、大学や研究機関に設けられた「特例」、すなわち無期転換には10年超を要する、というルールを採用したようです。特例の根拠法には、科学技術・イノベーション創出の活性化に関する法律や、大学の教員等の任期に関する法律などがあります。

しかし、研究職にこうした特例を設けることにもそもそも慎重であるべきだったのに、ましてや、教育職として雇われ処遇されている非常勤講師に特例を適用することは、上記の法改定時にも想定されていなかったことです。それなのに非常勤講師を特例扱いしている大学の一つが、東海大学ということになります。そして、特例扱いしたあげくに、カリキュラム改訂を理由に10年超の直前で雇い止めを通告してきたわけです。

■大学教育に不可欠の存在でありながら不安定雇用・低処遇の非常勤講師

問われるのは、非常勤講師をこうして軽んじる大学・大学業界の問題です。

大学教育は非常勤講師の存在なくして成り立ちません。大学院重点化政策がとられた一方で就職口はそれほど増えなかったことで、本務校などをもたない、いわゆる専業非常勤講師が急増しています。文部科学省「学校教員統計調査」によれば、「兼務教員」の半数弱が「本務なし」です。

しかしながら非常勤講師の賃金は低く、1コマ月額3万円で計算しても、6コマを通年で担当してようやく200万円に達する水準です。「女性科学研究者の環境改善に関する懇談会」による非常勤講師アンケート調査でも、年収200万円未満が回答者の約7割を占めます。

5年ないし10年の雇い止め・無期転換逃れ問題を撤回させるのはもちろんのこと、大学業界における非常勤講師の扱われ方そのものの改善が必要です。そのためにも大学関係者はまず、勤務校における非常勤講師の就業規則に更新限度条項や特例措置が導入されていないかを確認し、無期転換の導入はもちろんのこと、均等待遇の実現にも着手する必要があります。非正規雇用問題への大学関係者・労働組合の姿勢が問われています。

なお、本稿は非常勤講師を対象に論じていますが、非正規雇用で働く事務職員への対応の必要性についても同様です。

 

東海大学教職員組合のウェブサイト

川村雅則「東海大学札幌キャンパスで働く非常勤講師のストライキによせて」『北海道労働情報NAVI』2023年1月24日配信

 

 

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