更科ひかり「共感を生む「ストーリー」の力 ー「あなたのせいじゃない」と伝えたい」

「#子育て緊急事態宣言アクション」の実践報告

経緯

新型コロナウイルスの感染が拡大した2020年春、「一斉休校」が子育て中の労働者を直撃した。彼らは突然、保護者の見守りが必要な小さな子どもを家に置いて仕事に行くか、仕事に行けず賃金収入を失うかの苦しい二択を迫られたのである。厚労省は「小学校休業等対応助成金(以下、休校助成金)」を創設した。企業が年次有給休暇とは別に、通常賃金の10割を補償する「特別有給休暇」を労働者に取得させた場合、その10割を国が助成金として企業に交付するというものだ。しかし休校助成金には致命的な欠陥があった。助成金を活用するかどうかの裁量が、専ら企業に任されていたのだ。結果、「出勤者との不公平感」を理由に企業の「使い渋り」が横行。休業補償されるはずだった子育て中の労働者からは「約束が違う」という声が上がった。

さっぽろ青年ユニオンにも休校助成金関係の相談が複数寄せられ、その内2件が争議に発展した。しかし結論から言うと、ユニオン・企業間の個別交渉だけでは、全面的な休業補償を勝ち取ることは出来なかった。「助成金制度を使わなくても違法ではない」という企業側の言い分は、確かに恥知らずで企業倫理に欠けるものだが、それなりの「理」もあった。二つの交渉はいずれも決裂した。

足りないのは何か

個別交渉が無理ならば、ユニオンが社会的な発信を強め問題を可視化し、世論を喚起し、厚労省に「個人申請」を求めようとなったのだが、こちらも残念ながら思い通りには運ばなかった。

9月、「個人申請を求める集会」を開催したのを皮切りに、オンラインアンケート調査、署名活動、街頭宣伝、SNSでの発信など、組合としてやれることは一通りやってみた。9月の集会では、私たちよりも前から休校助成金の個人申請を求める「親の会」を組織し、署名活動や議員ロビイングをしていた方にもオンラインで参加していただき、発言して頂いた。一連のとりくみは一部道内メディアでも取り上げられ、全労連の協力で厚労省担当者との交渉にもこぎつけた。しかし厚労省担当者は、個人申請による救済を求める我々に対し「制度の建付け上できない」という回答を繰り返した。企業に助成するものを個人が申請することは出来ないというのである。

しかし、同じ「建付け」で、同じく企業の「使い渋り」が問題となっていた雇用調整助成金には、個人申請できる「休業支援金」が救済策として設けられていた。首都圏青年ユニオンなどの問題を可視化する動きがあり、野党議員が国会質疑で繰り返し取り上げたことが大きい。その背景には、当事者を中心に形成された「個人申請」を望む賛同の世論があった。はじめから「建付け」の問題ではなかったのだ。「休校助成金問題」も、繰り返し国会質疑で取り上げてくれる野党議員はおり、何とか休業支援金と同じ展開をと期待したが、報道量も少なく、状況を変えられずにいた。同じく困っている人は大勢いるはずなのに、賛同の声が広がっていかない。私たちに足りないのは、個人申請を望む多数の声、世論だった。

キャンペーンの「同志」は誰か

個人申請を望む世論を「これまで以上に」広げるために、コミュニティ・オーガナイジング(以下CO)の手法で戦略を立てることにした。2020年12月28日、さっぽろ青年ユニオンの組合員3人で、キャンペーンのコアチームを立ち上げた。中心は、この問題の当事者であり、何とか個人申請を実現したいという気持ちを強く持っている「こなっちゃん」。もう一人は労組専従で、共働きで3歳(当時)の子を育てている「さがしょー」。そして子育て経験のない私(労組専従)。労組専従の二人は休校助成金問題の直接の当事者ではないが、ほぼ一年この問題に関わる中で、何とか損失補償のため個人申請を実現したいという思いを共有していた。

コアチームはまず、戦略的ゴール(=休校助成金の個人申請実現)を確認した後、関係者マッピングを行い、【同志・支援者・競争者・反対者】を整理した。これは自分たちの持つ繋がりからスタートして、キャンペーンが現実的にどこまで広がりを持てるかを確認する作業だ。

【同志】

 困難に直面している当事者で、変化を望みともに立ち上がる人

・一斉休校による減収を、「個人申請」により

救済してほしいと考えている子育て中の労働者

【支援者】

 直接の当事者ではないが、変化を望みともに立ち上がる人

・子育て経験のないユニオンのメンバー

・助成金で休業補償された子育て中の労働者

【競争者】

 キャンペーンの進捗によっては支援者にも反対者にもなり得る人

・一斉休校期間中、不安を抱えながらも出勤した人

(子育て中かそうでないかに関わらず)

【反対者】

 このキャンペーンを阻止したい人

・助成金の活用を拒んだ企業

・厚労省・厚労大臣・政府

最も判断に迷ったのは、休校期間中にも「休業できなかった」労働者だ。「どうしても休むことが出来ず、昼は家にいる子どもに冷食を用意して仕事に行った。休んだ人が助成金で10割補償されるのはおかしい」といった声に、休業を余儀なくされた労働者は心を痛めていた。苦しい二択を迫られた子育て中の労働者は、助成金をめぐって対立しているように見えた。このキャンペーンでは出勤した労働者を「同志」ではなく、「競争者」と整理することにした。

キャンペーンタイムライン

次にコアチームで議論したのは、「キャンペーンタイムライン」だ。この日は12月28日。運動のピークポイントをいくつか定め、年明け3月31日のタイムリミットまでに「休校助成金の個人申請」を実現しなければならない。

まずは、「個人申請を!」と一緒に声を上げ、キャンペーンの実務を担う「20人チーム」を1月中に発足させる。次に2月の中旬にアクションの具体的な内容と参加方法を共有し、「ぜひあなたも」と呼びかける「100人ミーティング」で確実にアクションに参加してくれる人を組織した上で、2月28日と3月1日に、運動最大の山場を迎えようと決めた。アクションに参加する人数は、3人、20人、100人と、どんどん増やしていくことを目指した。「運動慣れ」していない人が、この短期間のキャンペーンに多数参加することを目指す場合、「いつまでに何を、どれくらいやるつもりなのか」をスタートの時点で明確に共有することは、いつもの運動以上に重要だった。

20人チーム!

コアチーム3人はまず、実際に繋がりのある人に、一人ひとり声をかけてキャンペーンの中核となる「20人チーム」を組織していくことになった。このチームの役割は、2月14日に予定している「100人ミーティング」の参加の声かけをすすめ、参加者をリストアップしていくこと、ツイデモ時には拡散部隊となることだ。休校助成金を受けられず何とかしたいと思っている人、子育てにかかわる問題に日ごろからとりくんでいる人、コロナ禍以前から労働相談活動をしているユニオンのメンバーなどに、「なぜ『私は』この問題に取り組むのか」「どうして『あなたに』力を貸してほしいのか」「どんな形で力を貸してほしいのか」を1対1で話して組織していった。いつもの運動では、「協力してくれそうな人」を中心に声掛けをしていくが、今回は「この人にキャンペーンに加わってもらいたい」という点にこだわった。札幌在住の人だけでなく道外の人もメンバーとして加わってくれた。

とにかく「良い雰囲気をどう作るか」に気を配った。お互いが「はじめまして」の人がほとんどで、やり取りは基本顔の見えないグループLINE上で行う。知らない人ばかりのグループで積極的にアイディアを出したり、意見を言える人はそう多くない。発信する人がどんどん偏ってくる。そうするとチームを作っている意義が見いだせなくなり、キャンペーンへのコミットメントが下がる。そこで、20人チーム内の2人の方に「20人チーム盛上げ隊」をお願いした。自分が声かけをした経験を、失敗談なども含めてどんどんシェアしてほしい事。他の人から報告が上がってきたら、積極的にリアクションしてほしい事。「盛り上げ隊」の活躍で、互いに励まし合う雰囲気をチーム内に作ることができた。

コーチング!

キャンペーンの期間中、COJ代表理事・安谷屋貴子さん、通称「あだにー」の「コーチング」を受けた。コーチングは質問の繰り返しである。「休業できず出勤した子育て中の労働者は、本当に競争者でいいの?」「タイムラインには提訴とあるけど、それで本当に3月31日までに本当に制度改正できる?厚労大臣はyesと言う?」「記者会見を開いたら当事者の声は伝わる?誰に伝わる?」…。特に重要だったのは、繰り返し「その戦術によって同志のパワーがアップするか?」が掘り下げられたことだ。自分自身の行動が変化を生んだと確信を持てるかどうか、他の同志や支援者との協同に意味を見いだせたかどうか、これはキャンペーンそのものの成功と同じくらい大切な事である。キャンペーンを終えた時、そのコミュニティにパワーが蓄積される「つくり」になっているかどうかということが、コーチングでは繰り返し点検された。

「当たり前のことを、当たり前にやるんだよ」というあだにーの言葉が印象的だ。スラムダンク安西先生の「諦めたらそこで試合終了だよ」に匹敵する名言なのではないかと思う。今考えればあだにーの質問の数々は、キャンペーンに人をオーガナイズしていく時、私たちが実際に投げかけられる質問の先取りだった。例えば「なぜこの署名の目標数は10万筆なのか」という質問に対する答えが「私たちの組織で集められる数だから」では、署名を集める人にとっての動機付けにはならない。素朴な質問に明確に答えられないアクションに、人は参加したいと思うだろうか?自分の貴重な時間とパワーを使う必然性を感じられない運動に、多忙な労働者は自分の資源を割いてはくれないだろう。これもまた考えてみれば「当たり前」のことなのだが、次から次へと実務作業に追われる中では「手癖」を優先して見落としがちでもある。コーチングによって戦略・戦術面で詰め切れていなかった曖昧さが浮き彫りになり、タイムライン上の戦術のいくつかは急ぎ修正が必要となった。

共感を広げる!「変革の仮説」の修正と「パブリック・ナラティブ」

そもそも、休校助成金問題が大きな世論になっていかない理由の一つは、「賛同の声が広がっていかない」ことだった。休業を余儀なくされた労働者は、ネットニュースのコメント等で「好き勝手に休んで文句を言っている」と心無い誹謗に晒され、何度も助成金の活用を断られた職場では孤立を感じていた。声を上げるハードルが高いのだ。しかし「補償を求めることはおかしいことじゃない」「休業補償してもらえず困っていたのは自分だけじゃなかった」と思うことができたら、一緒に声を上げてくれる人は増えるのではないだろうか。休校助成金制度の不備や助成率の低さはメディアでも国会質疑でも繰り返し指摘されており、厚労大臣も当然認識していたはずだ。「制度の改正を望む人がこんなに沢山いる」と示すことが孤立している同志の背中を押すことになり、共感の輪が大きく広がれば厚労大臣の決断を促すと考え、私たちは以下のように、「変革の仮説」を修正した。

もう一つ、あだにーのコーチングを受けて急ぎとりかかったのが、こなっちゃんの「パブリック・ナラティブ」づくりだ。心が動いたとき、人は行動を起こす。一緒に声を上げてくれる人の背中を押す、オーガナイズのための語りがパブリック・ナラティブだ。こなっちゃんは2月7日に札幌PARCO前で行われた道労連の「#生活保障に税金回せ ローカル・ビッグ・アクション」の場でマイクを持ち、スピーチした。一部を抜粋する。

「休校になり使えなかった助成金の期限は今年の3月31日までです。頑張ってももう無理なのかな、なんて考えていたある日、夕飯の仕度中に7歳の子供から「ママ、好きだった仕事オレのせいで辞めたんだよね…ごめんね。」と言われました。咄嗟に「そんな事ないよ、なんでー!」と返したものの…子供からの答えは「次もし…また学校休みになったらオレ一人で大丈夫だから!」でした。なぜ…私は子供にこんな事を言わせてしまわなければならないのか。子供が長時間留守番できないから悪いのか、私は違うと思っています。休校や休まなきゃいけないのは子供や親の自己責任ではない。子供の個性やそれぞれの子育ての大変さは誰にも計れない。子育てしている労働者もその子供達も、安心して希望を持って生きられるような社会になってほしい。このまま諦めていたら、自己責任だった。子供が…自分のせいでと思ったまま。子供のせいじゃないんだよ?と子供に伝えたい。だから…私は諦める事を辞めて立ち上がり声をあげています」

「2月28日にここ札幌から、子育て世代のみんなで勝手に「#子育て緊急事態宣言」を発出します。

『1年もマイナスなまま』『使えない生活補償使えるようにしろ!』『子育ても家計のやりくりももうしんどい』など、子育て世代のみんなの“今”を届けるために、社会的発信が必要です。思いを15秒にまとめたひとりひとりの動画をみんなでツイートしたり、合わせてこの期間に厚労省に助成金の制度改正の要求書を出し、3月19日までに回答を求めます!今の私達の声を一緒に届かせましょう!」

スピーチの効果は抜群だった。パルコ前でスピーチを聞いていた労組関係者が次々に2月14日の「100人ミーティング」に参加すると約束してくれた。さっぽろ青年ユニオン委員長は驚異的なスピードでこのスピーチ動画を編集してくれ、すぐにSNS上での発信も開始、反応は上々だった。

「私はなぜこのアクションをするのか(動機)」

「何を獲得するためのアクションなのか(戦略的ゴール)」

「私と一緒に声をあげてほしい(同志・支援者への呼びかけ)」

「いつまでに何をすればいいのか(緊急性・アクションの具体性)」

を明確に盛り込んだスピーチで、こなっちゃんは聴衆をキャンペーンにオーガナイズしたのだ。特に重要だったのは「ストーリー・オブ・セルフ=私はなぜこのアクションをするのか」という動機にかかわる部分だ。「自分のせいで母親が好きだった仕事を辞めたと思っている子どもに、あなたのせいではないと伝えるためにこの状況を何とかしたい」という訴えは、「子育ての大変さは私も経験した」という共感を引き出し、「自分も何か力になれたら」とアクションへの参加を促した。このキャンペーンの鍵はやはり「共感」に基づく行動なのだと、確信に変わった瞬間だった。

100人ミーティング! 

私たちは3月31日の休校助成金制度終了を前に「個人申請を望む声」を可視化するため、3月1日に「Twitterデモ」で5,000ツイートを達成し、トレンド入りする事を目指していた。トレンド入りのために必要なのは「瞬間風速」である。多くの人が、同じ時間に、ハッシュタグ「#子育て緊急事態宣言」とつぶやくことで、瞬間風速を出すことができる。そのためには、確実にそれを実行してくれる「約束」を、一定数の人から取り付ける必要があった。そこで、2月14日の昼間にオンラインで100人規模のミーティングを開き、アクションの具体的な内容を参加者に伝える機会を持った。

 「100人ミーティング」には、それぞれが参加しやすい形で参加してもらった。赤ちゃんを抱っこしている人がいたり、元気に画面の前を走り回る子どもたちがいたり、寝かしつけ中のため画面オフ・耳だけ参加の人がいたりと、今までに経験したことのない和やかな雰囲気に、企画した側でありながら驚いた。

そしてここでも「ストーリー・オブ・セルフ」を重視し、コアチームのさがしょーと私、20人チームの2人にも、「なぜこのアクションに参加しようと思ったのか」を話す時間をとった。どの人の「セルフ」も素晴らしく、参加者のこれから一緒にアクションしていこう!という動機を高めるものだった。その中から、コアチームのさがしょーの「セルフ」を紹介する。

「わたしは労働組合の仕事を10年しています。みんなで声をあげることを大事にしています。

組合活動は夕方から夜にかけてミーティング。終わったら文書づくり。時間の許す限りひとと会って話しを聞く。毎日深夜に帰る。そんな日常の繰り返しで、そういうものだと思い、そしてそれがずっと続くと考えていました。

しかし2016年9月1日、そんな考えは一変しました。子どもが産まれ、自分が好きなように動き回れる時間はないと知りました。子育ては毎日必死です。朝、保育園に子どもを預けた時に解放感を感じるほどです。お迎えの時間を無視して、夜にミーティングするなんてもってのほかです。みんなで声をあげることが大事と思っていたはずが、自分の続けていたスタイルは、必死な思いで子育てしながら働く人たちの声をシャットアウトしていたと気づかされました。

そして、去年一年間、子育てしながら働くこなっちゃん達と一緒に活動しました。そこにはシャットアウトされた声が沢山あることを気づかされました。このアクションの根本には、子育ての大変さが放置されている社会の問題があります。その一つには、無自覚のままシャットアウトしてしまっていた自分自身の問題もあります。過去の自分に気づかせるための重要なアクションです。子育てしながらアクションするのは本当に大変です。しかし、これまで休校助成金の問題は少しずつですが、前向きな変化を勝ち取っています。デッドラインの3月末が目前に迫ります。この最終局面、みんなで力を合わせたいと思います。」

100人ミーティングの終了後、参加者から「安心して誰もが子育てできるようになるようアクションに協力したい」「耳だけでも参加でき、短時間なのでありがたく元気になりました」「今までなかなか表現しにくかった子育てと仕事の関係がすっきり表明されていて嬉しかった」など、次々に感想コメントが20人チームに届いた。

NHK、北海道新聞、UHBなどの記者もこのミーティングに参加しており、参加していたすべてのメディアがこのアクションを報じた。特に、NHKの記者さんはご自身のお子さんを抱きながらミーティングに参加してくれていて、「ぜひ番組で取り上げたい」とアクションについて繰り返し質問してくれた。ツイデモ前夜の2月28日、NHKは夜7時台のニュース番組で、休校助成金問題と合わせて、私たち「#子育て緊急事態宣言」のツイデモと厚労省交渉について報じた。まるで「告知」のような素晴らしいタイミングでのボリュームある報道に、20人チームはお祭り騒ぎとなった。

キャンペーンの成功、そして制度改正へ 

キャンペーン最大の山場がやってきた。北海道知事が「緊急事態宣言」を発出したのと同じ2月28日に「#子育て緊急事態宣言」発令の記者会見を行い、翌日3月1日には全労連と首都圏青年ユニオンの協力を得て厚労省交渉、夜にはTwitterデモ。「共感を広げ厚労大臣の決断を促す」という変革の仮説を立てたこのキャンペーンにとって、Twitterデモの成功は最重要だ。ツイデモ中は20人チームでzoomをつなぎ、皆でワイワイやりながら過ごすことにした。懸念されていたバッシング対策でもある。直接の当事者であるメンバーにとって、ネット上の心無いバッシングは、一人で受け止めるには耐えがたい。こういう時に、頼りになる仲間がいることは何よりも心強い。開始時刻の19時になると、「育児=毎日が緊急事態。子どもの預け先がないというだけで、何度も謝って仕事休む時の悲しさ」「子育ては母親だけがする事ではありません。『会社に迷惑をかけるな』とか言ってないで、言わなくて済むような社会にして下さい」など、切実な思いが#子育て緊急事態宣言 のハッシュタグとともに次々に投稿された。自分の思いを書いたメッセージボードを持った「15秒動画」は、この日までに動画と画像を合わせて目標の100本以上が集まっていた。「5,000ツイートでトレンド入り」の目標は、最終的に1万7千ツイートでトレンド入りを果たした。Twitterデモは大成功だった。

私自身が嬉しかったのは、休校助成金を受けられず会社と交渉も繰り返してきたKさんが、「私も自分で動画を撮ってツイデモに参加しようと思う」と言ったことだった。これまではメディアの取材に対しても顔出しNGを通してきたKさんが、このキャンペーンならなぜ顔出しできると思ったのかを聞くと、「争議で会社と対立する場面で顔を出す事は怖かったけれど、個人申請を認めてほしい、こんな社会になってほしいという訴えなら怖くない。それに色々な人が応援の動画を撮って送ってくれているのを見ていたら、自分もやりたいと思った。」という事だった。誰にとっても、SNSに顔を出してアピールする事はハードルが高い。誰かのちょっとした勇気が、別の誰かの勇気を呼び起こした瞬間、同志がパワーアップした瞬間を目の当たりにした気持ちだった。

そして予想外のことだったが、自民党の稲田朋美議員が「#子育て緊急事態宣言」のハッシュタグをつけて「個人申請を政府に要請を続けてきた、私たちの努力が実りそうだ」とツイート。稲田議員は、「親の会」の個人申請を求める粘り強い要請を受け、自民党内の女性議員とともに厚労大臣や二階幹事長に制度改正を訴えていた。「親の会」と稲田議員の動きもまた、制度改正を大きく前進させた推進力だった。Twitterデモから3日後の3月4日、NHKは「政府が個人申請を可能とする方針を固めた」と報道、3月26日から個人申請の運用がスタートした。私たちのキャンペーンは成功した。

 終わりに

「#子育て緊急事態アクション」の顛末は、以上である。自分の思いを丁寧に伝える、それよりも丁寧に相手の思いを聞く、人と関係を築き、情報を収集し、戦略を練り上げ、仲間と共に目標達成を目指す。文字にするとどれも当たり前のことのように思えるが、サドルにまたがり漕いでみなければ永遠に自転車に乗れるようにはならないように、実践を通じてしか得られなかった学びが多い。「当たり前のことを、当たり前にやるんだよ」というあだにーのコーチングが思い出される。スラムダンク安西先生の「諦めたらそこで試合終了だよ」に匹敵する名言なのではないかと思う。

さて、次世代の担い手育成は、どの組織にとっても課題となっているはずだ。労働組合の組織率低下が叫ばれて久しいが、全労連に結集する労働組合のうちどのくらいの組織が、自組織の若手オルグ・組合員に、実践的な学びとトレーニングの場を保障できているだろうか。おそらくそうした問題意識から、全労連もコミュニティ・オーガナイジングの手法を取り入れたワークショップ「ゆにきゃん」を各地で開催することにしたのだろう。怪しげな横文字に警戒を覚える人も多いだろう(私もその一人だった)。しかし変革のための組織である労働組合が、変化を恐れてはならない。安心してトライ&エラーできる場があってはじめて、人は成長できる。エラーが許されるのはトレーニングの場だけだ。若手をどんどんトレーニングの場「ゆにきゃん」に送り出してほしい。キャンペーン後の高揚感に乗じて「こわごわ」提言し、報告を終える。


(※月刊全労連2021年8月号に掲載された原稿に加筆)

【筆者】さっぽろ青年ユニオン 更科 ひかり

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