書評「世界を動かす変革の力——ブラック・ライブズ・マター共同代表からのメッセージ」

世界を動かす変革の力——ブラック・ライブズ・マター共同代表からのメッセージ
人権学習コレクティブ

本書は、全米を揺り動かしているブラック・ライブズ・マター運動の共同代表が組織化について書いものである。

 前半は、黒人差別(本書のまま引用)の象徴的事件やその歴史と背景、著者のアリシア・ガーザがその中でどのような生活を送り、何を見聞きして、どう感じてきたのか、詳細に語られている。

日本では、新聞記事の紹介や理念・制度を語る労組役員が多いが、アリシアは、なぜ自分が差別に反対し、平等・多様性の尊重を求めるのか。なぜ、運動や組織化に取り組んでいるのか、価値観が鮮明に伝わってくる。私は彼女と生まれた国も、育った環境もまったく違うが、大いに共感した。誰もが多少なりとも感じるであろう疎外感や不公正さについて、彼女自身の出来事や感情を語ることで、「私の問題」を「私たちの問題」として引き寄せられる。人は、感情が動いた時、行動にうつすことを実証している。

質問が引き出す力、組織化から政治教育へ

本書では、黒人とラティーノという抑圧された者同士の分断・対立について、「説得」や「なだめる」等の手法は自分たちが批判し、変えようとしている制度と同じやり方であると指摘している。当事者が実際に見たことや聞いたことを否定するのは意味がない、と。公務員バッシングや非正規差別などの課題で対立的緊張が生まれると、すぐさま「誤解」を説き、「理屈」を説明する。労組役員なら少なからず思い当たるのではないだろうか。

アリシアは、団結すべき理由を長々と演説するのではなく、見聞きした経験の意味を理解できるようにすることが重要だと指摘する。大事なのは質問すること。「なぜ、そのような状況になっているのか」「それを変えるために何ができるのか」と問い続けることとで、自分たちの目に映るものがどうしてそう見えるのか、その背景には何があるのか、もっとも重要なことは、同じことを経験したくなければ何をすべきか、そう自らに問うようになると示唆している。組織化が政治教育とつながっているのだ。

日本の教育では「問い続ける」という視点・実践はあまり見受けられず、試験対策や「正解ありきの一方通行」型のステレオタイプ授業が多く、そのまま「つくられた常識」が蔓延する社会に出ていく現状をふまえると、組織化する上でとくに重要なポイントではないだろうか。

今まで目立たなかった人々の存在に光を照らす

「運動が目指す変化とは、今まで目立たなかった人々の存在に光を照らし、社会や経済や政府から全く重要でないとみなされている人々を可視化することだ」と述べている。同時に、「(課題の当事者を)表面的なレベルでメンバーに加えるだけにとどまらず、組織内の差別的関係やその運動体の目指す目標に反することがないか厳しく検証すること」を強調している。残念ながら、いまだに「非正規は役員にしない」という労組がある。最低賃金運動でも戦略やアクションを決定する中心に当事者はいない。これらはほんの一例に過ぎない。

本書の最後には「絶望をなくせば希望が生まれるわけではない。希望とは、目標に繰り返し立ち返ることのできる力である」と記されている。誰のため、何のための組織なのか。労働組合も変革を求められている。そこには希望がある。

なぜ、労働運動が組織を減らし、パワーが低下しているのか。どこに活路や展望があるのか。本書は、その要点を明確に提示している。労働組合の役員・専従者は「絶対に読むべき1冊」として強力に推薦する。


筆者:北海道労働組合総連合 事務局長  出口 憲次(でぐち けんじ)

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