横行する脱法行為 無期転換ルール施行から10年 来春、雇い止め多発の懸念(連合通信社)

8月20日(土)にオンラインで開催した「非正規・無期転換逃れはつらいよシンポジウム」の内容を機関紙連合通信社発行の『連合通信』第9764号(2022年8月23日号)で報じていただきました。この場を借りて御礼を申し上げます。同社からのご了解を得て記事を転載させていただきます。

記事タイトルは「横行する脱法行為 無期転換ルール施行から10年 来春、雇い止め多発の懸念」です。取り組みを急ぎましょう。どうぞお読みください。

 

「非正規・無期転換逃れはつらいよシンポジウム」動画より

 

無期転換ルールが施行されて来年3月で10年――。不安定雇用への規制として期待されたが、大手企業や有名国立大学を中心に、規制を骨抜きにする脱法行為が横行する。公務職場ではルールの適用さえ受けられない。来年3月は雇い止めの多発が懸念されている。

 

厚労省検討会報告に疑問

このルールは、有期労働契約を反復更新し、勤続5年を超える見込みとなった時、労働者が無期契約への転換を申し込めるという仕組み。使用者は拒めない。2013年4月に施行された。

雇用安定につながると期待されたが、大手企業では就業規則や契約書に5年以前の雇用上限が書き込まれ、無期契約への転換申し込み権が生じる前での雇い止めが相次いでいる。

米アウトドア用衣料品大手、パタゴニア日本支社の店舗では、パート従業員の契約書に雇用期間を「最大5年上限」とすることが盛り込まれ、直前での雇い止めが横行。店舗従業員でつくるユニオン(札幌地域労組)との交渉で、会社側は「違法ではない」とかわすばかりだという。

現在、厚生労働省の労働政策審議会では、同ルールの検証・見直し作業が進んでいる。同省の有識者検討会が今春示した報告書では「現時点では無期転換ルールを根幹から見直さなければならない問題が生じているわけではない」との現状認識が示された。

これについて北海学園大学の川村雅則教授は8月20日に開いたオンラインシンポジウムで「問題ないとは言えないのではないか」と批判する。「(パタゴニアの契約は)5年後にクビになることを飲ませることになる。無期転換権の事前放棄を労働者に迫るものだ。日本社会がようやく無期転換ルールをつくったのに、その社会のルールに反する社内ルールをつくることが許されるのか。そのことが問われなければならない」

たたき台となる有識者検討会報告には、更新上限を禁じるなどの抜本的な規制強化策はなく、労政審の審議は小幅の修正にとどまる見通しである。

 

国立大学が率先して脱法

大学や研究機関では来年3月での大量雇い止めの発生が懸念されている。

民主党政権崩壊後の第2次安倍政権は14年、共同研究などに専任する研究者などについて無期転換権発生の要件を勤続5年から10年に延ばす特例を制定した。来年3月はその期限を迎える。

国立研究開発法人・理化学研究所(埼玉県和光市)では、こうした研究者について10年の雇用上限を設け、当局の説明では約203人が対象になる見込み。このうち約50人が研究室を主宰しており、177人が連動して職を失う恐れがあるという。

無期転換逃れは施行5年の18年にも社会問題となった。東北大学では5年上限とする制度を導入。18年に300人以上が雇い止めにされた。

この雇い止めの是非を争う地位確認請求裁判で、仙台地裁は6月、勤続12年の非正規職員について、期間によって業務が異なることなどを理由に雇用継続への期待権を認めず、雇い止めを容認した。

判決は「無期転換申し込み権の発生を回避することを目的とした雇い止めをしたことをもって、直ちに同法に抵触するものではない」と、脱法行為を容認したともとれる判断を示している。

 

先が見えない職場に

地方自治体の会計年度任用職員も来年3月に大量の雇い止めが案じられている。

同制度ができて3年。多くの地方自治体では、2回まで更新可能とし、それ以上働き続けるには「公募」を経なければならないと定めている。総務省のマニュアルに沿った対応で、自治体が従う義務はないが、地方交付税の財源を握られ、一斉に右へならう傾向がある。

3年間勤務した職員が一律に、未経験の新人と競わされる制度。業績や熟練、効率を重視するなら、このような競争はあり得ない。

公務非正規女性全国ネットワーク(はむねっと)は「現職を含めた公募は精神的抑圧が大きく、更新の可否をちらつかせたハラスメントにもつながりやすい。公正さとはかけ離れた制度だ」と批判する。妊娠が判明した女性を雇い止めとすることもこの制度では可能だ。

会計年度任用職員は地方公務員のため、無期転換ルールは適用されない。公募で再度任用されても、今の制度では3年後にまた公募を受ける必要がある。公務労組が行ったアンケートでは「若い人たちと同じ試験を受け、合格し続けられるか不安。これを60歳まで繰り返さなければならない現状を改善してほしい」との声が寄せられている。

はむねっとの調査では、昨年の調査と比べて在職年数が短くなる傾向が見て取れるという。担当者は「長期的展望を持って働くことができない職場になっているのではないか」と話す。

安定雇用を求める労組や市民の運動を背景に生まれた制度だが、大手企業や大学など率先垂範すべき立場の企業や機関で、あからさまな脱法行為が行われ、司法も追認する。公務職場では、国が率先して安定雇用を破壊している。

川村教授は「更新限度条項というのは昔からあったが、無期転換ルールができた今日でも通用するのだろうか。違法じゃなくて脱法だからいいと言う。そんなことは市民感覚として通らないし、許してはならないと思う。企業別労組、自治体、ナショナルセンターの違いを超えて多くの人と共闘し、無期転換逃れをなくすことが求められている」と話している。

 

 

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