瀬山紀子「公共サービスを支える非正規公務員の現状と課題(3)格差是正・状況改善に向けて」

公務非正規女性全国ネットワーク副代表である瀬山紀子さんから、労働法学研究会報に掲載された下記の原稿をお送りいただきました。「連載(1)当事者による実態調査の試みから」「連載(2)会計年度任用職員制度改正の実情と課題」とあわせてどうぞお読みください。

 

公共サービスを支える非正規公務員の現状と課題(3)格差是正・状況改善に向けて

瀬山 紀子 労働法学研究会報 73 (9), 4-7, 2022-05-01

 

 

 

はじめに

連載1回目、2回目と、公務非正規女性全国ネットワーク(はむねっと)が行ってきた調査に寄せられた声を紹介してきた。それらの声から、公務現場を支える非正規の人たちの思いの一端を知ってもらうことができたと思う。

公務現場では、非正規の人たちが、単年度任用を繰返しながら、長期継続的に働いており、そうした人たちの存在なくしては、公務の仕事はもはや成り立たないという実態がある。しかし、非正規の人たちは、非正規故に、不安定任用や低待遇の状態に置かれており、さらには、法制度が、そうした問題ある状況を固定化することに寄与してしまっている現状がある。

ちょうど、この連載期間中の3月20日に開いた「はむねっと1周年ハイブリッド集会」でも、知識、経験が必須の職であるにも関わらず、20年勤続の人と、1年目の人が、同じ、低い報酬に位置付けられ、経験が軽視されているという声、実際には職務の基幹的な仕事を担う人が、単年度毎の任用が前提とされる「会計年度任用職員」と位置付けられていることへの疑問、不安定任用が職場内ハラスメントの温床となっている実態などが語られた[1]

では、この先、どうしていけばよいのか。ここでは、はむねっとで行ってきた調査実施後の取組みについて報告していきたい。

 

国への要望書の提出

はむねっとでは、2021年4月から6月にかけて実施したインターネット調査と、9月に実施した会計年度任用職員制度移行時に受けた不利益に焦点を当てたインタビュー調査を経て、調査の結果やそこで聞こえてきた声を、国に直接伝えたいと、11月に、総理大臣、総務大臣、厚生労働大臣、男女共同参画・女性活躍担当大臣に、要望書を提出した[2]

このうち、総理大臣、総務大臣、厚生労働大臣に対しては、要望書に「会計年度任用職員制度を見直してください」というタイトルをつけ、現に、住民サービスの維持に欠かせない恒常的に必要な職を担う非正規職員については、一般の労働法制にある「無期転換権」の導入を検討してほしいこと、また、正規職員と非正規公務員の説明のつかない不均等待遇を是正し、給与等の均等待遇を検討してほしいことの二点を要望した。

加えて、制度移行時の不利益変更への対応についての質問として、制度の趣旨に沿っていない運用が見られた自治体の把握と是正状況を聞いた。また、「年収も月収も減った」という待遇面の変化は、制度の趣旨にあった運用だと言えるのかを聞いた。そして、最後に、会計年度任用職員制度の施行に伴う期末手当の支給等に要する経費について、「地方財政計画に1,738億円計上し、地方交付税措置を講ずる」こととされていたが、実際の執行状況はどうなっているのかを聞いた。

結果、総務省からは文書回答があり、「令和3年4月1日時点においても対応が十分ではない状況が一部で見られたことから、本年1月に、改めて運用の適正化に関する助言を行った」と書かれてあった。実際、総務省は2022年1月20日付で各地方自治体に対して「会計年度任用職員制度の適正な運用等について」とする通知を出し、再度の制度の適正運用を求めている。

もちろん、通知はあくまで、「会計年度任用職員制度」を前提としたものだ。そのため、この文書には、当然ながら、制度そのものが現場に疲弊をもたらしているという視点は存在しない。また、フルタイムからパートタイムへの説明のない任用転換といった、国の制度設計故の問題を、地方自治体の運用問題に落とし込んでしまっているようにも見える。

とはいえ、国も、この間の報道や声を受け、会計年度任用職員制度が、少なくとも運用上、さまざまな問題を引き起こしているという認識を持っていることは確認できた。

また、交付税については、予想通りとはいえ、「使途の制限のない一般財源であることから、執行額や執行率という概念が存在しない」というのが総務省からの回答だった。では、実際、国が制度の施行に伴う経費として計上した交付税は、待遇改善に使われたのか。こうしたことに監視の目を向けていくことは必要なことだと感じる。

合わせて、同内容の要望書を出していた厚生労働省からは、電話で、会計年度任用職員制度は所管が厚労省にないため、回答ができないという連絡があった。この点も、仕方がないとは言え、労働行政の側からの応答がなかったのは残念だった。

男女共同参画・女性活躍担当大臣宛てに出した要望書には、「女性の非正規職問題の対象に、公務部門の非正規職も入れてください」というタイトルをつけた。要望は、第5次男女共同参画基本計画の推進状況を監視する立場にある計画実行・監視専門調査会の中で、公務部門の非正規職の賃金格差や処遇について、議論をして欲しい、ということ、また、女性活躍推進法の特定事業主とされている地方公共団体の公表すべき項目の中に、非正規公務員(会計年度任用職員、任期付き職員、臨時職員など)の内訳と男女別割合を入れてほしいという2点を提示した。

また質問として、現状の女性差別ともいえる公務員の正規・非正規間の賃金格差についての見解や、実態把握のための調査を実施する予定、公共サービスの持続可能性についての見解を聞いた。

結果、男女共同参画局からは、「我が国の男女間賃金格差については、長期的には改善傾向にあるものの、諸外国と比較するとその差は依然として大きいものと認識しています。また、女性の人生や家族の姿が多様化する中で、女性が経済的に自立することは大変重要な課題です。その中で、ご指摘の男女間の賃金格差については、政府としては更なる改善が必要と考えており、その是正に向けて取り組んでいきます」という大枠でのメール回答が届いた。

できたばかりの任意団体が出した要望書に付した質問に対して、国から回答が得られたこと、そして少なくとも改善が必要だという認識は共有されていることがわかったことは、私たちにとっては大きな一歩となった。インタビュー調査に応えてくれた当事者からも、国に声を届けることは一人ではできなかった、このような行動につなげてもらい感動しているといった声が寄せられた。

はむねっとの役割は、自治体、そして労働組合の公式の調査からは拾うことが難しい、現場の声を伝えることだと感じている。今回の要望書で、そうした役割の一端は果たせたように思う。

 

人事委員会への働きかけ

加えて、この間、はむねっとが取り組んだことの一つに、全国の人事委員会への働きかけがある。

人事委員会は、それぞれの地方自治体の規模に応じて設置された、人事に関わる監視機関だ。これらの委員会が担う仕事は、地方公務員法第8条第2項で、「人事評価、給与、勤務時間その他の勤務条件、研修、厚生福利制度その他職員に関する制度について絶えず研究を行い、その成果を地方公共団体の議会若しくは長又は任命権者に提出すること」と定められている。

はむねっとでは、2021年の12月に、全国の人事委員会が、国の人事院勧告(=国家公務員の令和3年度の期末・勤勉手当を0.15か月分引き下げる)に並び、地方公務員の期末・勤勉手当を引き下げる方向であることが報道されたことを受け、「令和3年度の職員の期末・勤勉手当に関する減額勧告について、会計年度任用職員を対象としないでください」というタイトルの要望書をまとめ、69か所の委員会に送付した。

要望内容は、正規職員と非正規公務員の説明のつかない不均等待遇を是正し、給与等の均等待遇を検討してほしい、ということ。また、もともと不均等待遇である上に、期末手当の減額のみ「平等」に扱わないでほしい、という、2点を伝えた。加えて、質問として、現状の女性差別ともいえる賃金格差についての考え方、また、実際に、勧告における減額の対象に会計年度任用職員を含めるか、という2点を聞いた。

回収率は、98.6%(回答数:68、回答なし:1)で、「回答を差し控える」とした文書を提出した石川県の人事委員会を除く、都道府県と政令指定都市等68の人事委員会から回答が寄せられた[3]

質問として提示した「女性差別ともいえる賃金格差についての見解」については、予想通りとも言えるが、「採用について、性別にかかわりなく均等な機会を提供」していること、職員の給与は、職務給の原則、均衡の原則に基づき、適切に決定・支給しており、性別による賃金格差は生じていない、とする回答が多くを占めた。また、上記とは異なる回答を寄せた委員会からも、会計年度任用職員の給与については、「その職の業務内容が定型的、補助的であることや責任の程度が常勤職員とは異なるものである」ため、現状の給与で問題がないとの回答があった。

それでも、要望書のなかに含めた、「職務経験を考慮した給料表となっていない、専門性に適正にお金を払ってもらいたい。」「毎年試用期間があることが納得できない。私たちの仕事は、補助的な仕事でなく、専門職。」「給料が安いので、若い方がこの資格を取り相談員になりたいと思わない、多くの市町村で、有資格者の相談員が集まらず、欠員。」といった切実な声が、少しでも、委員に届けられたとしたら、まずは、それが第一歩になったのではないかと感じている。

中立、かつ公正な第三者機関としての人事委員会に、現に公務現場で働く非正規の人たちが、不合理な賃金格差があると感じていることを伝えることが、この問題の解決につながっていくと信じたい。

なお、勧告における減額の対象に、会計年度任用職員は含まれるかという問いへの回答としては、「含まれない」とした委員会が60(内訳:言及していない24、含まれない18、勧告していない9、対象としていない9)、「含まれる」とした委員会が8(内訳:含まれる4、言及している2、常勤と同一の取扱い2)、回答なしが1となった。ただし、「含まれない」と回答をした19の委員会で「任命権者の決定あるいは、条例で決まっているため減額」との追記があった。結果、実態として、会計年度任用職員の期末手当の引き下げが、どの程度行われたのかは定かではない。ただ、少なくない自治体で、会計年度任用職員の期末手当の減額が行われたものと考えられる。

 

公からディーセントワークを

公務の現場を不安定任用で、多くは低賃金の非正規が支えているという実態を知らせていくことは、まだまだ必要なことだと感じている。そして、そのような不安定な支えは脆く、それは結果として地域社会の不安定をもたらすことを伝えていきたい。そして、地方から、地域の安定化に向けた何らかの動きがはじまっていくことを心から期待したい。

公は、「ワーキングプア」ではなく、「ディーセントワーク」を、率先してつくっていく場になる必要がある。そんな大きな夢を、たくさんの人と語り合っていきたい。

[1] 「はむねっと1周年ハイブリッド集会」は、アーカイブ配信している。詳しくは、はむねっとHP(http://nrwwu.com)を参照してもらいたい。

[2] 要望書及び回答の詳細については、はむねっとHPを参照してもらいたい。

[3] 全国の人事委員会からの回答一覧をはむねっとHPに掲載している。

 

 

(参考)

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