片山知史「東北大学・理化学研究所等における新たな大量雇い止め」

労働契約法第18条の無期雇用転換逃れがすっかり定着してしまった感があります。それはしかしながら、当事者の雇用・生活を脅かすのはもちろんですが、と同時に、日本社会の持続可能性を奪うものでもあり、その点でも放置はできません。すみやかな撤回が求められます。無期雇用転換の実現を求めてたたかう東北大学職員組合・執行委員長の片山知史さんからの最新レポートです。どうぞお読みください。

 

 

5年問題:東北大学における大量雇い止めと労働争議の現状

東北大学の教職員数は11600人、うち非正規雇用職員は4900名(約42%)。当初は「時間雇用職員の通算雇用期間は3年以内」「職務の特殊性等により、総長が特に必要があると認めるときは、3 年を超えて雇用契約の更新を行うことができる」(2007年)となっており、2014年の段階で実際に70%の方が3年を超えて雇用されていた。

2013年の労働契約法改正に伴い、東北大学は2014年3月就業規則を改正し、非正規職員の労働契約期間の上限は原則として5年以内で、通算年限の起算は2013年4月1日から行うことにした。「無期転換逃れ」が制度化され、実際に2018年3月末に300名以上が雇止めされた。その後も毎年数十名が無期転換権を得られる直前に雇止めされている 東北大学職員組合は、2018年に労働審判、仮処分、労働委員会に申立を行った。労働委員会では、宮城県労委では東北大学の不当労働行為が認定された。また、労働審判の24条終了にともない、男性1名の組合員が仙台地方裁判所に対して地位確認請求を起こし、今年2月28日に結審した。6月27日に判決が示される予定である。

労働契約法の改正にともない、多くの大学や独法の研究所では非正規雇用の職員に無期転換の道を開いた。しかしながらその措置は、5年以上の更新を繰り返し、雇用継続の期待権を有する職員のみ。2014年以降に採用された非正規雇用職員は、5年未満の雇用期間内の雇用としている機関が多い。不安定な雇用を安定化させるための改正労働契約法が、逆に作用している状態である。社会の中で、5年雇止めがそれが問題視されない状態になってしまっていることを、改めて指摘しておきたい。

 

10年問題:東北大学と理化学研究所等における新たな大量雇い止め

2013年12月公布の「研究開発システムの改革の推進等による研究開発能力の強化及び研究開発等の効率的推進等に関する法律及び大学の教員等の任期に関する法律の一部を改正する法律」(平成26年4月1日施行)により、大学等及び研究開発法人の研究者、教員等については、無期転換申込権発生までの期間を5年から10年とする特例が設けられた。2022年度末が10年にあたる。

この研究者、教員等に対する労働契約法の特例によって、2023年3月末に雇い止めされる対象が、東北大学には239名いる。その構成は、常勤職員97名(教員89名、URA特任運営7名、技術1名)、非常勤職員142名(学術研究員64名、寄附講座教員2名、技術補佐員76名)である。まだ明らかにされてはいないが、東北大学は、そのまま2023年3月に無期転換権を生じさせる方針にはなっていない

厚労省の説明文書によると、特例の対象者は、大学等(大学、大学共同利用機関)、研究開発法人、試験研究機関等およびび試験研究機関等との間で有期労働契約を締結した研究者等である。各府省提出資料をもとに田村智子議員(日本共産党)事務所が作成した資料によると、研究開発法人で2023年3月末時点で雇い止めの可能性がある者は、12機関で920名を超える。大学における数字はまだ調べられていないが、このまま放置すれば、日本全国で数千名の教員・研究員が職を追われると推測される。雇い止めされるのは主に若手研究者であり、日本の研究力の低下に拍車をかけ、科学技術力を損なう重大な事態だと考えられる。

特に理化学研究所においては、約300名が雇止めになる見込である。しかもその中には、60名の研究チームリーダーが含まれており、約60の研究チーム(全体の約12%)が解散され、それに伴って約300名の雇止めが生じるという。併せて約600名が職を失うが、これは理化学研究所職員の約8分の1である。事業所として異常なリストラといえる。

 

表 国立研究開発法人の職員数及び研究者で雇い止めの危険性がある者

常勤 非常勤 研究者で雇い止めの危険性がある者 (全職員に占める割合)
男性 18,771 7,405 525 2.0%
女性 10,149 11,830 865 3.9%
28,920 19,235 1,390 2.9%

表 全職員数のうち2022年3月末で雇い止めの危険性がある者が占める割合の高い(5%以上)法人

常勤 非常勤 職員数計 非常勤割合 研究者で雇い止めの危険性がある者 (全職員に占める割合)
理化学研究所 1,339 3,510 4,849 72% 636 13.1%
産業技術総合研究所 2,563 2,219 4,782 46% 449 9.4%

出典:いずれも各府省提出資料より田村智子事務所作成(2022年3月8日)。内閣委員会提出資料(日本共産党 田村智子)。

 

 

私達の取り組み

5年雇止めしかり、この10年雇止めしかり、労働契約法の潜脱がまかりとおり、非正規職員の方の雇用がますます不安定になることは、見過ごすことができない。私達は理化学研究所労働組合と連携し、国会議員に説明を重ねてきた。その結果、2022年3月下旬、参議院決算委員会で、田村智子議員(日本共産党)が、衆議院厚労委員会で野間健議員(立憲民主党)が取り上げ、問題の大きさを説いて見解や対応を問うた。

まだ報道は少ないものの、特にこの10年雇止め問題の存在を広く知らせ、問題意識の換気を起こす必要がある。無期転換前の雇止めが普通に行われ、非正規雇用が消耗品のように扱われる状況を、早く打破しなければならないと考える。

 

 

(参考資料)

2022年3月28日(月)参議院決算委員会 田村智子(日本共産党)

「(主張)研究力危機の打開 大量雇い止めの放置許されぬ」『しんぶん赤旗』2022年4月4日

2022年3月30日 (水) 衆議院厚生労働委員会 野間健(立憲民主党・無所属)

東北大学教職員組合編(2021)『非正規職員は消耗品ですか?─東北大学における大量雇い止めのたたかい』学習の友社

 

(関連記事)

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