川村雅則「公務非正規問題に関する北海道の取り組み」

反貧困ネット北海道主催による2022年度の取り組み(公務非正規問題に関するオンライン連続学習会)を、NPO法人官製ワーキングプア研究会が発行する『レポート』第39号(2022年9月号)で紹介しました。タイトルは「公務非正規問題に関する北海道の取り組み──反貧困ネット北海道オンライン学習交流会」です。どうぞお読みください。

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筆者が副代表をつとめる反貧困ネット北海道(2009年6月設立。代表:松本伊智朗・北海道大学教授)の取り組みをご紹介します。

反貧困ネット北海道では、学習・啓発活動のほか、困窮者への支援・相談援助活動や研究・政策提言など、格差・貧困問題に対抗する各種の取り組みを行ってきましたが、多くの諸団体と同様に、コロナ禍で活動が停滞してしまい、その克服のためにオンラインによる企画を中心に活動を続けています。この2022年度は、公務非正規問題をテーマに、7月から月1のペースで連続した学習交流会を開催しています(後援に「札幌市公契約条例の制定を求める会(代表:伊藤誠一・弁護士)」)。

 

■公務非正規問題と議会の関係

今回の学習交流会では、議員の方々にご参加いただくことをいつも以上に意識しています。言うまでもなく、非正規公務員問題にせよ、公共民間労働問題にせよ、議員の取り組みなくして解決はできないからです。しかしそれには、口幅ったいようですが、議会の機能強化あるいは再生もまた必要ではないかと考えています。

なぜなら、住民の暮らしを守る公共サービス、その担い手の雇用・労働条件がここまで非正規化・劣化させられているのに、結果としてそれを承認しているのが議会という存在であるからです。

もちろん第一に、公務員の削減など国からの地方行政改革の圧力は強く、また執拗でしょうから、それに抗することは容易ではありません。第二に、このテーマへのスタンスには議員・会派による違いがあり、公共部門のリストラに積極的な議員・会派もあり、議会も一枚岩ではないでしょう。しかし総じて言えば、公務非正規問題への議会の姿が見えない、と言わざるを得ません。

 

■議会基本条例と議会の実際

一方で、議会の役割強化をうたった「議会基本条例」には至極まっとうなことが書かれています。議会基本条例は栗山町で2006年に全国で初めて制定された条例です。私自身、公契約条例づくりに関わる中で、こうした議会のあり方などに関心をもつようになりました。札幌市議会基本条例(2013年2月26日)を例にみると、前文にはこう書かれています。

「市政課題が複雑高度化する中で、本市議会が、多くの権限と責任を担う政令指定都市の議会として、市長その他の執行機関に対する監視及び評価並びに政策の立案及び提言など議会が果たすべき機能を最大限に発揮していく」

そして、議員の活動原則についてはこうです。

「(1)多様な市民意見と市政の課題を的確に把握し、市政全体を見据えた広い視点及び長期的展望を持って、公正かつ誠実に職務を遂行すること。

(2)自らの議会活動及び議会における意思決定等の過程について、市民に分かりやすく説明すること。

(3)政策の立案及び提言に係る能力の向上を図るため、常に研さんに努めること。

(4)議会が言論の府であることを踏まえ、議員相互間の討議を活発に行うこと。」

いずれもまっとうな内容だと思います。首長・行政機関に対する監視機能、市政の課題に対する調査・研究機能、そして、政策の立案・形成機能──こうした理想像が実現されたら、と切望します。

 

■議員・議会への働きかけの強化を

ですから、ここで強調したいのは、議会不要論・スリム化論ではありません。その逆です。そもそも議会で扱うテーマは多岐にわたります。議員はオールマイティではありません。また国会同様、議員の属性の偏りが非常に大きく[1]、女性が多数を占める非正規公務員問題への認識は薄いかもしれません。自治体でもSDGsばやりですが、行政府にも立法府にも足元の課題(ジェンダー平等・男女共同参画推進、ディーセントワークなど)は見過ごされている気がします。当会の果たす役割もそこにあるのではないでしょうか。

 

学流交流会第1回は、会計年度任用職員制度をテーマにし、筆者のほか、石狩市市議会議員であり当会会員でもある神代知花子(くましろちかこ)さんに、このテーマについてのご自身の議員活動を報告いただきました[2]。情熱をもってこの問題に取り組んでいる議員さんは存在するのです。当日の参加者でも、事務局などを除く64人の事前申し込みのうち議員(前議員を含む)は、くましろさんを含め7人でした。来年の統一地方選挙に向けて、全国で3万人を超える地方議員への働きかけを強める一年としましょう。

 

 

[1] 全国の地方議会議員の女性割合は15%に満たない(総務省「地方公共団体の議会の議員及び長の所属党派別人員調等(令和2年12月31日現在)」)。また多数が高齢であり、例えば、市議会議員では半数強(54.7%)が60歳以上で、町村議会においては、4分の3弱(73.9%)を占めます(地方議会・議員に関する研究会『報告書(参考資料)』2017年7月より)。

[2] 本稿は、筆者の当日の報告の一部を使っています。言うまでもなく筆者自身の見解であって、所属組織とは関係ありません。なお、当日の筆者の報告とくましろさんの報告は『北海道労働情報NAVI』(https://roudou-navi.org/)で閲覧できます。

 

 

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