川村雅則「札幌市の公共調達等に関するデータ(4)」

NPO法人建設政策研究所が隔月で発行している雑誌『建設政策』第205号(2022年9月号)に掲載された拙稿の転載です。下記もあわせてお読みください。

川村雅則「札幌市の公共調達等に関するデータ(1)」

川村雅則「札幌市の公共調達等に関するデータ(2)」

川村雅則「札幌市の公共調達等に関するデータ(3)」

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1.はじめに

第202号から続けてきた本連載の内容をはじめに確認しよう(以下、拙稿は本誌の号数のみを記載)。

まずは公共調達の契約等の件数や金額を整理し(第202号)、次に、自治体が把握している、当該分野で働く労働者の雇用・労働条件情報を整理してきた(第203、204号)。センターの仕事である以上、建設工事・建設労働が本丸であるのは言うまでもないが、委託業務や指定管理まで射程を広げて地域で運動に取り組む必要がある。「公共調達等に関するデータ」の整理はその基礎作業である。最後に、本稿では独自の調査に取り組む必要性を提起する[1]

なお、注釈等で紹介した論考を含め、『北海道労働情報NAVI』で配信しているので参照されたい(本稿は、そこからの転載を含む)。

 

2.賃金算出根拠を調べる

本誌第176号から第183号まで連載したとおり、現場に赴かずとも、「自治体発注業務における賃金算出根拠を調べる」作業がまずは可能である。実際にいくらの賃金が現場で支払われているかを調べる前に、当該事業の予定価格を積算する際に、どのような根拠に基づいて支払い賃金が設定されたかを調べる作業である。

建設工事の場合には公共工事設計労務単価が使われる。ゆえに同単価をモノサシにして、実際の支払い賃金額の適切さを検証することができた。しかし、では、委託業務では?指定管理では? 当該事業で働くことが想定されている職種は、どのような算出根拠に基づいて賃金が設定されているのだろうか。担当課からの情報提供(あるいは情報開示)を通じてまずはそれを明らかにしようという提起である。

表1は、拙稿で紹介したデータの一部であるが、このケース同様、非正規公務員の賃金が使われているケースが少なくなかった。非正規公務員問題と公共民間労働問題はつながっている。

 

表1 指定管理が導入された児童会館の職種・賃金(算出単位・金額)・賃金算出根拠

指導員 年額 3,151,000円 2016年度実績を基に処遇改善分(2%増)を計上し、算出
補助員 年額 1,952,000円 2017年度市臨時的任用職員基準(保育士)
障がい児対応担当 年額 1,952,000円 2017年度市臨時的任用職員基準(保育士)
パート 時給額 875円 2017年度市臨時的任用職員基準(事務員)

出典:札幌市提供資料から筆者作成。

 

3.公共民間の現場の実態、労働者の状態を知る

1)建設工事・建設労働者の実態

冬の間は失業を余儀なくされる季節労働者を中心に、建設労働者の就業や生活状況について、センターでは調査・研究を行っている。かつては、郵送方式による大規模なアンケート調査を通じて把握を行ってきたものの、冬期技能講習制度が2006年度末をもって廃止になってからは、建設労働者へのアプローチが困難になっている。そこで採用されているのが、センターの構成メンバーである地元の建交労によって実施されている公共工事現場での賃金実態調査である。かつての大規模アンケート調査に比べれば、把握できる数は限られているとはいえ、公共工事設計労務単価に基づき人件費が組まれているはずの工事現場で、実際にいくらの賃金が労働者に支払われているかを明らかにすることにはインパクトがある。旭川市の公契約条例(2016年12月)の制定に貢献した調査の結果は第169号にまとめたとおりである。

なお、条例が制定された旭川市では、「旭川市契約審査委員会」での審議を経て、事業者を通じてではあるが労働者の賃金把握が大規模に行われるようになった(第199号から第201号)。こうした点からもこの調査の意義を指摘しておきたい(残念ながら札幌市での取り組みは実現できていないが、現在も建交労の幾つかの支部で定期的な現場調査が行われており、別途報告したい)。

 

旭川での工事現場調査、2015年(再掲)

 

2)施設清掃労働の実態

札幌地区労連・札幌地域自治体ユニオン・建交労札幌合同支部では、公契約運動の一環で、札幌市が発注する施設清掃業務や警備業務等に従事している労働者の賃金や働き方に関する実態アンケート調査を行っている[2]。コロナ下で行われた2020年度の調査結果(2021年4月30日発表)によれば、次のとおりである。

 

  • 回答者49人のうち、施設清掃に従事する者からの回答は34人で、そのうち女性が29人。
  • 29人のうち、60歳以上が24人(うち9人が70歳以上)と高齢に偏っている。
  • 34人の時給は、コロナで据え置かれた最賃861円(当時)が11人で、900円まで範囲を広げると半数強(19人)を占める。

 

第203号で紹介した札幌市による調査でも次のような結果がみられていた。すなわち、「建物清掃業務と建物警備業務では、『最低賃金』での支給が多く、前者では2割から3割、後者では3割から4割を占める。『~900円まで』を含むと5割から7割を占める」と。ただ、その一方で、最新のデータである「建物清掃業務の2021年度の数値に限っては、『1001円以上』が4割を占め、『最低賃金』『~900円まで』を足し合わせた数値は35.9%にまで低下している」──こうした改善の動きは札幌市の施策(例えば、総合評価落札方式の拡大)によるものだろうか。市の調査と並行して、実態把握が続けられる必要があるだろう。以下は、札幌地区労連等による調査に寄せられた自由記述の一部である。

 

  • 清掃の仕事はコロナ感染リスクが高い中、最低賃金で働いています。少しでも賃金引上げを望みます【女性・50歳代】。
  • 時給を上げてほしい。朝早い時間6時半過ぎに出て861円です。前のところは900円でした【女性・70歳以上】。
  • パートでもボーナスを支給してほしい。仕事のはげみになります。【女性・60歳代】
  • 気持ちボーナス寸志があれば嬉しいです。【女性・60歳代】

 

3)業務委託・指定管理・補助金事業の実態

「札幌市公契約条例の制定を求める会」では、2021年度に、連続学習会をオンラインで開催した。自治体財政に関する学習会を第1回目に行った後は、現場からの報告を下記のとおりお願いした。

 

第2回学習会:2021年4月16日(金)

第3回学習会:2021年5月27日(木)

第4回学習会:2021年6月28日(月)

 

要旨や印象に残ったことを筆者の責任でまとめる(数値等は報告時点のものである)。

 

(1)ALT(Assistant Language Teacher)の働く現場

 

公立学校で日本人教師と一緒に英語を教えたり異文化交流を担当するALT。三苫氏が報告するのは、文部科学省が所管するJETALTではなく、各自治体の教育委員会が所管するNON-JETALT(以下、単にALT)である。扱いは教育委員会による。札幌市の場合には、直営ではなく派遣会社への委託で行われている。彼らALTは派遣会社から各学校へ派遣されて働く(以前は、業務委託なのに学校関係者から指示を受けていたことが偽装請負にあたると指摘され現在のようになった)

 

表2 JETALTとNON-JETALTの労働条件等の比較

JETALT NON-JETALT
契約の年数の上限は5年間 契約年数に上限はなし
年収は336万円からで毎年昇給 年収は230万円前後で昇給はほぼなし
教員資格は必要なし 教員資格は必要なし
文部科学省による管理 民間企業による管理
様々な学校に配属される 小・中学校限定で配属される
社会保険加入 ほとんどが社会保険に加入させてもらえない
32名が札幌で働いている 88名が札幌で働いている

出所:三苫氏作成(三苫氏の報告より転載。注釈に記載された内容は本文に入れた)。

 

表2のとおり、彼らALTは、契約年数に上限こそ設けられておらず、更新さえされれば働き続けることは可能である。しかし昇給制度などは設けられていないようで(長期で働いているALTから入社以降、賃金がほとんど変化無し、と報告されている)、年収は230万円前後のため、離職率が非常に高いとのことである。88人中18人しか社会保険に加入させてもらっていない。3月、4月の賃金は月額で5~8万円にまで低下するとのことである。

こうした低賃金、不安定な雇用で、つまり、教員がまともに生活をしていくことが難しい状況下で、まともな教育ができるだろうかと三苫氏は疑問を投げかける。しかし札幌市は、三苫氏たち札幌地域労組の要請に対して、要請には受託会社が「対応すべきものであり、本市は、応じるべき立場には当たらないため、回答はいたしかねます」との応答にとどまる。

 

(2)民間学童保育の現場

全国的に、学童保育の運営方式には、公設公営や公設民営のほか、民間団体に対して補助金を支出するという方式がある。各地の公契約運動はそこまでを視野に入れる必要があるのではないか(この点について、「まとめに代えて」を参照)。林氏の次の述懐ならびに説明に共感する。

すなわち、「私達も、行政に対して色々な要求をする中で、そもそも公共とは何なのかと考えてきました。民間学童保育は「民間」であることが強調されがちです。民間なのだから民間でやってください、と突き放されてきた時代も長かったです。」「民間は民間で、と突き放されることに対して、もやもやを抱えてきました。」

また、法制度改定により、市町村が子ども・子育て支援事業計画を定めることが義務づけられる中で、運営主体がいずれの場合でも「全ては市町村の計画の中に含まれています。そう考えると、とかく「民間」が強調されたり「民間は民間で」と言われるけれども、公共性の中に私達民間学童保育も位置づけられている、と言えるのではないでしょうか」と。公契約運動はここまでを射程に入れているだろうか。

 

表3 札幌市の学童保育の概況

札幌市の放課後児童健全育成事業 か所数 登録児童数 登録児童数 登録児童数
(2020.4) (2020.4) (2018) (2019) (2020)
児童会館児童クラブ 公設 107 10,388 12,084 12,525
ミニ児童会館児童クラブ 公設 92 7,099 7,936 8,722
民間児童育成会 民設 46 1,305 1,359 1,374
届出のあった放課後児童健全育成事業所 民設 4 不明 209 170
合計 249か所 21,615人 22,791人

出所:札幌市資料より林氏作成(林氏の報告より転載)。

 

表3のとおり、札幌市には、民間児童育成会により46か所の施設が運営されている。経済的な負担のほか施設運営に要する作業的負担も大きい中で根強いニーズが得られていることに共同学童保育の質の高さが示されている。

なお、交付される補助金は、児童40人規模の施設で年間1千万円程度になるという。とはいえそれでも施設運営はカツカツであって、指導員の配置も賃金・労働条件もぎりぎりである(その詳細は、30数年の学童保育労働の経歴をもつ宇夫氏の報告を参照)。

 

(3)指定管理が導入された児童会館の現場

第4回は、指定管理が導入された札幌市内の児童会館・ミニ児童会館、すなわち、公設民営の報告だった。

児童会館では、就学前の乳幼児を対象とした「子育てサロン」、学童期の留守家庭児童を対象とした「児童クラブ〔法律上の名称は、放課後児童健全育成事業〕」、中高生を対象とした「中高生の夜間利用」など様々な事業が展開されている。加えて児童クラブでは、対象学年が小学校6年生まで拡大され、開設時間も8時から19時までに延長した。ここから推察されるとおり、境氏による報告では、現場の深刻な人手不足が訴えられた。

すなわち、児童会館では、指定管理者制度の仕様上、館長1名・指導員2名の基準となっているが、札幌市は放課後子ども総合プランに基づき、児童クラブ員だけではなく、「自由来館」児童の受け入れも行っているために、3名体制に限界が生じているとのことである。また、児童クラブの配置基準である、児童クラブ員40名に対して2名の指導員を配置する、そのうち1名は補助員で可能とする、という条件を満たすため、非正規職員を雇用して運営しているが、処遇があまりにも低いため、人員不足は解消されていないのが現状だという(施設あたりの児童数について、先の表3を参照)。コロナはこうした、日常からの労働負担に拍車をかけることとなった。

 

4.まとめに代えて

今回の連載では、札幌市における公共調達等に関するデータを整理してみた。

一般財団法人 地方自治研究機構の調べ(2022年6月21日時点)によれば、公契約条例の制定数は全国で、理念型を含めて77件であるという。必要性に比べると制定数は必ずしも多くはない。理由として、業界団体から支持を得る難しさや議会で全会一致の賛同を得る難しさが指摘される。その通りだと思う。

一方で、条例制定を目指す関係者の取り組みはどこまで進んでいるだろうか。地域が抱える問題は「可視化」されているだろうか。また、可視化された問題は、「記録」され広く「共有」されているだろうか。自らの住む地域のどこに問題が生じているのか。具体的に示すことはできているだろうか。

関連して、この問題に責任をもち、問題解決の一翼を担うはずの地方議員・議会との連携は進んでいるだろうか。

第202号にも書いたとおり、「議会基本条例」では、市政課題の調査・研究や政策立案・提言などが議会の課題として意識されている。議会に情報を持ち込むなり、活発に取り組みをしている議員と積極的な連携が必要ではないか。問題の解決には「議会の再生」が必要ではないかと筆者は考えている。筆者の所属する「反貧困ネット北海道」では、2022年7月から月一で公務非正規問題のオンライン学習交流会を開催し、議員にもご報告・ご参加をいただいている[3]

最後に、筆者らの取り組みは今後も、公契約条例の制定を中心に据えて進むと思う。そのことを確認した上で、「公共の再生」という観点からは、公共サービス従事者全体を視野に入れた取り組みが必要であり、ゆえに公共サービス基本条例が必要になるのではないか、また、地元中小業者の育成という観点からは、中小企業振興条例をより実効性あるものにする取り組みが必要ではないか、すなわち、公契約条例の今日的な意義や他の政策との関連を意識した構想と取り組みが必要ではないかと考えている。

各地の運動をつなげていこう。

 

(かわむらまさのり 北海学園大学教授)

 

[1] このことについては、拙稿「公務非正規運動の前進のための労働者調査活動」『住民と自治』通巻第704号(2021年12月号)を参照。

[2] 札幌地区労連等「2020年度 札幌市の施設清掃・警備で働いているみなさんの実態調査アンケート結果」を参照。なお、建交労の元委員長である佐藤陵一氏がこのテーマの詳細レポートをまとめているのであわせて参照されたい。「清掃労働者の賃金・労働条件──札幌市の「履行検査」に対する受託企業の「報告書」より」(2014年1月発行)。

[3] 第一回学習会で講師をつとめた神代知花子氏(石狩市議会議員)による、「石狩市の非正規公務員問題と問題解決に向けた議員活動」を参照。

 

 

 

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