川村雅則「なくそう!有期雇用、取りもどそう!官の規範性(第2回なくそう!官製ワーキングプア北海道集会・2018年開催)」

2018年2月に開催された、第2回なくそう!官製ワーキングプア北海道集会の「記録」から、当日の私の基調報告(「なくそう!有期雇用、取りもどそう!官の規範性」)を転載します。あわせて、私が示唆をうけた関西大学名誉教授である森岡孝二先生のエッセイ「公共部門の雇用に規範性を取り戻し、官民のワーキングプアをなくそう」を掲載させていただきました。/第2回集会では、有期雇用の濫用問題がテーマの一つでした。雇用安定に逆行する新たな非正規公務員制度(会計年度任用職員制度)が2020年度に導入されてから2年が経とうとしている今、官民における有期雇用の濫用問題があらためて注目され、是正が図られる必要があると考えます。どうぞお読みください。

 

川村雅則「なくそう!官製ワーキングプア集会、北海道で開催される(2016年)」

『第2回なくそう!官製ワーキングプア北海道集会の記録』2018年4月発行

 

 

 

なくそう!有期雇用、取りもどそう!官の規範性

北海学園大学教授 川村雅則

 

本集会で訴えたいことは次の二点です。

1点目は、官民問わず、なくそう!有期雇用ということです。有期雇用の濫用を規制し、無期雇用転換(雇用安定)を何としても実現しましょう[1]

日本では、有期雇用の濫用──仕事に期限はないのに、1年あるいは半年など期間を限定して人を雇い、更新を繰り返すということが容認されてきました。それは働く者の「発言」を結果として封じることにもなってきました。

労働契約法がなぜ制定、改正されたのか、時間を遡ってみます。1990年代後半から猛烈な勢いで進められた大規模リストラ、労働契約の強引な解除・変更などを背景に制定された労働契約法(2008年3月施行)は、労働者保護、個別の労使関係の安定を目指したものの、リーマンショックで再び発生した大量の解雇・雇い止めでその限界性が明らかになりました。実効性をより高めるために2012年に行われた法改正は、制度上の不備をはらんでいるものの、同一事業者での雇用契約期間が通算で5年を超えた者に無期雇用転換権を付与して雇用安定を図ることとなりました。なおこのときに、ほかに、雇い止め法理が法定化され、かつ、有期雇用であることを理由とした不合理な労働条件が禁止されました。無期転換がうたわれた労契法第18条は、2013年4月1日が施行日なので、2018年4月1日に多くの労働者に権利が付与されることになります[2]

ところが、周知のとおり、大手自動車メーカーや大学職場などで労働契約法改正の理念に相反する脱法行為──5年を超える前に雇い止めを行ったり、空白期間を入れることで通算労働契約期間をゼロにリセットするクーリングが広がっています。この流れを食い止めて雇用安定社会を実現できるかどうか、文字通り私たちは岐路に立たされています。

集会で訴えたいもう一つのことは、「官」の領域から、あるいは、「官製」の、雇用問題をなくそう!ということです。

民間分野の雇用問題を軽視するものでは、もちろんありません。しかしながら、本来は規範となるべき「官」の分野のほうが、雇用に関するルールが整備されておらず問題が深刻である、そう言っても過言ではありません。端的に言えば、民間に比べて状況がひどいと思います。

例えば、本集会のメインテーマである無期雇用転換は、国や自治体に雇われる非正規公務員には適用されません。相変わらず彼らは有期で雇われ続けます。労働契約法の適用を除外されているからです。民間の非正規労働者であれば適用される労働法制・諸権利から外され、「法の狭間」に置かれた存在となっています。

あるいは国や自治体が発注する様々な仕事で働く者(公共民間労働者)の労働条件は、事業者間の受注競争を通じて、改善はおろか、むしろ劣化しやすい傾向を持っています[3]。雇用面に限っても、仕事を継続的に受注できなければそこで働いていた者は失業を余儀なくされます。しかも、いわゆる「骨太方針」に書かれた「公的サービスの産業化」といった国からの行財政改革の圧力は、より一層のコスト削減を自治体に選択させることになるでしょう。実効性ある「歯止め」が必要なのです。私たち「札幌市公契約条例の制定を求める会(代表:伊藤誠一弁護士)」が2012年から取り組みを始めた公契約(の適正化)運動もここに問題意識があります[4]

以上が基調報告の趣旨です。本日はよろしくお願いいたします。

 

編集者注:集会当日は、全体で20分程度の基調報告を行いましたが、ここではそのうち冒頭部分のみを掲載します。

 

 

[1] 無期雇用転換に関するパンフレット『なくそう!有期雇用 つくろう!雇用安定社会』ver1.0、ver2.0を作成したので参照してください。

[2]以上の法制定・改正の経緯などは荒木尚志・菅野和夫・山川隆一(2014)『詳説 労働契約法 第2版』弘文堂を参照。

[3]ILOが1949年に採択した『公契約における労働条項に関する条約』(第94号条約)はまさにこうした事態を見越しての条例ですが、日本は未批准です。

[4]札幌市の公契約条例案は否決されたものの、「旭川ワーキングプア研究会(代表:小林史人弁護士)」が旭川市で発足。2016年12月には、理念型であるものの公契約条例が制定されています。これらの動きについては、拙稿「旭川市における公契約条例の制定と今後の課題」(『北海道自治研究』第576号所収)、公益社団法人北海道地方自治研究所、2017年1月発行などを参照。

 

 

公共部門の雇用に規範性を取り戻し、官民のワーキングプアをなくそう

関西大学名誉教授 森岡孝二

 

2015年11月2日、エルおおさか(府立労働センター)で、「なくそう!官製ワーキングプア第3回大阪集会」が開催され、会場を埋める180名が参加しました。私は午後の全体集会に出て、終わり近くに簡単なコメントをする役割を振り当てられました。

どの報告も有益で勉強になりましたが、私はとくに西谷敏先生の「〝無法地帯〟の公務非正規労働者」と題したミニ講演が参考になりました。それに触発されて、コメントでは私は公共性の本質的要素の一つである「規範性」について話しました。この場合の「規範」は守るべき法やルールや基準を意味します。したがって、公共部門から規範性が失われると、公務・公共の空間はたちまち法やルールや基準がない(あってもないに等しい)「無法地帯」と化してしまいます。

配付資料のなかに、吹田市で在宅高齢者や障害者に対する「デイサービス」の生活指導員として20年以上にわたって勤務してきた非常勤職員が雇い止めにされた事件の裁判で公正判決を求める要請書がありました。そのなかに、「このような雇い止めは、民間ではとうてい考えられない行為……です」という表現が目に止まりました。これは自治体の公務労働がいまでは規範性を失い「無法地帯化」していることを示しています。本来なら、ここは、「たとえ民間では罷り通っても、自治体ではとうてい許されない行為です」というべきところです。

どうしてこのような転倒が生じたのでしょうか。以前から、公共部門にも非正規労働者がいましたが、「雇用形態の多様化」の名のもとに雇用の非正規化・外部化が急拡大したのは民間のほうが先でした。しかし、いまでは、その差はずいぶん縮まり、地方公務員の場合、民間より非正規率が高い自治体さえあります。

西谷講演でも触れられた総務省の資料によれば、2012年現在の全地方公共団体の「臨時・非常勤職員」の総数は約60万人で、内訳は特別職23万人、一般職13万人、臨時職24万人となっています。4年前と比較すると、驚くことに非正規職員が10万人増加した反面、正規職員は13万人も減少しているのです。大阪労連の調査によれば、大阪府下自治体の非正規比率は2006年から2014年の間に、20.5%から32.0%に高まっています。2014年現在では非正規率が40%を超える自治体が18(13市5町)、50%を超える自治体が4(1市3町)あります。

部面によっては、雇用の破壊とワーキングプアの増加は、民間企業よりも、国や自治体のほうがひどいという状況が生まれています。ここにはまともな雇用をまもるという点での自治体における雇用の規範性はありません。大阪府下の自治体の臨時職員については、最低時間給は、地域最低賃金(2014年調査時838円)に張り付いています。地域最賃の基準をなんとかクリアしているからといって、ひどく低い賃金であることにはかわりがなく、まともな賃金を払っているとは言えません。自治体の業務が民間委託される場合は、受託事業者が労働者を最低賃金以下で違法に働かせることも起きています。

いまでは国も地方も、まともな雇用を維持するという点でも、ワーキングプアを生まないという点でも、公務労働の規範性はすっかり崩れて、無法状態になっています。先月出た拙著『雇用身分社会』(岩波新書)の帯には、「労働条件の底が抜けた!?」というコピーがあります。その第6章「政府は貧困の改善を怠った」には、雇用の身分化をすすめ、労働条件の最低基準に大きな穴を空けてきたのは、経済界である以上に、政府であると書きました。

海外から襲いかかるグローバル化の大波であれ、国内のブラック企業による労働者酷使の嵐であれ、防波堤の役割を果たすべきは、政府の雇用・労働政策であるはずです。にもかかわらず、この20~30年、政府は雇用・労働分野の規制緩和を強引に押し進め、政府が守るべき雇用と労働のルールや基準をかなぐり捨て、公務領域を非正規雇用と貧困拡大の最前線に変えてきました。

この状態を放置しておくと日本の社会はいよいよ持続できなくなります。いま取り戻すべきは、まともな雇用・労働政策です。そのためにも、雇用と貧困を改善するまともな政府の実現が急がれます。それゆえに、「なくそう官製ワーキングプア」の運動は、官民を問わずまともな雇用を実現しワーキングプアをなくす運動でもあります。

 

編集者注:当日の連帯挨拶に関わって、NPO働き方ASU-NETホームページ 森岡孝二の連続エッセイ(2015年11月3日)「第297回公共部門の雇用に規範性を取り戻し、官民のワーキングプアをなくそう」を転載させていただきました。

 

NPO働き方ASU-NETホームページ

 

第2回なくそう!官製ワーキングプア北海道集会の記録の内容

◆現場からの取り組み報告:❶東神楽町社会福祉協議会職員組合/❷日本郵政グループ労働組合(略称、JP労組)北海道地方本部/❸札幌市労働組合連合会(略称、市労連)/❹札幌市職連・さっぽろ公共サービス労働組合・青少年女性活動協会支部/❺全国印刷出版産業労働組合総連合会(略称、全印総連)北海道地連/❻札幌地区連合〔紙面報告〕/❼札幌地区労連/❽室蘭工業大学職員組合/❾北海道大学教職員組合/❿北星学園大学教職員組合〔紙面報告〕/⓫コープさっぽろ労働組合

◆東京・大阪からのご報告と連帯のご挨拶:⓬白石孝氏(NPO法人官製ワーキングプア研究会理事長)/⓭森岡孝二氏(関西大学名誉教授)/⓮安田真幸氏(連帯労働者組合・杉並)

 

 

(関連記事)

NPO法人官製ワーキングプア研究会「(拡散希望)非正規公務員年度末雇い止め相談を始めます」2022年2月13日配信

川村雅則「札幌市の会計年度任用職員制度の現状を調べてまとめました」

NPO法人官製ワーキングプア研究会

公務非正規女性全国ネットワーク(通称:はむねっと)

札幌市公契約条例の制定を求める会

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