鈴木一「喜ぶ人と共に喜び、泣く人と共に泣きなさい」

日本基督教団を考える新しい風・『風(教団ジャーナル)』第71号(2022年2月14日号)に掲載された、連載「聖書を読んでみました」第63回の原稿です。どうぞお読みください。

 

残業代不払いに抗して消防自動車製造の会社で組合を結成し、その半年後24時間ストを敢行。その後、労働委員会命令や裁判闘争に発展し、過去の未払い残業代を払わせる内容で和解。当時と比較すると年収は約200万円増えた。この写真は、高校の公民の教科書(第一学習社)に掲載(左端が筆者)。

 

喜ぶ人と共に喜び、泣く人と共に泣きなさい。(ローマの信徒への手紙12章15節)


どのような活動か?

地域からの職場トラブルなど労働相談を受け、その中から雇用主と交渉できる案件に絞って札幌地域労組に個人加盟させ、団体交渉に応じるよう迫っていきます。また、職場で仲間づくりが可能な場合は、密かに学習会を重ね労働組合へと導きます。これまで約150の労働組合を結成してきました。

団体交渉権などの労働三権は、日本国憲法(28条)が全ての労働者に保障する権利です。使用者がこれを拒否することは不当労働行為として労組法で禁じています。

不当な目に遭った労働者を守る為には、極端に言えば人殺し以外なんでもします。きれいごとなんか言ってられません。組合の無い職場で、新たに労働組合を結成する場面なんかは、特にそう。経営者は必至に抵抗してきます。彼らの取り分、パイの分配(労働分配率)が減る訳ですから、様々な手で弾圧してきます。それに耐えられず、組合員が次々と脱落していくケースも珍しくありません。いわば、江戸時代のキリスト教弾圧みたいに。

そういう経営者の妨害を受けながら活動する場面では、切った張ったみたいなことは避けられず、私はこれまで刑事事件で1回、民事事件で3回訴えられました(すべて勝ちました)。

相談で多いのはやはり解雇・雇い止め、パワハラです。それと私がこの仕事に就いた30年前から一貫して減らないのが、残業代の未払いや有給休暇が取れないといった相談。

また近年増えて来たのは、労働組合のある職場からの相談です。なぜ、こうなったのかは後半に触れます。

 

カトリック経由で外国人労働者の相談

外国人技能実習生からの相談も増えてきました。これは、札幌のカトリック教会(カトリック難民移住移動者委員会)の知り合いから、ベトナム人技能実習生が解雇されそうだから手をかして、と頼まれたのがきっかけでした。

これまで、年に数件程度ですがベトナム人や中国人実習生からのSOSに対応し、雇用主と団体交渉することで解決に導いています。また最近では、北海道でミャンマー民主化に取り組む方々を支える活動にも力を入れています。

これらの多くは、カトリック教会が外国人の窮状をキャッチするアンテナの役割を果たしており、その点、私たちプロテスタントの教会も見習うべきだと強く思っています。

外国人技能実習生の問題にかかわってみて、実習生が雇用主に盾をついたら「即、寮から出ろ」と脅されるリスクを抱えていることを知りました。そこで、ちょうど私が所属する札幌手稲教会が移転新築する時期だったので、いざと言うときシェルターに使える部屋(母子室)を二階に設置しました。

 

労働運動の現状について

アバウトですが、日本の労働者は約6千万人、そのうち労働組合に組織されているのは約1千万人(約17%)です。この場合、組織率だけ見ると判断を誤ります。と言うのは、韓国や米国は日本よりも低く10%を切るくらいだと思いますが、労働運動は日本よりもずっと盛んですし、韓国では労働運動が大統領退陣(朴(パク)槿(ク)恵(ネ)政権)の道を切り拓きました。

日本の組織率17%のうちの大部分は、大企業と公務員です。民間大企業の実態は、名ばかり組合いわゆる御用組合です。露骨にやるか、裏でやるかの違いはあれ労働組合の役員を会社が人選しているというのが実態だと思います。組合役員をそつなくこなせば、次は出世コースが待っているという構図です。

全国の労働組合を統括する組織をナショナルセンターといい、日本の場合は次の三つ。連合が約700万人、全労連が約50万人、全労協は約10万人。すごい勢力差があります。わかりやすいようにそれぞれが連携している政党についていえば、連合が立民、国民、全労連が共産党、全労協は社民、新社会というところです。

連合が結成される前は、労働組合団体はおおまかには総評(日本労働組合総評議会)と同盟(日本労働組合総同盟)でした。総評時代は、社会党系の組合も共産党系の組合も一緒に運動する中で切磋琢磨しあっていましたが、同盟は旧民社党系で、国家権力や資本がテコ入れしてできた御用組合集団のようなものですね。

連合加盟の組合があるところから、私たちの地域労組に駆け込み相談が良く来ます。例えば札幌駅近くの量販店から、よく店員さんが労働問題でウチに駆け込んで来る。驚くのは、彼女らは毎月数千円の組合費を賃金から天引きされているのに、自らが組合員だという自覚がないし、「組合」に相談しても「それは貴女の個人的な問題だ」と一蹴される。それくらい組合はまったく機能していない。こういう名ばかり組合を沢山つくり、そういう組織から連合本部の会長や事務局長が出ている。

連合中央の幹部が一番望んでいるのは、首相官邸で開かれる政労使会議に列席すること、さらには引退後に一番高位の勲章である旭日大綬章をもらうことです。衆参議長とか最高裁長官と並んで、歴代の連合会長が過去に何人も受賞しています。

一方、韓国の労働運動の指導者は、これは朴槿恵政権の時ですけど、労働争議を煽ったという罪名で指名手配され牢獄に繋がれました。ソウルの街を歩いていると、座り込みや建物占拠などが普通にあります。体を張って闘っている。だから韓国の経営者は、労働運動を抑え込んだ日本に学べと言うし、韓国の労働界の皆さんは、骨抜きにされた日本の労働運動の轍を踏むなと言います。

 

野党共闘の足を引っ張る理由

連合の役割は端的に言うと労働運動を押さえ込むこと、皆さん、お利口さんにしていましょうというわけですね。今度、連合会長になった芳野友子氏は、労働界の杉田水脈(自民の参議)のような存在だと思います。共産党の悪口なら堂々と言っていいと思っている、そういう発言をするとウケる。岸田首相が座長の新しい資本主義実現会議にも芳野氏が入っていますが、「私は皆さんの側ですよ」とアピールしている。

 

キリスト教を意識する場面

25年前の話になりますが、当時、紛争になっていた社会福祉法人の理事長から「ちょっと相談がある」と自宅に呼び出されました。そこで新聞紙にくるまれたコンニャクくらいの包みを背広の内ポケットに突っ込まれたのです。「これは札束だ!」と思い、即座にそれを突き返しました。そこまでは、毅然と対応できたんですが、その直後「鈴木さん、誰も見ていないんだから持って行け」と言うのです。この言葉に、私、狼狽えました。

少なく見ても、100万円の束がいくつか入っていそうな厚さ。一瞬、これでススキノ(札幌の歓楽街)で100回くらいは飲めるかな、とか、妻とヨーロッパ旅行に行けるかな、とかそういうシーンが走馬灯のように頭を巡ったのです。教会に献金しようとかは浮かばなかった(笑)。

結局、逃げるようにその場から立ち去ったのですが、事務所に戻るまで何度も引き返そうかと思いました。その札束は300万円だったと後に関係者から聞きました。「誰も見ていないのだから」という言葉に動揺した自分自身を嫌と言うほど認識しました。

連合や御用組合のことをいろいろ語りましたが、私もうまく上昇気流に乗ったら、そういう立場に安住していたかもしれないと思います。

聖句の箇所をと何度も聞かれましたが、特にこの部分というのはなく、やはりイエスの生涯全体に惹かれているのです。

いつも、この場から逃げ出したい、皆を裏切るかもしれないという自分がいて、しかしイエスのすごさにも惹かれていて、揺れながらも特俵で足を突っ張っていられるのは、やはりイエスに出逢ったおかげだと思っています。

 

(すずき はじめ・日本キリスト教団札幌手稲教会信徒)

 

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