川村雅則「憲法の示す価値から、自治体で働く非正規公務員のことを考えてみました。」

労働大学出版センター発行『働くものの月刊学習誌 まなぶ』2021年10月号(特集:人権が守られない社会)に掲載された拙文です。お読みください。


『まなぶ』第781号(2021年10月号)表紙

 

憲法価値と乖離した職場

 

「憲法で考えるこの国のかたち」「憲法の人権保障の下で守られない人たち」というテーマを本誌編集部からいただきました。憲法までさかのぼって物事を考える機会もないことを反省し、憲法条文を眺めてみました。個人の尊重(13条)、法の下の平等(14条)、両性の本質的平等(24条)、生存権(25条)などなど。門外漢ゆえ逐条的に理解する程度しかできませんが、日本の職場に目を転じると、長時間労働・ハラスメントの下での過労死、フルタイムで働いても生活が困難な低賃金や半失業状態、職場における男女間の格差(より直接的にいえば女性に対する差別)など、今日の労働者の雇われ方や働かされ方が憲法の示す諸価値からなんと離れていることか、と思います。もとより、憲法が示すのはめざすべき理想像です。国家権力の暴走を縛るのと同様に、憲法的価値を国家に実現させるための不断の努力が必要です。労働組合にはその運動の牽引役が求められているはずです。

ここでは、民間部門より劣る制度下におかれた、地方自治体における非正規公務員の現状を中心に報告します(参考文献などは省略)。なお、エッセンシャル・ワーカーとしてコロナ禍で注目を集める彼らのきびしい状態は、いくつかの経路を通じて民間にも波及します。ゆえに、官(公)と民の労組が一体となって取り組まなければならない課題なのです。

 

女性差別をはらみ増大する非正規公務員

 

図 地方公共団体における正職員数及び非正規職員数の推移

注1)各年4月1日現在。
2)非正規職員は、臨時・非常勤職員。任用期間が6カ月以上、かつ1週間当たりの勤務時間が19時間25分(常勤職員の半分)以上の職員が対象。2020年度調査では短期間・短時間勤務者も別枠でカウントされている(右端の網掛け部分)。
出所)総務省『2020年地方公共団体定員管理調査結果の概要』及び各年度の『地方公務員の臨時・非常勤職員に関する実態調査』より作成。

 

自治体職員を減らせとの国からの地方行政改革の圧力の一方で、住民からのニーズは増大し、かつ、多様化しています。正職員が減らされても、だれかが対応をしなければなりません。そうした状況下で非正規公務員は増えつづけ、今日に至ります。以下で述べる新制度導入時にあわせた最新の総務省調べ(2020年4月1日現在)によれば、非正規公務員の人数は100万人を超えています。従来のカウント方法である短期間・短時間勤務者を除いても、およそ69・4万人です(図)。市区町村に限れば、非正規公務員の割合は全体の4割超に及びます。その多くは女性です。

人数ベースでみるか当該職種に占める非正規割合でみるかの違いはありますが、子どものケアにあたる職や各種の相談業務など女性向きとみなされている職で非正規公務員が多い。そしてその年収は多くが200万円未満です。つまり、女性向きの仕事は非正規で賃金も低くてよい、という女性差別の問題をはらんで公務の非正規化、非正規公務員の増大は進んでいます。

 

民間部門に比べて劣る公務の非正規制度

 

さて、新しい非正規公務員制度が地方自治体で2020年度から始まっています。会計年度任用職員制度という名称です。これまで、法に適切に位置づけられることなく、なし崩しに増やされた上に、勤続の断絶=空白期間や勤続期間の上限が自治体の裁量で自由に設定されるなどしてきた非正規公務員の雇用(任用)が適切なものにされる──事前のふれこみでは、今回の法改定はそう説明されていました。しかし……。就活中の学生に相談されたとして、イメージしてみます。

「住民にとって大事な仕事と説明されたのですが、雇用条件は非正規でした。勤務は1年限りではありませんが、厳格な能力実証が行われるそうです。それをクリアして働きつづけられることになっても雇用が更新されたことにはならないようで、新たな職に就くと説明されました。いえ、従事するのは同じ仕事です。でも、新たな職だからと毎年必ず1カ月の試用期間が設けられています。そして3年に一度は、公募に応じて新規求職者といっしょに選考を受けなければなりません。処遇は低いです。最近は均等待遇、同一労働同一賃金とか聞きますが、そもそも、フルタイム職員より1分でも勤務時間が短ければ、別の処遇体系に位置づけられるそうです。そして、こうした状況を改善していこうにも、授業で習った労働組合活動は制度的にかなり制約されているというので」……。

こう説明されたら一体どこのブラック企業なのかと思うでしょう。これが非正規公務員に新たに準備された制度なのです。働く者の意欲を萎えさせる制度です。

21世紀になって20年。恒常的で基幹的な仕事、しかも、専門性を有する仕事に従事する非正規労働者たちが拡大する中で、なぜ恒常的な仕事で有期で雇われつづけなければならないのか、なぜ賃金はこんなに低いままなのか、といった真っ当な批判が充満し、労働契約法18条を活用した無期雇用転換運動や、パートタイム・有期雇用労働法(旧・労契法20条を含む)を活用した均等待遇の取り組みに力が入れられました。しかしながら、これは民間部門の非正規に限定された話しです。同じような境遇にありながら、公務の非正規にはこの道が閉ざされています(労契法やパ・有法の非適用、労働基本権の制約)。新たな制度という言葉のもつ「改正」「刷新」のイメージとは裏腹に、いま私たちのいる場所はまだこんなところなのです。

 

公務のもう一つの非正規化

 

自治体業務の民営化や民間委託などの流れにも目を向ける必要があります。コスト削減はもとより、公共サービスの営利化圧力を国から受けているところに、新制度下で労務管理の手間を煩わしく思った自治体が、これ幸いと仕事の切り離し(民間化)を図ることが予想されます。その際にはコスト削減が前提です。受託者を選ぶ一般競争入札制度がそれを後押します。入札制度では、働く者の労働条件が仕事を獲得するための競争の手段になります。発注者としての責任を自治体に自覚させて、受託企業で働く者の労働条件を適正なものとすることをねらう公契約条例の制定が全国的に求められている背景には、こうした構図があります。

しかし現状では、受託先の労働条件の実質的な決定者である自治体(発注者)と、受託先の労働者との間には雇用関係はないために、自治体は責任を回避できます。ここにおいても、労働3権(憲法28条)が空洞化しています。

多様な働き方、働き方改革、一億総活躍、女性活躍──この間、政府与党から出されたこれらのスローガンは、若い人たちの目には「革新」と映るのかもしれません。であれば、これらの問題性や虚妄性を説いても彼らに響かないどころか、改革を妨げる勢力と認識されるおそれさえあるのではないでしょうか。憲法に記された価値を積極的に取り上げてその実現を図る『活憲(五十嵐仁・法政大学名誉教授の言葉)』の姿勢こそが労働組合に求められていると思います。であれば、諸権利を剥奪された状態にある非正規労働者の懸命の立ち上がりに背を向け、彼らに門戸を閉ざす本工主義の態度などは論外です。国のかたち同様、労働組合の姿勢もまた、憲法の観点から問われる必要があるのではないでしょうか。

 

 

 

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