瀬山紀子「非正規公務員が支える公共 ~「21世紀の我が国社会を決定する最重要課題」の現場から」

『まなぶ』労働大学出版センター(795):46-48 2022所収

 

非正規公務員が支える公共

~「21世紀の我が国社会を決定する最重要課題」の現場から

瀬山紀子

 

21世紀を目前にした1999年6月に制定された『男女共同参画社会基本法』の前文に、次の文言が置かれている。法律の制定に関わった人たちの思いと願いが込められた文言だったのだと思う。

 

「男女共同参画社会の実現を二十一世紀の我が国社会を決定する最重要課題と位置付け、社会のあらゆる分野において、男女共同参画社会の形成の促進に関する施策の推進を図っていくことが重要である」

 

法律が制定され、あと数年で4半世紀が過ぎようとしている。この間、男女共同参画社会の実現が、今世紀の最重要課題に位置づけられ、大きな変化がもたらされてきたのかと言えば、そうではない、と言わざるを得ない。

「女性活用」や「女性活躍」といった言葉を冠した政策は進められてきた。しかし、一向に、社会の土台の根本的な構造に埋め込まれた、性別役割分業型の、男性稼ぎ主モデルを基礎とする世帯主義の諸制度を変えていこうとする流れが見えてこない。故に、非正規労働者に占める女性の割合は減らず、女性があたり前に、一人として生きていけるだけの、経済的に自立できる環境が十分にあるとは言えず、家庭でも、地域でも、職場でも、ケア役割の多くを、女性が担う状況がつづいている。コロナ禍で、まず、職を失ったのも、多くが女性たちだった。

制度改変に、大きな役割を担うはずの政治分野が、他の分野と比べても、圧倒的に男性によって占められていることが、その原因の一つなのだろうということは感じる。2022年のジェンダーギャップ指数(GGGI)の政治分野の順位は、146カ国中139位(※1)。政治分野の、圧倒的な女性不在がつづいている。

ただ、問題は、政治分野にのみあるのでは、もちろんない。経済分野も、加えて、労働分野、労働組合も、教育分野も、メディアも、社会運動にも、ジェンダーギャップが広がっている。そうした社会のあり様を反映しているのが、政治分野なのだと思う。

 

はむねっとの誕生

 

2021年3月、私も立ち上げに関わった「公務非正規女性全国ネットワーク」という団体が生まれた(※2)。ここには、コロナ禍という非常事態の下、市民生活を支える役割を担う行政の中のさまざまな職場で、相談員や保健師、保育士、図書館司書、行政の窓口対応職員などとして働く、非正規の人たちの、悲鳴とも言える声が寄せられてきた。そうした声をつなげ、社会に発信していこうと活動がはじまった。

団体は、非正規公務員として働く当事者が関わり、発言しやすい場をつくりたいという思いと、この問題が解決しない根っこには、非正規の多くを女性が占めていることが関わっているという確信、また、国の制度を変える働きかけをしていく団体として活動していこうという思いを込め、「公務非正規女性全国ネットワーク」(通称「はむねっと」)として活動をしていくことになった。

活動の担い手は、全国の地方自治体や、国の機関、行政の委託先、指定管理者として働いている、または働いた経験がある、非正規公務員が中心で、現在までに、ゆるやかなネットワークを形成しながら活動を重ねている。これまでに、非正規公務員を対象にしたインターネットを使った調査を昨年と今年の2回にわたり実施し、調査にもとづく社会的な発信、国などへの要望書の提出、当事者同士の経験交流などを行ってきた。

私自身は、首都圏で、合わせて20年ほど、行政が設置した男女共同参画センターの非正規職員として、講座の企画運営や、広報物の作成、市民との協働事業の運営、調査、相談事業などに携わってきた。ただ、2020年3月、会計年度任用職員制度の導入を前に、職場を去る選択をした。その後、大学での非常勤講師等をへて、現在は、任期付きではあるが、大学で教育・研究に携わる職を得た。

 

はむねっとの調査から

 

はむねっとでは、2021年と22年の2回にわたり、公務職場で非正規労働者として働く人たちを対象にしたインターネットによる調査を行った。

一度目の調査では、1305件(有効回答1252件)の回答が全都道府県から集まり、二度目の調査では、715件(有効回答705件)の回答が、やはり全国の都道府県から集まった。

2回とも、回答者の9割は女性で、職種は、一般事務職からさまざまな分野の相談員、図書館司書、博物館学芸員、保育士、女性関連施設職員、公民館職員、学校教員など、多岐にわたる。市民と直接関わりのある職に多くの非正規職員が働いていることが改めて見えてきた。

雇用期間は、2回とも9割を超える人が1年以下で、人によっては1年毎に更新をしながら、5年、10年と働いている実態があきらかになった。ただ、昨年と今年を比べても、在職年数は短くなる傾向がみられ、職の不安定化が進んでいることもうかがえた。

今年の調査にあった「いま問題と感じていること」という質問(選択式)には、「雇用が不安定(有期雇用)」がもっとも高い割合で選ばれており、「給与が低い」「正職員との待遇格差が大きい」「専門性や経験が評価されていない(やりがい搾取)」がつづいた。

年収は、2回の調査とも約半数が200万円未満で、250万円未満が8割を占めた。また、フルタイムの会計年度任用職員でも、6割が250万円未満となった。また、女性で、主たる生計維持者であると回答した人の4割は、年収が200万円未満という状況であった。体調に関しては、身体面で3割、メンタル面で4割を超える人が不調を訴え、9割が将来の不安を感じていると答えている。

2020 年(1~12 月)の就労収入

*2人に1人以上(52.9%)が 200 万円未満、4人に3人以上(76.6%)が250 万円未満

 

声を受け止めることから

 

最後に、はむねっとに寄せられたいくつかの声を紹介したい。こうした声を受け止めるところから、“二十一世紀の我が国社会を決定する最重要課題”への取組みを進めてもらいたいと切に願っている。

 

「市役所で働いていると、行政がこれ程多くの非正規労働者を不安定な雇用、低賃金で搾取し、公共サービスを無理矢理成り立たせているというこの社会の脆弱性に、日々暗い気分になります。職場からは人間らしい扱いをされず、市民からはキツイ言葉を言われつづけ、精神が病むのも無理はないと思います」(女性 30代 一般事務)

「このままでは、いずれ公共サービスが維持できなくなると確信しています。無理を強いていれば、必ずや破たんがきます。それは、私たち一人ひとりの生活に直結し、私たち自身に返ってくることだという自覚を持つべきです。私たち一人ひとりが社会の中で、きちんと人間として扱われる働き方をしたい、しなければならないのです。そのためにも、私たちは力を結集して、大きな声となり、社会を変える一歩を踏みしめていきます」(女性 30代 保育士)

 

※1 グローバル・ジェンダーギャップ・レポート2022。内閣府男女共同参画局ホームページを参照

https://www.gender.go.jp/public/kyodosankaku/2022/202208/202208_07.html

※2 ホームページに、これまでの調査報告書などを掲載(http://nrwwu.com)。同じ年には、地方公務員法・地方自治法の改正にもとづく「会計年度任用職員制度」がはじまった。

 

 

 

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