本稿は、北海学園大学人文学部田中綾ゼミ「『お仕事小説』を読む」における発表資料の一部です。
今回の担当は、3年生(2023年現在)のT・Mさんです。
宮木あや子『CAボーイ』株式会社KADOKAWA、2020年
※帯文及びページ数は、2020年刊の単行本をもとにしています。
【帯文】 ずっとパイロットになりたかった。でも転職先は客室乗務員!
訓練や乗務、出会いとトラブル……。どんな仕事にだって誇りがある!
『校閲ガール』著者の最新お仕事エンタメ
https://www.kadokawa.co.jp/product/322302000989
【キーワード】NAL/保安検査員/男客/航空事故/無実/会社は家族
【お仕事】ホテルマン、CA、保安検査員
【主人公の雇用形態】
正職員/非正規職員/契約社員/派遣社員/アルバイト・フリーター/その他
【あらすじ】
『校閲ガール』の著者が描く、キャビンアテンダントボーイ!
外資系ホテルで敏腕ホテルマンとして働いていた入社5年目の治真。彼には、長年胸に秘めていた夢があった。「パイロットになりたい」――。その夢に近づくべく、治真はNAL(ニッポンエアライン。普通、中途入社を受け入れない)が中途採用の求人がでたので採用試験を受ける。CA配属ではあるが総合職としての募集で、数年勤務した後、希望の部署へ異動できる可能性に賭けたのだ。見事試験に合格した治真は、同期の女性たちと共に訓練期間に入る。
実は治真には秘密がある。治真の父は、かつてNALで航空事故を起こし引責したパイロットだったのだ。けれど、その事件にはおかしなところがあった――。素性を隠し、有能な男客(ダンキャク。「男性客室乗務員」の略。業界用語)としてスタートを切った治真だったが、ある日、関係者に父のことがばれてしまい……。
先輩CAの紫絵、治真に一目ぼれしたグランドスタッフの茅乃、指導教官のオブライエン美由紀など、個性豊かなキャラクターたちが「それぞれの大事なもの」に向かって躍動する笑って泣けて勇気をもらえる、極上の”航空”お仕事エンタメ!
【こんな読者層におススメ!】
・転職を考えている人・仕事のやりがいとは?と考えている全ての人
【作者について】
宮木あや子
1976年、神奈川県生まれ、東京都武蔵野エリア在住。13歳の時に小説を書きたいと感じ、15歳で小説家を志す。2006年、江戸時代を舞台にした小説『花宵道中』で第5回R-18文学賞大賞と読者賞を受賞しデビュー。ドラマ化された『校閲ガール』第9回酒飲み書店員大賞を受賞。
【出版情報】
発売日:2020年08月28日判型:四六判 商品形態:単行本
発売日:2023年08月24日判型:文庫判 商品形態:文庫
【時代】1~5話(2019年7月~カドブンノベル掲載)コロナ前
6話(書き下ろし)コロナ禍
【場所】東京都日比谷/羽田空港
【章立て】1~6
【語り】一人称/二人称/三人称
【初読時間】3時間 283頁
【お仕事小説のパターンチェック】
①希望の職種・部署ではなかった 「YES/NO/どちらでもない」
②当初、意地悪な人間や敵に悩まされる 「YES/NO/どちらでもない」
③「バディもの/チームもの/個人プレイもの/その他( )」
④同僚や上司に助けられる「YES/NO/どちらでもない」
⑤最終的にやりがいや成長につながる 「YES/NO/どちらともいえない」
⑥読者を励まし、明日も働く意欲を与える 「YES/NO/どちらともいえない/読者による」
【登場人物】
(主人公と、その家族)
・高橋治真(たかはし・はるま):大学は地元の国立に落ち、滑り止め出受けた東京の大学に進学。卒業後は外資系ホテルマンに(日比谷ロータス・オリエンタルホテル、フロントスタッフ5年勤務)。だが、幼い頃からの夢を諦めきれずに転職してCAになる。ホントはパイロットになりたかった。親の転勤でハワイに3年住んでいたことがあるため英語が堪能。
・父:元NALのパイロット「高橋機長」(現在離婚して別居)。現在、系列の会社勤務。昔、航空事故を起こし引責したパイロットで、パイロットを辞める原因となった。
・母:治真が20歳になった時、正式に離婚した。
(職場関係)
・オブライエン美由紀(みゆき):ベテランキャビンアテンダント。45歳。12年ぶりに新人育成係に配属され、治真の教育係になる。配偶者がアイルランド系イギリス人。化粧濃すぎて顔怖い(乗客の子ども天佑から言われる)。治真のことを「ミスター」と呼び、皆もミスターと呼ぶようになる。
・唐木紫絵(かつらぎ・しえ):キャビンアテンダント5年以上勤務。化粧薄すぎ(これも子供の意見)。偶然客として乗り合わせた治真に助けられる。同じ会社に入社していた治真に驚き、強引に飲みに誘う。
・小野寺茅乃(おのでら・かやの):グランドスタッフで、羽田空港勤務。治真たちに「丸めたスポンジ・ボブ」とあだ名を付けられる。高橋機長の問題の飛行機に子供の頃乗っていたが高橋機長に悪い印象はない。CAに転職したい、目指すことに。憧れの治真に告白され付き合うことになる。
その他:OJT担当クルー水野さん、NAL社長の井岡、女性としてCAになりたい少年、天佑とその祖父(中国の富豪)、訓練生の添島
ホテル関係:ラム・エドワード
(社外)
〈大学時代の親友〉
合コン人気ナンバー1、金持ち量産する歴史ある私立大学
全員外部進学で2年以上のアメリカにいたことがある
卒業旅行に5人でカルフォルニアに行った
・相澤篤弘(あつひろ):飲み会で知り合った。アパレル会社経営。実家は港区。数年前姿を消した。事件に巻き込まれ、容疑者に。治真の乗る飛行機で護送される。治真のことを命の恩人だと思っている。
・悟志(さとし):飲み会で知り合った。商社勤務・営業部門、実家は中央区。
・啓介(けいすけ):六本木のクラブで知り合った。高校生の頃からプログラミングやアプリ制作していて、留年が決まっているのに外資系IT企業に就職を決める。治真たちより2年遅れて大学卒業。年収1000万超えで最近、池袋のキャバクラに通う。学生時代から20㎏太って再会。
・雅樹(まさき):県人会で出会った。高校は兵庫県1,2を争う私立の進学校出身。卒業後就職せずに1年間海外放浪していた。その後美容系の専門学校に行く。年季の入った温泉旅館のぼっちゃん、元バンドマンの父をもつ。現在、BA(ビューティーアドバイザー)。治真の家に居候している。
(社外その他)
・政治家の山村一郎太
・その息子
【描かれた仕事の内容】
「ホテルマン」フロント業務・客室案内
「キャビンアテンダント」非常時訓練・ドリンクサービス
「グランドスタッフ」X線手荷物検査
【仕事現場のリアルな描写】
(CA)長距離のフライトと短距離のフライト、どっちのほうがつらい?
国内線の羽田⇔大阪はビジネスマンが多いので仕事しているか寝てるのでまだ楽。
紫絵的には北海道、沖縄は「しろうと」が多く、つらい。(p12)
修学旅行の男子高生が最悪。
(ホテルマン)規模が違えど、少しばかり闇がある――極秘に来日して――海外の要人などが主な客である。(p20)
(保安検査員)朝の8時、出勤するとどこのレーンに誰と一緒に立つかが知らされる。空港の保安検査(セキュリティチェック)はひとつのレーンを5年で担当する。勤務時間は24時間。うち深夜に仮眠するための3時間休憩があり、ほかに30分休憩が2回と1時間休憩が2回ある。これは日によって違う。国際線ターミナルの場合はほぼ一日中、二の出から日没とかではなく言葉通り24時間体制で飛行機が発着しているため、深夜もターミナルは稼働している。(p60)
いわゆる「すり抜け」と呼ばれる行為が発覚したとき、――再検査実施(p76)
(CA)「今日は鹿児島⇒羽田便で護送があります」(p148)
(CA)「わたくしども、セキュリティ上の問題で外と通信ができないんです、だから先ほどの機長アナウンスの他に情報がないんです」(p184)
(ホテルマン)(CA)「前も思たんだけど、CA訓練受けただけの人とは別の種類の礼儀正しさだよね。転職前には何やってたの?」(p238)
【ハラスメント】
ホテルは労働環境良好、NALも特に描写なし。
【印象的なセリフ(下線は引用者による)】
- 「すごい、シエさんて言うんですね⁉ 唐木さん、産まれたときからCAさんになる運命だったんですね⁉」(p180)
- 「前も思たんだけど、CA訓練受けただけの人とは別の種類の礼儀正しさだよね。転職前には何やってたの?」(p238)
- 「治真はネクタイを整え背筋をのばし、自分史上最高の笑顔を作る」(p280)
【文芸作品としての読みどころ;直喩・隠喩・擬人化など】
クリスマスプレゼントに子犬をもらった子供のような顔(p50)
だから、どんな子なのか、かわいいのか、と聞かれても「丸めたスポンジ・ボブ」としか答えようがなかった(p96)
【個人的な読後感】
夢を諦めきれない治真、芽乃の挑戦に共感できる。父親の無実を信じる息子、そして父に憧れパイロットを目指す息子、多少のアクシデントと不運に合いながらも腐ることなく成長した治真の人生にとても励まされた。
3つの仕事に触れていて、仕事内容の描写も多く、知らない職種のあれこれを知るきっかけになるし、主要の登場人物が前向きで活力をもらえる一冊だと自信をもってお勧めできる。