本稿は、北海学園大学人文学部田中綾ゼミ「『お仕事小説』を読む」における発表資料の一部です。

今回の担当は、3年生(2023年現在)のJ・Kさんです。

 

紙木織々『それでも、あなたは回すのか』新潮文庫nex、2020年

【帯文】

貴方は私で課金(ガチャ)する?    

8000万人がスマホを使う時代の娯楽「ソシャゲ」。7兆円市場の内幕を描く、新時代のお仕事小説。

https://www.shinchosha.co.jp/images_v2/book/cover/180204/180204_xl.jpg

 

【キーワード】ソシャゲ業界/サ終/チームワーク/プロフェッショナル/就活/無力感

【お仕事】ソーシャルゲームの開発・運営

【主人公の雇用形態】

正職員/非正規職員/契約社員/派遣社員/アルバイト・フリーター/その他

【あらすじ】

特別なスキルも資格も持っていない就活生友利晴朝、あだ名はハト。幼いころから物語が好きで出版業界を目指していたが、就職活動に失敗。なんとか入社できたのはソシャゲを開発する会社。配属先は「サ終(サービス終了)」と呼ばれる赤字チームだった。上司・同期は個性的、自分に与えられたゲームはひたすらゲームを進めること。そしてついに「サ終」が決定?

【こんな読者層におススメ!】

就活生、入社したての新人。軽い文なのでどなたでも。

 

【作者について】紙木織々(しき・おりおり)

1990(平成2)年、新潟県生れ。2019(令和元)年、『弱小ソシャゲ部の僕らが神ゲーを作るまで』でオーバーラップ文庫大賞金賞を受賞し、デビュー。ソーシャルゲームの開発会社にてゲームプランナーとして働く。

新潮社HPよりhttps://www.shinchosha.co.jp/writer/6760/

 

【出版情報】新潮文庫nex、2020年刊

【時代】現代(2020年の市場規模についての言及があるため、2021年だと思われる。)

【場所】特に言及はないが、おそらく東京。職場はオフィス街にある雑居ビルの5,6階。

【章立て】序章・終章含めて七章(各章にサブタイトルあり)

【語り】一人称(僕)/二人称/三人称

【初読時間】1時間30分程度(感覚的にはライトノベルに近い)

 

【お仕事小説のパターンチェック】

  • 希望の職種・部署ではなかった 「YES(編集者志望だった)/NO/どちらでもない」
  • 当初、意地悪な人間や敵に悩まされる 「YES/NO/どちらでもない(高圧的な面接官(上司)・同期がいるが、基本的には皆やさしい。)
  • 「バディもの/チームもの(プロジェクトチームで団結し、サ終を回避する。)/個人プレイもの/その他(  )」
  • 同僚や上司に助けられる「YES(主人公はまだ何もできない、上司に教えられながら仕事を覚えていく。)/NO/どちらでもない」
  • 最終的にやりがいや成長につながる「YES(何もできなかった主人公は、次こそはと意気込む。)/NO/どちらともいえない」
  • 読者を励まし、明日も働く意欲を与える 「YES/NO/どちらともいえない(共感は出来ても、じゃあ自分も、とはならないと思う。)/読者による

 

【登場人物】

友利晴朝(ともり・はるとも):主人公。序章では就活生、以降は新卒の新入社員。プランナーとして採用。文学部出身で編集者を目指していたが、主に面接で落選。自己肯定感がやや低い。「サ終」チームに配属される。何もできないまま、自分だけただゲームを進めていることに焦っている。

 

(職場関係)

第一事業部『タクト』チーム(「サ終」)

青塚凜子(あおつか・りんこ):友利の同期。高卒。デザイナーとして採用。スーツよりも機材を優先したため、入社式に制服で出席。技術もプライドも高く、高圧的。ディレクターの篠森に憧れて入社。主人公と同じマンションに入居。

安村瞳(やすむら・ひとみ):友利の教育係。中途入社の契約社員。プランナー、CS対応・デバック・仕様書や指示書の制作を担当。態度は事務的。前の会社での苦い経験から、「信頼することをやめた」。友利に『タクト』の進行という課題を与えた。友利らの入社約一か月目に転職。

篠森淳之介(しのもり・じゅんのすけ):ディレクター。穏やかな中年男性。ゲーム制作者にとってレジェンド的存在。代表作は『ロード・オブ・エタニティ』。現在はゲーム制作に消極的。

猪原太郎(いのはら・たろう):メインプランナー。主にイベントの企画を担当。熱血で趣味は筋トレとサッカー。

鹿宮卓(かみや・すぐる):プログラマー。猪原の新卒の同期。目つきと態度が荒いが優しい。丸眼鏡をかけている。

天花寺蝶子(てんげいじ・ちょうこ):デザイナー/イラストレーター。猪原・鹿宮の新卒の同期。関西弁(京言葉?)。男性オタクっぽい趣向。フォロワーは20万人以上。

峰(みね)さん:プログラマー。190cmを越す丸々とした腹の大男。単語以上は話さない。

 

その他(上司・同僚)

羽名沙貴(はな・さき):第一事業部のプロデューサー兼『グラピリ』のディレクター。売上は社内一位。快活で強引。友利・青塚を「推し枠」として採用。

有馬(ありま)さん:第二事業部のプロデューサー。高圧的でやや合理主義。眼鏡。篠森・羽名に敵愾心を抱く。三十代くらいに見える。p13眼光が鋭く、賢そうで、プライドの高そうな印象。

春日和生(かすが・かずき):第二事業部に配属。友利らの同期。友利に「サ終」について教える。

早乙女独歩(さおとめ・どっぽ):株式会社アローンズゲームス社長。マフィアのような風貌。淡々と話す。

 

【描かれた仕事の内容】

作業環境の構築(社内メールアドレスの作成など)、CS、デバック作業、イベントの企画会議、サーバーの増設、企画書に沿った作業、プレゼン資料の作成。

【仕事現場のリアルな描写】

P48まずは、会社用のメールアカウントを作った

最初の仕事は自身の作業環境の整備。

P73-p76ソーシャルゲームの開発手法(アジャイル・ウォーターフォール)※についての説明と、スケジュールを報告し合う朝会。

P158「仕事を受けるときは納期を確認する。忘れてはいけません」

納期を確認していなかった主人公に対し、忠告する。

P261-276売上の計算方法といかにそれを上げるかという会議。おそらく現実で用いられているものに近いと思われる

 

【ハラスメント】

パワハラ・エイハラ(エイジハラスメント)

P168-p170 有馬が篠森に対し、他人が大勢いる場所で叱りつける。

 

【印象的なセリフ(下線は引用者による)】

「魔法の使い方を教えてやる」第三章タイトル及びp199

一日に対する営業時間を一営業日(8時間)として捉えるのではなく、三営業日に変換する。「一週間には五営しかないと思ってんだろ」納期に間に合わせるための苦肉の策。ソシャゲならでは?

「若くてよかったなんて思ったこと、一度もない。」p28・p308

自分が生まれる前に発表された作品に対して、そこに追いつくためには途方もない距離がある。

「次は僕だって」p362

チームに貢献できたものの、自分自身は何も成せていないと感じる主人公。

 

【文芸作品としての読みどころ;直喩・隠喩】

p8餌を食べに来た鯉のように口をパクパクとしただけで口を閉じる。

P28鯉口を鳴らすこともなく刀を収めるように、彼女は静かに視線を切った。

P43ふと、山が目の前に現れた。

P44真昼に浮かんだ白くて細い月のような、——

P330「イベントの売り上げは(略)お椀みたいになるんだ」

容姿についてなど、特に直喩が多数。

 

【個人的な読後感】

著者がライトノベルで賞をとっているだけあって、文が軽いため文学的な技法や展開の巧みさはあまりない。キャラクターは魅力的だが、少々ありきたり。元ゲームプランナーということもあって、仕事の描写はリアルだと思う。しかしお仕事小説として上手くできている感じはしない。また、作中の課題がソシャゲ特有のものか分からない。

 

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