『北海道新聞』朝刊2020年9月6日付コラム「書棚から歌を」より転載。
田中綾 書評「手塚マキと歌舞伎町ホスト75人著『ホスト万葉集』」
姫帰りシャンパングラスを片付ける 祭り終わった朝霧の感じ
天翔
新宿歌舞伎町のホストたちによる『ホスト万葉集』が、話題となっている。
飲食店など十数軒を経営する手塚マキは、2017年に歌舞伎町初の書店をオープン。翌年、その書店で行った短歌イベントをきっかけに、毎月「ホスト歌会」を開催してきたという。
短く気の利いた言葉で客の心をとらえる職業柄、短歌は敷居が高いものではなかった。
売れるには顔よりもなお気持ちだね 死ぬ気でやっても死んだりしない
霖太郎
歌人の俵万智、野口あや子、小佐野彈から批評と添削を受け、『ホスト百人一首』をまとめる構想が出たころ、新型コロナウイルスの猛威が―。歌舞伎町は、いわゆる「夜の街」として報道され、本書の後半にも自粛期間の複雑な胸中の歌がある。
掲出歌の「姫」は、上得意客のこと。シャンパンボトルが並ぶ華やかなイメージの一方、働く現場そのものの歌も注目される。
飛んでいくやっと入った後輩も 熱く語るもまた飛んでいく 三継大貴
「飛ぶ」は、突然連絡が取れなくなること。ようやく後輩ができ、接客の心構えなどを教えこんでも、若者はふいに辞めてしまう。どの職場でも似たような悩みはあるだろう。
威張るなよホストが凄い訳じゃない 死ぬ気で稼ぐ女が凄い 青山礼満
巻末には、ホスト60人余りの写真付き。
◇今週の一冊 手塚マキと歌舞伎町ホスト75人著『ホスト万葉集』(短歌研究社・講談社、2020年)
(たなか・あや 北海学園大教授)
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