田中綾とゼミ生たち 「お仕事小説」ブックガイド その10

本稿は、北海学園大学人文学部田中綾ゼミ「『お仕事小説』を読む」における発表資料の一部です。

今回の担当は、3年生(2023年現在)のN・Yさんです。

 

山本甲士『ひなたストア』小学館文庫、2020年(2018年にハルキ文庫より出版された『がんこスーパー』を加筆改稿、改題したもの)

【帯文】 品揃えが少ない、活気がない、客が少ない。それに、大きなスーパーが近所に2店も――。

ここでダメなら、おれもクビ!

転職早々難題が! 廃業必至!店をV字回復させるには?

https://www.hanmoto.com/bd/isbn/9784094067408

 

【キーワード】スーパー 野菜 地方 逆転劇 チームワーク

【お仕事】食品メーカー→スーパー副店長

【主人公の雇用形態】

正職員/非正規職員/契約社員/派遣社員/アルバイト・フリーター/その他

 

【あらすじ】ワタミキ食品の経営不振により自主退職(という名のクビ)になった冴えない40代の青葉一成。だが、大学時代の友人のコネでグリップグループへの開発課長として採用が決まった。然し、直前の社長の交代によりスーパーの副店長として現場研修を積む事に!研修先は今にもつぶれそうな「ひなたストア」。店内は暗く、口を利かない店長、更に近くに大型スーパーが2件も……青葉一成、どうなる!?

 

【こんな読者層におススメ!】誰でも。

 

【作者について】山本甲士(こうし)。1963年4月生まれ。滋賀県出身で佐賀県在住。既婚。デビュー作は『ノーペイン、ノーゲイン』。主な著作に『ひなた弁当』『ひかりの魔女』『どろ』など。

アメーバブログ(https://ameblo.jp/mtbookbigsentence/)。今でも更新中のようです。

【出版情報】2020年2月11日 初版第1刷発行。

2020年3月22日 第3刷発行。 ¥650+税。

【時代】現代 この小説が出た2010年代後半だと思われる。

【場所】家はうきは市(福岡県南東)、赴任先は佐賀市(佐賀県)。

【章立て】12章+あとがき

【語り】三人称神視点

【初読時間】3~4時間。平易な文章であるが、本文は約300頁と長く、多少の根気がいる。

 

【お仕事小説のパターンチェック】

①希望の職種・部署ではなかった 「YES/NO/どちらでもない」

②当初、意地悪な人間や敵に悩まされる 「YES/NO/どちらでもない」

③「バディもの/チームもの/個人プレイもの/その他(        )」

④同僚や上司に助けられる 「YES/NO/どちらでもない」

⑤最終的にやりがいや成長につながる 「YES/NO/どちらともいえない」

⑥読者を励まし、明日も働く意欲を与える 「YES/NO/どちらともいえない/読者による

 

【登場人物】(重要人物は赤太字)

(主人公と、その家族)

青葉一成(あおば・かずなり):今作の主人公。40代の平凡なサラリーマンで、これまでの成功体験は全て「運が良かった」と思っている。営業で培われた物腰の柔らかさと、真面目な性格で、「ひなたストア」に変化を齎していく。

・青葉友枝(あおばともえ):一成の妻。酷く心配性で、スーパーの副店長としての勤務が決まったときには色々妄想が爆発し、二転三転して家族の誰かが病気になったときのことを考える位である。然し、基本的にはおっとりとした性格であり、短気でないところが長所だと一成は思っている。

・青葉理多(あおばりた):一成の娘。中学生の思春期で、一成とは殆ど口を利かない。母親の影響でピアノを習っている。合唱部所属(伴奏者)。

 

(職場関係)

―ワタミキ食品―

浅野浩巳(あさの・ひろみ):営業三課課長補佐。175cm位で100kgを超えている、癖毛で色白の縁無しフレーム眼鏡をかけている男。自宅が同じうきは市に在る為通退勤を経て仲良くなる。最初は一成の退職をお祝いしていたが、その内彼もひなたストアのアルバイトとなる。

・熊谷人事部長:一成に早期退職を通達した。ゴルフが趣味。

・富野民夫(とみのたみお):ワタミキ食品の社長。ワンマンで、今回の経営不振はこの社長によるものだと一成は考えている。

 

―グリップグループ―

・清水雅史(しみずまさふみ):グリップグループ総務課長。一成の大学生からの友達で、部屋も隣室であり、プロレス好きも共通していた。一成をグリップグループに誘った。

・片野猛司(かたのたけし):キョウマルのオーナー。一成が転職する3日前にグリップグループの新社長となる。前社長と仲が悪く、色々難癖を付ける上に一成の受け入れを拒否する。陰では瞬間湯沸かし器と呼ばれている。

 

―ひなたストア―

吉野店長ひなたストア専務兼店長。一成をキョウマルの差し金だと思い、冷たい対応をとる。昔は漫画家を目指していた。

高峰(たかみね)さんひなたストアのパートリーダー。60近くの恰幅の良い女性。所謂「お局」的存在ではあるが、最初から一成は気に入られた為苛めるようなシーンは一切なく、只々良い人。

・小文字(こもんじ)さん:専門学生で、ひなたストアの経理・商品管理を担当。吉野店長の甥。ゲームが好きで、一成をアイテムの一つだと思っている。

・井堀(いぼり)さん、大畠(おおはた)さん、中井浜(なかいはま)さん:ひなたストアのパート。

・キチさん:ひなたストアの社長で、吉野店長の父親。農家の対応を主とする。

 

(社外)

真鶴(まなづる)さん:この小説のキーパーソン。一成の単身赴任先のお隣さんで、年金生活をしている上、老人ホームで介護士の手伝い(アルバイト)をしている。昔は小学校(専門は家庭科)の先生で、教え子が今でも周りに住んでいる。実家は精進料理屋を営んでいた。

大門ユキ:シュートビクス講座を営む30代前半の女性。またローカルタレントとしてテレビのレポーターや、FMラジオのパーソナリティをやっている。

・宇佐さん:真鶴さんの教え子で、がんこ野菜の出品第一人者。真鶴さんを恩人としており、最初は一成たちを煙たがっていたようだが、真鶴さんの頼みと聞いて二つ返事で了解する。

and more……

 

【描かれた仕事の内容】

店内掃除・店内ミーティング・営業回り・テレビ取材

 

【仕事現場のリアルな描写】

P248.L12「開店してしばらくは、高齢のお客様の割合が高い」

 

【ハラスメント】

P82.L9-12「吉野店長から支給されたのは、女性スタッフたちが身につけている、黄色いポロシャツと緑色のエプロンではなく、青葉という名字がマジックペンで書かれた名札つきの、あちこちにシミがついている中古の白いエプロンのみだった。副店長だから特別なのではなく、仲間はずれにしてやろうという意図を感じた。」

P86.L14-16「なお、女性スタッフ用控え室と事務室は立ち入り禁止。女性スタッフ用控え室は当然だが、事務室の方は吉野店長からそう伝えろとの指示があったという。

副店長が事務室に入れないとは……。」

 

【印象的なセリフ(下線は引用者による)】

P254.L11-13「仕事の値打ちは、いくら稼ぐかではない。幸せを日々実感しながら働くことができるかどうか。売り手も楽しく、買い手も喜んでくれて、地域が元気になる。そのついでに儲けさせていただく。ひなたストアは、正しい商売ができている。

 

【文芸作品としての読みどころ;直喩・隠喩・擬人化など】

P42.L8-9「生徒たちの間で密かに魔人ブウ子ってあだ名つけられてるのよ。縦も横も大きくて、いつも仏頂面で、何かすっごい、話しかけにくい感じの人」

 

【個人的な読後感】

・結論としては、フィクション性強め。

・普通の小説としては全然問題ないのだが、お仕事小説としてみるとややリアリティに欠ける部分が有るかもしれない。

・然し、一つ忘れてはいけないのが、「田舎の個人経営店」だということ。周りに大型スーパーが2軒もあり、差別化を図る為この様な経営や商品ラインナップであるという事を留意しておく必要がある。

 

 

 

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