川村雅則「⾮正規公務員が安⼼して働き続けられる職場・仕事の実現に向けて」

川村雅則「⾮正規公務員が安⼼して働き続けられる職場・仕事の実現に向けて」『KOKKO』第55号(2024年5月号)pp.27-43

『KOKKO』編集部のご厚意で、雑誌発売と同時にネット上での公開をお認めいただきました。深く感謝申し上げます。特集タイトルにあるように、この非正規公務員問題を一歩前に進めましょう。できることは、まだまだたくさんあります!

2024年5月24日(金)に開催した学習会での私の報告の記録「議員の力で、ディーセントワーク(働きがいのある人間らしい仕事)の実現を(1)(2)(3)」などもあわせてお読みください。

 

図2に関するお詫びと訂正

図2に誤りがありました。

・bは実線から点線に、cは実線から点線に、変更をお願いします。
・「③」「③’」は削除をお願いします。

お詫び申し上げます。

 

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⾮正規公務員が安⼼して働き続けられる職場・仕事の実現に向けて

北海学園⼤学教授 川村雅則

 

 

本稿は、2024年2月23日に開催した「非正規公務員の雇用安定をめざすシンポジウム」(全労連公務部会・公務労組連絡会主催)における著者の問題提起や配信記事を編集部がまとめた上で、著者に加筆修正いただきました。本稿は、著者が共同で管理・運営する情報発信・交流サイト「北海道労働情報NAVI(以下、NAVI)」にも転載されています。紙幅の都合で本稿ではURLなどを省略していますが、NAVIからはたどることができます。ご活用ください。

 

 

はじめに

本題に入る前に、私たちはなぜこのテーマに取り組むのか、私たちは何を目指すのか、それぞれに考えていただきたいと思います。

私は私立大学で労働問題の調査・研究に従事する教員ですが、私自身の職場もまた非正規雇用問題と無縁ではありません。大学では教員と職員が働いていて、教員にも職員にも正規と非正規の雇用があります。教員でいえば、専任の教員よりも非正規雇用の教員(非常勤講師)のほうが人数ベースでは多いほどです。他の産業と同様に大学もまた、非正規雇用者なくして成り立ちません。

さて、私の職場では職員の非正規雇用には2つの類型があります。メインのほうを取り上げますが、端的に言えば、有期雇用が濫用され、勤続や経験が一切評価されない雇用であった、とまとめられるかと思います。1年間の有期雇用が繰り返され、中には20年も30年も働いている方もいましたが、有期雇用のままです。フルタイムの勤務で基本給は20万円に満たない。交通費と、ボーナスは年2月分が出ていましたが、それ以外には何の手当も昇給もありませんでした。退職金もありません。自分たちの経験や能力が一切評価されない。これはある意味で、労働条件面で日々ハラスメントを受けているようなものでしょう。

一般的に、職場の問題解決には当事者が立ち上がらなければ、と言われます。当事者の意思を尊重するという姿勢は分かりますが、立ち上がる条件をことごとく奪われている現状をしっかりみる必要があります。我々の職場でもそのことを自覚し、当事者を労働組合に迎え入れ、何が問題であるのか、解決の方向性はどうあるべきか、みんなで考えながら、要求をとりまとめ、その実現を図ってきました。有期雇用の濫用をやめさせて無期雇用に転換させる/その性質から不支給の問題性が共有されやすい手当の支給を全て認めさせる/経験が一切評価されない仕組みを改善し昇給制度を設けさせる/そして、ようやく今年度(2023年度)末に、退職金の支給を認めさせることができました。

もっとも、昇給や退職金は正規雇用者とは異なる制度設計にとどまっていますから、十分ではまったくありません。但し、制度がゼロの状況から脱することはできたと評価しています。そして、取り組みの過程で、会議や団体交渉の場で当事者が堂々と発言・主張をするようになる、つまり、労働組合によって当事者がエンパワーメントされていったのでした。

私たちが取り組んでいるのは、差別や権力関係を職場から一掃するたたかいです。それは労使間だけでなく、正規と非正規の間、男性と女性の間にもみられます。そのことを自覚して取り組みを進める必要があります。

 

まずは、私たちの職場・労組の拙い問題意識や取り組みを披瀝しました。以下では、会計年度任用職員制度(以下、新制度)に関する、北海道での調査・研究活動や成果を報告していきます。各地の取り組みに何か役立つものがあれば幸いです[1]

 

1.調べて問題を可視化する——当事者の声を集める、当事者にアプローチする

労働組合や当事者団体によって、個々の自治体をこえて会計年度任用職員の声が集められています。とても意義深い活動です。私自身も、労働組合や議員の方々のご協力をいただきながら道内624人(女性が509人、81.6%)の会計年度任用職員の声を集めました[2]

調査結果からは、次のような結果が明らかになりました。

〇 雇い止め不安を抱える方々が多数であること:雇い止めに対する不安を四段階で尋ねたところ「非常に不安がある」だけで31.3%。「不安がある」39.6%もあわせると7割に達する。なお、無期の雇用への転換希望は「希望する」65.1%、「とくに希望しない」17.0%、「わからない」17.1%。

〇 収入水準は低いこと:勤続年数が1年未満の者を除いて計算したところ、年収(見込み額)が200万円未満は40.7%。250万円未満まで広げると75.0%でした。非正規問題に取り組む労働組合経由で回収された回答が多いことが反映されて、一般の回答よりも年収は少し高めかもしれません。

〇 被扶養者であることが強調されるも、生活自立型では100%であることに象徴されるとおり、家計収入の少なからぬ割合を、本人の就労収入が占めていること(こう書いていますが、そもそも賃金は、家庭内の位置で決められるべきものでしょうか?):世帯収入における自分の就労収入の割合が「10割(すべて)」は30.5%、「5,6割」以上の回答が43.9%を占めます。

〇 ハラスメントの経験が一定割合でみられること:「自分自身が受けたことがある」10.7%、「見たことがある」13.8%、「相談を受けたことがある」6.6%、「以上のことはない」73.9%です(無回答が2.1%)。

〇 新制度による状況の変化を改善ととらえている者が少ないこと:勤続年数が「3年~5年未満」以上の回答者に限定して、「変わらない」「悪くなった」の割合を取り上げると、例えば、「①雇用の安定」は60.7%、17.0%。「②賃金(給与)・収入」は44.1%、27.0%。「③仕事内容」は79.1%、14.8%などです。

 

雇い止めに対する不安の声も紹介しておきます。

■ 制度が変わっても書面を渡されるだけで常に不安がつきまとう。こんな所に10年以上も勤務した事を後悔しています。職員は護られても非正規は今後更新もないと突然言い渡されました。自立も困難な状況で他にバイトを掛け持ちし精神的にも一杯一杯。市役所はこんな人の使い方しか出来ないのだと残念な気持ちです。

■ 経験による専門性〔が〕必要な職であるにも関わらず、会計年度任用職員制度になってから雇用期間が3年上限となり、公募により継続できる可能性もあるが、確定ではないため、本人も周囲も不安定さを感じている。

■ 給与が安いため今年中に辞めて来年から転職することになりました。会計年度任用職員はバイト感覚で、短期間で穴埋め程度に働く分にはいいですが、長期的に働くものではありません。自分の先輩に当たる人は、もう一度公募に応募して履歴書を提出、面接を行い再任用となるとのことです。それをこの先何十年と続けた時に、一体毎回採用されるという保証はどこにあるんでしょうか?

■ 毎年来年度の雇用の心配をしなければいけないのが辛いです。シングルマザーで大変なので、せめてその不安だけでもなくしてほしいです。

■ 来年も雇ってもらえるかが心配です。何年も一生懸命働いていても、非正規職員というだけで、自分の意志とは関係なく退職させられるかもしれない不安はいつもあります。

■ 雇用期間が切れる前に教えてもらえないのが困る。一度更新があったが、1ヶ月前に告知とあるが、到底そうはならず、更新日に初めて知らされた。先の見通しがつかなくて困っている。

■ 病気になった時が不安。病休を使って治らなければ、やめるしかなくなる。正職員なら病休も長期間とれるのに。非正規の割合の方が多いので、使い捨ての雇用だと感じている。

 

 

図1 雇い止め不安を生み出す仕組み──民間非正規と公務非正規の制度設計の違い

注:公務におけるa の墨塗箇所は、条件付採用期間(試用期間)。b の点線は勤務実績に基づく能力実証が認められた箇所。c の実線は、公募制による能力実証が必要とされる箇所。
出所:筆者作成。

 

こうした雇い止め不安がどこから生まれるのか。周知のとおり、有期雇用の濫用が、解消されるどころか、逆に制度化されたことによります。無期転換制度が設けられた民間と比べるとそのひどさが分かります(図1)。1年の有期雇用が強調され、「更新」ではなく、新たな職に就くと解釈され、毎年、条件付採用期間が設けられています(aの箇所)。実際の仕事は恒常的であって1年で無くなることなどないのに。雇い止め不安を惹起するだけでなく、働く人たちの尊厳を傷つける制度だと言えるでしょう。

そう批判した上で、一方で、強調したいことがあります。3年を中心に一定期間ごとに行われる公募(cの実線)の仕組みは、現行制度の下でも自治体の判断でなくすことができることです。

 

図2 再度任用における公募は自治体の判断でなくすことが可能

注:訂正版の図を掲載しています。
出所:筆者作成。

 

 

図2のとおり、cをbに変えるのです。一定期間ごとに公募にさらされる理不尽な制度を廃止する──働く人の安心と尊厳の回復にとって、これだけでも大きな意味を持つと私は思います。

そもそも、このような理不尽な会計年度任用職員制度は根本的に見直せ、という運動は、そういった日々の/職場からの具体的な取り組みによって力強いものになっていくのではないでしょうか。ぜひ、公募をなくすことに取り組んでいただきたい。

 

自治体ごとの任用制度・状況を明らかにする/賞賛も批判も名指しで

関連して申し上げたいのは、個々の自治体ごとの任用制度や任用の状況を明らかにする作業が必要である、ということです[3]。例えばこの間、私は自分が暮らすマチである札幌市の特殊な制度(「同一部3年ルール」)を紹介してきました(資料)。札幌市では、原則として、3年公募に加えて、同じ部で働くことができるのも3年までというルールになっています。問題の是正は個々の自治体に迫っていくことが必要であることを考えても、実態を広く調べるのとあわせて、個々の自治体ごとの調査結果の公表や問題提起も必要ではないでしょうか。

 

 

資料 札幌市における同一部3年ルール

(再度の任用)

第6条 部長は、会計年度任用職員の任用期間の満了後、引き続き当該会計年度任用職員を任用する必要があり、かつ、当該会計年度任用職員の勤務成績が良好な場合は、再度の任用をすることができる。

2 前項に基づく同一部での再度の任用は、当初任用日から三年に達する日の属する年度の末日を限度とする。ただし、人材の確保が困難であるとして設置要綱に特別の定めがある職についてはこの限りではない。

3 前項の規定により任用の限度に達した者は、その後一年間同一部で任用できないものとする。

出所:札幌市「札幌市会計年度任用職員の任用に関する要綱」より(下線は筆者)。

 

なお、第一に、自治体同士の比較の際には総務省による調査が役立ちます。最新の「令和5〔2023〕年度会計年度任用職員制度の施行状況等に関する調査」でも、公募制をやめたと思われる自治体(一部の職種でやめた自治体を含む)が増えていることが明らかになりました[4]

 

表1 北海道及び35市の職種(職種×部門)における、再度任用時の公募の実施状況

単位:件

合計 合計 合計
北海道 9 0 9 0 留萌市 8 8 0 0 千歳市 9 0 9 0
札幌市 14 0 14 0 苫小牧市 11 8 0 3 滝川市 11 0 0 11
函館市 12 0 12 0 稚内市 10 0 10 0 砂川市 11 0 11 0
小樽市 14 0 0 14 美唄市 11 0 11 0 歌志内市 10 10 0 0
旭川市 13 0 13 0 芦別市 13 0 13 0 深川市 8 0 8 0
室蘭市 11 0 11 0 江別市 13 0 4 9 富良野市 10 0 10 0
釧路市 14 0 14 0 赤平市 11 0 0 11 登別市 11 0 11 0
帯広市 11 0 11 0 紋別市 9 0 9 0 恵庭市 10 0 10 0
北見市 11 0 11 0 士別市 13 3 0 10 伊達市 10 0 0 10
夕張市 8 8 0 0 名寄市 12 0 0 12 北広島市 9 0 9 0
岩見沢市 13 0 13 0 三笠市 12 11 0 1 石狩市 9 0 9 0
網走市 11 0 11 0 根室市 14 0 0 14 北斗市 7 0 7 0

注:①毎回公募を行い再度任用する、②公募を行わない回数等の基準を設けている、③毎回公募を行わず再度任用する。
出所:2023総務省調査より筆者作成。

 

表1は北海道と35市の、再度任用時の公募の実施状況の一覧表です。各自治体から回答された職種(職種×部門)の公募状況が示されています。例えば小樽市は、回答した14件の職種のうち全てで③を選択している、つまり公募が行われていない、ということを意味しています。

関連して第二に、問題事例ばかりではなく、上記のような好事例、労使のすぐれた取り組みを明らかにする作業も必要ではないでしょうか。例えば私たちは、上記の表1で全て③が選択されている根室市の労働組合(自治労連)の取り組みをまとめました[5]。こうした好事例情報を配信し、互いに学び合い、全体の底上げを目指す運動が求められているのではないでしょうか。

 

 

2.会計年度任用職員の離職状況を調べる[6]

雇用に焦点をあてて話を続けます。

職員のうち公募にどの位の人数がかけられ、どの位の人数が不合格とされているのか明らかにする作業が必要である──そう考えていましたが、そもそも、3年公募を待たずに任期満了での離職が数多く発生している実態が調査で明らかになりました。とりわけ年度末に離職者がどの位発生しているのか、また離職の理由は何であるのかを明らかにする取り組みが必要です。

離職の規模については大量離職通知書で明らかにできます[7]。労働局(通知書の提出先はハローワーク)に照会してみましょう。

ちなみに、179市町村(35市、144町村)ある北海道ですが、通知書の提出は5市のみでした。札幌市では561人、旭川市では173人の離職者が発生していました。また、北広島市では職の廃止に伴う離職が70人超発生していました。

その他の、通知書を提出していない自治体は、1か月に30人以上の離職者(正職員を含む)を発生させていないから提出しなかったのだ(必要がなかったのだ)、と一般的には考えられるでしょう。とりわけ町村ではそうだと思います。しかしながら、幾つかの自治体に電話で照会してみたところ、本来は作成しなければならぬのに作成されていないケースもありました。

例えば、北海道への照会では、「道知事部局では、本庁のほか総合振興局・振興局、各出先機関などに分かれていること、加えて、そもそも、本庁であれば各部、総合振興局・振興局であれば総務課・建設管理部・保健環境部などを1つの事業所ととらえていることから、1つの事業所で30人以上の離職者は発生していない。」と回答されました。大量離職通知書制度の趣旨に照らしても、私には腑に落ちない回答でした。

この原稿が皆さんの目にふれるのは2024年度初めでしょうか。さっそく、自分の住むマチをはじめ県内の情報を労働局への開示請求で入手してみてください。そして、もしも大量離職通知書が作成・提出されていないようであれば、しっかり要請をして、作成・提出させることを定着させましょう[8]

なお、この取り組みは離職を食い止めるものではありません。そう言うと、この取り組みを軽んずる方もおられます。しかしながら、不条理で無駄な離職の具体的な発生状況を明らかにすることが、実態にあわぬこのような制度をやめよ、という運動をより強じんなものにするのではないでしょうか。全国にネットワークをもつ労働組合であれば、各地の離職の発生状況を積み上げて可視化することができます。そうした取り組みの先に、雇用安定の実現というゴールが見えてくるのではないでしょうか。

 

ブルシット・ジョブとしての公募関連業務の可視化を

それにしても、仕事の有用性という観点から考えたとき、公募という仕事には、いったいどのような有用性があるのでしょうか。

平等取扱いの原則や成績主義が持ち出され、就労の機会が広く市民に提供される必要があることが公募の根拠として自治体側からは強調されます。

しかしこの原則は、一定期間ごとの公募の必要性も指すのでしょうか。属性による差別や、例えば(旧制度下でときどき聞かれた)「議員に頼まれて○○さんを任用した」などの縁故採用が排されることが重要なのであって、公募で一度任用された職員が一定期間ごとに繰り返し公募にかけられなければならぬことをも、この平等取扱いの原則は指しているのでしょうか。

ましてや、常勤職員に比べれば簡易とはいえ、会計年度任用職員にも人事評価制度は実施されています。公募制で屋上屋を架す必要はあるのでしょうか。

私自身は、働いている職員の雇用や生活の保障あるいは尊厳の確保などの観点から公募は問題であると認識していますが、仮にそれはさておくとしても、例えば、経済性や効率性の観点からはどうでしょうか。各自治体でどのような手法が採用されているのか私はその実態を十分に把握できているわけではありませんが、関係者の話を総合しながら、公募と選考に分けて考えてみましょう。

 

  • 一定期間ごとに公募を行うとすれば、ハローワークや自治体の広報誌などに求人を出す必要があるでしょう。平等取扱いの原則に立てば、関係者や周辺への周知だけでは十分ではありません。ひろく公告しなければならないでしょう。
  • 公募を採用した自治体では、どのような選考がなされているのでしょうか。面接試験やレポート試験が課されているのでしょうか(職種によっては実技試験などが課されているケースもあるのでしょうか)。面接をするにしても、いいかげんな面接は許されません。1人あたり少なくとも15分、20分は時間をかけているのでしょうか。
  • とりわけ資格職など専門性の高い職種についてはどのような選考が行われているのでしょうか。ジェネラリスト型の職員(正規公務員)に、ジョブ型の会計年度任用職員の能力の適切な評価はできているのでしょうか。
  • 面接試験やレポート試験を課した後には、あらかじめ設けていた評価基準に基づき、適切な評価・選考を行わなければなりません。結果については、当然記録なども作成されているのでしょう。そして、決裁へと進んでいくのでしょう。

 

以上のような公募や選考及び関連業務に従事している間、関係する職員の仕事の手は当然のことながら止まることになるでしょう。

いや、こうした業務は、能力のある職員を選び出し良質のサービスを市民に提供していく上で不可欠な、重要な仕事なのだという反論があるかもしれません。しかし、それは本当でしょうか。端的に申し上げて、無駄なことをしていませんかと問いたい。

人類学者デヴィッド・グレーバーによって提起されたブルシット・ジョブ(クソどうでもいい仕事)という言葉が想起されます。。一定期間ごとに機械的に行われる公募関連業務。当事者の雇用不安を惹起して、尊厳や就労意欲を傷つけ、メンタル不全に追い詰めることまで考えると、ブルシット度(無意味で、不必要で、しかも有害)は相当に高いのではないでしょうか。毎年、人事評価まで実施しているのに、このようなことが行われているそのこととその具体的な業務内容を徹底的に可視化することも必要ではないでしょうか[9]

 

ジェンダーの視点を意識して

ここで一つ強調しておきたいのがジェンダーの視点です。

もしも会計年度任用職員の7,8割が「男性」で、その多くが年収200万円未満であるという世界であったならば、とんでもないことだ!ともっと多くの方々が大きな声で批判をし、政治的な課題としても一気に浮上するのではないでしょうか。しかし実際には担い手は「女性」であることをもって、家族(夫)に扶養されて働いているのだからそう大きな問題でもないだろう、と不問に付されてしまっていないでしょうか。

ILOが提唱するディーセントワーク(働きがいのある人間らしい仕事)の実現に向けた4つの戦略目標(仕事の創出、社会的保護の拡充、社会対話の推進、仕事における権利の保障)にはジェンダー平等という目標が横断的に関わっています。日本の非正規雇用問題に取り組む際に外せない視点です。言い換えれば、私たちの一連の取り組みはジェンダー秩序の克服を目指すものでもあると自覚して、運動を進める必要があると思います。

あわせて、女性向きと社会でみなされているケアという営みが非常に軽視されているという問題についても指摘だけしておきたいと思います。

 

3.最低生計費を満たすには程遠い賃金水準——最低賃金運動との連携も意識して

冒頭にも述べましたが、会計年度任用職員の賃金水準が低いことは、総務省が行った調査の、職種別分析でも明らかです[10]。表2は、少し古いデータですが、総務省調査から、北海道の自治体(一部事務組合を含む)の状況を整理したものです。

 

表2 職種別にみた、会計年度任用職員の賃金1時間当たり換算額(地域手当込み)

事務補助職員 看護師 保健師 保育所保育士 給食調理員 清掃作業員 教員・講師(義務教育) 教員・講師(義務教育以外) 図書館職員 消費生活相談員 放課後児童支援員
215 125 100 132 141 101 149 41 124 29 102
1000円未満(%) 66.0 1.6 0.0 20.5 51.8 67.3 8.7 4.9 56.5 13.8 32.4
平均値  (円) 997 1,537 1,471 1,112 1,029 1,007 1,575 1,436 1,045 1,338 1,092

注:一部事務組合を含む。
出所:2020総務省調査より筆者作成。

 

賃金水準はいくらか、昇給はあるのか、あるなら上限はいくらか、などなどのことを(職種別に)明らかにしましょう。最低生計費試算に基づく最低賃金の大幅な引き上げが提起されています。こうした運動との共同も視野に入れて、民間に発注されている仕事を含め、自治体の仕事で働く人たちから、時給1500円未満をなくす取り組みが必要ではないでしょうか。

なお、他にも明らかにされるべきこととして、第一に、期末手当は適正に支給されたでしょうか。支給にあわせて基本給が減額された自治体もあります。旭川市では、年収水準こそ下がってはいないとのことですが、基本給が引き下げられたケースが半数を占めたようです。第二に、フルタイム型の会計年度任用職員に退職金は支給されているでしょうか。第三に、賃上げ改定の遡及適用は行われたでしょうか。仕組みは整備されているでしょうか──以上のことをあげておきたいと思います。

 

4.決定過程・アクターに影響を与える

新制度もどこかで誰かによって作られたものです。総務省によるそもそもの制度設計の問題が非常に大きいことを認識した上で、労働組合は、それぞれの自治体でのアクターである首長・行政や議員・議会に影響を与え、かつ、こうした問題に関心を寄せる首長[11]や議員との共闘を意識した取り組みが必要ではないでしょうか。

 

首長・議員候補者に公開質問を実施

そもそも首長や議員は新制度をどう評価しているのでしょうか。それを探るため私たちは、2023年の統一地方選挙で、首長や議員の立候補予定者に公開質問を実施しました。

まず、総務省の動向にも言及しながら首長候補者に質問したところ[12]、現市長からは「同一の職場に長期間在籍することによるマンネリ化や士気の低下を防ぐ必要があることなどから、公募によらない再度の任用については一定の限度が必要」「地方公務員法第13条の平等取扱いの原則を考慮し、任用を希望する方々に均等な機会を与える必要があると考えるため、公募は引き続き行」っていくと回答されています。

次に、議員候補者への公開質問[13]では、回答をいただけなかった方が少なくなかったことに加えて、いただいた回答には、新制度の問題が十分に理解されていないのでは、と疑問に思われたものもありました。選択式の質問への回答のみを取り上げますが、「①公募制は今後も続けるべきである。」10名、「②公募制は今後、続けるべきではない。」16名、「③その他(自由回答)」23名でした。

全国的にも、首長や幹部職員、自治体議員は高齢の男性に偏っています。「日本型福祉社会論」に象徴されるような性別役割分業の発想は根強いかもしれません。

一方で、そういう状況に対してノンの声をあげる議員や市民も増えているのではないでしょうか。首長や議員がどう考えているか「可視化」しながら、「推し」の議員を「発掘」し連携を強化したり[14]、地方政府とりわけ議会のあり方を問う動きとの連携などを追求していきましょう。

 

知られているわけではないことを前提に

その際、全ての議員がこの問題に関心や知識があるわけではないことを意識した取り組みが必要です。とくに公務員制度は複雑怪奇です。「更新」ではなく「再度の任用」と訂正を求めてくる当の行政自身が、求人情報(市の広報)では「更新あり」と表現しています。市民には分かりづらいから、というのが理由です。

このような状況なのですから、関心をもち理解を議員にしてもらうためにも、より分かりやすいかたちでの情報提供──例えば、本誌読者である労働組合の皆さんが、もしも議員になって議会で質問をするとしたらどう質問するかを考えて、参考資料にしていただくことも一案ではないでしょうか。なりきりシリーズ「自治体議員になったつもりで非正規公務員問題を市長に質問してみました(思考実験)」[15]をご参照ください。

そのような姿勢は、報道機関や市民への情報提供の際にも同様に必要です。皆さんの運動で、民間の非正規問題・制度との違いや、ことの問題性が徐々に知られるようになってきました。

いずれにせよ、一連の取り組みは、地方政府(行政、議会)を変える取り組みでもあります。次に述べる公契約運動を含め、やせ細らされてきた公共の再生を目指す運動でもあります。時間もかかり大変ではありますが、それだけ意義のある取り組みです。多くの関係者・市民とともに進めていきましょう。

 

5.公共サービスの担い手全体を視野に入れた取り組みを

会計年度任用職員・非正規公務員問題を中心に据えながらも、公共サービス従事者全体を視野に入れる必要があるのではないでしょうか。建設工事や業務委託など自治体発注の仕事で働く民間労働者が直面する諸問題(過度な競争入札制度等による雇用不安や低賃金・労働条件問題)です。この分野における賃金・労働条件に「適正化」の網をかけなければ、民間化の道が自治体に採用されることを危惧します。表3は、古い調査データですが、指定管理が導入された児童会館で働く労働者の賃金算出根拠に自治体非正規職員の賃金が使われていることを示しています。両者の処遇は一蓮托生の関係にあります。

 

表3 指定管理が導入された児童会館の職種・賃金(賃金額と賃金算出根拠)

注:予定価格の積算で使われている賃金・賃金算出根拠。
出所:拙稿(2021)「公務非正規運動の前進のための労働者調査活動」『住民と自治』通巻第704号(2021年12月号)より転載。但し、表のタイトルに加筆を行い、注釈も加えた。

 

この問題への対応で期待を集めているのが公契約条例ですが、一般社団法人 地方自治研究機構の調べによれば(2024年1月1日時点)、条例の制定数は86(内訳は、賃金保障型が30、理念型が56)とのことです。理念型条例一本しかない私たち北海道勢ですが、ぜひご一緒に取り組みを進めませんか[16]

なおその際には、業務委託や指定管理、建設工事、物品調達だけでなく、補助金事業で働く労働者を含める必要性[17]、つまり公共工事・サービスに従事する人たち全てをカバーする必要性を感じています。

 

民間の非正規雇用問題・制度を視野に入れて

公務員制度ないし会計年度任用職員制度の特殊な問題を強調することはもちろん重要です。しかしながら加えて、民間の非正規雇用者の直面する問題や制度との重なりを意識して、民間労組との共同・運動を大きくしていくこともまた必要ではないでしょうか。例えば私たちは、無期雇用転換制度/無期転換逃れ問題をテーマに取り組んできました[18]。年明けの2024年1月には、4月からの労働条件明示ルールの変更問題を視野に入れて、日本労働弁護団北海道ブロック主催で集会(「無くせ非正規!目指せ無期雇用!!非正規雇用問題を考える会」)を開催しました[19]

無期転換・雇用安定だけでなく、賃金の底上げ・最賃1500円運動や、格差是正・均等待遇を求める運動でも官民労組や弁護士、研究者らによるこうした共闘が必要ではないかと考えます。

 

6.労働組合が強化される/変化する運動を

非正規問題に労働組合はどう対峙するのかが問われてかなりの年月が経ちます。では労働組合による取り組みの実際はどうでしょうか。もともと先進的な実践をされていた組合もありますし、すぐれた成果をあげられている組合の存在も聞くところです。ただ、問題の深刻さを踏まえると、全体として、取り組みはなお不十分ではないでしょうか。非正規職員に今なお門戸を閉ざしている自治体単組があることも、調査で明らかになっています。労働組合自身が変わり、強くなる意識的な取り組みを進めていきましょう。

その際には、プロジェクトチームなどを組織して作業に取り組むことをおすすめします。札幌の公契約運動は、ナショナルセンターの垣根をこえた労働組合・弁護士・研究者らで構成された団体(「札幌市公契約条例の制定を求める会」)で進めています。

あわせて、短期、中長期の目標を設定して計画的に取り組んでいくことが本来は必要なのだろうなと自戒しています。最近よく聞く、先進的な労働組合の皆さんが取り入れているコミュニティ・オーガナイジングの考えに学ぶことも必要ではないでしょうか[20]

いずれにせよ、このような理不尽を前にして、運動がゼロであることも成果がゼロであることもありえないことです。

一歩前に踏み出しましょう!

 

 

 

【プロフィール】かわむら まさのり 1974年北海道生まれ。北海道大大学院博士課程修了。専門は労働経済。北海学園大講師、准教授を経て、2015年より現職。共著に『キャリアに活かす雇用関係論』(世界思想社、2024年)、『生まれ、育つ基盤 子どもの貧困と家族・社会』(明石書店、2019年)など多数。

 

 

[1] 活動の中でも調べることを重視しています。調べて、問題を可視化して、自分もまわりも変えながら、つながって、互いにエンパワーメントしていきましょう。拙稿(2021)「公務非正規運動の前進のための労働者調査活動」『住民と自治』通巻第704号(2021年12月号)

[2] 拙稿(2023)「北海道及び道内市町村で働く624人の会計年度任用職員の声(2022年度 北海道・非正規公務員調査 中間報告)」『NAVI』2023年1月5日配信

[3] 政令市である札幌市と中核市である旭川市の制度を調べてきました。拙稿(2022)「札幌市の会計年度任用職員制度の現状を調べてまとめました」『NPO法人官製ワーキングプア研究会レポート』第37号(2022年2月号)拙稿(2023)「旭川市非正規公務員(会計年度任用職員)調査報告」『北海学園大学経済論集』第71巻第3号(2023年12月号)拙稿(2023)「なくそう!官製ワーキングプア──あなたのマチの非正規公務員問題を調べる」『雇用構築学研究所ニューズレター』第67号(2023年5月号)

[4] 拙稿(2024)「(暫定版)総務省・会計年度任用職員制度等の2023調査データの集計」『NAVI』2024年1月15日配信

[5] 坂本勇治(2022)「根室市の会計年度任用職員制度と労働組合の取り組み」『NAVI』2022年11月26日配信

[6] 拙稿(2023)「「大量離職通知書」を使って会計年度任用職員の離職状況を調べよう(中間報告)」『NAVI』2023年10月8日配信を参照。

[7] 大量離職通知書に関する取り組みは、安田真幸さん(連帯労組・杉並)のNAVI掲載記事を参照。

[8] 拙稿(2024)「北海道及び道内35市に対して大量離職通知書の提出を要請しました」『NAVI』2024年1月24日配信

[9] 拙稿(2024)「ディーセントワーク概念からみた会計年度任用職員制度」『ガバナンス』第274号(2024年2月号)も参照。

[10] 個々の自治体への情報照会の取り組みももちろん重要ですが、総務省による調査の結果を使い倒しましょう。拙稿(2021)「道内の会計年度任用職員等の臨時・非常勤職員の任用実態──総務省2020年調査の集計結果に基づき」『北海道自治研究』第626号(2021年3月号)

[11]例えば、杉並区区長の岸本聡子氏がこの問題で注目を集めています。氏の著書や会見動画などを参照。

[12] 反貧困ネット北海道(2023)「公開質問/札幌市長選挙立候補予定者からのご回答」『NAVI』2023年3月24日配信

[13] 無期転換逃れ阻止プロジェクト(2023)「公開質問/札幌市議会議員選挙立候補予定者からのご回答」『NAVI』2023年3月28日配信

[14] 拙稿(2023)「自治体議員との交流・連携強化を進めていきましょう」『NPO法人官製ワーキングプア研究会レポート』第42号(2023年6月号)のほか、私の「推し」である石狩市議会議員の神代知花子議員のレポートを参照。

[15] 拙稿(2023)「自治体議員になったつもりで非正規公務員問題を市長に質問してみました(思考実験)」『NAVI』2023年11月26日配信拙稿(2024)「自治体議員になったつもりで非正規公務員問題を市長に質問してみました(思考実験)その2」『NAVI』2024年2月2日配信

[16] 拙稿(2023)「公契約条例制定の全国的な推進に向けて」『社会主義』第736号(2023年10月号)

[17] 民間学童保育のコロナ禍の体験などを参照。林亜紀子(2021)「民間共同学童保育と自治体の役割(2021年度第3回札幌市公契約条例の制定を求める会連続学習会の記録)」『NAVI』2021年12月23日配信

[18] 拙稿(2023)「3つの雇い止め・無期転換逃れ問題の整理と、雇用安定社会の実現に向けて」『NAVI』2023年3月21日配信

[19] 記録は、映像で配信されています。集会名などで検索を

[20] NAVIには大阪府関係職員労働組合執行委員長の小松康則さんの記事も掲載されています。ご参照を。

 

 

 

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