佐賀達也「ジェンダー平等の視点から会計年度任用職員の処遇改善と組織化にとりくむ意義と責任」

佐賀達也「ジェンダー平等の視点から会計年度任用職員の処遇改善と組織化にとりくむ意義と責任」『月刊全労連』第322号(2023年12月号)pp.33-37

 

『月刊全労連』第322号(特集:ジェンダー平等の実現に向けて~秋闘をどうたたかうか)に掲載された論文です。どうぞご覧ください。

 

 

ジェンダー平等の視点から会計年度任用職員の処遇改善と組織化にとりくむ意義と責任

愛労連事務局次長  佐賀 達也

 

1 はじめに

 

総務省が実施した2022年の就業構造基本調査によれば、はたらく女性は過去最高の3035万人を数え、就業率も過半数を超えた。しかし、その半数以上(53.6%)は非正規雇用であり、雇用者に占める男性の非正規率(22.8%)との間には、30パーセント以上もの歴然としたジェンダー格差が立ちはだかったままだ(図1)。

 

図1 非正規の職員・従業員の割合の推移(総務省)

 

非正規雇用労働者が「雇用の調整弁」とされることは、コロナ禍におけるサービス業での「シフト調整」や「雇い止め」の横行によって、多くの国民がその事実を目の当たりにした。要するに、はたらく女性は増えたが、安定した雇用や労働条件など、その「雇用の質」が見極められなければならない。

そして、雇用する側にも、社会の側にも、「非正規雇用なんだから家計補助的収入で充分なんでしょ」的な、女性労働に対する「性別役割分担の無意識の思い込み=アンコンシャス・バイアス」がはびこってはいないか、検証されなければならない。

これが、政府の成長戦略である「女性版の骨太方針2023」が掲げる「女性活躍と経済成長の好循環に向けて」、あるいは「SDGs×ジェンダー平等」の現実であり、現在地である。

このことを肝に銘じたうえで、地方自治体における非正規公務員制度=会計年度任用職員制度が、女性労働に依存する制度であること、行政が地域に「ワーキングプア」の労働者と家族をうみだしていること、最低賃金法や労働契約法、パートタイム・有期雇用労働法も適用除外にされ無防備な状態にさらされていることなどを詳らかにしていく。

 

2 地方自治体に非正規公務員が増え続けてきた背景

 

新自由主義政策により、地方自治体には総務省からの総人件費削減・定員管理計画が押し付けられ、正規職員は1980年代から50万人余り削減された。その代わりに置き換えがすすんだのが地方自治体の非正規職員である。2005年以降の増加はすさまじく、会計年度任用職員制度の運用が始まった2020年には69万人(内、会計年度任用職員は62万人)に達している(図2)。とりわけ、住民と直に接する機会の多い市区町村ほど、非正規率が高い傾向が見られ、民間企業の非正規率36%(20年、総務省労働力調査)をも上回る自治体も数多くみられる。

 

図2 正規職員減少と非正規地方公務員の推移(自治労連作成)

 

また、会計年度任用職員の実態としては、①約6割が年収200万円未満(自治労連が実施した「会計年度任用職員の“誇りと怒り”の2022全国アンケート」(以下、「ほこイカ2022アンケート」とする)結果より)、②女性が4分の3以上を占めている、③フルタイムは1割にとどまり、9割をパートタイムが占めている事などが挙げられる。(②③総務省「地方公務員の会計年度任用職員等の臨時・非常勤職員に関する調査結果」より)

 

3 女性労働に依存する会計年度任用職員制度

 

地方公務員(正規職員)における男女比率は概ね6対4となっている。地方公務員(正規職員)の一般行政職では女性比率が5割に近づく傾向がみられるものの、全職種では男性職員の比率が高い傾向に変わりない。しかし、会計年度任用職員(非正規職員)に限ってみれば、4分の3以上が女性といういびつなジェンダー構成となっている(図3)。

 

図3 会計年度任用職員の男女比率

職種別に会計年度任用職員(非正規職員)の割合をみると、非正規率が顕著に高いのは、図書館職員の73.3%、給食調理員の69.8%、保育士の56.9%など、経験を要する専門職種で高くなっている。これは、自治体における非正規職員化が、女性比率が高かった教育やケア労働とよばれるカテゴリーから急激に進んだことを表している。くわえて、図2で示したように、自治体が定員管理(正規職員削減)の調整弁役を賃金の低い非正規職員に背負わせたことが、結果として高い女性比率の一因を作り上げている。このことは、男女の賃金格差やジェンダー格差の是正を進めるべき立場の自治体に自己矛盾を招いている。

 

4 6割が年収200万円以下、地域に「官製ワーキングプア」を生みだす制度

 

会計年度任用職員制度の実態を全国的に明らかにしたのは、自治労連が2022年に実施した「ほこイカ2022アンケート」結果である。

2万2401回答(女性割合85.7%)を集約し、「勤続年数5年以上の会計年度任用職員が全体の約6割を占めるも、年収200万円未満が約6割に達していること」を明らかにした(図4、図5)。

 

図4 勤続年数は?

 

図5 2021年1月~12月の収入(年収)は?(勤続1年以上の方への質問)

 

この二つのデータは、この制度が専門性や経験を給与に反映しないこと、それが「性別」による賃金格差を助長し、「同一労働・同一賃金」を妨げているという、制度の欠陥を見事に浮かび上がらせた。もう一つ見過ごせないのは、主たる生計維持者が回答者全体の4分の1を占め、その内年収200万円未満と答えた方が約半数に達していたことである(図6)。

 

図6 主たる生計維持者は?            主たる生計維持者を「自分」と答えた方の2021年1月~12月の収入(年収)は?

 

ほとんどの会計年度任用職員は、地域に暮らす生活者であり住民の一人でもある。制度の欠陥が、地域に「官製ワーキングプア」の女性労働者とその家族を生みだす役割を果たしてしまっている。住民のいのちとくらしを守るべき本来の自治体の役割から逸脱した制度の罪深さが浮き彫りになっている。

 

5 「3年目の壁」…人をモノのように切り捨てる制度

 

さらに深刻なのは、生計の維持の土台となる雇用の不安定さが一層高まったことである。その背景には、総務省が「会計年度ごとの任用」をマニュアルの中でことさら強調したことが挙げられるが、その地域で暮らす会計年度任用職員をモノのようにあつかってきた自治体の責任も重い。また、同マニュアルでは、「非公募による任用上限は2回まで」と示されており、2022年3月にはいわゆる「3年目の壁」問題=機械的な「雇止め」が、少なくない自治体で生じる事態を招いた。

埼玉県狭山市では、市立図書館で任用されていた32人の会計年度任用職員の内、11人もの職員(図書館司書4人を含む)が「3年目の壁」によって、一斉に「雇止め」されるという異常な事態を招いた。中には22年間もの長きにわたり働き続けてきた図書館司書もいたが、団体交渉等での市当局の姿勢は「総務省のマニュアルに従っただけで違法性はない」と、まさに人をモノのように扱う非人間的なものだった。

 

6 もはや「人権侵害」と言わざるを得ないレベルの事態も

職を失う不安、あるいは経済的な不安から、声を上げられない状況に当事者はさらされている。全労連公務部会「非正規公務員オンラインミーティング」でも、「労働組合に加入していることでさえ職場では伏せている」との発言があったほど当事者の不安は強い。今年、「非正規公務員voices(ヴォイセズ)」が実施したハラスメント調査(531人が回答)の中間報告でも、68.9%がハラスメントや差別を受けたと答え、加害者は正規の上司が63.7%、上司以外の正規職が23.3%と続いた。なかには、「無理やり性行為を強要された」との訴えが4人の回答者からなされるなど、事実であれば犯罪行為であり深刻な人権侵害といえる実態までもが告発された。この調査の分析に携わったジャーナリストの竹信三恵子さんは「正規職の優越的な立場と、短期雇用を脅しに雇い止めをする仕組みがハラスメントを助長している」と指摘した。まさに、一刻の猶予も許されない基本的人権に係る問題としての対応を急がなければならない。

 

7 労働組合の運動できりひらいてきた情勢

 

我々の要求とは大きな開きが依然としてあるものの、10月から「最低賃金」が全国加重平均で1000円を初めて上回り、岸田首相から「(2030年代半ばまでに)1500円まで引き上げる」との目標を表明させるまで追い込んだ。

公務と民間の賃上げの好循環をめざす運動でも、民間の春闘結果を反映させ、人事院および地方人事委員会の勧告で(これも不十分な水準だが)軒並みプラス勧告を引き出している。

政府が物価高騰対策として10月中にまとめる「経済対策」でも、「非正規労働者の正規化の加速」が盛り込まれる見込みとなっている。いずれも、非正規労働者の処遇改善にとっては追い風となるものだ。これらの情勢は、最低賃金全国一律1500円を掲げ「社会的な賃金闘争」にとりくみ続けてきた全労連運動の成果である。

会計年度任用職員の雇用の安定と処遇の改善に関しても、自治労連がすすめる「誇りと怒りの“3T”アクション」などによって、①難しいとされた「勤勉手当を支給できるようにする」地方自治法改正を実現させ、②「最賃割れ」はダメ!プラス改定を「4月遡及」するように促す総務省通知を出させ、③必ずしも「3年目の壁」(=再度の任用の更新回数2回まで)にとらわれる必要はないと「総務省マニュアル」に明記させるなど、画期的な到達と情勢を築いてきた。

しかし、これらを確実な成果とするためには、総務省による確実な財政措置、地方議会での条例改正、労使交渉による前進など、当事者の誇りと怒りの声を取り込んだ、これからの運動にかかっている。

 

8 会計年度任用職員の処遇改善と組織化にとりくむ意義と責任

 

この制度には「ジェンダー平等」あるいは「基本的人権の尊重」、「公共の持続性」などを欠く、数多の問題がある。その根底に澱んでいるのは、この社会が拭い切れてない女性労働に対する「性別役割分担の無意識の思い込み=アンコンシャス・バイアス」ではなかろうか。

筆者は自治労連の役員として、何度も記者会見や取材の場面を通してマスメディアの関係者と接してきた。私が抱いてきた印象では、男性記者からの質問のトーンは「時間が短いんだから200万円未満でも仕方ないんじゃない」的なニュアンスを感じるモノがほとんどを占めていた。一方、女性記者からの質問は「ダブルワークをしている人はどれくらいいるのか」、「当事者にとっての大問題であるとともに『公共サービスの質』に与える影響もあるのではないか」など、この問題の本質を深掘りしようとするものが多く、看過できない問題意識を強く感じられたことに驚いた。そして、何度も接するうちに、私なりにその理由が見えてきた。女性記者の方々は、この問題の本質がこの国にはびこる「根本的問題=ジェンダー問題」であることをはじめからから見破っていたのだと。だから、この制度の核心を突く記事を執筆された記者の多くが女性だったのだと。

全労連は、昨年7月に開催した定期大会でジェンダー平等宣言を採択し、運動を進めている。愛労連も、2024年1月の臨時大会での採択をめざし、平和で安定したジェンダー平等社会の実現に向け、「(みんなで考える)愛労連らしい」ジェンダー平等宣言の取りまとめに着手している。

全労連公務部会や自治労連などのとりくみで、当事者が声を上げ立ちあがれば、「さまざまな壁」を崩すことができるポジティブな情勢を作り上げてきた。また、労働組合に組織できていた狭山市のケースなどでは、不当な「雇止め」に対し泣き寝入りすることなく、「おかしいことはおかしい」と運動を起こせることを示した。そこには労働組合があり、当事者が運動の輪に加われば、解決の糸口をたぐり寄せることができるチャンスは必ずある。

残念ながら、全国に62万人以上いるとされる会計年度任用職員のうち、組織されている当事者は10%にも及ばない。このままでは、制度の不備に苦しむ当事者たちは、労働法制にも守られず、労働組合という味方がいることさえ気づかないまま、泣き寝入りし続けることになってしまう。

全労連が「会計年度任用職員組織化プロジェクト」に着手し、愛労連が「会計年度任用職員1万人組織化プロジェクト」にチャレンジすることは、まったく時機に適ったものである。

「この仕事をこの職場で続けたい」このあたりまえの思いを叶えることができるのは、労働組合しかない。だからこそ、会計年度任用職員の処遇改善と組織化にとりくむ意義と責任は重い。

愛労連は、「会計年度任用職員1万人組織化プロジェクト」を機に、1500万人を超える女性非正規労働者の「雇用の質」の向上を含む、すべての非正規労働者の処遇改善と組織化にとりくむとともに、平和で安定したジェンダー平等社会の実現に向けたとりくみを、全国の仲間と力を合わせすすめたい。

 

 

 

佐賀達也「自治体に働く職員のいのちと健康を守るための政策提言(案) ~自治体職場から「過労死と健康被害」を根絶するために~」

佐賀達也「会計年度任用職員制度の改善は急務●全国実態調査から」

 

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