佐賀達也「自治体に働く職員のいのちと健康を守るための政策提言(案) ~自治体職場から「過労死と健康被害」を根絶するために~」

働くもののいのちと健康を守る全国センターが発行する『働くもののいのちと健康』第93号(2022年11月・秋期号)に掲載された、佐賀達也さん(日本自治体労働組合総連合中央執行委員)による原稿の転載です。どうぞお読みください。

 

自治労連は11月5日、自治体から「過労死ライン」を超える働き方をなくそう~労基法33条を考える」全国交流集会を開催しました。現場からコロナ時、大型災害時、または通常業務の時にも過労死ラインを超える長時間労働の実態が報告されました。また、過労死防止全国連絡会代表幹事人の黒田兼一明治大学名誉教授がコーディネーターとなり、過労死を考える家族の寺西笑子代表、自治労連事務局弁護団の山口真美弁護士に自治労連の長坂圭造副委員長が加わり「職員のいのちと健康を守ろう~労基法33条を考える」のシンポジウムを行いました。

現場実態と「いのちより大事な仕事はない」というシンポジストからの強い思いを受けて、自治労連で検討してきた「自治体に働く職員のいのちと健康を守るための政策提言(案)~自治体職場から『過労死と健康被害』を根絶するために~」を報告。今後、全国的な討議や弁護団・専門家などの意見もきき、法改正も見据えた政策提言へと練り上げていくことにしています。

 

政策提言(案)をまとめるにあたり

 

昨年6月に開催した「第24回労働安全衛生・職業病全国交流集会」では、長期化するコロナ危機のもとでの長時間過重労働の実態と若手職員の働きづらさについて考えると題したトークセッションを行いました。その際、「死ぬか辞めるか」との長時間労働で苦しんだ末に退職を選択された保健師の方を慮り、悔し涙を流された京都市職労書記長の嗚咽が今も忘れられません。そして、「二度と同じ思いをする家族が生じないように、苦しいときには仕事から逃げる勇気も必要」を強く語られた佐戸美恵子さん、残念ながらその思いはNHKに届かず、過労死で亡くなった佐戸未和記者が勤務していた同じ部署で再び過労死が発生しています。

 

「臨時の必要」でも上限と「ルール」は必要

公共放送だから…という使命感がそうさせるのか、私たち公務員が「住民のいのちとくらしを守りたい」という使命感と重なります。

「住民をまもる職員を守ろう」との集会での意思統一に沿って、「過労死防止大綱」(素案)に対する意見公募に応募し、地方公務員に関わる記述を中心に更なる改善を求めました。大綱に反映された部分はあったものの、夏以降、さらなる感染の波にのみ込まれ、自治体職員の「過労死ライン」を超える働かされ方は、さらに深刻化しました。やはり、条例で定めたはずの「時間外労働の上限時間」は、労基法33条の濫用によって、いともたやすく無力化されることが浮き彫りとなりました。

 

職員のいのちを守る運動」で一丸となって

自治労連では、職員のいのちを守りきろうと22春闘から本格的に「職員のいのちを守る運動」に着手します。保健所・自治体病院を中心とする労働実態調査、都道府県職部会、政令都市部会での過労死ライン超えの実態調査結果を公表した記者会見は、マスコミが報じただけではなく、国会審議でも取り上げられました。

 

ポスターと署名に込めた思い

「いのち守るポスター」には、大変な職場で、繰り返し、繰り返し、組合員にも管理職にも目にしてほしいとの思いが込められています。署名の要請項目はシンプルをコンセプトに「公務員にも過労死ラインを超える時間外労働に規制を設けること」と「そのために必要な公務員の増員と財源を国の責任で確保すること」の2つに絞りました。この論点がこの「自治体に働く職員のいのちと健康を守るための政策提言(案)」の背骨となっています。

 

 

労基法33条とは

地方公務員の場合、現業でも非現業でも、労基法33条1項または3項によって1)災害時などで臨時の必要がある場合、行政官庁の許可を受けて時間外をさせることができる 2)公務のための臨時の必要がある場合にも時間外をさせることができる、としています。この条文を濫用した結果、恒常的な長時間労働が行われている職場が多数存在し、3年におよぶコロナ対応では100時間を超える時間外労働が横行している状況です。「提言」では「臨時の必要がある場合」の厳格化や上限規制を設けることを提案。また、長時間労働規制についても、安全配慮義務の内容となるという裁判例もあります。シンポジウムでは「そもそも労働者保護の最低ラインを決めている労基法に、除外規定のあることのおかしさも指摘されました。公務のあり方とあわせて深めることが必要です。

 

災害時、「臨時の必要な場合」であっても・・・・・・スパンとルールが必要

厚労省も総務省も、自治労連に対し、例え「33条」が適用される業務であっても、職員のいのちと健康に影響が及ぶことがあってはならない」と繰り返しています。しかし、3年にもわたる「コロナ危機」が「臨時」と言えるのか?現実に「33条1項」により、職員に健康被害が及んでいるケースがでていることが告発されています。その背景には、労働者を守る仕組みが機能していないこと、使用者の「安全配慮義務」の意識が希薄なこと、なにより圧倒的に人員不足であることが浮き彫りになりました。

秋田県では、8月の記録的大雨の対応にあたっていた県職員の自死という最悪の事態が生じました。まさに、いつどこで「過労死」が発生してもおかしくありません。先が見通せない「コロナ対応」、復興まで時間を要す「災害復旧対応」のどちらも、臨時の対応ではないはずです。職員のいのちと健康を守るためには、たとえ「33条1項」あるいは「3条3項」の対象業務であっても“スパン”と“上限”“そして”ルール”が必要です。

 

コロナ前からいのちと健康の危機

 

5月31日に行った「過労死NO!集中アクションデー」の厚労省・総務省ヒアリング・記者会見の発言を紹介します。

「事務職の長時間労働の実態について。彼女は4年前に市役所のある部署に異動しました。その部署は当時から「全庁一忙しい」と言われていました。年間で約850時間、繁忙期には毎月130時間の時間外労働をしていました。毎日夜10時まで仕事をして、さらに休日にも丸一日出勤しないとそんな時間にはなりません。それだけ働いても仕事は終わらず、彼女は何人分だろうという業務を毎日隠れて泣きながら1人でこなしました。ミスをして別の部署から怒られることもありました。自己肯定感はなくなり、心の余裕がなくなって周りにきつく当たるようになっていきました。

その頃、結婚を控えていました。でも2人で過ごす時間も、結婚式の準備をする時間もありませんでした。一緒に平日に晩御飯を食べたのは、その部署にいた2年間で2~3回でした。その後、妊娠が発覚したものの結果的には流産となってしまいます。

自分の働き方のせいだとは思いたくないけれど、異常な長時間労働でまともに食事をとっていなかったことで自分を恨んだそうです。

それでも時間外労働を続けたのは、自分がやらなくてはという使命感があったからです。その後、もう一度妊娠することができ、無事に産休に入りました。出勤最後の日は、妊娠を継続できたこと、何より仕事から解放されたことに心底安堵し、帰り道に夫が迎えに来てくれた車の中で号泣したそうです。

所属長は、彼女の働き方を放置していたわけではなく、妊娠しているのだから、時間外労働を減らすように声をかけてくれていました。でも、彼女の仕事の分担を具体的に減らすことはできませんでした。人事担当も、是非は別としてパソコンの自動シャットダウンなどの時間外労働を減らす取り組みを進めていますが、今も1年で300人近くが過労死ラインを超えて働いています。私自身も現在、子どもを育てながら働いています。彼女ほどではありませんが、出産前にいた職場では月に60時間以上の残業をすることもありました。私と彼女に何の違いがあるでしょうか。最後に彼女はこんなことを話してくれました。“良く「お母さんが笑顔だったら、子どもも笑顔だよ」”と言われますが、この公務員という仕事もそうだと思います。異常な時間外労働から良い制度、良い施策が生まれるはずがありません、市民のための自治体であるならば、まず、職員がいきいきと働ける職場づくりをすることが大切です。

彼女が異常な長時間労働を強いられていたのは、コロナが流行する前からです。コロナの流行期、その一時を乗り切ればなんとかなるということではないのです。個々の職場の労務管理、一自治体の努力だけでなんとかなる問題ではないのです。“職員のいのちと健康を守る”ためにたとえ臨時の必要がある場合でも時間外労働に規制をかけることが必要です」。

 

政策提言(案)を深めながら、すぐできる行動提起

政策提言(案)については、今後さらに検討を重ねていくことにしています。しかし、「死ぬか、やめるか」の働き方を強いられている職員は多いのが現状です。

現場からのリアルな報告では、厳しい職場の状況とともに、「災害時の24時間対応について交替制勤務

の仕方を変えて休憩がとれるようにした」「職場訪問を再開し、職場の声を交渉に活かした」「時間外労働の実態を突きつけ緊急対応をとらせた」など労働組合の役割を発揮し改善をさせてきている経験も報告されました。

政策提言案に磨きをかけつつ「今からできる!行動提起」も報告されました。

       今からできる! 職員のいのちと健康を守るための行動提起

●労働組合としてできることから、取り組みを進めよう!

1,安全衛生委員会を活用する・・・・コロナだからこそ月1回の開催を

  1. 長時間労働の実態を調査させ、時間外縮減(サービス残業にならぬよう)を果たすにはどうすべきかを審議する
  2. 上限を超えた時間外勤務(特例業務)に従事した職員に係る要因の整理・分析・検証をさせる等

2,労基法別表一の職場(保健所、土木事務所、病院、保育所、試験研究、教育など)では

  1. 36協定を活用する・・・・・時間外労働を行う業務の範囲の明確化・「特例条項」の適用及び「臨時的な特別の事情」の厳格化 など
  2. 労基法33条1項の発動の厳格化を要求する・・・労働基準監督署への許可申請・届出の際の労使協議など

3,非現業(労基法別表第一の職場 以外)では

  1. 条例・規則の「他律的業務」の見直し、適用の厳格化を要求する
  2. 条例・規則の「特例業務」の適用の厳格化・廃止を申し入れる
  3. 労基法33条3項の「公務のために臨時が必要な場合」の適用の厳格化を申し入れる

4,業務量にふさわしい人員を配置させる。

  1. 「過労死ライン」を超える働かせ方は、安全配慮義務に抵触することを確認する
  2. 恒常的な時間外が発生する職場をなくすよう人員配置を要求する
  3. 特定事業主行動計画の目標達(育休、年休、時間外等)のために、必要な人員を要求する

5,いざという災害時に備えた体制・「ワークルール」を労使で作るよう申し入れを

 

 

抜本的な法改正を視野にいれつつ、現場の声をあわせて“今”を変えることが、力になります。

公務・公共労働の重要性がコロナ禍で明らかにった今こそ、職員のいのちと健康を守り、住民とともに地域をつくる活動を進めていきましょう。

 

 

 

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