川村雅則「非正規公務員・会計年度任用職員に関する学習会・集会レジュメ(最終更新2024年2月23日)」

 

川村雅則「(学習会)会計年度任用職員制度 総ざらい」での報告レジュメ(加筆修正版)」『NAVI』2023年10月26日配信

 

本稿は、2023年10月29日に開催される、第11回 なくそう!官製ワーキングプア大阪集会 第1分科会(「会計年度任用職員制度 総ざらい」)での報告レジュメ(A4用紙×4枚)に加筆修正をしたものです。

 

【お詫び】札幌市会計年度任用職員の2022年度末の離職者数は、570人ではなく561人でした。お詫びして訂正します。詳細は下記をご覧ください。(2024年1月10日記)

■川村雅則「(お詫び)札幌市の会計年度任用職員の離職者数の訂正」『NAVI』2024年1月10日配信
https://roudou-navi.org/2024/01/10/20240110_kawamuramasanori/

 

■はじめに

会計年度任用職員制度(以下、新制度)に関する、札幌・北海道での筆者らの取り組みを整理してみました。各地の取り組みに何か役立つものがあれば幸いです[1]。本稿は、北海道労働情報NAVI(以下、NAVI)にも掲載しています。紙媒体よりもリンクへのアクセスがしやすいと思いますので、ご活用ください。なお、スペースの都合で他団体・個人等の取り組みは最低限にとどめています(リンク先からたどれます)。ご容赦ください。

 

[1] 調べることを重視しています。調べて、問題を可視化して、自分もまわりも変えながら、つながって、互いにエンパワーメントしていきましょう。拙稿(2021)「公務非正規運動の前進のための労働者調査活動」『住民と自治』通巻第704号(2021年12月号)。

https://roudou-navi.org/2021/12/15/20211201_kawamuramasanori/

 

 

■調べて問題を可視化する

○当事者の声を集める、当事者にアプローチする

労働組合や当事者団体によって、個々の自治体をこえて会計年度任用職員の声が集められています。とても意義深い活動です。私自身も、労働組合や議員の方々のご協力をいただきながら道内624人(女性が509人、81.6%)の会計年度任用職員の声を集めました[2]

ちなみに調査結果からは、次のような結果が明らかになりました。

 

  • 雇い止め不安を抱える方々が多数であること:雇い止めに対する不安を四段階で尋ねたところ「非常に不安がある」だけで31.3%。「不安がある」39.6%もあわせると7割に達する。なお、無期の雇用への転換希望は「希望する」65.1%、「とくに希望しない」17.0%、「わからない」17.1%。
  • 収入水準は低いこと:勤続年数が1年未満の者を除いて計算したところ、年収(見込み額)が200万円未満は40.7%。250万円未満まで広げると75.0%でした(非正規問題に取り組む労働組合経由で回収された回答が多いことが反映されて、一般の回答よりも年収は少し高めかもしれません)。
  • 被扶養者であることが強調されるも、生活自立型では100%であることに象徴されるとおり、家計収入の少なからぬ割合を、本人の就労収入が占めていること(こう書いていますが、そもそも賃金は、家庭内の位置で決められるべきものでしょうか?):世帯収入における自分の就労収入の割合が「10割(すべて)」は30.5%、「5,6割」以上の回答が43.9%を占めます。
  • ハラスメントの経験が一定割合でみられること:「自分自身が受けたことがある」10.7%、「見たことがある」13.8%、「相談を受けたことがある」6.6%、「以上のことはない」73.9%です(無回答が2.1%)。
  • 新制度による状況の変化を改善ととらえている者が少ないこと:勤続年数が「3年~5年未満」以上の回答者に限定して、「変わらない」「悪くなった」の割合を取り上げると、例えば、「①雇用の安定」は60.7%、17.0%。「②賃金(給与)・収入」は44.1%、27.0%。「③仕事内容」は79.1%、14.8%などです。

 

[2] 拙稿(2023)「北海道及び道内市町村で働く624人の会計年度任用職員の声(2022年度 北海道・非正規公務員調査 中間報告)」『NAVI』2023年1月5日配信。

https://roudou-navi.org/2023/01/05/20220105_kawamuramasanori/

 

○自治体ごとの任用制度・状況を明らかにする

こうした取り組みと同時に、個々の自治体ごとの任用制度や任用の状況を明らかにする作業が必要だと思います[3]。例えばこの間、私が暮らす札幌市の特殊な制度(「同一部3年ルール」)を紹介してきました。問題の是正は個々の自治体に迫っていくことが必要であることを考えても、個々の自治体ごとの調査も必要ではないでしょうか。

 

資料 札幌市における同一部3年ルール

(再度の任用)

第6条 部長は、会計年度任用職員の任用期間の満了後、引き続き当該会計年度任用職員を任用する必要があり、かつ、当該会計年度任用職員の勤務成績が良好な場合は、再度の任用をすることができる。

2 前項に基づく同一部での再度の任用は、当初任用日から三年に達する日の属する年度の末日を限度とする。ただし、人材の確保が困難であるとして設置要綱に特別の定めがある職についてはこの限りではない。

3 前項の規定により任用の限度に達した者は、その後一年間同一部で任用できないものとする。

出所:札幌市「札幌市会計年度任用職員の任用に関する要綱」より(下線は筆者)。

 

なお、問題事例ばかりではなく、労使のすぐれた取り組みを明らかにする作業も必要です[4]

 

[3] 政令市である札幌市と中核市である旭川市の制度を調べてきました。拙稿を参照。

拙稿(2022)「札幌市の会計年度任用職員制度の現状を調べてまとめました」『NPO法人官製ワーキングプア研究会レポート』第37号(2022年2月号)。

https://roudou-navi.org/2022/01/29/20220129_kawamuramasanori/

拙稿「【未定稿】旭川市非正規公務員(会計年度任用職員)調査報告」『NAVI』2023年9月12日配信

https://roudou-navi.org/2023/09/12/20231231_kawamuramasanori/

拙稿(2023)「なくそう!官製ワーキングプア──あなたのマチの非正規公務員問題を調べる」『雇用構築学研究所ニューズレター』第67号(2023年5月号)

https://roudou-navi.org/2023/06/18/20230531_kawamuramasanori/

[4] 例えば、公募制を導入しなかった/させなかった根室市の取り組みを参照。坂本勇治「根室市の会計年度任用職員制度と労働組合の取り組み」『NAVI』2022年11月26日配信。

https://roudou-navi.org/2022/11/26/20221121_hanhinkonnethokkaido-2/

 

 

■会計年度任用職員の離職状況を調べる[5]

公募にどの位の人数がかけられ、どの位の職員が不合格とされているのか明らかにする作業が必要である──そう考えていましたが、そもそも、3年公募を待たずに任期満了での離職が数多く発生している自治体もあることが調査で明らかになりました。(とくに年度末に)離職者がどの位発生しているのか、また離職の理由は何であるのかを明らかにしましょう。

○大量離職通知書・制度を活用する

前者については大量離職通知書で明らかにできます[6]。労働局(通知書の提出先はハローワーク)に照会してみましょう。

ちなみに、179市町村(35市、144町村)ある北海道ですが、通知書の提出は5市のみでした。もちろん、1か月に30人以上の離職者(正職員を含む)を発生させていないから提出の必要はない、というケースもある(とりわけ町村では多い)でしょう。しかしながら、幾つかの自治体に電話で照会してみたところ、本来は作成しなければならぬのに作成されていないケースもありました。今年度末にはそのようなことのないよう、まずは、昨年度末の離職者を作成したのかどうか照会し、状況の確認をしてみましょう。今年度末に向けた取り組みではなく、まずは昨年度末の検証です。

拙稿から一部を転記します。

「札幌市では570人561人、旭川市では173人の離職者(「確定」された「非常勤職員」の離職者)が発生していました。また、北広島市では職の廃止に伴う離職が70人超発生していました。」

北海道からの回答では、「道知事部局では、本庁のほか総合振興局・振興局、各出先機関などに分かれていること、加えて、そもそも、本庁であれば各部、総合振興局・振興局であれば総務課・建設管理部・保健環境部などを1つの事業所ととらえていることから、1つの事業所で30人以上の離職者は発生していない。」とのことでした。

 

[5] 拙稿(2023)「「大量離職通知書」を使って会計年度任用職員の離職状況を調べよう(中間報告)」『NAVI』2023年10月8日配信を参照。

https://roudou-navi.org/2023/10/08/20231008_kawamuramasanori

[6] 大量離職通知書に関しては、安田真幸さん(連帯労組・杉並)の記事を参照。

https://roudou-navi.org/author/yasuda-masaki/

 

○人事委員会、公平委員会の利用状況

なお、公募で落とされるという問題に関わって、当事者からの異議申し立ては出されているのでしょうか。どのような事例が委員会にあがっているのか。また、委員会はどう活用できるのかなど、どなたか原稿化していただけると幸いです。

 

 

■最低生計費を満たすには程遠い賃金水準

表 職種別にみた、会計年度任用職員の1時間当たり換算額

事務補助職員 看護師 保健師 保育所保育士 給食調理員 清掃作業員 教員・講師(義務教育) 教員・講師(義務教育以外) 図書館職員 消費生活相談員 放課後児童支援員
215 125 100 132 141 101 149 41 124 29 102
1000円未満 66.0 1.6 0.0 20.5 51.8 67.3 8.7 4.9 56.5 13.8 32.4
平均値 997 1537 1471 1112 1029 1007 1575 1436 1045 1338 1092
中央値 940 1391 1368 1088 993 938 1429 1286 972 1228 1055

注:一部事務組合も含む。
出所:川村雅則(2021)「道内の会計年度任用職員等の臨時・非常勤職員の任用実態──総務省2020年調査の集計結果に基づき」『北海道自治研究』第626号(2021年3月号)より転載。

 

冒頭にも述べましたが、会計年度任用職員の賃金水準が低いことは、総務省が行った調査の、職種別分析でも明らかです[7]。上記の表は拙稿からの転載です。

各自治体においても、賃金水準はいくらか、昇給はあるのか、あるなら上限はいくらか、などなどのことを(職種別に)明らかにしましょう。最低生計費試算に基づく最低賃金の大幅な引き上げが提起されています。こうした運動との共同も視野に入れて、民間発注における予定価格の積算で使われる賃金を含め、自治体の仕事で働く人たちから、時給1500円未満をなくす取り組みが必要ではないでしょうか[8]

なお、第一に、期末手当は適正に支給されたでしょうか。支給にあわせて基本給が減額された自治体もあります。旭川市では、年収水準こそ下がってはいないとのことですが、基本給が引き下げられたケースが半数を占めたようです。第二に、フルタイム型の会計年度任用職員に退職金は支給されているでしょうか。

 

[7] 個々の自治体への情報照会の取り組みももちろん重要ですが、総務省による調査の結果を使い倒しましょう。拙稿(2021)「道内の会計年度任用職員等の臨時・非常勤職員の任用実態──総務省2020年調査の集計結果に基づき」『北海道自治研究』第626号(2021年3月号)。

https://roudou-navi.org/2021/06/05/20210315_kawamuramasanori/

[8] ある学習会で、被扶養・年収の壁との関係で賃上げに対する懸念の声が聞かれました。この点が事実であるかを確認したいと思っています。

 

 

■せっかくの貴重な情報は整理・集約を

この間、MLなどを通じて貴重な情報を皆さまから受け取っております。感謝申し上げます。

そうしたなかで、これは文章化したほうがよいのではないか、とか、文章化したものをどこかのサイトに集約する作業をしていけたら、運動により役立つかも、などと思うことがあります(テキストデータ化症候群?)。NAVIもそんな試みの一つです。ご参照ください。

 

 

■決定過程・アクターに影響を与える

新制度もどこかで誰かによって作られたものです。総務省によるそもそもの制度設計の問題が非常に大きいことを認識した上で、それぞれの自治体でのアクターである地方政府(首長・行政、議員・議会)や労働組合に影響を与えることを意識した取り組みが必要ではないでしょうか。

○首長は新制度をどう評価しているのか

首長は、会計年度任用職員が公共サービスの担い手であるということを認識し、任命権者として適切に対処しているでしょうか。

例えば、3期目となる札幌市長の施政方針(2023年6月12日)[9]では、「誰もが、住み慣れた地域で自立した生活を送り、社会との関わりの中で、生きがいを感じながら充実した毎日を過ごすことができる、そのような街をつくり上げていく」とか、「誰もが安心して暮らし生涯現役として輝き続ける街」が披瀝されているのですが、どうも会計年度任用職員は視野に入っていないように思います。

公共サービスのあり方への積極的な発信など、私が逆の意味で注目をしているのは、杉並区の岸本聡子氏です。同区の指定管理者制度の検証結果とあわせて、会見記録を掲載しておきます[10]

○議会は新制度をどう評価しているのか

あるいは、議会においては、新制度はどう評価されているでしょうか。行政に対する監視機能は発揮されているでしょうか。議会基本条例などに照らして確認してみましょう[11]。流行りのSDGs(とりわけディーセントワークやジェンダー平等の実現)や男女共同参画の基本計画から、会計年度任用職員が排除されている状況をまずは知ってもらうことが必要です。新制度に関連して「政策立案及び政策提言」がなされたり「議員相互間の討議」がなされることを期待しています。

 

[9] 施政方針「私の市政への思い」2023年6月12日。

https://www.city.sapporo.jp/city/mayor/aisatsu/20230612.html

[10] 日本記者クラブ主催「岸本聡子・杉並区長 会見」2023年10月18日

https://www.youtube.com/watch?v=B3fZzXoR3fc

杉並区「指定管理者制度の検証」

https://www.city.suginami.tokyo.jp/guide/kusei/monitor/1086859.html

[11] 札幌市議会でも崇高な理念が掲げられた「札幌市議会基本条例」がありますし、議員自らによってその達成状況などが検証された「札幌市議会基本条例検証報告書」があります。皆さんのマチではどうでしょうか。

札幌市議会「札幌市議会基本条例」

https://www.city.sapporo.jp/gikai/html/gikaikihonjyorei.html

 

○首長・議員候補者に公開質問を実施

今春の統一地方選挙では、首長や議員の立候補予定者に公開質問を実施しました。

首長候補者に対しては、次のような質問を投げかけました[12]

「(1)自治体が任用する非正規公務員問題への対応

新たな非正規公務員制度として2020年度から始まった会計年度任用職員制度には、雇用安定に逆行するほか、勤務時間数による賃金・処遇格差の法認など、多くの問題がみられます。

なかでも、現在働いている者が一定期間ごとに雇い止めされて、働き続けることを希望する場合には公募に応じなければならないのは、「パワハラ公募」などと批判されています。公募制は義務づけられたものではなく、総務省も、「地域の実情等に応じつつ、適切に対応されたい。」と2022年12月23日の通知で伝えています。

会計年度任用職員制度をめぐる問題にどう対応するのか、また、公募制は今後も続けるのか、考えをお聞かせください。」

 

それに対して、現市長(当時は候補者)からは次のような回答をいただいています。

「任用については、会計年度任用職員制度導入時に任用限度を3年とするなど、任用限度が1年だった臨時的任用職員制度などに比べ、雇用の安定面でも改善されたものと認識しています。

しかしながら、同一の職場に長期間在籍することによるマンネリ化や士気の低下を防ぐ必要があることなどから、公募によらない再度の任用については一定の限度が必要と考えています。

また、地方公務員法第13条の平等取扱いの原則を考慮し、任用を希望する方々に均等な機会を与える必要があると考えるため、公募は引き続き行ってまいります。

給与制度については、令和5年度から給料表の増額改正と期末手当の0.1月分の引上げを行うなど適宜改善しております。

なお、国会で審議中の会計年度任用職員に対する勤勉手当の支給を可能とする地方自治法の改正案が成立した際には、本市も速やかに会計年度任用職員に対する勤勉手当の措置を検討いたします。」

 

[12] 反貧困ネット北海道「公開質問/札幌市長選挙立候補予定者からのご回答」『NAVI』2023年3月24日配信

https://roudou-navi.org/2023/03/24/20230324_hanhinkonnethokkaido/

○議員候補者からの回答

議員候補者への公開質問[13]では、回答をいただけなかった方が少なくなかったことに加えて、いただいた回答には、新制度の問題が十分に理解されていないのではと思われたものもありました。まず私たちは次のように尋ねました。

「1.札幌市の会計年度任用職員にも、安心して働き続けられる条件整備が必要であると私たちは考えます。札幌市の会計年度任用職員制度をめぐる問題をどう認識し、どう対応するご予定であるか、自身の考えに一番近いものに〇をつけてください。

(1)公募制(すでに働いている人がいったん雇い止めになり、雇用継続を希望する人は、新規求職者と同一の公募に応じなければならない制度)の導入は自治体に義務づけられたものではなく、総務省も、「地域の実情等に応じつつ、適切に対応されたい。」と2022年12月23日の通知で伝えています。札幌市では、原則として、3年ごとに公募に応じて合格しなければ働き続けることができません。公募制は今後も続けるべきとお考えですか。」

 

それに対する回答・結果は、「①公募制は今後も続けるべきである。」10名、「②公募制は今後、続けるべきではない。」16名、「③その他(                )」23名でした。

 

全国的には、自治体議員は高齢の男性に偏っています。「日本型福祉社会論」[14]に象徴されるような発想は議会の世界では根強いかもしれません。宗教団体による強力な後押しの存在も思うと、なかなか手強いかもしれません。

一方で、そういう状況に対してノンの声をあげる議員や市民も増えているのではないでしょうか。「推し」の議員を「発掘」し連携を強化したり[15]、地方政府とりわけ議会のあり方を問う動きとの連携などを追求していきましょう。

 

[13] 無期転換逃れ阻止プロジェクト「公開質問/札幌市議会議員選挙立候補予定者からのご回答」『NAVI』2023年3月28日配信

https://roudou-navi.org/2023/03/28/20230328_minnamuki/

[14] 安藤優子(2022)『自民党の女性認識──「イエ中心主義」の政治指向』明石書店など参照。

https://www.akashi.co.jp/book/b607679.html

[15] 拙稿(2023)「自治体議員との交流・連携強化を進めていきましょう」『NPO法人官製ワーキングプア研究会レポート』第42号(2023年6月号)のほか、私の「推し」である石狩市議会議員の神代知花子議員のレポートを参照。

https://roudou-navi.org/2023/06/02/20230601_kawamuramasanori/

https://roudou-navi.org/author/kumashiro/

○労働組合にももっと大きな変化を求めたい

非正規問題に労働組合はどう対峙するのか問われてかなりの年月が経ちます。では労働組合による取り組みの実際はどうでしょうか。もともと先進的な実践をされていた組合もありますし、すぐれた成果をあげられている組合の存在も聞くところです。ただ、問題の深刻さを踏まえると、全体として、取り組みはなお不十分ではないでしょうか。非正規職員に今なお門戸を閉ざしている自治体単組があることも、労働組合による調査で明らかになっています。労働組合にも変わってもらう意識的な取り組みを進めていきましょう。

 

 

■公共サービスの担い手全体を視野に入れた取り組みを

会計年度任用職員・非正規公務員問題を中心に据えながらも、公共サービス従事者全体を視野に入れる必要があるのではないでしょうか。建設工事や業務委託など自治体発注の仕事で働く民間労働者が直面する諸問題(過度な競争入札制度等による雇用不安や低賃金・労働条件問題)です。この分野における賃金・労働条件に「適正化」の網をかけなければ、民間化の道が採用されることが危惧されます。

同時に、拙稿でもこの間強調してきましたが、非正規公務員の賃金は、業務委託や指定管理など民間発注で予定価格を組む際の賃金算出根拠に使われてもいる、という意味で、両者は地続きの関係でもあります。非正規公務員の賃金が低く抑えられることは、委託など民間労働者の賃金水準が低く抑えられることにもつながります(後者への実際の支払賃金は、予定価格を組む際に使われたものよりも低くなることが懸念されます)。

 

表 指定管理が導入された児童会館の職種・賃金(賃金額と賃金算出根拠)

注:予定価格の積算で使われている賃金・賃金算出根拠。
出所:拙稿(2021)「公務非正規運動の前進のための労働者調査活動」『住民と自治』通巻第704号(2021年12月号)より転載。但し、表のタイトルに加筆を行い、注釈も加えた。

 

このことへの対応で期待を集めているのが公契約条例ですが、一般社団法人 地方自治研究機構の調べによれば(2023年9月1日時点)、条例の制定数は84(内訳は、賃金保障型が27、理念型が57)とのことです。理念型条例一本しかない私たち北海道勢ですが、ぜひご一緒に[16]

なお、補助金事業で働く労働者を含める必要性[17]、公共サービス基本法の条例版の必要性を感じています。

○民間の非正規雇用制度を視野に入れて

公務員制度ないし会計年度任用職員制度の特殊な問題を強調することはもちろん重要です。しかし加えて、民間の非正規雇用者の直面する問題や制度との重なりを意識することが、共同・運動を大きくする上で必要ではないでしょうか。例えば私たちは、無期雇用転換制度/無期転換逃れ問題をテーマに取り組んできました[18]し、この年度末に向けての企画も構想中です。

 

[16] 川村雅則「公契約条例制定の全国的な推進に向けて」『社会主義』第736号(2023年10月号)。

https://roudou-navi.org/2023/10/10/20231001_kawamuramasanori/

[17] 民間学童保育のコロナ禍の体験などを参照。林亜紀子「民間共同学童保育と自治体の役割(2021年度第3回札幌市公契約条例の制定を求める会連続学習会の記録)」『NAVI』2021年12月23日配信。

https://roudou-navi.org/2021/12/23/20210527_koukeiyaku-2/

[18] 拙稿「3つの雇い止め・無期転換逃れ問題の整理と、雇用安定社会の実現に向けて」『NAVI』2023年3月21日配信。

https://roudou-navi.org/2023/03/21/20230307_minnamuki-4/

 

 

■報道機関や市民にも理解してもらう取り組みを

新制度は、あまりにも複雑怪奇ゆえ理解が難しいです。「更新」ではなく「再度の任用」と訂正を求めてくる当の行政自身が、求人情報(市の広報)では「更新あり」と表現しています。市民には分かりづらいから、というのが理由です。

このような複雑さゆえ、(こちらの力量不足もあったと思いますが)民間の非正規問題・制度問題と同じように報道関係者に理解されてしまうことは、当初少なくありませんでした。この間の取り組みで、ことの問題性が知られるようになってきましたが、しかし、まだまだです。各種の学習活動やロビイング活動などでも使えるような、分かりやすくハンディな教材を作りたいと考えています(求む、絵心ある方)

 

 

■組織的に取り組みましょう

一人では疲れます。心が折れそうになるときも。この集会実行委員会関係者には釈迦に説法でしょうけれども、それぞれの地域においても、プロジェクトチームなどを組織して作業に取り組むことをおすすめします。札幌の公契約運動[19]は、ナショナルセンターの垣根をこえた労働組合・弁護士・研究者らで構成されています。

[19] 結成10年をこえる「札幌市公契約条例の制定を求める会」の取り組みなどは以下を参照。

https://roudou-navi.org/author/koukeiyaku/

 

各地の取り組み・運動をつないで大きなうねりをつくっていきましょう。

 

 

参考文献

川村雅則「【教材庫】非正規公務員・会計年度任用職員」『NAVI』2023年10月3日配信

 

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