アンケート調査結果がまとまった(川村雅則ゼミナール『北海学園大学 学生アルバイト白書2022(連載10)』)ことをうけて、結果の考察と、問題解決に必要な取り組み・政策を、1部のゼミ生たちがまとめました。ゼミ生たちの苦労が分かるよう、彼らの作業や思考の「痕跡」をなるべく残しました。

なお、ここで使う調査の結果は、原則として1部の調査結果です。『白書(連載10)』からの転載で、表番号もそのまま転載したものです。

川村雅則ゼミナール『北海学園大学 学生アルバイト白書2022』(連載1~連載11)

連載1  連載2  連載3  連載4  連載5
連載6  連載7  連載8  
連載9  連載10  連載11

 

 

1.コロナ3年目のアルバイト実施状況

1では、対面授業移行時のアルバイト勤務の変化や、現在のアルバイト状況などについて整理し、学生アルバイトは回復したのかを、コロナ以前のゼミの調査結果と比較しながら考察していきます。

対面授業への移行に伴う勤務の変化やアルバイト実施状況に関する調査結果

第一に、新年度にあたりオンライン授業から対面授業へ移行にした際にアルバイト勤務に変化(支障)は生じなかったかを尋ねたところ(表Ⅱ-2 対面授業が開始されたことにともなう勤務状況や収入の変化)、「(以上のような)変化はない」は29.7%にとどまり、「勤務時間帯や曜日を変更した」40.1%、「勤務回数や勤務時間数を減らした」38.5%、「アルバイト収入が減った」が25.0%でした。

対面授業への移行で十分に働くことができなくなるケースが生じるのではないかと予測して尋ねた結果ですが、移行期にはとくに問題がみられたようです。なお、この影響がその後も継続しているのかどうかはさらに詳しく調べる必要があります。

 

表Ⅱ-3a 現在のアルバイト実施状況【複数回答可】

単位:人、%

全体 1部 2部
431 100.0 289 100.0 142 100.0
固定のアルバイト1つのみしている 260 60.3 169 58.5 91 64.1
固定のアルバイトをかけもちでしている 53 12.3 37 12.8 16 11.3
固定のアルバイトと単発のアルバイトをかけもち 44 10.2 33 11.4 11 7.7
単発のアルバイトのみをしている 12 2.8 9 3.1 3 2.1
アルバイトをしているが、他にも探している 43 10.0 26 9.0 17 12.0
アルバイトをしていないが、探している 34 7.9 26 9.0 8 5.6
アルバイトをしておらず、探してもいない 34 7.9 19 6.6 15 10.6

 

第二に、現在のアルバイト実施状況(表Ⅱ-3a、表Ⅱ-3b)によると、アルバイトをしているのは84.4%でした。求職活動状況をみると、「アルバイトをしているが、他にも探している」や「アルバイトをしていないが、探している」は、ともに9.0%でした。

 

勤務時間数(就業機会)は回復したか

以上のようなアルバイト実施状況をふまえて、コロナ3年目の学生のアルバイト量は回復したのかを、勤務時間数を取り上げて、コロナ以前(2018年、2019年)のゼミでの調査結果との比較で検討してみます[1]

 

図 月別にみた「学生アルバイト」人数の推移(2019年1月~)

注:対象は、15~24歳の「通学のかたわらに仕事」をしている男女。
出所:総務省「労働力調査(基本集計 第I-2表)」より作成。

 

その前に、総務省「労働力調査」の結果をみると、人数ベースでは、2019年の同じ月に比べても回復をしているようにみえます。

では、週の勤務時間数を取り上げて、過去の調査と今年の調査を比較をしてみます。

但し、第一に、今年の調査がオンラインで行っているのに対して、過去の調査は、教室内で(講義やゼミで)紙の調査票を用いて、その場で配付・回収をしています(お願いベースとはいえ、その場の全員に半強制的に回答してもらうのと、オンラインで任意で回答してもらうのとで調査結果に違いが生じるかもしれません)。

第二に、どの年も、勤務時間数が長くなる長期休暇の影響は反映されないよう回答してもらっているのは共通です(2022年調査が「夏休み明け現在の、1週間の勤務時間数」、2019年調査が「普段の1週間の労働時間」、2018年調査が「夏休み前(4月から7月まで)の1週間の労働時間」)。

第三に、回答者の性別や学年の構成は異なります。とくに、勤務時間数が短い傾向にある1年生のウェイトに注目すると、2022年調査では36.3%、2019年調査では32.9%、2018年調査では30.8%となっています。

過去の調査と今年の調査のこうした違いをふまえ、あくまでも参考データにとどめます。

 

表 2018年、2019年、2022年の調査回答者(1部生)の1週間の勤務時間数

単位:%

10時間未満 10~15時間未満 15~20時間未満 20~25時間未満 25~30時間未満 30時間以上 (再掲)15時間以上 (再掲)20時間以上
2018年
n=265
14.3 32.8 24.5 15.1 9.1 4.2 52.9 28.4
2019年
n=814
20.8 24.7 30.0 16.0 6.3 2.3 54.6 24.6
2022 年
n=244
25.5 24.2 30.3 13.9 4.5 1.5 50.4 20.1

注:本文に記載のとおりそれぞれの調査や回答者には違いがあることから参考データにとどめます。
出所:各年の調査結果より作成。

 

2018年、2019年、2022年の1部生の週の勤務時間数の調査結果を整理したものが表です。

「15時間以上」が最も多いのは2019年データで、その値は54.6%ですが、2022年データは4.2ポイント低いだけにとどまります。

但し「20時間以上」でみると、2018年データの28.4%に比べて8.3ポイントの差があります。また、時間数の短い「10時間未満」に注目すると、2022年データでは、4人の1人の割合(25.5%)を占めて、2018年との差は10ポイントを超えます。

記載のとおり、2022年調査では、勤務時間数の短い傾向にある1年生を多く含むなど、回答者の学年構成も異なりますので、参考データにとどめますが、コロナ前と同じにまで回復したかどうかは慎重な判断が必要であると思われます。

 

 

2.シフト制勤務をめぐる問題と対策

2では、シフト制勤務に関する今回の調査結果を整理し、次に、諸外国の政策・経験を参考文献から学び、日本で必要な対策を考えていきます。

 

シフト制勤務に関する調査結果

第一に、88.5%と学生の多くがシフト制勤務で働いていました(表Ⅱ-16)。シフトが組まれる周期は(表Ⅱ-17a)、最多が「1か月ごと」60.2%、次に「2週間・半月ごと」21.3%、「1週間ごと」17.1%という順序でした。

第二に、シフトには希望した通りに入ることができるかという質問(表Ⅱ-17b)には、「ほぼ希望通りに入ることができる」が81.9%と多数を占めました。また、回答者の多くは、シフトの現状に満足していました(表Ⅱ-17d。「非常に満足している」と「まあ満足している」を合わせると80.5%)。一方で、一定数は、シフトに「希望通りに入れないことがときどきある」と回答している(14.8%)ほか、シフトに不満を持っていました(「少し不満がある」と「非常に不満がある」を合わせると18.5%)。

 

表Ⅱ-17c シフトに関する問題状況の有無【複数回答可】

単位:人、%

全体 1部 2部
324 100.0 216 100.0 108 100.0
急にシフトに入れられる 44 13.6 29 13.4 15 13.9
入れないことをすでに伝えているのにシフトに入れないかどうか問い合わせの連絡がくる 58 17.9 42 19.4 16 14.8
シフト希望を多く出さないと、シフトに入れてもらえない 15 4.6 8 3.7 7 6.5
シフトの決まるのが遅い 118 36.4 81 37.5 37 34.3
シフトに入れるか入れないかで、スタッフ間で差別的な扱いがある 7 2.2 3 1.4 4 3.7
すでに決まっていたシフトが取り消しにされることがある 24 7.4 17 7.9 7 6.5
その他 5 1.5 2 0.9 3 2.8

 

第三に、シフトに関する問題状況でも(表Ⅱ-17c)、「シフトの決まるのが遅い」37.5%のほか、「入れないことをすでに伝えているのにシフトに入れないかどうか問い合わせの連絡がくる」19.4%、「急にシフトに入れられる」13.4%などの回答がみられました。

加えて、今年度の調査では尋ねませんでしたが、コロナ1,2年目の調査(2020年調査、2021年調査)では、緊急事態宣言や営業の自粛・時短営業の要請で就業機会がなくなった/減ったほか、休業手当の支給など所得保障がなかったことが明らかになっています。

こうした問題状況を念頭において、対策を検討する必要があります。

 

問題解決に必要な取り組み・政策と、諸外国の取り組み

厚生労働省は、新型コロナ禍でのシフト制労働をめぐる労働相談や紛争が多発したことを受けて、「留意事項」を2022年1月に発出しました[2]。「留意事項」では、例えば、シフト制労働契約を結ぶ場合、事前に確認するべき項目として以下の点があげられています。

 

・シフト作成時に、事前に労働者の希望を聴くこと

・決定したシフトを通知する際の期限や通知の方法

・確定したシフトの労働日や労働時間を、キャンセルしたり変更する場合の期限や手続

(※一旦確定した労働日や労働時間等の変更は、基本的に労働条件の変更に該当し、使用者と労働者双方の合意が必要である点に留意する。)

 ・一定期間中の、目安となる労働日数・労働時間数など

 ①最大の労働日数や時間数 ②目安の労働日数や時間数 ③最低限の労働日数や時間数

出所:厚生労働省「いわゆる「シフト制」について」より。

 

ここにあげたようなことを労使間で事前に確認し、認識をすりあわせておくことで、問題の発生を防ぐことが期待される──そのように当初はゼミで考えたのですが、しかし、この「留意事項」には強制力はなく、果たしてどこまで実効性はあるのかという疑問をもちました。

ゼミでは、シフト制労働をめぐる問題について早くに問題を提起した、労働組合・弁護士による「黒書」[3]のほか、雑誌『労働法律旬報』所収の、シフト制労働の実態に関する論文を読んできましたが、あわせて今回、シフト制に関する諸外国の経験を取り上げた論文を読むことで、日本が学ぶべきものを考えてみました[4]。とくに、龍谷大学名誉教授で労働法が専門の脇田(2022)に多くを学びました。

脇田(2022)には、2010年代ころから先進工業国で登場してきた「シフト制労働」の弊害を各国がどのように、そして、どのような内容で克服してきたか、が示されています。

例えば、日本がその経験を学ぶべきと紹介されているニュージーランドでは、使用者が多くの労働者を雇用しておきながら週にわずか数時間の労働しか与えなかったり、病欠連絡をした場合や管理者と口論になった場合にシフトを失うなど、シフト配分が懲罰メカニズムとして濫用されているという問題があったそうです。

こうした状況に対して労働組合「UNITE」(サービス産業を組織する労働組合)は、使用者との間で「最低保証労働時間」を定める労働協約を締結したり、また国会では、既存の雇用関係法が改正され(2016年)、以下のような成果が得られたとのことです(脇田(2022)p33の「表4 世界の注目すべきオンコール労働規制法」より)。

  • 契約に出勤対応可能性条項がある場合の補償
  • 同条項がない場合の労働者の労務拒否権
  • 業務拒否による不利益扱い禁止
  • シフト取消の予告と補償など。

 

日本でもこうした政策・労働規制を取り入れることで、シフト制問題の改善に貢献するのではないでしょうか。脇田(2022)p35で整理された「シフト制労働をめぐる立法課題」と学生たちの経験(とりわけコロナ初期の就業機会の喪失や所得補償の欠如を含む)をふまえると、次のようなことが課題であると考えます。

第一に、勤務シフトの作成・変更などについては、労働者の実質的な合意を図ることです。「実質的な合意」と脇田(2023)でも書かれていますが、学生の経験では、実際には、使用者による一方的な変更であったり労働者(学生)から形式的な合意しか得られていないケースも少なくないと思われます。

第二に、 労働契約を結んでいるのにシフトがないという「ゼロ時間」契約を原則として禁止すること、最低保証時間を定めることです。

第三に、確定した勤務シフトの変更については、最低の事前通知期間の設定、労働者による 拒否権、変更に応じた場合の補償の支払い義務づけなどが必要です。

以上のように、法の整備によって、シフト制労働者のセーフティネットを強化することが重要だと考えます。

 

 

3.ワークルールとユニオン(労働法と労働組合)

3では、学生アルバイトにみられた違法な状況を整理し、該当するワークルールの説明をします。また、ワークルールがあっても、職場の問題の解決はなかなか難しい現状をふまえて、問題解決の方法を考えていきます。

 

賃金の支払い単位、有給休暇に関する調査結果

第一に、賃金(時間外労働、残業)の支払い単位は何分かを尋ねた結果(表Ⅱ-12)では、「1分単位で支払われている」が最多であったものの、割合は40.2%にとどまりました。

1分単位以外では、「15分単位で支払われている」が19.7%と多く、「5分単位で支払われている」、「10分単位で支払われている」、「30分単位で支払われている」結果を足し合わせると32.0%に及びました。また、「わからない」という回答も23.0%を占めました。

賃金は1分単位で支払うことが決められています。労働基準法第24条によれば、「賃金の支払」は次のように定められています。

 

「第二十四条 賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない。〔略〕」

 

そのため、労働時間1分単位に対して賃金を支払うことが原則であり、15分単位などで切り捨てることは「賃金の全額払いの原則」に反しており、違法です。

 

第二に、現在のアルバイト先では学生アルバイトが有給休暇を使うことはできるかという問い(表Ⅱ-18)には、「できる」という回答は38.1%にとどまり、「わからない」が38.9%、「できない」が22.1%でした。

「できない」と回答した者はもちろんですが、アルバイト先で有給休暇を使うことができるか「わからない」という者は、そもそも、有給休暇に関するルールを正確に理解していないと思われます。有給休暇については、労働基準法の第39条によれば、次のとおりです。

 

「第三十九条 使用者は、その雇入れの日から起算して六箇月間継続勤務し全労働日の八割以上出勤した労働者に対して、継続し、又は分割した十労働日の有給休暇を与えなければならない。」

 

付与される日数については、フルタイム労働者と、学生アルバイトなどパートタイム労働者とで異なるとはいえ、学生アルバイトも、当然、付与の対象であることが周知される必要があります。

 

問題解決に向けて立ち上がれない現状と、労働組合という問題解決手法

上で述べたとおり、学生アルバイトなど労働者を守るワークルールをまず知ることが重要です。

私たち学生の多くは、ワークルールに関する教育をほとんど受けていないため、知識がなく、自分自身が問題に直面するまで、ワークルールについて関心をもつこともあまりないと思われます。場合によっては、問題に直面しても、そもそもそれが問題なのかどうかの判断もつかないおそれもあります。そうした状況につけこまれてブラックバイト問題が生まれているのではないでしょうか。

ワークルール教育による知識の普及は、学生が自分の身を守るだけではなく、ブラックバイトへの抵抗力を社会全体がつけるためにも必要だと思いました。

一方で、ワークルールを学んで知識を得ても、そのことを口に出して権利を主張できる学生は、限りなく少ないと考えられます。立場の強い使用者(店長、社員)に対して意見を言うのを「恐れる気持ち」や、どうせ問題は解決できないだろうという「諦めの気持ち」があるからです。学生による問題解決はやはり難しいのでは、と考えていたとき、労働組合(ユニオン)による次のような問題解決事例を知りました[5]

すなわち記事によれば、2022年10月27日、パート・アルバイトなど飲食店で働く人たちが加入する労働組合「飲食店ユニオン」が都内で記者会見を開き、回転寿司業界の労働問題を改善していくために、「回転寿司ユニオン」を結成したことを発表しました。スシローで働くAさん(18歳)とBさん(20歳)は、運営会社に対して次のような要求書を送ったそうです(8月31日付)。

①労働時間が5分単位で計算され、5分単位で賃金が切り捨てられているとして、1分単位での計算に変更すること。

②始業前の手洗いなど準備時間の作業に賃金が支払われていないとして全ての業務をタイムカードの打刻後に行うように運用を改善すること。

③時給を1500円に引き上げること。

④名札にフルネームを表示させないこと。最低限、苗字だけにすること。

⑤夏場高温になる店舗のため、空気設備を充実させること。

 

これらのうち①②は、私たちの調査でみられた問題とも共通する内容です。

そして、記事によれば、スシローからの回答が9月月22日にあって、③以外の要求は合意されたり改善がされる(予定含む)とのことです。

こうした事例から、たとえパート・アルバイトであっても問題を解決する道があることが具体的に理解できました。

 

小括

まず、そもそも、ワークルールを学ぶだけでは、権利行使の手段や実際を知るまでには至りません。そういったことにも配慮したワークルール教育が必要ではないでしょうか[6]。また、ワークルールや労働者救済の制度は複雑であり、学生が実感をもって理解することは簡単ではありません。誰でも理解できるように教えることも大事であると思います[7]

次に、労働組合という問題解決手法を学びました。もちろん、こうした事例を知っただけで学生が動き出せるわけではないと思います。労組結成・加入で不当な扱いを受けてしまうのではないかという不安がありますし、そもそも、権利主張を行う人間をクレーマーとして排除する雰囲気がある、との指摘には、たしかにそのような傾向があるように思います[8]

問題解決のために権利を主張・行使するハードルが低くなること、また、そのことで使用者から不利益な扱いを受けないように国の機関がしっかり監視し、働く側を支援できるような制度が大切ではないかと思います。

立場の弱い労働者が行動を起こす際にそれを支える条件の整備が必要であると考えます。

 

 

 

4.学費負担、貸与型奨学金と対策

4では、学生たちがアルバイトをする理由やアルバイト収入の使途、学費負担や奨学金利用に関する調査結果を整理します。そして、必要な対策として、高等教育の修学支援新制度の拡充を提起します。

 

働く理由や収入の使途、学費負担や奨学金利用に関する調査結果

第一に、アルバイトをする理由について1部では、2部生と異なり、遊び・趣味等に使うお金を稼ぐためという理由が、(「どちらかといえば」まで含めると)全体の3分の2を占めて多かったです(表Ⅱ-14)。

ただ、「どちらかといえば」まで含めると、「学費・生活費等を稼ぐため」という回答も合計で17.6%を占めることには注意が必要です。また、アルバイト収入の使途の最大のものを尋ねた結果(表Ⅱ-15b)でも、「大学の授業料」をあげた者が11.1%みられることも確認しておきたいと思います。

 

表Ⅲ-2b そのうち主な学費負担・学費の原資

単位:人、%

全体 1部 2部
431 100.0 289 100.0 142 100.0
親の収入 282 65.4 218 75.4 64 45.1
高等教育の修学支援新制度(授業料の減免、給付型奨学金) 40 9.3 22 7.6 18 12.7
その他の給付型奨学金 4 0.9 2 0.7 2 1.4
貸与型奨学金(返済を必要とする奨学金) 66 15.3 39 13.5 27 19.0
自分自身のアルバイト収入 31 7.2 3 1.0 28 19.7
その他 7 1.6 4 1.4 3 2.1
無回答 1 0.2 1 0.3

 

第二に、学費負担・学費の原資の主な一つを尋ねた結果は(表Ⅲ-2b)、「親の収入」が75.4%と全体の4分の3を占めている一方で、「貸与型奨学金(返済を必要とする奨学金)」が13.5%、「高等教育の修学支援新制度(授業料の減免、給付型奨学金)」が7.6%みられます。前者の貸与型奨学金は借金ですし、後者の新制度を使っているということは、利用学生が経済的に厳しい条件におかれていることが推測されます。

第三に、奨学金の利用状況については、給付型奨学金の利用者が合計で29.3%(表Ⅲ-4)、学生支援機構による貸与型奨学金の利用者が合計で38.1%(表Ⅲ-5)となっています。また、貸与型奨学金を利用している者のうち、月8万円以上(4年間で384万円)の利用が利用者の4人に1人の割合です(表Ⅲ-6)。

「返済できるかどうか不安である」など自由記述でみられたとおり、若者の労働市場の問題状況などをふまえても、将来の奨学金返済が懸念されます[9]

 

必要な対策──高等教育の修学支援制度を中心に

修学支援新制度や給付型奨学金を利用している学生は私たちの調査でも一定数みられました。

しかし、制度の利用基準が厳しい[10]ため、制度を使いたくても使えていない学生もまた存在すると思われます。そして、そういう制度を使えていない学生の中にも、実際には、学費や生活費で困窮している者がいることは、自由記述(「学費、生活費(家賃含む)を自費で負担するとかなり生活が苦しい」、「全部自分負担なので返済のことも考えて貯金もしたいが対面が増えるとバイトも減らさざる〔を〕得ないので厳しいです」)からも推測されます。

授業料等の減免と給付型奨学金で構成された高等教育の修学支援新制度[11]を拡充することが求められていると考えます。

現行の制度では、例えば、4人世帯で年収380万円を超えてしまうと適用されないという、対象範囲が非常に狭いという問題がまずあります。予算をもっと増やす必要があると考えます。また、支給基準が3段階であること、支給内容に崖のような差が出てしまっていることなども改善が必要です[12]

なお、私たち学生は、こうした制度や高等教育政策に関心をもって、正しい知識を身につけて、積極的に発言をしていく必要があると考えます(修学支援新制度を「知っている」という回答は60.2%にとどまり、「知らない」も37.8%みられました)。

 

 

以上でみてきたような今回の調査の結果や研究の成果を、学生やその家族、大学関係者に対して、もっと積極的に、そして、もっと分かりやすく、発信していくことが私たちゼミの今後の課題です。

 

 

補論 学生アルバイトの働きやすさと働きづらさ

今回の調査では、「現在のアルバイト先は働きやすいか、働きづらいか」を尋ねた上で(表Ⅱ-20)、どのような点が働きやすいか/働きづらいかを自由記述で書いてもらいました。前者(働きやすい点)への回答が263人、後者(働きづらい点)への回答が49人です。

回答をどう整理したらよいか悩んで時間がかかりましたが、一つ一つの回答から主な記述内容を抽出して、整理をしてみました。それが次の2つの表です(記述内容は複数もあるため、上記の人数を上回ります)。

初めての作業経験であり、設定した要素は妥当であるか、抽出作業に漏れはないか、ということの検討が必要なことからも、本データは、全体の傾向をみる上での参考資料扱いにとどめたいと思います。

 

表1 働きやすさの要素別集計(複数回答あり)

職場の人間関係・雰囲気 171人 65.0%
働き方・仕事内容 65人 24.7%
シフト 63人 23.9%
賃金 15人 5.7%
勤務地 8人 3.0%
福利厚生 5人 1.9%
研修 3人 1.1%
まかない 3人 1.1%
不満がない 2人 0.7%
アルバイト意見反映 1人 0.3%
常連のお客様 1人 0.3%

 

 

「働きやすい」と回答した者の中で最も多かったのは、「職場の人間関係・雰囲気」で、全体の65.0%が回答していました。続いて、「働き方・仕事内容」が24.7%、「シフト(シフトが組みやすい、など)」が23.9%でした。

働き方やシフトなどは重要ですが、それ以上に、「職場の人間関係・雰囲気」が働きやすさに大きな影響を与えていると思われます。

 

表2 働きづらさの要素別集計(複数回答あり)

働き方・仕事内容 19人 38.7%
職場の人間関係・雰囲気 17人 34.6%
賃金 6人 12.2%
シフト 6人 12.2%
人手不足 5人 10.2%
客層 3人 6.1%
指導 1人 0.3%

 

 

逆に、「働きづらい」と回答した者の中で最も多かったのは、「働き方・仕事内容」で、全体の38.7%が回答していました。続いて、「職場の人間関係・雰囲気」が34.6%です。これら2つがあがっている点は「働きやすさ」と同じですが、回答の割合は異なりました。

 

 

注釈

[1] ゼミでの過去の調査結果はここからダウンロードできます

[2] 厚生労働省「いわゆる「シフト制」について」を参照。

[3] 首都圏青年ユニオン・首都圏青年ユニオン顧問弁護団「シフト制労働黒書」2021年5月発行。

[4] 雑誌『労働法律旬報』では順に、第1992号(2021年9月下旬号)では「シフト制労働者―新型コロナ禍における実態を通して」が、第1996号(2021年11月下旬号)では「諸外国における「シフト制」労働をめぐる法規制の展開」が、第2013号(2022年8月上旬号)では「シフト制労働の法的課題」が、特集されています。

[5] スシローのバイトがユニオン結成「回転寿司チェーン業界を変えたい」、熾烈な価格競争のあおりで「労働者に負担発生」『弁護士ドットコムニュース』2022年10月27日 16時18分。

[6] ワークルール教育の進め方は、本田(2017)や道幸(2018)を参照。

[7] 例えば、個々の労働者と事業主との間の労働トラブルについて自主的な解決が困難であった場合に、あっせん員が双方の間に入って話し合いによる解決をサポートする「個別斡旋制度」というものがありますが、どう使えばよいのか、どのような効果があるのか、学生には分かりづらいと思いました。

[8]上西(2016)や道幸(2018)を参照。

[9] 「奨学金を勧めた私、正しかったか 「人生縛るリスク」37歳元教師の罪悪感」『朝日新聞』夕刊2022年12月19日付で紹介されている内容によれば、「日本学生支援機構によると、2021年度末現在、奨学金を借りている人は約140万人。21年度中に機構の奨学金を返還している人は約464万人。うち延滞している人は約29万人いる」とのことです。

[10] 家計基準の詳細は、日本学生支援機構「進学前(予約採用)の給付奨学金の家計基準」を参照。

[11] 制度については、文部科学省「高等教育の就学支援新制度」を参照。

[12] 新制度の問題点などは、小林(2021)を参照。なお、小林(2021)で紹介されている数値によれば、新制度には投じられている予算は、「2021年度予算では、約5800億円が計上」とのこと。

 

 

参考文献一覧

上西充子(2016)「権利主張という発想がない若者の現状を出発点に」『季刊労働者の権利』第314号(2016年4月号)pp.61-67 

川口智也、有野優太(2022)「厚労省「留意事項」の批判的検討」『労働法律旬報』第2013号(2022年8月10日号)pp. 6-10

栗原耕平(2021)「飲食産業におけるシフト制労働の実態と『シフト制労働黒書』」『労働法律旬報』第1992号(2021年9月25日号)pp.7-14

小林雅之(2021)「コロナ禍における学生の困難と支援の課題」『住民と自治』第702号(2021年10月号)pp.7-10

道幸哲也(2018)「権利実現のためのワークルール」『労働法律旬報』第1903・1904号(2018年1月25日号)pp.45-56

本田由紀(2017)「ワークルール教育をいかに進めるか」『季刊労働者の権利』第318号(2017年1月号)pp.49-61

脇田滋(2022)「シフト制労働に関するあるべき法改正の検討」『労働法律旬報』第2013号(2022年8月10日号)pp.22-37

 

 

Print Friendly, PDF & Email
>北海道労働情報NAVI

北海道労働情報NAVI

労働情報発信・交流を進めるプラットフォームづくりを始めました。

CTR IMG