川村雅則ゼミナール『北海学園大学 学生アルバイト白書2022(連載8)』の続きです。聞き取り調査の結果(連載を参照)や、過去に実施してきたアンケート調査などに基づいて調査票を作成し、今年度も、アンケート調査を実施しました。ここでは、アンケート調査を実施する直前の指導、助言などを再現します。
川村:聞き取り調査とその取りまとめ作業、あらためてお疲れさまでした。
学生:いやー、調査って難しいものですね。
川村:どういう点がですか?
学生:まず調査にのぞむにあたって、準備が不足していました。
例えば、○○について尋ねよう、というレベルでは、何を聞こうとしているのか全く明確ではありませんでした。例を挙げると、勤務時間を尋ねようという場合、一日の勤務時間をイメージするところですが、平日と土日で働き方が異なる人もいます。また、勤務時間数を尋ねるだけでよいのか、何時から何時までという始業時刻と終業時刻も尋ねるのか、も統一していませんでした。
その結果、聞き取りで持ち帰ってきたものがバラバラということが結構ありました。
川村:そうでしたね。
学生:どういう問題意識に基づき、何を聞くのか、という点をしっかり共有しないまま調査にのぞんでしまったことに問題があったと思います。
川村:とくに今回は、一定の人数から話を聞いて、結果を数量的にまとめることが予定されていたのですから、まとめの作業を意識して聞き取りの項目を準備する必要がありましたね。
学生:でもさっきのような質問って、アンケート調査でもよかったんじゃないですか。「一日の勤務時間は何時間ですか」と聞いて、時間を書いてもらったり、選択肢を設けるなら、例えば、「①2時間未満、②2~3時間未満、③3~4時間未満、④4~5時間未満・・・」とする感じです。
川村:そうですね。
学生:え?そうなんですか?アンケート調査でよかったんですか。
川村:いや、つまりこういうことです。聞き取りといっても、調査票をがっちりつくりこんで、読み上げるような形式で回答してもらう型の(構造化された)聞き取り調査もあれば、回答者に自由に回答してもらう型の聞き取り調査もあります。先ほどのような質問の場合には、前者で十分でしょう。
しかし例えば、アルバイト先で違法な状態があってもつい我慢して働いてしまう学生の心理を知りたいということであれば、構造化された調査票を用いるよりも回答者に自由に話をしてもらい、話の展開に応じながら回答を引き出していったほうがよいでしょう。
学生:なるほど。聞き取りという手法でなければ聞けないことをしっかり聞くように、と先生が言っていたのはそういうことだったんですね。
川村:もちろん、上で述べた学生の心理についても、ある程度の回答が出そろった後には、それらを分解して、例えば、「①店長・社員さんが怖いから、②働きづらくなるから、③別の条件ではよい面もあるから・・・」などと回答選択肢を設けた調査票に落とし込んでいくこともできないわけではありません。ただ、選択肢で全てを網羅できているかどうかという懸念はありますし、とりわけ予備的な調査の段階では、自由に回答してもらいながらあれこれ引き出す手法が好ましい、という考え方もあるかと思います。
学生:なるほど。
川村:社会調査の技法や考え方などを知っておくことは将来就職してからも役に立つと思いますので、社会調査に関する本を1冊でも読んでおくとよいですよ。ハンディだけれども、調査の考え方や技法もまとめられた、宮内泰介・上田昌文(2020)『実践自分で調べる技術(岩波新書 新赤版1853)』という岩波書店からの新書をおすすめします。
ちなみに、私が大学時代に読んだのは、森岡清志編著(1998)『ガイドブック社会調査』日本評論社です。本棚から引っ張りだして今回あらためてパラパラとめくってみましたが、最近の自分の調査を反省的に振り返る機会になりました。
さて、調査の準備不足がメインですが、それ以外にも色々と反省すべきことが今回の調査ではあったかと思います。アンケート調査では、実施すれば何らかの結果は出ますから、よく考えずに安易に実施されるケースが少なくありません。その前に、こうして聞き取り調査を経験して、何かを調べるときの考え方や作法などを話す機会をつくれたのはよかったと思います。
学生:そう言えば、調査にのぞむ前に先生からいろいろ助言されていたことを思い出しました。そのときには意味がよく分かりませんでしたが、こうして調査を経験したことで、少し分かった気がします。
川村:はい。経験しないとなかなか身につかないものですから、まず予備的にやってみて、反省に基づきながら本格的な調査にのぞむ、という手順もありかと思います。連載5から8にかけてあらためて読み直して、今回の調査について、調査前・調査時・調査後(結果の取りまとめ)の各段階での反省点や改善の内容などをしっかり整理しておいてください。
学生:はい。
調査前・調査時・調査後の反省点及び改善の内容(連載5、連載6、連載7、連載8)
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川村:では、聞き取り調査で明らかになったことや深まった皆さんの問題意識などに基づき、今年度のアンケート調査における調査票を作成しましょうか。あれもこれも聞きたいかと思いますが、分量を多くすると回答の負担が増えますから、問題意識を明確にして少し絞り込んでいきましょう。
学生:通学時間を知りたいです。オンライン授業から対面授業になったことで通学の負担が増えました。増えたというか、コロナ前に戻ったというのが正確かもしれませんが、ただ、私自身も含め、負担に感じられているようなので、そもそも通学にどの位の時間がかかっているのかを知りたいです。
学生:それならさ、時間的な負担だけでなく、費用面も調べようよ。アルバイト収入から通学の費用を捻出している学生はそこそこにいたよね。通学費用は、誰が負担していますかーって聞こう。
学生:関連していうと、アルバイト収入の使途も聞きましょう。今回の聞き取りではちゃんと聞くことができなかったので。
学生:賛成。じゃあ、アルバイト収入の使途として考えられるものをみんなであげていこうか。えーと、、、
川村:そういうやり方もあるけれども、調査の精度を高めるためには、先行研究を参考にするのが適切だと思いますよ。先行研究に学んだ上で、欠けている選択肢などが何かあればそこに付け足せばよいと思います。たしか、過去の我々の調査でも、そういう質問を設けた記憶があるかな。過去の『アルバイト白書』に掲載されたアンケート調査票も参考にしてください。
ほかはいかがですか?
学生:シフト制について掘り下げて調べましょう。アルバイト先のシフト制がどういう条件かによって働きやすさなどが違ってくると思います。昨年のにならってシフト制かどうかを聞いた後に、シフトが組まれる周期を聞きましょう。
学生:あと、希望通りにシフトに入れるかどうかも重要じゃない。
学生:逆の場合は?私のバイト先では、希望を提出した後にも、他の日にも入れないかどうかの店長からの連絡が結構あって、断るのに心理的な負担を感じているんだよね。
川村:シフト制をめぐるそういう問題状況を他にもあげてみて、整理をして、該当するものにチェックをつけてもらう方式はどうでしょうかね。
学生:いいと思います!
学生:働きやすさ、働きづらさはどうする?
学生:聞き取りでの失敗をふまえて、働きやすさを選択式で尋ねた後に、その内容を自由に書いてもらうのはどう?
学生:いいね。みんながどんな点に働きやすさ/働きづらさを感じているのかを知りたいね。
川村:あのー、老婆心ながら申し上げますと、自由に書いてもらったのを集計、分析するのはなかなか大変ですよ。例えば、書いてある内容を分類していくイメージで話していると思いますが、回答数が多いと大変でしょうし、しかも、書いてある内容は一つとは限らないでしょうから、どう集計、分析するかも考えた上でのぞんだほうがよいですよ。
学生:働きやすさや働きづらさの要素として考えられる選択肢をこちら側で設けて、回答者に選んでもらう、という手法もあったよね。そういう聞き方はどう?
学生:んー、ただ、私たち自身も、働きやすさや働きづらさの要素をよく分かっていないし、今回はあまり時間もないので、予備的な調査という位置づけで、自由に書いてもらうのでどうかな。
学生:そうだね、そうしようかー。
川村:皆さんがそう言うならこれ以上とめませんが、苦労すると思いますよー(苦笑
〔検討作業、議論は続く〕
川村:はい。では、最終の確認ですが、調査の依頼文と調査票はこれでよろしいでしょうか。皆さんの問題意識などを反映させました。誤字脱字はありませんか。目を皿のようにして最終確認してくださいね。
〔次ページが、今年度に用いることになった、実際の調査依頼文と調査票〕
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