川村雅則ゼミナール『北海学園大学 学生アルバイト白書2022(連載1)』 の続き。
大学生のアルバイト状況等を明らかにすることを目的とした聞き取り調査を、1部(昼間部)と2部(夜間部)それぞれのゼミで行いました。就職活動のために参加できなかった4年生を除き、聞き取りは、2,3年生で行いました。調査・研究活動自体は、2~4年生で進めていく予定です。
聞き取り調査の概要と、聞き取り調査の例を紹介します。
調査の概要
調査の方法
第一に、聞き取りは、対面かオンラインのいずれかで行いました。調査に要した時間は、30分から1時間ほどなのですが、後で述べるとおり、聞き取るべき内容を、ゼミ内できちんと共有せずに調査を開始したために、聞き漏らしが生じ、後日に、追加で聞き取りを行ったケースが少なくありませんでした。
調査の対象
第二に、聞き取り調査の対象は、例年通り、北海学園大学の学生です。ゼミ生が話を聞きやすい友人・知人、先輩・後輩などに依頼して協力を得ました。1部では29人から、2部では10人から、回答が得られました。
調査の内容
第三に、調査内容は、以下にまとめたとおりです。こんなことを聞き取ったらよいのでは、とゼミ内で話し合った点はよかったのですが、その後、話し合い結果に基づく聞き取り「調査票」を作成せずに調査にのぞんだために、聞き取った内容は、調査員(ゼミ生)によってばらつきがありました。
調査票はかっちりしたものを作らないと結果の整理の際に苦労をするよ、という助言はなかなか伝わらないもので、結果として学生たちは苦労をしたわけですが、経験に学ぶことも大事です。今回の経験は次回に活かされるでしょう。
話を戻しまして、ですから以下の調査内容は、学生たちがゼミ内で話し合っていたことや彼らが実際に聞き取った内容などに基づき私(川村)が整理したものです。こんなことも聞いてみたら?という私の思いも少しまざっているかもしれません。調査をされる際の参考にしてください。
- 回答者の属性(学年、住まいの状況)
- アルバイト先の業種、職種・仕事の内容、勤続年数
- コロナ下で大変だったときと最近のお店の忙しさの状況
- 働き方に関すること:勤務時間帯・時間数(始業・就業時刻)、週や月の勤務時間数・勤務回数、シフト作成の周期や一度に決める期間など
- 賃金・収入に関すること:時給額(土日や繁忙時間帯、早朝などに異なる時給額が設定されていないかどうかも意識しながら)、昇給の有無や基準、月の実際の収入額と希望する収入額、収入の使途、交通費の支給の有無など
- 授業とアルバイトの関係:オンライン授業時期と対面授業時期のそれぞれの働き方、オンライン授業から対面授業への移行に際しての働き方(通勤を含む)・月収の変化や苦労したことの有無・内容、オンライン授業と対面授業のどちらを望むかなど
- アルバイト先におけるワークルールの遵守状況:労働時間管理、未払い賃金の有無、有給休暇の付与状況や使用実績など
- アルバイト先での働きやすさや働きづらさ、困っていることや要望など
- 学費負担、奨学金利用の状況、アルバイトの理由、暮らしのことなど
なお、ワークルールの遵守状況については、時間外労働の支払い・計算単位時間をめぐる問題や、着替えなど準備作業への賃金支払いをめぐる問題が、ちょうど話題になっていました(例えば、「すかいらーくが支払いへ 賃金、5分未満の切り捨て分 パートら9万人に16億円」『朝日新聞』朝刊2022年6月9日付、「着替え時間の賃金未払い、是正勧告 厚労省ガイドラインでは労働時間 「まいどおおきに食堂」運営会社」『朝日新聞』朝刊2022年7月15日付など参照)。
調査の時期
調査の実施時期は、1部と2部で少しずれましたが、6月の中旬から7月下旬にかけて調査を行いました。
今後の作業
以上の聞き取り調査の結果を現在取りまとめているところです。聞き漏らしを追加で聞き取れたケースもあれば、聞き取れなかったケースもあるようです。ですから、調査結果をまとめる際には、調査で聞かなかったのか、聞いたけれども本人が分からなかったのかは、意識してまとめるように指示をしました。
いずれにせよ、取りまとめが終わり次第、報告をしたいと思います。
なお、この作業が終われば、アンケート調査票の作成に取りかかる予定です。コロナ感染拡大の状況もにらみながら、調査票の設問内容や調査の実施時期を検討したいと思います。
聞き取り調査の例
聞き取り調査を学生たちが行う前に、例を示したほうがよいと思い、過去の聞き取り事例や『白書』を示したほかに、ご縁のあった、飲食店で働く夜間部の学生Aくんから私が聞き取りを行い、その結果を取りまとめて、学生たちに提示しました。
本来は、聞き取った内容だけを書くべきですが、学生の参考になればと思い、Aくんの反応やAくんの回答に私がどんなことを感じたか、などの情報も少し付け加えてみました。調査は2022年6月に行いました(内容の確認を7月にAくんにしてもらいました)。
Aくんの勤務・労働条件の概略
飲食店に勤めておよそ1年が経過した。
Aくんの勤務時間数は平均で月に70時間ほどである。週に何日×何時間入るなどのことは契約時にはとくに決めていないという。自分自身からもとくに聞かなかったし、お店の側からの説明もほとんどなかった、と記憶している。現在は、およそ9時間に及ぶ「通し」の勤務に二日ほど入るほかに、早番(午後あがり)の勤務に入っている。週3日ほどの勤務である。
休憩時間が30分与えられており、実際、その時間は休憩をとることができているのだが、この30分分は労働時間に含まれており、賃金の支払い対象になる。時給は900数十円である。また、「通し」の勤務に入った場合には、数百円の手当がつく(この点は後で再度ふれる)。
労働時間管理・賃金支払いをめぐる問題
話を聞いていると、Aくんの職場には労働時間の管理、賃金の支払いなど、少なからぬ問題があるようだ。本人もそのことをそれなりに自覚している。
まず第一に、開店時刻より30分前にはお店に入って準備作業をしなければならないのだが、その分の賃金が発生しないことである。
第二に、労働時間はタイムカードに自分自身で記入をするのだが、30分単位での記入を指示されている。そのため、例えば、20時15分に仕事を終えても20時と記入をしなければならない。
第三に、年次有給休暇制度は設けられていないという。制度がないのか、それとも、制度はあるけれども取れないのかをAくんに尋ねたところ、「〔制度が〕たぶんないと思う。聞いたことがないから。」とのことである。
以上の他に、できる仕事が増えたとしてもとくに昇給のないことが、Aくんの疑問だという。
賃金不払いに対する思いや、職場に対する評価
上記のようなことをどう思っているのかAくんに尋ねると、準備作業に賃金が支払われない点には不満があるという。大学生のスタッフ全員が不満をもっている。
あるとき、「30分早くに来ているのにどうしてそれをタイムカードに書けないのか」とスタッフの1人が店長に尋ねたところ、30分早くに来ることを店側は義務づけているわけではない、けれども、30分早くに来ないと開店準備ができないのだから仕方がないのでは、といったニュアンスのことを言われたそうだ。結局は、「うちの会社はゆるくやるっていうスタンスだから」の一点張りでかわされてしまったという。
不満で学生スタッフたちはお店を辞めないのかをAくんに尋ねてみた。「ん~」と考えながら、「ゆるいのがよい」のと、「店長さんや社員さんがいい人だから」、なかなか辞められないのだと回答してくれた。新しい仕事を探すのが面倒であるという思いもある。他のスタッフも同じような意見だという。職場の人間関係のよさを理由に違法状況の是正を断念してしまうのは学生たちからよく聞く話だ。そもそも、違法があったとしても強く抗議などできないのが学生アルバイトに広くみられる実態ではないかと思う。
とはいえ、それはこれまでの話であって、今現在は、お店を辞めるために他店でのアルバイトを探しているという話も他のスタッフからは出ているそうだ(転職活動がコロナ下で制限されていたのが、少しゆるんだのかな、と推測した)。
Aくん自身も、現在は、希望通りの時間数を働けていないこともあって、悩んでいる。アルバイトを始めた当初は月に90時間ほど働いていたのだが、社員の労働時間確保のために、アルバイトの勤務が後回しにされているのだという。現在70時間なのを以前ほどに回復させたいというのがAくんの思いだ。希望通り稼げないのと賃金不払いの事情もあって、Aくん自身も別のバイトをさがすか、ダブルワークを考えているのだという。
ところで、Aくんの言う「ゆるいのがよい」という内容をもう少し知りたくて、あらためて尋ねたところ、例えば、お客さんがお店にいないなど暇なときには携帯をいじったりテレビをみていてもよい。こういうアイドルタイムの自由さが気に入っているほか、髪型や髪の色、ピアスなどもとくにチェックはされないのだという。なるほど、と思った。
ちなみに、「通し」の勤務に入った際に支給される数百円の手当は、残業割増の未払いをごまかすものではないかと思って計算をしてみたが、どうも、そのようなごまかしではないようだ。休憩分30分の時給も支払われているというし、むしろ、25%割増よりも得をしているという計算になった(ただ、本来は、8時間超の労働時間に対しては、30分ではなく60分の休憩が必要であるのだが)。Aくんたちスタッフが今のアルバイト先を辞めない理由は、こういう点も反映しているのだろうかと思った。
もちろん、30分分の不払いを店長に問いただした学生スタッフの行為に示されるとおり、Aくんたちが不満をもっていないわけではない。また、ワークルールに反した状況があればそく離職するものだ/離職すべきだと考えるのも、Aくんたちのおかれた状況や様々な事情をつかみ損ねている発想とは言えないだろうか。
Aくんたち学生のことを我々はもっと知る必要があると感じた。
月の収入と、学費負担・奨学金利用など
さて、Aくんのこの1年での月のアルバイト収入にはばらつきがある。勤務時間数と時給を単純に乗じると月に6万円台から8万円台であるが、稼げるときには月に10万円以上を稼いだという。
一人暮らしのAくんは給付型と貸与型の奨学金を利用している。貸与型は、月に10万円以上を利用している。奨学金を学費負担に使い、アルバイト代は貯金しているという。
月10万円(4年で500万円近く)の奨学金の返済は心配では?という問いには、「ん~」と苦笑しながら、もちろん心配ですけれども、というのがAくんのコメントである。やぼな質問だったか。
月に10万円以上──(貸与型)奨学金のこうした利用状況はすでに知られていることではあるし、我々も、過去の調査で問題の発掘をしてきたところであるが、やはり、目の前の学生に直接伝えられると言葉につまる。お金や生活のことなどさらに聞きたいことはあったが、調査はここで打ち切った。
話を聞かせてくれたAくんに感謝します。
(2022年7月23日記)
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