川村雅則「旭川市公契約条例に関する聞き取り調査(2023年7月)の結果」

NPO法人建設政策研究所が隔月で発行している雑誌『建設政策』第212号(2023年11月号)に掲載された拙稿です。どうぞお読みください。

川村雅則「旭川市公契約条例に関する聞き取り調査(2023年7月)の結果」『建設政策』第212号(2023年11月号)pp.38-43

 

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旭川市公契約条例に関する聞き取り調査(2023年7月)の結果

川村雅則(北海学園大学)

 

Ⅰ.はじめに

北海道内における公契約条例は、理念型に分類される旭川市の公契約条例(2016年12月制定)が唯一である。理念型から賃金保障型への移行は現時点では考えられていない[1]

旭川市では、「公契約に関する施策を総合的に推進する取組の一環として、令和元(2019)年度から本市(契約課工事担当)発注工事に従事する労働者の賃金等についての実態調査」(以下、工事賃金調査)が行われている。最新の調査結果となる令和4(2022)年度の調査結果は、本誌前々号に掲載された川村(2023)拙稿に整理したとおりである。元々は令和元(2019)年から、3年(回)の調査の実施が予定されていたのが、コロナ禍で状況の把握が困難になったことや、令和3(2021)年度の調査で賃金額が前年よりも「下がる」という結果に終わったこともあって、実態把握を継続する必要性に迫られ、4年(回)目の調査が行われたのである。

今回、4年間の工事賃金調査結果の総括や今後の方針などを伺いたく、前回調査から2年が経過した旭川市を再訪した(2023年7月31日)。対応してくださったのは、旭川市総務部契約課の課長と課長補佐である。

結論から言えば、旭川市での工事賃金調査は令和4(2022)年度で一旦休止し、3年程度の間隔を空けて、調査の実施を検討する(内容や方法はその間に検討する)ことが、旭川市契約審査委員会[2]並びに旭川市議会総務常任委員会で同年度末(2023年1,2月)に決定されていた。市の政策動向のフォローが十分にできておらず、こうした動きを筆者は見逃していた。

当日は、この点も含めてお話しを聞いた。本稿で整理する。

 

Ⅱ.調査の結果

1.公契約条例担当部署の体制や業務内容の変化について

まず、前回の聞き取り調査以降、公契約条例(工事賃金調査)を担当している旭川市総務部契約課工事担当の体制や業務内容に何か変化などはないかを尋ねた。旭川市からの回答は、概略以下のとおりである。

第一に、令和4(2022)年度から、職員数が6名から1名減員されて、5名体制になった(非正規への置き換えなどではなく純減)。

減員の理由として大きかったのはコロナへの対応である。コロナ対応に人員を割く必要があった。今後、自治体におけるDX(デジタル・トランスフォーメーション)の進展をふまえると、人数が元に戻ることは考えづらい、とのことである。

第二に、業務内容に変更はないが、契約課業務の中で大きなウェイトを占める入札業務の電子化を進めたいと考えられている。あわせて電子契約の導入も検討されている。そうすれば、入札・契約手続きという事務手続きのために事業者に市役所へ来庁してもらう必要はなくなり、負担軽減だけでなく、事務手続きもスピード化すると予測される。費用面での課題が残ることから、より高い費用対効果が得られるよう検討し、来年度には電子化を導入したい、とのことであった。

 

2.2022年度の工事賃金調査について

旭川市の都合4回になる工事賃金調査結果の概要は表1のとおりである。

 

表1 旭川市の「工事賃金調査」結果の概要(2019~2022年度)

2019年度 2020年度 2021年度 2022年度
有効回答 205社・888人・28職種 228社・811人・32職種 143社・594人・27職種 167社・659人・30職種
労働賃金単価 13,717円 14,059円 13,682円 14,341円
設計労務単価 19,260円 19,873円 19,445円 20,834円
設計労務単価比 71.2% 70.7% 70.4% 68.8%

資料:旭川市「工事賃金調査」より作成。
出所:川村(2023)より転載。

 

今回の聞き取り調査では、第4回目となる2022年度の工事賃金調査のことを中心に尋ねた。旭川市からの回答は、概略以下のとおりである。

4回目となる賃金調査は、事業者側も経験者が多く、支障なく実施できたが、分析は十分であったとは思っていない、とのことである。

最初の年(令和元年)は事業所を訪問して「賃金台帳」を見せていただきながら聞き取り調査が可能であったのが、コロナ感染のために、電話での聞き取りや質問紙を使った調査に置き換わった。また、ある一時点のことは聞くことができるけれども、その後のことなどを深く調べるということが調査の設計上からできていない。そもそも、同一の事業者を継続的に追いかけられているわけではない、という調査の設計上の課題が市からあげられた。

なお、第一に、前半の2年に対して後半の2年での有効回答の減少について考えられる理由としては、市によれば、旭川市の工事件数自体が減少していることがあげられる。令和2年3月(2019年度)には新庁舎の工事が始まって、予算規模は、例年に比べて100億超も多かった。また、昨年度(2022年度)の調査に限定すると、回答期限を早め、8月末までの工事を対象にしたため、その分だけ対象工事が少なくなったことがあげられる。

第二に、昨年度の調査で回答期限を早めた理由は、その後のスケジュールを見越してのことである。元々は、調査の実施期間は3年間を想定していた。しかし、令和3(2021)年度に賃金が下がるという調査結果が示された。コロナの影響や物価高騰の影響を受けた例外的な結果ではないかと思われた。そこで、翌年度の令和4(2022)年度にもあらためて調査を行い、以上の4回の調査結果を踏まえて、今後の取り組みや方向性をまとめようとした。

例年は1月頃に結果をまとめているが、今回は1か月作業を早め、契約審査委員会に1月にはかって、その後、市議会に2月にはかることにした。以上が回答期限を早めた理由である、とのことであった。

 

 

3.2022年度の調査結果に対する旭川市の評価と、今後の取り組みについて

2022年度調査で把握された賃金額は、金額は過去4年間で最も高かったが、公共工事設計労務単価の7割をわずかに切った。このことはどう評価されているか、また、今後の市の取り組みではどのようなことが予定されているかを尋ねた。

第一に、市としては、4年間の調査で1年例外的に賃金額が下がったことを除けば、設計労務単価比では下がっているものの、右肩上がりで賃金が上がっている。企業努力をしていただいている結果ととらえている。賃金が低い職種──例えば、交通誘導員も、元の賃金はとても低かったが、人手不足で金額は結構伸びたと認識している。

また、元請けよりも下請けのほうで賃金が高いという現象も生じている。人手不足を背景に、従来業界で聞かれたような下請けたたきなどしていては、今では仕事を断られてしまうような状況である、と事業者側から聞いている。

加えて、週休2日制度の進捗、労災保険や社会保険の加入が100%になっていることもあわせると、これまで旭川市が行ってきた政策等は一定の成果があったのではないかと判断し、調査は一度休止して、3年程度、様子をみるという結論に至った。

第二に、当初は、事務局としてはこれで調査を終了するという考えであったが、契約審査委員会の中で、こうした調査は、本来は継続するのがよいが、事務局提案を踏まえるなら、3年ぐらい間を空けてまた実施してはどうかという意見が示された[3]。また議会においても同じような意見が出された[4]ため、まずは3年の間を空けて、その後のことを考えることになった。

第三に、今後の取り組みを検討する上で次のようなことを念頭におく必要があると市は考えている。

一つは、この間、公契約の領域に限らず、日本全体の賃金の低さ・引き上げが課題になっていて、最低賃金も加重平均で1000円を超える状況になっている。国全体のこうした情勢も踏まえる必要がある。

二つは、調査の方法も検討が必要である。増減を把握するならば、本来は、対象業種のそれぞれで事業者・労働者を抽出してその後を追いかけていくのが適当ではないかと考えている。

三つは、設計労務単価の上がり方が非常に大きくなってきている(図1を参照)。賃金調査を実施して導き出されたものとは認識しているが、労働者は果たしてここまでの賃金を受け取っているのだろうか。今回旭川市の調査では70%を割ったが、では、100%近くを受け取っている地域が果たしてあるのだろうか。とくに何か調べたわけではないが、設計労務単価で示された金額そのものに疑問があるとのことである。

 

図1 公共工事設計労務単価 全国全職種平均値の推移

出所:国土交通省「令和5(2023)年3月から適用する公共工事設計労務単価について」より(注釈は省略)。

 

第四に、もちろん、だからといって、設計労務単価の7割で十分であると考えているわけではない。また、労務単価が引き上げられた分だけ上乗せして予定価格を設定しており、その分だけ賃金が上がるというサイクルができつつあるのではないかと感じている。

以上が、市の見解であった。

 

4.業務委託等での賃金調査の予定、入札制度の検討課題など

旭川市では、公契約条例に基づく賃金調査は工事に限定されている(条例の適用は工事に限定されているわけではない)。

賃金保障型の公契約条例が制定された自治体では、業務委託や指定管理なども条例の適用対象となっている。業務委託や指定管理についても賃金調査を行う予定はないかを旭川市に尋ねた。関連して、入札制度の検討課題などを尋ねた。

旭川市からの回答は概略以下のとおりである。

第一に、建設工事以外の業務委託や指定管理などの調査の予定は現時点ではない。契約審査委員会に諮問されているのも建設工事に限定されている。

第二に、予定価格を作る際の人件費部分について、賃金の決定基準で何を使うかは担当の課にゆだねられている。旭川市で統一的に使われているのは、施設の清掃業務のみで、具体的には、建築保全業務労務単価の清掃員A~Cが使われている。

他の業務委託では、旭川市の非常勤職員の給与や「積算資料」という雑誌などが活用されている。何を賃金の決定基準に使うかという旭川市での統一ルールはとくにない。但し、直営から指定管理に移行するときには、直営時代の市の職員の給与が参考にするケースが多いと思われる。

第三に、業務委託の場合、費用をきちんと積み上げて予定価格を作っているのが清掃業務だけなので、(工事賃金調査のように)賃金調査を実施することは難しいと思う。

工事と同じように積み上げ方式で予定価格が作られているのが清掃業務だけで、他は、「平均額方式」という手法が採用されており、入札の平均額の85%が最低制限価格として設定される。こうした制度についても見直しの検討をしていく必要がある。

第四に、入札制度に関するその他の検討課題は次のとおりである。

一つは、複数年契約制度である。複数年契約制度導入の要望が業界団体から強くあって、十数年前に導入した。単価が上がっても変更ができないという同制度のデメリットの説明をし、納得をしてもらった上で導入したのだが、単価の上昇が顕著な近年では、毎年の単価の見直しを求める要望が上がってきている。

二つは、平成17(2005)年度に入札・契約制度の見直しが国で行われた際に、旭川市でも、建設工事は一般競争入札を原則にしたり、業務委託には複数年契約制度を導入するなどの見直しを行った。以降、運営をして今日に至るが、不具合も出てきていて、制度の見直しが必要な時期になってきているのではないかと感じている。

一例をあげると、以前は落札率90%であれば談合とみなされていたのがダンピングだという指摘を現在では受けるようになったことに象徴されるとおり、入札を取り巻く状況にも変化がみられる。そうした状況も踏まえ、実際、旭川市でも、業界からの陳情・議会での採択への対応として、「土木工事Bクラス」の最低制限価格の引き上げも2022年度に行ったところである[5]

第四に、関連して業界の変化について言及すると、無理を下請けに押しつけるような従来のやり方では人が集められない。市の発注する土木に限って言えば、昔に比べると元請・下請関係が改善され、適正な賃金も業界内でかなり浸透しているのではないかと認識している。週休2日制もかなり進んできて、その分の工期が長めにとられている。受注者側で工期設定が可能なフレックス方式も採用している。建退共や社会保険も、以前は加入率が非常に低く、労働組合との交渉でも課題として提示されていたが、契約の条件とさせてもらったことで大きく改善がされた。

もちろん課題はなおあって、例えば旭川市では、建築は分離発注しているが、「躯体工事」の進捗の影響を受ける「設備工事」の側に負担が生じていることなどの話を聞いている。

以上が旭川市からの回答である。

 

 

5.公契約条例の今後

工事賃金調査が一旦休止することで公契約条例に直接的に関連した業務はなくなると思われた。旭川市の公契約条例は今後、どのような機能を持つのだろうか。また賃金保障型条例への移行は検討されているか、などなどのことを尋ねた。

旭川市からの回答は概略以下のとおりである。

第一に、公契約条例に直接関連する業務としては、今後は、業界団体への啓発活動が主になると思われる。

第二に、条例の制定で旭川市の発注の基本方針(表2)が定まったことにより、安定的な事務が可能となった。

例えば、基本方針では、地域経済の活性化があげられているが、それにそって、地域限定の入札を行うことが可能となった。従来であれば、こうした地域要件を課すことには、入札談合という指摘を受ける懸念があった。

また、工事賃金調査自体は一旦休止するが、週休2日制工事の拡大など、適正な労働環境の確保に関連した取り組みは進められる。その意味では条例そのものが休止するわけではない。

 

表2 旭川市公契約条例における「基本方針」

第3条 公契約に関する施策は、次に掲げる基本方針に基づき、推進されるものとする。

⑴地域内での経済の循環及び活性化を図ること。

⑵公契約に係る業務に従事する者の適正な労働環境を確保すること。

⑶品質及び適正な履行を確保すること。

⑷公平性、公正性及び透明性の向上を図ること。

出所:旭川市公契約条例より。

 

第三に、賃金保障型の条例の必要性については、現時点では考えていない。事業者と話をしていても、次のような話になる。

すなわち、年間を通して仕事があるわけではない中で、例えば設計労務単価の8割の賃金を保障しても、工事ができない時期の雇用や賃金はどうするのか。条例適用工事で労務単価比8割の賃金が保障されれば、働く人もそれで幸せになると単純に言えるのか。そこを見極められないというのが正直なところである。

従来の建設業界では、雪が降れば労働者は出稼ぎに行き、出稼ぎを終えて戻ってきたらまた同じ会社で雇われていたが、高齢化という事情もあって、出稼ぎはできない、給料を均す感じでよいから(社会保険もつけて)雇ってもらえないか──そういうニーズが労働者側からあがっていて、それに対応している、という声が事業者ヒアリングで聞かれた。

例えば、指定管理のような通年の仕事であれば年間を通した雇用計画も立てられるが、積雪寒冷地である北海道の場合、建設工事で、労働者の賃金保障を行うのは難しいのではないか。また、公契約条例が適用された工事から業界全体に賃金(労働報酬下限額)を波及させていくというのも、難しいのではないかと考えている。

以上のようなことから、行政としても、なかなか前に進めないのが実情である[6]、というのが旭川市の見解である。

 

なお、表3と表4は、旭川市から提供いただいた資料である。同市における公契約の規模、入札・落札の状況を理解するのに参照されたい。

 

表3 旭川市の発注事業一覧(2020~2022年度)/単位:件、億円

年度 一般競争入札 指名競争入札 随意契約 合計
件数 金額 件数 金額 件数 金額 件数 金額
建設工事注1 2020年度 303 85.42 1 0.08 2 1.74 306 87.23
2021年度 281 100.61 0 0.00 2 1.45 283 102.06
2022年度 279 110.22 0 0.00 0 0.00 279 110.22
工事関連業務(測量・設計等)注1 2020年度 120 4.68 1 0.02 0 0.00 121 4.70
2021年度 96 4.89 1 0.05 0 0.00 97 4.94
2022年度 119 5.89 3 0.12 3 0.14 125 6.15
物品購入注2 2020年度 14 13.52 90 1.63 3,483 2.57 3,587 17.72
2021年度 11 3.42 68 1.23 3,363 2.54 3,442 7.19
2022年度 10 2.70 71 1.32 3,520 2.92 3,601 6.93
業務委託注3 2020年度 202 159.19 471 36.19 1,935 81.81 2,608 277.18
2021年度 163 48.98 426 25.33 1,772 128.02 2,361 202.34
2022年度 203 57.82 441 23.91 1,909 136.78 2,553 218.51

注1:契約課(市長部局)発注分。
注2:契約課(市長部局)発注分(単価契約済発注を除く)。
注3:業務委託については水道局、市立病院を含めた全部局分(水道局、病院含む)。
出所:旭川市提供資料より筆者作成。

 

 

表4 2021~2022年度の入札結果・工種別落札率等

工種 ランク 2021年度 2022年度
件数
(件)
予定価格
(億円)
落札金額
(億円)
落札率
(加重平均)
(%)
件数
(件)
予定価格
(円)
落札金額
(円)
落札率
(加重平均)
(%)
営繕系工種 建築 A 8 29.70 29.30 98.63% 5 25.45 25.10 98.63%
建築 B 10 2.84 2.57 90.43% 9 1.91 1.77 92.78%
建築 C 2 0.10 0.09 92.94% 10 0.80 0.76 94.49%
解体 なし 1 0.04 0.04 92.15% 0 0.00 0.00
塗装 なし 2 0.10 0.09 91.27% 1 0.05 0.04 91.50%
電気 A 21 5.44 5.25 96.45% 22 7.26 7.04 97.05%
電気 B 7 0.26 0.25 95.49% 6 0.24 0.23 96.25%
A 26 10.58 10.09 95.34% 29 13.70 13.05 95.28%
B 4 0.15 0.14 92.97% 3 0.10 0.09 95.03%
鋼構造物 なし 2 0.07 0.06 98.93% 1 0.03 0.03 99.24%
小計 83 49.27 47.87 97.14% 86 49.52 48.12 97.16%
土木系工種 電気通信 なし 2 0.40 0.38 96.27% 1 0.07 0.07 95.02%
機械器具 なし 1 1.32 1.31 98.93% 1 5.53 5.43 98.19%
土木 A 27 15.13 14.64 96.72% 20 14.78 14.39 97.38%
土木 B 90 17.15 15.56 90.72% 91 18.42 16.90 91.75%
土木 C 8 0.34 0.31 90.62% 8 0.49 0.45 91.87%
舗装 なし 37 7.34 6.61 90.03% 40 7.52 6.90 91.71%
とび・土工 なし 1 0.08 0.07 89.07% 3 0.09 0.08 91.68%
造園 なし 34 6.29 6.05 96.14% 29 8.21 7.87 95.78%
小計 200 48.05 44.92 93.48% 193 55.11 52.08 94.51%
合計 283 97.32 92.78 95.34% 279 104.64 100.20 95.76%

出所:旭川市提供資料より筆者作成。

 

 

Ⅲ.まとめに代えて

冒頭に述べたとおり、旭川市の公契約条例の中心的な取り組みであった工事賃金調査がいったん休止となった。工事賃金調査の結果から賃金の改善が確認されることや、人手不足や市の政策の進展などを背景に、業界秩序や労働条件・働き方などに改善がみられることによる。

筆者は、公契約の現場の実態を行政が把握して、政策に活かしていくことを期待している。その点で旭川市のこうした賃金調査を評価していた。それゆえ、調査の中止という今回の市の判断は妥当であったか。「適正な労働環境を確保する」のに必要な情報が収集できるよう、調査の対象や内容などの改善を図っていくべきだったのではないか、と感じている。

例えば、第一に、市にも認識されているとおり、個々の事業者の賃金の引き上げ等の有無が把握できる設計にした上で、引き上げを行った/行わなかった理由や、引き上げが可能であった/不可能であった背景なども把握できるようにすべきではないか。

第二に、工事以外の業務委託や指定管理でも同様の賃金調査が行われるべきではないか。その際、支払い賃金の額もさることながら、事業の担当課でそもそも何を人件費の算出根拠にしているかの整理とその妥当性の検討が、理念型とはいえ公契約条例が制定されている中で、必要ではないか[7]

関連して、業務委託等では「平均額方式」という手法が採用されている現状を鑑みても、実勢価格や現場の実態を反映した適正な予定価格の設定が可能となるような基礎データの整備・充実が必要ではないか。

賃下げスパイラルの状況から、賃上げが国家的な課題となったこと、担い手確保の観点が国の建設産業政策においても強化されてきていることなどを踏まえ、自治体の取り組みがより前進するよう、我々も調査・研究を継続していきたい。

 

 

 

[1]  2021年5月の旭川市からの聞き取り調査による。同調査の結果は、川村(2021a)から川村(2022)にかけて整理した。

[2] 同委員会の設置目的は、「市の公共工事等に係る入札及び契約について、その適正化の促進に関する事項について調査審議する」こと。

https://www.city.asahikawa.hokkaido.jp/500/565/578/579/p003738.html

[3] 市が当初示した今後の方針の正確な内容は、次のとおり。「今後は、市の施策を進めながら、この状況について様子を見たいと考えております。試行要領に掲げる賃金実態調査については、この会議において一定の区切りを付けていただき、当面の間、5年から10年位程度を、週休2日工事の実施といった公契約条例に則した施策を別途続けながら、賃金上昇及び適正な労働環境確保に向けて取り組むことにしたいと考えているところでございます。」

詳細は、「令和4年度第2回旭川市契約審査委員会(2023年1月21日開催)」の議事概要を参照。

https://www.city.asahikawa.hokkaido.jp/500/565/570/571/d077032_d/fil/kaigiroku02.pdf

[4] 詳細は、「旭川市総務常任委員会の記録(令和5年2月15日開催)」を参照。

https://www.city.asahikawa.hokkaido.jp/council/6400/6440/d075390_d/fil/soumu050215.pdf

[5] 陳情の内容などは、川村(2021b)を参照。

[6] 賃金保障型公契約条例に対する旭川市の評価や疑問などは川村(2022)も参照。

[7] 「自治体発注業務における賃金算出根拠を調べる」と題して、『建設政策』第176号(2017年11月号)から第183号(2019年1月号)まで8回にわたって原稿をまとめている。参照されたい。

 

 

参考文献

川村雅則(2021a)「旭川市における公契約条例の経験(1)」『建設政策』第199号(2021年9月号)

川村雅則(2021b)「旭川市における公契約条例の経験(2)」『建設政策』第200号(2021年11月号)

川村雅則(2022)「旭川市における公契約条例の経験(3)」『建設政策』第201号(2022年1月号)

川村雅則(2023)「旭川市及び札幌市における労働者賃金調査(工事)結果の紹介」『建設政策』第210号(2023年7月号)

 

 

 

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