違法状態の合法化だ
安倍晋三首相は、労働者を保護する労働法制を、破壊すべき「岩盤規制」と見なし、自分はそれを破壊する「ドリルの刃」だと豪語する。
その一つに、一定の業務に従事する年収1075万円以上の労働者には、時間外・休日・深夜の割増賃金を支払わないでも良いというものがある。通称「残業代ゼロ法」とか「過労死促進法」などと言われている。
1075万円以上なら普通の労働者には関係ないのでは、と多くの国民は思うだろう。
正直言えば、私もそう思った。そのような高給取りで残業代未払いの相談は、過去数千件受けてきた労働相談のなかで1件もなかったからだ。そこからして、この想定はヘンだと疑うべきだ。
つまりこの制度は、ほとんど有り得ないケースを想定し、まず労働時間規制という「岩盤」に小さい穴を開けること自体が目的なのだ。
経団連は400万円以上をこの制度の対象とすべきだと主張していることから見て、いずれそのラインまで基準は下げられると見て間違いない。
今でも年収300~400万円で、残業代がまともに支払われないという相談が絶えない。
だがタイムカードや自ら記録したメモなど、日々の労働時間を証明するものがありさえすれば、労使交渉や裁判で支払わせることは可能だった。
しかしこの法案が通れば、現在では違法とされる残業代未払いが合法化されてしまう。
これが、安倍首相の目指す「世界で一番企業が活動しやすいビジネス環境」の正体なのだ。
2015年4月3日 毎日新聞(北海道版)掲載 Re:北メールより
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