物言える職場を
若い頃バスの運転手を経験し、鉄道ファンの私は、バスや電車のメカニズムに少しだけ詳しい。
15年程前の極寒の朝、札幌駅から新千歳空港行きの快速電車に乗った時だ。発車してすぐ、ポイントを渡る際の通常とは明らかに違うドンドンという振動で故障を悟った。
それはエアタンクからの配管が凍結し、空気バネが機能していないことは明らかだった。同様の故障をバスで何度も体験している。
通過駅のポイントを渡る度、異常な振動がとどろき、脱線するのではと、生きた心地がしなかった。
終着駅で私が故障の事実を伝えると、乗務員は申し訳なさそうに「しばれる日は、いつもこうなんです」と応じた。旧国鉄からJRへ分割民営化の際、労働組合が四分五裂させられ、弱体化した現実を見た思いがした。
使用者が物言う組合を抑え込むために、組合加入の有無や、所属組合の違いで差別的に取り扱う不当労働行為を、私は度々目の当りにしてきた。それは、人間の尊厳を傷つけるという点で、最も卑怯な労務管理だ。
そのツケとして、人心は荒廃し本音を言えない職場となる。さらに労働者を委縮させる労務管理は、マニュアル優先と相まって、いざと言うとき現場の判断を躊躇させ、大事故を招くリスクをはらむ。
一昨年の石勝線特急火災事故で、最後まで乗客に避難誘導の指示を出せなかったのはその典型だ。鉄道の安全には、現場の労働者が会社に対し堂々と意見を言える環境が不可欠だ。
それを担保する労働組合の責務は大きい。
2013年10月18日 毎日新聞(北海道版)掲載 Re:北メールより
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