小松康則「保健師、保健所職員増やしてキャンペーン──実践にいきる学びとトレーニングの場を」

小松康則「保健師、保健所職員増やしてキャンペーン──実践にいきる学びとトレーニングの場を」『学習の友』第830号(2022年10月号)pp.20-23

 

学習の友社発行『学習の友』第830号(2022年10月号)に掲載された、小松康則さん(大阪府関係職員労働組合(大阪府職労)執行委員長)の原稿の転載です。労働組合活動を元気にする上でのヒントが盛りだくさんです。どうぞお読みください。

 

 

 

現場の悲痛な声からスタートしたキャンペーン

「もう限界」「いったいいつまで続くのか」 現場の悲痛な声からスタートした「大阪府の保健師、保健所職員増やしてキャンペーン」は、現場の保健師や職員とともに、コミュニティ・オーガナイジングの学びと手法を使ってチームを作ることからはじめ、戦略を作り、職場の仲間とともに、オンライン署名の提出や大阪労働局への要請なども行いました。その結果、この2年間で保健所の保健師と職員39人の増員を勝ち取りました。(図①②参照)

図①

図②

 

そして、ゴールを達成しただけでなく、アクションするたびに、組合員が増え、若い組合員の参加が広がったことも大きな成果でした。保健所を組織している支部では、この2年間で新たに50人の組合加入があり、その前を大きく上回る組合員数となっています。また、保健所と同様に恒常的に多忙な職場である児童相談所でも、キャンペーンをしたいという声が上がり、ここでもこの2年間で新たに32人が組合加入し、府職労全体でもあと一歩で増勢に転じるという状況です。

また、今回のキャンペーンを通じて、現場の声をツイッターで発信するということにも力を注ぎました。もともとツィッターが得意だったわけではありませんが、現場の声を広く発信するツールとして活用し、保健師の仕事や保健所の役割を多くの人に伝える役割も果たせたと感じています。キャンペーンを始める前、大阪府職労のフォロワーは約600人でしたが、現在は1万700人にまで増えています。

 

「今なら自分にもできそう」「何かの役に立てれば」

このような従来型のスケジュール闘争だけでなく、コミュニティ・オーガナイジングをいかしたキャンペーン型の運動を取り入れたことによって「役員をやってもいいよ」という人も広がっています。

昨年秋の役員選挙では、保健師や看護師、児童相談所のケースワーカーなど、多忙な職場で働きながら、子育て真っ只中の組合員や青年が次々に「今の府職労の活動なら自分にもできそう」「何かの役に立てれば」と、役員を引き受けています。

 

執行部の女性比率は6割に

その結果、現在の執行部は女性比率が6割となり、半数が小中学生以下の子育て中で、平均年齢は44歳です。こういう体制になったからこそ、みんなが参加しやすく、楽しいと感じられる会議運営をしようと工夫を続けています。

 

会議運営の工夫を重ねる

毎週のように仕事終わりの夜間にリアル開催していた会議はやめて、原則完全オンラインで月2回土曜日の午前中(約2時間半)に開催するようにしました。そして、会議時間の3分の2ぐらいは3~4人の小グループで話し合い、その内容をシェアする時間にしています。会議の議事録はグーグル・ドキュメントで作成し、仕事や家の都合で会議に参加できなくても、後から会議の議論が見えるようにし、会議で足りないことはLINEグループも活用して補足しています。

子育て中の役員からは「オンラインはとてもありがたい。これなら参加し続けられる」「子どもが写りこんだり、騒いだりしても、みんなが温かく受け入れてもらえるのがうれしい」「提案を聞いているだけでは、特に何の意見も思いつかないけど、小グループで話してるうちに、いろんな意見やアイデアが次々に湧いてくる」「自分の意見や話し合った内容が運動に反映されていると感じる」などの声が毎回伝わってきます。

 

実態に即し創意にあふれた新しいチームを発足

このような会議運営を進める中で、保健師や看護師、若手男性による「SRHR(性と生殖に関する健康と権利)推進チーム(略称:チームせいちゃん)」も発足し、生理休暇取得キャンペーンや妊娠しても安心して働き続けられる職場づくりをすすめる取り組みも進めています。毎週のように夜遅くまでリアルで会議をやっていたときよりも活発な議論がされ、コミュニケーションが深まっているのを実感しています。

 

コミュニティ・オーガナイジングの威力

これらのことができたのは、冒頭にも述べましたが、コミュニティ・オーガナイジングを学び、トレーニングを重ねてきた結果です。同じく、コミュニティ・オーガナイジングを学んでいる京都府職労連や京都市職労の仲間とも定期的にトレーニングをしたり、実践の交流をしていたことがきっかけになって、過労死の危機に追い込まれている保健師をはじめとする職員の力を集めて、労働基準法第33条の見直しをさせたいという思いで「いのち守る33キャンペーン」を立ち上げることにもなりました。今年5月には、全国の保健師や自治体職員にも呼びかけ「スタート集会」をオンラインで開催し、7月下旬には、現場の保健師も参加して、国会議員へのロビイングも行いました。

自民党、立憲民主党、共産党、れいわ新選組、社民党の国会議員に直接会って、現場の思いを伝えることができました。懇談に応じてくれた国会議員からは「現場の保健師の声を聞かせていただき、ありがたかった」「キャンペーンには大きく賛同したい」「超党派で何かしたいと思う」との感想が述べられ、それぞれの議員のSNSでの発信などもしていただきました。

その結果、8月4日には、島村大厚生労働大臣政務官(当時)とのオンライン懇談も実現し、大阪府、京都府、京都市の保健師や職員が長時間労働の実態や職場の状況などをリアルに訴えました。その場にも野党の国会議員とマスコミ各社も参加し、新聞でも報道されました。こうした取り組みや現場の声をツイッターでも連日発信し、署名には、現在約2万5千人の賛同が寄せられています(QRコードに署名)。

 

現場の根幹から出発した取り組みを広げるためにトレーニングの場が必要

 

このように、私たちが現場の仲間と立ち上がれたのは、現場の困難から出発し、ともに運動をつくってきたからです。そして、その姿が職場の組合員、職員に見えることで仲間づくりにもつながっていることを実感しています。

いま、労働組合では、どのように仲間づくりを進めるかが大きな課題となっていると感じています。従来型の組織運営や学習スタイル、「増やせ増やせ」というかけ声だけでは、なかなかうまく進まないということも経験しました。現場の困難から出発し、実践的なキャンペーンや仲間づくりを広げるための学びやトレーニングの場が必要だと考えています。コミュニティ・オーガナイジングを学び、キャンペーンの実践などを交流し、相互に支援し合える体制を広げるために、引き続き頑張っていこうと思います。

 

 

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