危うい勇ましさ
韓国・天安(チョナン)市にある独立記念館には、従軍慰安婦に関するジオラマが展示されている。
慰安所の中では、慰安婦とされた女性が泣いている。一方、慰安所の前では日本兵が楽しそうに順番を待って並んでいる。自分の妻や娘が、他国の軍隊からこのような扱いを受けたらと想像してみて欲しい。本当に胸が潰れる思いだ。
旧日本軍による蛮行は、従軍慰安婦問題だけではない。韓国に限らず、日本の侵略を受けたアジア諸国で、このような歴史を知らない人間はいない。
先日、朝日新聞が従軍慰安婦に関する報道の一部に誤りがあったと新聞紙上で認めた。
そのとたん、「そら見たことか」と慰安婦問題自体が無かったかのように振舞う政府幹部の姿が目に付いた。そこには、かつての日本がしたことを過少に見せ、あわよくば無いものとして扱おうという魂胆が透けて見える。
河野談話の見直しも、その延長線上にある。
過去の過ちから目をそむけるが故に、隣国との関係をうまく作れない国家指導者が、「親友のケンカなら、武器を手に何処へでも駆けつける」がごとく勇ましい。
69年前、勇ましい指導者の下、国中が焦土と化したことを忘れたかのように、日本はいま再び戦争ができる国になろうとしている。
先の大戦で殺されていった数千万人の無念さに思いをはせるとき、一時の火遊びで不戦の誓いである憲法9条を灰にしてはならないと、敗戦の日に自らの心に誓う。
2014年8月15日 毎日新聞(北海道版)掲載 Re:北メールより
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