労働相談

よしね室長の労働相談!最前線⑥ 仕事を辞められない!/立ち上がる勇気があれば

札幌ローカルユニオン「結」の吉根です。

前回は、退職強要の事例を紹介しました。少し驚かせてしまったかもしれませんが、労働相談の現場では、こうした事例は珍しいものではありません。社名はふせましたが、大手だから安泰とかそういうわけではないことは知っておいてください。

とはいえ、こうした問題に対しても皆さんは無力ではありません。労働組合につながってちょっとした知識と勇気を得ることで状況は変えることができるのです。今回は、そんな事例を紹介します。

 

仕事を辞められない!

 

無権利な状態に置かれた非正規労働者の拡大

総務省の「労働力調査」によれば、非正規雇用労働者の割合は4割に近づいています。

日々、労働相談をうけていると、非正規雇用者がいかに無権利な状態に置かれているかを感じます。

ある日、パート労働者からの相談(電話)で、「3年間働いてきた。仕事がきついので辞めたいと半年前から経営者にお願いしているが、辞めさせてもらえない。体調が悪くて休んでいても、(会社に)出てきてくれと言われる」という相談が入りました。

雇用契約書など書類は一切無くて、あるのは給与明細書だけとのことでした。

相談員としては、こうした場合、相談者の雇用形態を尋ね、事例に該当するのが民法第627条なのか第628条なのかを確認しながら対応します。

 

民法

(期間の定めのない雇用の解約の申入れ)

第六百二十七条 当事者が雇用の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる。この場合において、雇用は、解約の申入れの日から二週間を経過することによって終了する。

〔略〕

(やむを得ない事由による雇用の解除)

第六百二十八条 当事者が雇用の期間を定めた場合であっても、やむを得ない事由があるときは、各当事者は、直ちに契約の解除をすることができる。この場合において、その事由が当事者の一方の過失によって生じたものであるときは、相手方に対して損害賠償の責任を負う。

 

彼女の場合には、期間の定めの無いパートだったので、第627条が該当します。つまり、「辞める2週間前に退職届を出せば問題ありません。」とアドバイスさせていただきました。

しかし相談者は、でも、と前置きして「『人が足りないので辞められては困る。勝手に辞めたら損害を補償してもらう』と言われて、今日まで辞められなかったんです。本当に辞めることが出来るのでしょうか」と納得してくれないのです。仕事を辞められないというこうした経験は、皆さんたちにも覚えがあるのではないでしょうか。

そこで私は、有給休暇は何日残っていますかと彼女に尋ねました。すると、「うちの会社には有休が無いと言われている。私も取ったことがない。」とのことです。そこで、「労働組合に相談したところ、有休を取れるのはもちろんのこと、仕事はすぐにでも辞められる、と教えてもらった」と経営者に言うようにアドバイスをしました。

半信半疑のようでしたが、さて後日、「おかげさまで問題無く辞めることが出来ました」とお礼の電話が彼女から入りました。

おそらく経営者は、自分の嘘がばれたこと、しかも、これ以上嘘を突き通していたら、労働組合が出てくると焦ったのではないでしょうかね。

非正規労働者からの相談では、「辞めさせてもらえない」、「有給休暇を取れない」、「ひどいパワハラをうけている」、「(社用車で)事故を起こしたら、全額賠償させられた」、「時間外手当を請求したら雇い止めされた」などなど、彼ら・彼女らが職場で無権利な状態に置かれている実態を反映した相談内容ばかりです。

 

 

辞められない!──退職時のトラブル相談

一件落着と思っていたら、同じような、退職に伴う手続き問題と、年次有給休暇(年休)の取得について、2件の相談が相次ぎました。相談者はいずれも30歳代の女性で、経理事務に携わっていた正社員です。それぞれAさん、Bさんとしましょう。

Aさんは、職場に嫌気がさして(上司と折合いが悪い)、7月末で退職したいと6月後半に申し出たのですが、「次の人が見つかるまで駄目」と断られ、たまっている有給休暇も取らせてもらえない、どうしたらよいでしょう、という相談でした。

もう一人のBさんは、経験が無くても指導するからと面接で言われてこの会社に就職をしたものの、指導する余裕が無いから辞めてくださいと2か月後に上司から言われました。しかもBさんは当初、7月10日付けで辞めてと言われたので、新しい会社に7月15日から行くことを決めたのに、ところが、退職は7月28日付けとするように、と言われて困って相談をしてきたのです。

すでにみたとおり、民法第627条は、期間の定めのない雇用の場合、「各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる。この場合において、雇用は、解約の申入れの日から二週間を経過することによって終了する。」と定めています。Aさんの場合、労働者からの契約解除申入れですが、使用者の拒否理由が、「次の人が見つかるまで駄目」と全く合理性がありません。そこで、7月末をもって退職するという退職届と、合わせて年休取得申請書を提出すれば良いとアドバイスをしたところ、希望通り年休もまとめて取った上で退職ができることになりました。

Bさんの相談は、使用者の側から、雇用契約を一方的に解除するという事案ですが、解雇理由についても解雇手続きも合理性がないので、会社の申し入れに同意しないこと、会社がそれでも契約解除をしたいというなら7月10日付けで解雇をし、解雇予告手当を支払え、と内容証明郵便で通知するように伝えました。おっかなびっくりだったかもしれませんが、アドバイス通りに対応したことで、彼女のほうも無事に問題を解決することができました。

 

立ち上がる勇気があれば

 

廃品回収の買い取り業務をしている男性労働者から飛び込みの相談がありました。相談内容は、一人職場のために年次有給休暇が取れない、ということでした。

彼の労働条件を聞きますと、基本給が17万円で、固定残業手当が5万円(月の時間外が40時間)。始業時刻は10時、終業時刻は19時、あいだに休憩が1時間ということでした。

休日は毎週火曜日と木曜日で、雇用契約書もちゃんとそう取り交わしています。

本社は、彼の働いている職場とは別にあって、従業員も40人ほどいるのですが、彼の職場自体は一人職場だということでした。

入社して7年経っているから年次有給休暇は少なくとも40日はあることはわかっている、しかしこれまでも、冠婚葬祭や親の介護で有休を取りたいと申し出たことはあっても、その都度、社長から、「そんなことで休まなければならないのか」と恫喝されて諦めてきたのだそうです。

私は、組合に入って労働条件を改善することをすすめました。不当な嫌がらせなどのリスクはあるけれども、一緒に闘えば跳ね返すことはできますし、それより何より、闘わなければ労働条件は改善できない、とアドバイスをしました。

彼は、持ち帰って考えると言いましたが、残念ながらその後に連絡はありませんでした。

 

いかがでしょうか。

3人の女性の事例は、仕事を辞めさせてもらえないことへの相談でした。勇気はもちろん必要だったと思いますが、ただ、仕事を辞めるということなので、腹をくくればなんとかなります。それに対して男性の事例は、今後も同じ職場で働き続けなければなりません。有休を取りたいと言い出すことで、働きづらくならないだろうか、社長からいじめにあうのではないか、などの不安を解消できなかったのだと思います。残念ですがその気持ちはよくわかります。

しかしながら、労働組合に入る/労働組合を作ることで、労働者は一人ではなくなります。不当な圧力もみんなで跳ね返すことができます。その具体的なイメージは、また別の機会にお話しをしたいと思います。

 

 

皆さんも職場でトラブルにあったときには、労働組合にご相談を。

札幌ローカルユニオン「結」 は皆さんの力になります。

 

以上、札幌ローカルユニオン「結」機関紙「よしね室長の労働相談!最前線」no.10、no.39、no.41より。

 

 

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