川村雅則「なくそう!官製ワーキングプア第12回大阪集会(2024年11月2日)」報告レジュメ

2024年11月2日に大阪で開催される「なくそう!官製ワーキングプア大阪集会」の報告レジュメです。注釈[1] に記載のとおり、2023年の大阪集会のレジュメの改定版もご参照ください。川村雅則「非正規公務員・会計年度任用職員に関する学習会・集会レジュメ(最終更新2024年2月23日)」『NAVI』2024年3月23日配信

 

(追記)(1)実行委員会のウェブサイト情報に基づき第13回としていましたが、下記のチラシのとおり第12回のようです。タイトルの「第13回」を「第12回」に変更しました。(2)関連するデータなど加筆していきます。(2024年10月27日記)。

 

なくそう!官製ワーキングプア大阪集会/2024年11月2日

会計年度任用職員制度にみる「有期雇用の濫用」の制度化・公募問題と問題解決の現在地、これからの取り組みを考える[1]

川村雅則(北海学園大学)

 

 

 

1.会計年度任用職員制度の何が問題か──雇用面を中心に

1)実効性ある雇い止め規制がない、無期転換制度がない、労働基本権が制約を受けている[2]

2)つづめて言えば、

・「民間の世界ではあり得ない!」状況
・民間非正規であれば「出るところに出たら勝てる」ケースでも「出るところに出ても勝つのが非常に難しい」公務非正規

 

図 雇い止め不安を生み出す仕組み──民間非正規と公務非正規の制度設計の違い

注:公務におけるaの墨塗箇所は、条件付採用期間(試用期間)。bの点線は勤務実績に基づく能力実証が認められた箇所。cの実線は、公募制による能力実証が必要とされる箇所。
出所:筆者作成。

 

[2] 下記の報道などを参照。雇い止め規制に関する問題は川村(2024f)も参照。

(1)小郡市の会計年度任用職員の任用約束を市長が取り消し(2023年大阪集会報告)「元会計年度任用職員「雇い止め」で国賠提訴 福岡・小郡市相手取り」『毎日新聞デジタル』2023年6月28日
(2)原田仁希(2024)「公共を破壊する会計年度任用職員制度──スクールカウンセラー雇い止め問題」『学習の友』第853号(2024年9月号)pp.42-45笹山尚人「東京都スクールカウンセラー大量「雇止め」事件の提訴」2024年10月14日
(3)伊藤舞虹「非正規保育士ら「雇い止めやめて」 名古屋の1千人超に雇用期限迫る」『朝日新聞デジタル』2024年10月4日16時47分「保育士ら1200人「雇い止め」か…問題は非正規公務員の再任用上限 名古屋市「撤廃する状況にない」と見放す」『東京新聞デジタル』2024年10月5日12時00分
(4)「会計年度任用職員にも労働基本権を!」訴訟」『CALL4』。「雇い止め「会計年度任用職員」が立ち上がる!〜働く権利を剥奪する「制度」は違憲」『レイバーネット』2023年3月17日配信

 

 

2.この間の取り組み・運動は制度をどう変えてきたか

1)人事院・総務省通知(2024年6月)によるいわゆる3年公募規定の削除[3]

総務省「会計年度任用職員制度の導入等に向けた事務処理マニュアル(第2版)」の改正について(通知)(令和6年6月28日付総行公第49号)より。

2)国の動きをうけた基礎自治体の動き

(1)東京23区の状況[4]

・もともと制限なし(3)文京区、世田谷区、板橋区
・制限の廃止を決定(6)港区、墨田区、豊島区、荒川区、足立区、練馬区
・検討中(9)千代田区、中央区、台東区、目黒区、中野区、杉並区、北区、葛飾区、江戸川区
・今後検討予定(2)江東区、品川区
・回答を控える(3)新宿区、大田区、渋谷区

(2)北海道内35市でも、
・公募の廃止は、現時点(10月1日時点)で6市から10市程度には拡大が予定(自治体議員情報)。労働組合による秋の「賃金確定交渉」でさらに上積みが期待。
・札幌市においても、「3年公募に関する総務省マニュアルの変更を受け、本市の任用限度については、他都市の状況や制度運用の実態を考慮しながら、現在職員部内で見直しを検討しているところです。」と回答[5]

 

[3] 「第16回なくそう!官製ワーキングプア集会 反貧困集会2024」(2024年10月6日開催)パネルディスカッションにおける全労働委員長の鎌田一さんの報告が、各省とのやり取りなど法制度の形成過程を聞くことができて興味深い(パネルディスカッションは1時間37分55秒あたりから)。と同時に、問題解決までの道のりがいかに困難であるかが理解できる。

[4] 東京公務公共一般労働組合『公共一般』第722号(2024年9月24日号)、なくそう!官製ワーキングプア東京集会実行委員会による調査を参照。後者は、渡辺(2024)を参照。

[5] 筆者による照会への回答(2024年9月25日付)。札幌市の制度は、川村(2022)を参照。

 

 

3.この間、どんな取り組みがなされたか──様々な取り組みの一部の紹介

1)東京集会実行委員会による大量雇い止め調査[6]、公募制継続/廃止の今後の照会

 

2)北海道における取り組み:

(1)大量雇い止め調査、北海道労働局への照会、総務省調査データの北海道分の集計、個別自治体調査など[7]

(2)行政の監視機能が期待される自治体議員(公務非正規問題自治体議員ネット)との共同・連繋:学習会、議会質問アーカイブスなど[8]

公務非正規問題自治体議員ネット「準備会」主催の学習会(2024年8月9日)の写真

 

[6] 安田(2023)など、厚生労働省との懇談・東京集会実行委員会の取り組みをリアルタイムで配信し続けた安田真幸さん(連帯労働者組合・杉並)の記事を参照。

[7] 順に、川村(2024c)川村(2024b)川村(2024a)、などを参照。

[8] 公務非正規問題自治体議員ネットの活動記録を参照(随時更新)。代表世話人である神代知加子さん(石狩市議会議員)の配信記事も参照。

 

 

4.急がれる「応急処置」(労働契約法第19条の職場レベルでの具体化)

1)公募の廃止

2)人事評価制度の整備、労働組合規制

3)合理的理由のない雇い止め規制

人事評価は悪用される危険性がある。雇い止めをちらつかされるなど、新たな「支配」のツールとして使われることへの警戒も必要である。そのことに留意した上で、目的を逸脱するような運用に対する規制強化はもちろんのこと、そもそもの人事評価制度の設計にあたっても、何を評価の対象とするのか、評価によってどこまでの不利益処分を認めるのか、評価とその根拠情報に対するアクセスや抗議の権利などに労働組合規制を張り巡らせるのである。民間を含め、人事評価制度に対する労働組合の先進的な取り組みに学びたい。

会計年度任用職員の場合、昇進・昇格や配置・異動、さらには昇給に評価結果を使われることは(現時点では残念ながら)想定されないのだから、人事評価の目的は「人材育成」に置かれるべきだろう。仕事ができない、勤務成績が不良である場合でもいきなり雇い止めするのではなく、教育訓練の機会などが必要である。この点も民間の場合と同様である。〔略〕

川村(2024f)より転載

 

 

5.取り組み・運動を大きくするには

1)組織をつくる、既存組織に入る、ご当地の関係団体と一緒に取り組む:自治体労働組合、弁護士・労働弁護団、自治体議員、専門業界団体、市民団体、研究者・研究機関などなど

2)様々な取り組み、関連団体を支援する:小郡市・元会計年度任用職員/東京都・スクールカウンセラー/名古屋・保育士等/東京都・ALT(外国語指導助手)などなど

3)情報の整理、配信、共有を行う/プラットフォームの整備[9]

4)民間非正規問題・労働組合と共同する:さしあたり無期転換逃れ・雇い止め問題や均等・均衡待遇問題[10]

5)「一蓮托生」の公共民間労働問題との共同、公契約〔の適正化、条例制定〕運動[11]

・2023・24年度札幌市立小学校/外国語指導助手派遣業務/2,596円(時間額)/外国語指導助手時間講師の単価2,884円(地域手当含む。)をもとに積算。外国語指導助手は教員免許を保持しておらず且つ単独で授業を行うこともできないため、時間講師と同等に計算するわけではなく、時間講師の時給の9/10を乗じた2,596円で計算する整理とした。

・札幌市中央図書館大通カウンター運営業務/事務員/114,100円(月額)/2022年度会計年度任用職員(パートタイム・事務補助職1号)を基準額とする。

 (川村(2024f)。表だけでもご覧ください)

6)最終的には、地方政治・政府を変える運動、地方から変える運動/ミュニシパリズム(地域主権主義、住民参加による地域民主主義)

 

[9] 筆者が共同で管理・運営する「北海道労働情報NAVI」のほか、筆者のウェブサイトの「作業場1(非正規全般、公務非正規)」のページを参照。個人的には「活字」派。

[10] 無期転換阻止プロジェクト主催・日本労働弁護団北海道ブロック共催「非正規/働き続けたいのシンポジウム」2023年3月7日開催における官(公)民労組や弁護士などの報告を参照。

 

[11] 川村(2024f)など公共調達・入札契約に関する調査・研究や、「札幌市公契約条例の制定を求める会」の取り組みなどを参照。

 

 

 

(参考記事)

川村雅則(2022)「札幌市の会計年度任用職員制度の現状を調べてまとめました」『NPO官製ワーキングプア研究会Report(レポート)』第37号(2022年2月号)

川村雅則(2024a)「会計年度任用職員の給与等(勤勉手当・給与改定・最低賃金)に関する総務省調査(2023年12月)の北海道及び道内市町村データの集計結果(中間報告)」『NAVI』2024年5月31日配信

川村雅則(2024b)「大量離職通知制度に関する北海道労働局への質問とご回答」『NAVI』2024年6月15日配信

川村雅則(2024c)「北海道における会計年度任用職員の年度末の離職者数は何人か(暫定版)──北海道及び道内市町村から2024年に提出された大量離職通知書の調査結果に基づき」『NAVI』2024年7月29日配信

川村雅則(2024d)「総務省マニュアルの改正など、9月議会に向けて、注視すべきことがらや調査の結果など」『NAVI』2024年8月13日配信

川村雅則(2024e)「会計年度任用職員にも民間並みの雇い止め規制を」『NAVI』2024年10月11日配信

川村雅則(2024f)「札幌市の公共調達及び総合評価落札方式に関する中間報告(4)──2024年調査に基づき」『建設政策』第218号(2024年11月号)pp.40-45

神代知花子(2022)「石狩市の非正規公務員問題と問題解決に向けた議員活動」『NAVI』2022年7月31日配信

公務非正規問題自治体議員ネット(2024)「公務非正規問題自治体議員ネット活動の記録」『NAVI』2024年9月30日(最終更新)

安田真幸(2023)「(緊急レポート:第5弾(最終))厚労省との7/6第3回懇談会報告 「会計年度任用職員全員が対象人数 ⇒ 公募の対象となる人数 ⇒ 「会計年度任用職員のうち、実際に職を失い再就職先が必要な人が対象」で最終確定しました!!」『NAVI』2023年8月25日配信

渡辺百合子(2024)「首都圏106自治体情報公開請求の報告~大量離職通知を使って会計年度任用職員の離職状況を調べてみました」『NAVI』2024年9月15日配信

 

資料

表 都道府県議会/市区議会/町村議会×男女×都道府県別にみた議員数

 

全議員 都道府県議会議員 市区議会議員 町村議会議員
北海道 1,938 372 2,310 83 17 100 543 158 701 1,312 197 1,509
青森県 545 67 612 41 7 48 184 38 222 320 22 342
岩手県 519 85 604 43 5 48 265 44 309 211 36 247
宮城県 564 107 671 49 10 59 267 58 325 248 39 287
秋田県 405 51 456 35 6 41 237 32 269 133 13 146
山形県 473 72 545 37 6 43 219 39 258 217 27 244
福島県 808 95 903 52 6 58 288 39 327 468 50 518
茨城県 734 126 860 54 6 60 544 100 644 136 20 156
栃木県 439 84 523 41 9 50 274 56 330 124 19 143
群馬県 509 87 596 43 7 50 236 47 283 230 33 263
埼玉県 1,007 329 1,336 78 15 93 693 255 948 236 59 295
千葉県 977 250 1,227 81 14 95 716 199 915 180 37 217
東京都 1,188 595 1,784 82 37 119 1,001 539 1,541 105 19 124
神奈川県 651 213 864 84 19 103 431 150 581 136 44 180
新潟県 507 96 603 48 5 53 372 67 439 87 24 111
富山県 256 32 288 36 4 40 171 23 194 49 5 54
石川県 301 39 340 37 4 41 177 25 202 87 10 97
福井県 280 36 316 35 2 37 154 24 178 91 10 101
山梨県 388 46 434 35 2 37 207 33 240 146 11 157
長野県 864 208 1,072 46 11 57 316 78 394 502 119 621
岐阜県 548 101 649 40 6 46 333 64 397 175 31 206
静岡県 587 133 720 57 10 67 406 102 508 124 21 145
愛知県 989 238 1,227 93 8 101 728 193 921 168 37 205
三重県 429 97 526 42 6 48 229 70 299 158 21 179
滋賀県 323 73 396 38 6 44 219 59 278 66 8 74
京都府 428 120 548 46 13 59 269 90 359 113 17 130
大阪府 732 240 972 65 13 78 589 193 782 78 34 112
兵庫県 737 200 937 73 13 86 525 161 686 139 26 165
奈良県 429 86 515 39 4 43 179 41 220 211 41 252
和歌山県 378 58 436 39 3 42 134 33 167 205 22 227
鳥取県 257 45 302 29 5 34 72 17 89 156 23 179
島根県 288 41 329 31 5 36 150 21 171 107 15 122
岡山県 434 77 511 43 12 55 278 48 326 113 17 130
広島県 454 79 533 56 8 64 300 55 355 98 16 114
山口県 361 55 416 39 8 47 269 35 304 53 12 65
徳島県 339 57 396 35 3 38 147 26 173 157 28 185
香川県 274 56 330 31 9 40 146 28 174 97 19 116
愛媛県 358 58 416 43 4 47 213 41 254 102 13 115
高知県 396 71 467 31 6 37 157 34 191 208 31 239
福岡県 934 176 1,110 74 13 87 518 112 630 342 51 393
佐賀県 315 51 366 34 3 37 174 33 207 107 15 122
長崎県 381 44 425 39 7 46 256 25 281 86 12 98
熊本県 631 78 709 44 5 49 268 34 302 319 39 358
大分県 340 46 386 41 2 43 257 36 293 42 8 50
宮崎県 349 65 414 35 4 39 156 36 192 158 25 183
鹿児島県 622 90 712 40 11 51 322 58 380 260 21 281
沖縄県 593 94 687 41 7 48 242 45 287 310 42 352
合計 26,259 5,519 31,779 2,258 386 2,644 14,831 3,694 18,526 9,170 1,439 10,609
82.6 17.4 100.0 85.4 14.6 100.0 80.1 19.9 100.0 86.4 13.6 100.0

出所:総務省「地方公共団体の議会の議員及び長の所属党派別人員調等(令和5年12月31日現在)」より作成。

 

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