川村雅則「北海道における会計年度任用職員の年度末の離職者数は何人か(暫定版)」

川村雅則「北海道における会計年度任用職員の年度末の離職者数は何人か(暫定版)──北海道及び道内市町村から2024年に提出された大量離職通知書の調査結果に基づき」『NAVI』2024年7月29日配信

 

 

ディーセントワーク(働きがいのある人間らしい仕事)を実現する上で、雇用の安定は重要な要素です。ところが、新たな非正規公務員制度として導入された会計年度任用職員制度では、不安定な雇用ルールが制度化されました。各種の調査では、雇用不安を訴える当事者の声が聞かれます[1]

こうした状況をふまえ、労働施策総合推進法第27条に基づく大量離職通知書制度による大量離職通知書(以下、たんに通知書ともいう)を通じて、北海道(北海道及び道内179市町村)では、会計年度任用職員にどの位の離職者が年度末に発生しているかを明らかにしようと試みました。本稿は、その結果をまとめたものです。

但し、あらかじめ言えば、第一に、上記の制度の対象になっている離職者は、実際の離職者よりも狭い範囲に限定されています(Ⅱを参照)。ですから、必然的に、本稿が把握できた離職者数は、実際の離職者数よりも少ない(はるかに少ない?)ことになります。第二に、大量離職通知書には、「会計年度任用職員(の離職者数)」だけを記載する欄はありません。大方は会計年度任用職員が占める「非常勤職員(の離職者数)」を扱います。第三に、タイトルに「暫定版」とつけているのは以上のような理由によります。

 

 

 

 

Ⅰ.問題意識

会計年度任用職員制度には数多くの問題点が指摘されています。

なかでも、当該職員が従事している仕事自体は恒常的に存在するにもかかわらず、「有期雇用の濫用」を制度化したような雇用(任用)の仕組み──具体的には、1年ごとという任用期間の厳格化、毎年の条件付採用期間(試用期間)の設定、能力実証を理由にした一定期間ごとの公募制の設定[2]など──は、ディーセントワークに反した最たるものではないでしょうか。民間で進められた雇用安定化策(労働契約法第18条、無期雇用転換制度)に逆行をしています。新制度の導入時に掲げられた「任用の適正化」というお題目にも反しているのではないでしょうか。

筆者は、非正規公務員の世界にもディーセントワークの実現を目指す立場ですが、仮に、そのような立場をとらない方であっても、会計年度任用職員に雇用不安がどの位生じているのか、また、離職者はどの位発生しているのか、などを把握することは、政策の効果を検証する上でも不可欠の作業であると考えます。

なお、ここで調べるべき会計年度任用職員の離職者数とは、公募・選考で落とされた職員だけではありません。再度の公募には応じずに離職をした職員、公募の期間を待たずに離職した職員など、全ての離職者を指します。本来は、離職理由別の離職者数を明らかにできればよいのですが、離職者数がそもそも明らかにされていない状況ですから、離職者数を明らかにすることだけでも急ぐ必要があります[3]。労働組合や自治体議員の皆さんは、ご自身のマチの会計年度任用職員にどの位の離職が毎年発生しているかをご存じでしょうか。

一般論として、少なからぬ人数の離職者が毎年発生し続けている組織には、雇い方・働かせ方・処遇のあり方など、広義の労働条件や職場に何らかの問題がある、と考えるのはとくに不自然なことではないでしょう。就活対策でも学生がよく聞かされる考えです。ですから、ディーセントワークやジェンダー平等の実現などを目標とするSDGsを掲げる自治体関係者[4]であればなおのこと、自らの職場を検証して離職者数を減らしていく作業を始めて欲しいと思います[5]

 

 

[1] この問題については、川村雅則「⾮正規公務員が安⼼して働き続けられる職場・仕事の実現に向けて」『KOKKO』第55号(2024年5月号)pp.27-43などを参照。

[2] ちなみに、3年公募制──能力実証を理由に、すでに働いている職員も一定期間ごと(国の非正規公務員にならって3年ごと)に公募に応じさせることを多くの自治体が採用するに至った、総務省の「助言」による3年公募制も、当事者団体や労働組合からの批判と運動によって、修正をされています。2024年6月28日には、国による例示部分を削除する通知が発出されました。そもそも、公募の導入は義務ではなかったことを強調したいと思います。もっとも、こうした総務省の姿勢の変化にもかかわらず、自治体側が公募をやめるかどうかは不透明です。この点は下記の記事をご参照ください。川村雅則「議員の力で、ディーセントワーク(働きがいのある人間らしい仕事)の実現を(番外編)」『NAVI』2024年7月1日配信

[3]伊波洋一議員(沖縄の風)が、2024年5月13日参議院行政監視委員会でこの件で質問をしています。厚生労働省の答弁によれば、2022年度末の(2023年2,3月に提出された)大量離職通知書は、全国で59機関から、会計年度任用職員を含め非常勤職員の離職者数は7416人とのことです。川村雅則「議員の力で、ディーセントワーク(働きがいのある人間らしい仕事)の実現を(3)」『NAVI』2024年5月27日配信を参照。但し、少なくとも北海道分に関してはこの数値は正確ではありません。提出された通知書に記載されていたのは離職を予定していた人数であったこと、また、本来は通知書の提出が必要なのに提出されていない自治体があったことを筆者は確認をしています。

[4] もちろん、実際には、あまり深く考えずにSDGsを掲げている自治体関係者が少なくないのではないか、という印象を筆者はもっています。SDGsウォッシュ(SDGsに取り組んでいると見せかけているだけ)と指摘されても仕方がないような事態です。自らが雇用する会計年度任用職員制度への取り組みを通じて、こうした状況の克服が自治体には求められています。SDGsに関する読みやすい書籍を「参考文献」にあげておいたのでぜひご参照ください。

[5]自治体は、(1)公務員(非正規公務員を含む)の雇用主、(2)建設工事や委託業務など民間への仕事の発注主体(発注者)、(3)地域の雇用政策の主体という3つの顔を持ちます。自らが雇う職員の雇用を軽んじる組織に、発注先の雇用や地域の雇用への政策能力は果たして期待できるものなのでしょうか。疑問です。

 

 

Ⅱ.調査の概要

本調査で明らかにすること

図Ⅱ-1 会計年度任用職員の実際の離職者数と本調査が対象にしている(本稿で扱う)離職者数

注:サイズは、実際の人数規模を示すものではありません。

 

本来明らかにしたいのは、年度末に、会計年度任用職員にどの位の離職者が発生しているのか、ということです。図でいう離職者Aです。個々の自治体に照会をしてすみやかに回答が得られるのであればそうしたいところですが、実際には(筆者の研究体制上からも)、それは難しいと思います。

そこで次善の策として、大量離職通知書制度を使って、当該制度の条件に該当する自治体から提出されている(はずの)通知書に基づき、離職者数Bを把握することにします。

もっとも、条件に該当する自治体の全てから通知書が提出されているわけではありません。結果、本稿で把握できる数値とは、離職者数Cということになります。

なお、沖縄では、沖縄県と県内の41市町村を対象にして労働組合がアンケート調査を行い、図でいう離職者Aを明らかにしているようです[6]。問題意識や体制があれば、調べることは可能だということです。各自治体に足場を持つ労働組合(産別)や政党の皆さんの取り組みに期待をします。

 

2024年に行った調査、取り組み

2024年に筆者が行った調査、取り組みなどを表Ⅱ-1にまとめておきます[7]

 

表Ⅱ-1 大量離職通知書に関して2024年に行った調査、取り組み

1月24日 北海道及び道内35市に対して、大量離職通知書の提出に関する要請文書を郵送した[8]

4月1日 北海道労働局に対して、情報開示請求を行った(第1回目)。請求の内容は、「令和6年1月1日~令和6年3月31日の間で北海道及び北海道内の市町村から提出された、労働施策総合推進法第27条に基づく大量離職通知書」。

4月15日 同日付で開示決定通知が出され、5市1町・計6市町分の開示が文書で伝えられる。結果を受け取り、次の作業を行った。

(1)上記の6市町に電話で照会をする。

(a)5市のうち「札幌市」は、実際の離職者数のカウントとは異なる手法で通知書が記載・提出されていたことが確認されたため、実際の離職者数の提供をあらためてお願いした。

(b)町のケースは、町が直接運営していた施設を指定管理に移行させることで離職者が発生したというケースであった。

(2)上記の6市町以外にも、会計年度任用職員数が多い自治体(表Ⅱ-2を参照)に電話で照会をした。

(a)但し、2023年の筆者による調査に基づき、大量離職通知書制度のことを理解されている自治体や、逆に、通知書の提出は不要と考えているとすでに回答されている「北海道」は除いた。

「道知事部局では、本庁のほか総合振興局・振興局、各出先機関などに分かれていること、加えて、そもそも、本庁であれば各部、総合振興局・振興局であれば総務課・建設管理部・保健環境部などを1つの事業所ととらえていることから、1つの事業所で30人以上の離職者は発生していない。」(以上は、北海道からの回答)。

(b)これらの自治体を除き、会計年度任用職員を500人以上雇っている市(計6市)に追加で電話をした。6市のうち計4市が、本来は通知書の提出が必要な自治体であった。そのうち「苫小牧市」からは、今回は通知書の提出を断念すると伝えられた。「千歳市」は、本稿を公開した現在(2024年7月29日)も、なお離職者数を集計作業中だと思われる(集計を終えた段階で連絡を受けることになっている。6月下旬にも照会しそのことを確認済み)。

6月3日 北海道労働局に対して、情報開示請求(第2回目)を行った。請求の内容は、「令和6年1月1日~令和6年5月31日の間で北海道及び北海道内の市町村から提出された、労働施策総合推進法第27条に基づく大量離職通知書(但し、令和6年4月15日付け北労行開第1号により請求人に対して開示された大量離職通知書で、その後に記載の修正等による再提出がなされていないものを除く。)」。〔下線は筆者〕

6月3日 同日、北海道労働局に対して、大量離職通知書制度に関する照会を行った[9]

6月13日 北海道労働局から、大量離職通知書制度に関する照会への回答をいただく。

6月20日 同日付で開示決定通知が出され、3市(但し、1市は再提出)の開示が文書で伝えられる。結果を受け取る。

 

以上のような作業を行いました。

お忙しいところ、各自治体の担当者の皆さんには大変にお世話になりました。とくに、後述の理由から、札幌市にはご負担をかけてしまいました[10]。この場を借りて、御礼を申し上げます。

なお、以下の表Ⅱ-2には、総務省による調査(「令和5年度会計年度任用職員制度の施行状況等に関する調査」。以下、2023総務省調査)結果に基づき、北海道及び道内35市における会計年度任用職員数をまとめています。各自治体でどの位の人数の会計年度任用職員が働いているのかを知る参考になさってください。

 

表Ⅱ-2 北海道及び道内35市における会計年度任用職員数(2023年)

職員A 職員B 職員A 職員B 職員A 職員B
北海道 6,495 1,873 4,622 留萌市 293 274 19 千歳市 739 470 269
札幌市 3,586 2,775 811 苫小牧市 668 404 264 滝川市 471 399 72
函館市 1,067 1,046 21 稚内市 433 373 60 砂川市 373 344 29
小樽市 846 535 311 美唄市 263 248 15 歌志内市 61 42 19
旭川市 1,918 1,499 419 芦別市 147 98 49 深川市 204 190 14
室蘭市 614 569 45 江別市 1,003 658 345 富良野市 224 184 40
釧路市 1,168 991 177 赤平市 146 137 9 登別市 407 287 120
帯広市 1,238 811 427 紋別市 218 177 41 恵庭市 382 311 71
北見市 1,406 771 635 士別市 422 322 100 伊達市 174 174 0
夕張市 107 40 67 名寄市 613 478 135 北広島市 309 232 77
岩見沢市 611 594 17 三笠市 155 130 25 石狩市 374 202 172
網走市 215 196 19 根室市 270 261 9 北斗市 252 156 96

注1:職員Aは、フルタイム6か月以上+パートタイム6か月以上かつ19時間25分以上。
注2:職員Bは、フルタイム6か月未満+パートタイム6月未満又は19時間25分未満。
出所:2023総務省調査の北海道分データから筆者作成。

 

 

[6]沖縄県労連が県内自治体(県と41市町村)を対象に実施したアンケート調査によれば、2024年3月末に離職した会計年度任用職員の人数は、県内全体で3036人で、会計年度任用職員全体の約2割に及んだといいます。会員限定ですが以下の記事を参照。「13市町村、離職通知怠る/3月県内 非正規30人以上で」『沖縄タイムス』朝刊2024年5月9日付

[7] 2023年の経験は、以下の記事で簡単にふれています。川村雅則「議員の力で、ディーセントワーク(働きがいのある人間らしい仕事)の実現を(3)」『NAVI』2024年5月27日配信の「大量離職通知書に関する調査、経験から」を参照。

[8]川村雅則「北海道及び道内35市に対して大量離職通知書の提出を要請しました」『NAVI』2024年1月24日配信を参照。

[9]作業を進めているなかで、自治体の対応や大量離職通知書制度に疑問をもつに至り、北海道労働局に照会をしました。北海道労働局からの回答とあわせて、以下をご参照ください。川村雅則「大量離職通知制度に関する北海道労働局への質問とご回答」『NAVI』2024年6月15日配信

[10] 下記の拙稿にも書きましたが、札幌市の登録データベースシステムは複雑のようで、いまだに筆者は、どのような情報であれば取得できるのかを十分に理解できておりません。結果として、今回もご負担をかけることになってしまいました。川村雅則「札幌市非正規公務員(会計年度任用職員)調査報告──公募制と離職に関する情報の整理」『季刊北海学園大学経済論集』第71巻第1号(2023年6月号)pp.17-37

 

 

Ⅲ.調査の結果

先の表Ⅱ-1にも書いたとおり、情報開示請求は2回行うことになりました。第1回目の開示請求の結果と第2回目の開示請求の結果を表Ⅲ-1にまとめました。

大量離職通知書に記載された情報のうち、(a)日付(通知書の提出日)、(b)離職者数、(c)うち雇用保険被保険者数、(d)〔離職者数の〕うち常勤職員、(e)〔同〕うち非常勤職員、(f)再就職のための援助の措置、(g)再就職先の確保の状況を取り上げています。見やすくなるよう、市町村名に番号(丸数字)をつけました。

 

表Ⅲ-1 大量離職通知書にみる職員の離職情報等

情報開示請求 市町村名 a日付(提出日) b離職者数 cうち雇用保険被保険者数 dうち常勤職員 eうち非常勤職員 f再就職の援助のための措置 g再就職先の確保の状況
第1回目 ①札幌市 令和6年3月19日 391 171 74 317 〔記載なし〕 〔記載なし〕
②旭川市 令和6年3月25日 268 140 83 185 1 〔略〕。2 非常勤職員(会計年度任用職員)のうち、希望者に対して、必要に応じて別部署での募集を案内。 〔記載なし〕
③帯広市 令和6年2月29日 103 79 25 78 4月1日任用の任期付職員及び会計年度任用職員募集の周知を実施。 2事業所 2人
④北見市 令和6年2月27日 134 67 26 108 〔記載なし〕 〔記載なし〕
⑤名寄市 令和6年2月29日 40 25 3 37 〔記載なし〕 〔記載なし〕
⑥増毛町 令和6年2月28日 54 48 40 14 増毛町から増毛町社会福祉協議会へ運営を移管することにより離職者54名中52名の再就職予定 1事業所 52人
第2回目 ⑦旭川市 令和6年3月25日 268 140 146 122 1 〔略〕。2 非常勤職員(会計年度任用職員)のうち、希望者に対して、必要に応じて別部署での募集を案内。 〔記載なし〕
⑧函館市 令和6年3月31日 289 126 117 172 〔記載なし〕 〔記載なし〕
⑨岩見沢市 令和6年5月20日 36 36 0 36 〔記載なし〕 〔記載なし〕

注:通知書に記載されたままの数値で作成しました(本文で修正などしています)。

 

結果をみながら、大量離職通知書に自治体が記載すべき内容を簡単に説明します[11]

第一に、大量離職通知書は、「1つの事業所で1か月に30人以上の離職者が生じる場合、最後の離職が生じる日の1か月前までに」、ハローワークに提出することが必要になります。「契約期間満了により離職する場合であっても、6か月を超えて引き続き任用されている者は離職者」に含みます。これが総論です。

第二に、「1つの事業所」という記述に関わって、人数(離職者数)のカウント、通知書の提出の単位は、「任命権者ごと」となります。ですから、自治体全体で30人以上の離職者が発生していても、任命権者ごとで30人以上に達していなければ、提出は不要となります。

もっとも、パンフレットに記載のとおり、「30人未満の離職者が生じる場合については、「大量離職通知書」の提出義務はありませんが、一定程度の規模の離職が予定されており、再就職先が確保されていない場合には、円滑に再就職支援を行う必要があるため、ハローワークに「大量離職通知書」の提出等についてご相談ください。」(下線、着色はパンフレットの転載)となっています。

第三に、通知書に記載すべき離職者数(表Ⅲ-1のb)とは、実際に職を失うことになっている職員の人数です。

会計年度任用職員に限っていえば、これから公募にかけられる職員ではなく、離職が決まっている職員です(公募で不合格、期間満了による離職など)。そのほか、定年退職者(但し、再任用が決まった職員は除く)、再任用の退職者、有期雇用の職員(任期付き職員や臨時的任用職員など)で期間満了で退職する者が該当します。

この点に関わって、「①札幌市」の「eうち非常勤職員」の317人とは、離職が決まった職員の人数ではありませんでした(正確に言うと、(1)札幌市長を任命権者とする者で、(2)同一部3年ルールにより令和6年3月31日付での離職が予定されている者)。そこで札幌市には、実際の離職者数を照会することとなりました。

なお、札幌市とのやり取りと結果は、後述の「札幌市「大量離職通知書」に記載されていた離職者データと、札幌市から提供された実際の離職者データ」にまとめたとおりです。同市の2023年度末の会計年度任用職員の離職者数だけここで述べておくと、443人です。

第四に、提出は、「最後の離職が生じる日の1か月前までに」となっていましたが、「a日付」をみると、「①札幌市」や「②旭川市」では、3月に入ってからの提出になっています。なお、第2回目の情報開示請求で得た「⑧函館市」の日付が「令和6年3月31日」になっているのは、大量離職通知書の提出ルールを意識してのことと思われます[12]

第五に、「cうち雇用保険被保険者数」に関わることですが、雇用保険は、1週間の所定労働時間が20時間以上であること、なおかつ、31日以上の雇用見込みがあることで、原則として被保険者となることができます。しかしながら、フルタイム型の会計年度任用職員(など有期雇用のフルタイム型非正規職員)は、退職手当が支給されるからと雇用保険の適用除外とされています[13]。そして、退職手当でカバーされるならよいのですが、実際にはカバーされずに問題になっているケースもあります[14]

第六に、会計年度任用職員は、「eうち非常勤職員」に記載されることになっています。しかし、大量離職通知書の裏面の記載内容が間違いを誘発しかねないものになっています(先に示した、北海道労働局への【質問5】と回答を参照)。具体的には、フルタイム型の会計年度任用職員を「dうち常勤職員」に記載してしまうおそれです。

このことに関わって、電話照会によれば、(1)旭川市の会計年度任用職員の離職者数は計184人と伺いました。ですから、「②旭川市」の数値を採用します。(2)また、「⑥増毛町」では、「dうち常勤職員」が40人、「eうち非常勤職員」が14人と記載されていますが、いずれも会計年度任用職員とのことでしたから、「eうち非常勤職員」を54人とします。

第七に、「f再就職のための援助の措置」は、離職者にとってとても重要な対応であると思われます。しかし、「g再就職先の確保の状況」の情報を含め、これらは、職業安定行政のために尋ねられている(情報提供が求められている)項目であることを、北海道労働局への質問で教わりました(北海道労働局への【質問3】【質問6】と回答を参照)。

それもあってか、今回得た通知書では、「①札幌市」、「④北見市」、「⑤名寄市」、「⑧函館市」、「⑨岩見沢市」でf(とg)の記載はありませんでした。

 

以上のとおり、通知書に自治体が記載すべき内容を説明しながら、本調査でみられた各自治体の記載内容や電話照会の結果などを紹介してきました。これらをふまえて、7市1町の「eうち非常勤職員」の、修正された数字を示すと、以下のとおりです。

 

札幌市443人、旭川市185人、帯広市78人、北見市108人、名寄市37人、増毛町54人、函館市172人、岩見沢市36人/合計1113人

 

なお、第一に、上記のうち、3市1町では、1人を除く全員が会計年度任用職員で、残りの4市では、再任用短時間勤務職員が含まれていることを電話照会で確認しました。後者(4市)については、人数の内訳が明確なケース(1市)もあれば、不明確なケース(3市)もありました。通知書では、そもそもそこまでの記載は求められていないので、これ以上の照会は断念しました[15]。もっとも、内訳が不明確なケース(3市)でも、多くは会計年度任用職員だという回答は共通して聞かれました。

第二に、今年度限りのやや例外的ケースというべき増毛町の54人を除いても、合計は1000人を超えます(1059人)。

第三に、自治体による再就職支援によって、当該自治体(の別の部署・仕事)に再就職を果たしているケースもあると思われます。つまり、上記の離職者数からその分だけ人数が引かれたのが当該自治体における実際の離職者数ということになります(通知書の提出日の都合上、その分を通知書に反映されないのは、さすがに致し方ないと思います)。

 

 

Ⅳ.まとめに代えて

第一に、北海道における会計年度任用職員の年度末の離職者数は果たしてどの位なのか。このことを明らかにしたいと思いつつも、実際にはそれは難しいため、次善の策として、延べで8市1町(1市は重複)から2024年に提出された大量離職通知書を整理しました。電話による照会も行いました。結果、対象は離職者C(図Ⅱ-1)に限定されていますが、離職者数は1000人を超えることが明らかになりました。

ここに、「苫小牧市」、「千歳市」、そして、「北海道」の分が加わって、離職者Bの人数となります。そして、何よりも、本来把握されるべきは、離職者Aの人数です。今後の研究課題として確認しておきます。

第二に、今回の取り組みの副産物として、大量離職通知書制度が自治体にまだ十分に浸透していないことが明らかになりました。

書類の誤記は致し方ないとしても、なかには疑問を感じるような考え方もみられました。北海道労働局からの回答によれば、この制度の趣旨は、「離職の実態を事前把握した上でハローワークにおける再就職支援に活かしていくということ」にあります。現状で、それは果たされていると言えるでしょうか。労働者の再就職支援に関わる重要な制度です。北海道労働局・ハローワークも人手不足であることは承知しつつも、自治体への周知の工夫などを通じて、通知書の作成・提出状況の改善、ひいては、職業安定行政の充実を図っていただきたいと思います。

 

さて、繰り返しになりますが、一般論として、離職が毎年発生し続けている組織は健全といえるでしょうか。一定数の離職の発生は避けがたいとしても、できる限り離職を少なくする努力がなされるべきではないでしょうか。正規の公務員のあいだで近年ひろがる離職には様々な対策がなされているようですが、会計年度任用職員に対してはどうでしょうか。やはりここでも正規と非正規とでは差が設けられてしまうのでしょうか。

総務省によって設計された制度上の問題がまずは大きいと筆者は考えています。それは強調したいことです。

しかしながら、そのような制約の下でも、ディーセントワークの実現のため自治体にもできることはある。そのことも、負けず劣らず強調したいことです。公募制の廃止はその一つです。公募制を廃止し、会計年度任用職員の雇用を安定化させること、そして賃金面では、最低生計費をクリアし、なおかつ、仕事に見合った適切な賃金の支給に近づけていくこと──以上は、現行制度の制約下でも、可能です。

注釈2で紹介したとおり、3年公募に対する総務省の姿勢は変化するに至りました。そもそも、自治体の現場は人手不足だと聞きます。人が集まらないとも聞きます。自治体は、それでもなお、公募を設置したままにするのでしょうか。首長・行政はもちろんのこと、労働組合、そして、議会の姿勢が問われています。

残念ながら北海道内では、この問題の解決を目指していこうという首長からの発信[16]はとくに聞かれません。しかしながら、心ある労働組合や自治体議員は少なくないと思います。この間公募をやめたという自治体では、労働組合や議員による取り組みが反映しているのではないでしょうか。情報の収集、共有[17]などを通じて、問題解決の取り組みをみんなで進めていきましょう。

 

 

 

[11]このことについては、(1)大量離職通知書や同制度のパンフレット(厚生労働省「「再就職援助計画」と「大量離職届・大量離職通知書」」ページからダウンロード可)のほか、(2)安田真幸「(緊急レポート:第5弾(最終))厚労省との7/6第3回懇談会報告 「会計年度任用職員全員が対象人数 ⇒ 公募の対象となる人数 ⇒ 「会計年度任用職員のうち、実際に職を失い再就職先が必要な人が対象」で最終確定しました!!」『NAVI』2023年8月25日配信をご参照ください。

[12]以下は、少し細かな指摘になります。通知書作成に関する函館市の事情や実際の提出日について筆者自身は函館市から教わったから問題ありませんが、何も知らない者が情報開示で函館市からこのデータを得た場合、記載のとおり、通知書は「令和6年3月31日」に提出されたものと誤って理解することになるでしょう。その場合に懸念されるのは、大量離職通知書制度が自治体にまだ十分に浸透しておらず、年度内の対応(通知書の作成、提出)ができていないことに気がつかないおそれがあることです。大量離職通知書に限ったことではありませんが、書類には実際の日付を記すのが望ましいのではないかと思いました。

[13] 雇用保険法第6条第6項「国、都道府県、市町村その他これらに準ずるものの事業に雇用される者のうち、離職した場合に、他の法令、条例、規則等に基づいて支給を受けるべき諸給与の内容が、求職者給付及び就職促進給付の内容を超えると認められる者であつて、厚生労働省令で定めるもの」。

[14] ネット上で読める『東京新聞』の記事「セーフティーネットなき非正規公務員 雇い止めされても「失業給付」も「十分な退職金」ももらえない なぜ?」2024年6月4日 06時00分を参照。

[15]大量離職通知書ならびに制度の性格を考えると難しいかもしれませんが、会計年度任用職員の離職者に限定した記載欄を通知書内に設けて欲しいところです。

[16] 杉並区の区長である岸本聡子氏の発言をこの間紹介してきましたが、愛知県みよし市の市長の発信、取り組みが話題になっているので、紹介をします。日本記者クラブ主催会見リポート(2024年06月05日13:30〜15:00 10階ホール 「『非正規』の地方公務員をどうする」小山祐・愛知県みよし市長)同、YouTube会見動画

[17] (1)労働組合の取り組みについては、単組レベルでの取り組み情報を収集、共有することが筆者の課題です。道内では、(a)坂本勇治「根室市の会計年度任用職員制度と労働組合の取り組み」『NAVI』2022年11月26日配信、(b)くしろ児童厚生員ユニオン「釧路市の学童保育にみる会計年度任用職員制度と労働組合の取り組み」『NAVI』2023年3月20日配信などを参照。(2)議員の取り組みについては、公務非正規問題 自治体議員ネット準備会で、公務非正規問題に関する議員の議会質問のアーカイブス化を開始しました。なお、同準備会は2024年8月9日に総会を予定しています

公務非正規問題自治体議員ネット第2回議員学習会(8月9日)のお知らせ

 

 

Ⅴ.(参考)札幌市「大量離職通知書」に記載されていた離職者データと、札幌市から提供された実際の離職者データ

札幌市から提出された大量離職通知書には、離職が決まった職員の人数ではなく、離職が予定された職員数が記載されていました。そこで、実際の離職者数を市に照会しました──以上は本文で述べたとおりですが、市から提供された実際の離職者数を紹介する前に、まず、前者がそもそもどのような数値であるかを、札幌市への照会結果に基づいて説明をします。重複もありますがご了承ください。

以下の表Ⅴ-1は、札幌市の大量離職通知書から作成したものです(表Ⅲ-1を参照)。

 

表Ⅴ-1 「大量離職通知書」にみる札幌市の離職者数(2024年3月1日から3月31日まで)

離職者数 391人
うち常勤職員 74人
うち非常勤職員 317人

出所:札幌市「大量離職通知書」より。

 

第一に、2024年(令和6年)3月19日付けでハローワークに札幌市から提出された大量離職通知書に記載されている数値のうち、317人というのが、札幌市の会計年度任用職員の離職者数です。

第二に、この317人は、(1)札幌市長を任命権者とする者で、(2)同一部3年ルールにより令和6年3月31日付での離職が予定されている者に限られます。

第三に、そのため、(1-a)交通局・水道局・病院局・教育委員会で働く離職予定者は含まれていません。また、(2-a)同一部3年ルール以外の離職者(例えば、1年ないし2年で離職をする者)は含まれていません。

第四に、離職予定者数の把握(離職予定かどうかの判断)は、2月上旬時点のシステム情報に基づいて行われます。同時点で、2024年度に再度任用されることが決定されている者(任用情報が入力されている者)は除いて、該当者が抽出されます。

第五に、人事課では、各課における公募試験の実施状況(試験の実施時期、当該職員の受験状況など)の照会は行っていないため、上記の数値はあくまでも、システム情報に基づいて集計された数値であって、大量離職通知作成時点では、その後に当該職員が別の部で再度任用されているかまでは不明です。

 

札幌市からの以上の説明をふまえ、次に、札幌市から提供いただいた実際の離職者数を示していきます。表Ⅴ-2のとおりです。

なお、第一に、注3のとおり、拙稿(2023)の表4にならって、勤続年数別の離職者数が分かるようなかたちで資料を提供いただきました。第二に、注4にも記載のとおり、対象は、会計年度任用職員だけでなく、特別職非常勤職員を含みます。

 

表Ⅴ-2 「非常勤職員」として一定期間働いた後に翌年度に同一部の部で継続任用されなかった職員の人数とその内訳

翌年度に同一の部で任用されなかった者 計
他の部で任用された者 離職した者
2023年度 462人 264人 198人
2022年度 2023年度 107人 53人 54人
2021年度 2022年度 2023年度 588人 368人 220人

注1:対象は、年度を通して働き翌年度の4月1日に同一の部で任用されなかった職員。仮に翌年度の10月に同一部で任用されていたとしても、表中では、翌年度に同一部で任用されなかった者に計上されている。また逆に、年度途中で任用され、年度末で同一の部での任用が終了した者は計上されていない。
注2:機構改革によって任用部の名称が変わった場合等には、データ集計上は「同一部」と判断できないことから、仮に同じ職に継続任用されていたとしても、「同一部に任用されなかった者」として計上されるなど、集計方法の関係上、実態を完全には反映できない。
注3:川村雅則「札幌市非正規公務員(会計年度任用職員)調査報告──公募制と離職に関する情報の整理」『北海学園大学経済論集』第71巻第1号(2023年6月号)の表4にならって、札幌市から資料を提供いただいた(2024年5月27日)。
注4:会計年度任用職員だけでなく、特別職非常勤職員を含むため、タイトルを「非常勤職員として」としている。今回の照会で初めて聞いた情報であり、そのため、上記注3の拙稿(2023)の表4もタイトルを修正する必要がある。
資料:札幌市からの提供資料と説明に基づき筆者作成。

 

上記の表Ⅴ-2によれば、第一に、2023年度末における札幌市の「非常勤職員」の実際の離職者数は、472人(198人+54人+220人)です。

第二に、表Ⅴ-1の人数(317人)との差は、表Ⅴ-2の人数(472人)が実際の離職者数(実績値)であること、市長部局だけでなく交通局・水道局・病院局・教育委員会で働く職員の全てを対象としていること、及び、特別職非常勤職員を含んでいることによります。

 

以上の照会結果をふまえ、筆者はそもそも会計年度任用職員の離職者数を照会していたので、特別職非常勤職員は何人であるかを札幌市に対してさらに照会しました。

札幌市からの回答は、特別職非常勤の離職者数は29名とのことでした。

 

以上の結果、472人から29人を引いて、札幌市における会計年度任用職員の2023年度末の実際の離職者数は443人と確定できました。

 

 

SDGsに関する参考文献

秋山宏次郎、バウンド(2020)『こどもSDGs──なぜSDGsが必要なのかがわかる本』カンゼン

蟹江憲史(2020)『SDGs(持続可能な開発目標)(中公新書 2604)』中央公論新社

蟹江憲史(2021)『SDGs入門未来を変えるみんなのために──岩波ジュニアスタートブックス』岩波書店

高橋真樹(2021)『日本のSDGs──それってほんとにサステナブル?』大月書店

南博、稲場雅紀(2020)『SDGs──危機の時代の羅針盤(岩波新書 新赤版1854)』岩波書店

渡邉優(2022)『SDGs辞典』ミネルヴァ書房

 

 

 

 

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