安田真幸「(緊急レポート:第3弾)厚労省が見解を変更!? ─「会計年度任用職員全員が対象人数 ⇒ 公募の対象となる人数」!?」

会計年度任用職員制度をめぐる問題について、この間、関係者の取り組みによって、(1)公募制に対する総務省の姿勢が柔軟化したこと、(2)会計年度任用職員の毎年度の任用が、「更新」ではなく再度の任用(「新たな職に就く」)として設計されているのであれば、自治体には、再就職援助計画の作成や大量離職届・大量離職通知書の提出が、会計年度任用職員「全員」を対象に、「毎年」必要になることが報告されました(下記の「緊急レポート」を参照)。

しかしながら(2)について、厚生労働省の見解が後退したようです。そのことが緊急レポート第3弾として安田真幸さん(連帯労働者組合・杉並)から寄せられました。ただ、厚生労働省の見解は後退したようですが、関連する制度は、労働組合の取り組みに十分に活かせます。どうぞお読みください。

 

山下弘之「(緊急レポート:第1弾)総務省『新通知』、厚生労働省『大量離職通知書』を活かす」『NAVI』2023年1月18日配信

安田真幸「(緊急レポート:第2弾)会計年度任用職員全員が対象!!-ほとんどの自治体に「大量離職通知書」の提出義務!」『NAVI』2023年2月11日配信

 

出所:厚生労働省「大量離職通知書」より。 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/hellowork/hellowork_kyuujinnaiyou_00001.html

 

 

緊急レポート:第3弾

厚労省が見解を変更!?

─「会計年度任用職員全員が対象人数 ⇒ 公募の対象となる人数」!?

安田真幸

 

 

1 事の始まりは、杉並区との団体交渉

年明け早々の厚労省HP改訂を知ってから、「大量離職通知」問題について説明し、早急に提出する必要があることを人事・労務担当係長に要請した。2月6日の省庁懇談会(ヒアリング)の直後には「会計年度任用職員全員が対象」となることを伝え、「ハローワークとの相談」を求めてきた。

2月24日にようやく持たれた団体交渉で、最後の議題として取り上げた。やり取りの要旨は以下の通り。

団交に当たって提出した資料は、末尾を参照していただきたい。

<区側の回答>

・ハローワークに問い合わせ、提出しなければならないことは認識している。

・年度末で超多忙なことから、提出は早くて3月、場合によっては4月になりそう。

・人数の把握の仕方について、流動的なこともありなかなか確定しない。

・杉並では、「雇用年限中の6年間」に雇止めはしていない。会計年度職員全員が対象となることに疑義がある。

<組合側の主張>

・超多忙は理解できるが、遅くも3月前半、「事前」に提出しなければならない。

・「条件付き採用期間」をやめれば、「更新」となり、対象から外れる。総務省のかたくなな姿勢にこそが問題がある。

・今年も約300人が公募にさらされる。雇用年限を廃止すれば、会計年度職員については届け出の必要がなくなる。

・民間ではそれなりに提出されている。提出しない場合は30万円以下の罰金が科されてもいる。

・一刻も早く「恥ずかしい事態」をなくすべきでは?

 

残念ながら、3月前半に提出する、との回答は得られなかった。粗いものであっても、なんとか年度内に提出してもらうためには、ハローワークから働きかけてもらうことが必要、と考え、新宿ハローワーク(杉並区・中野区・新宿区を管轄)に要請することとした。毎年度末に繰り返し必要とされることなので、内容不十分でも「まずは提出」が重要だと判断したためである。また、「人数の把握が流動的」との回答も気になっていた。

 

2 新宿ハローワークから東京労働局へ

2月27日、新宿ハローワークの「雇用指導コーナー」の担当者に要請に赴いた。担当者に状況説明し、「厚労省の見解は『会計年度任用職員全員が対象』とのことだった」ことを伝えたものの、即答は得られずに「東京労働局と本省に相談する」との回答だった。厚労省の見解がハローワークにキチンと伝わっていない? との一方で、現場サイドとして厚労省見解をそのまま受け入れるには躊躇があるようにも感じられた。

そこで、ハローワークを統括している東京労働局を急遽訪問することを考えた。ちょうど翌日に、やはり大量離職通知の件で東京都と23区の人事厚生組合に情報公開請求する予定となっていた。その流れで、懇談会メンバーと一緒に東京労働局に行くこととなった。訪問の目的は、①厚労省見解が後退することのないよう、②ハローワークを通じて自治体に提出を促してほしい、である。

◆残念ながら、厚労省の見解が後退した!?

「会計年度全員が対象人数」ではなく、「公募対象となる人数(現に働いている人で雇用年限を迎え、公募に応じて合格しなければ働き続けられない人の数)」との通知が厚労省からメールであったそうだ。つまり杉並でいえば「雇用年限である6年目の人数≒300名」が対象人数となる。後退の背景にはハローワークや労働局からの意見があったようだ。想像するに「全員対象では自治体の提出を促しにくい」というようなものだろうか?

また、「都内自治体に提出義務があることを周知してほしい」との要請に対しては「要望としてお聞きした」との回答にとどまった。

その日のうちに厚労省に電話で説明を求めたものの、残念ながら変更を納得できるような回答は得られなかった。このこともあり、急遽懇談会メンバーでのズーム会議を持った。

 

3 厚労省に面談し、説明を求めることに

「会計年度任用職員全員が対象」、この2月6日の回答は参加者全員が聞いている。この見解がどのような検討経過を経て、どのような理由で変更されたのか? 直接面談して、この点をキチンと説明してもらおう、となった。

◆私たちの反省も!

前回の投稿で、「会計年度任用職員全員が対象」と報告してきた。参加者全員が確信しているし、録音もしており、聞き間違いではないことは確かだ。しかし、会議では反省も出た。大事なことだけに、厚労省との間で会議録あるいは議事要旨の確認をすべきだった、ましてや全国に発信した責任もある、というものである。反省し、今後の教訓としたい。

◆事態は流動的!?

以上のように事態は流動的だ。この背景には、自治体からの「大量離職通知」提出がほぼ皆無のため、ハローワーク~労働局~厚労省ともに初めての検討課題(?)だったことが挙げられそうだ。1966年の制度発足当初とは大きく異なり、非正規公務員が半数近くなっている現状がある。ましてや、会計年度任用職員などという「労働法の常識外れ」の制度で、制度の理解も実情把握も充分にはなされていない、いわば手探りの状況であるように思える。

 

★引き続き取り組みを進めよう!

しかし、がっかりしてばかりはいられない。現在の見解でも多くの市町村が提出義務を負う。100名の会計年度職員がいる自治体で「3年公募制」の場合、平均すれば毎年30名以上の「公募対象者」が出る。初めて「3年公募制」を導入したところは100名全員が対象となる。つまり、100名程度の会計年度任用職員がいる自治体はすべて提出義務を負うこととなり、大部分の自治体が該当するはずだ。ましてや定年退職者や再任用退職者も対象人数である。北海道新聞の報道で、最も少ない帯広市(以前から雇用年限があった)でも公募対象となる会計年度任用職員は63人となる。

引き続いてハローワークに働きかけて、自治体に提出を促す取り組みを進めていきたい。杉並でも、年度内提出を求めて区とハロワに働きかけている最中である。粗い数字であっても、再就職支援体制が未整備であっても、まずは提出させることに意義があると思っている。取組は来年も再来年も必要となるからだ。「3年公募制」がなくならない限り、会計年度任用職員制度が廃止されない限り、取り組みは続く。

 

ぜひ各地での取り組みと情報の共有をお願いします。

 

 

資料:杉並区との団体交渉で提出した資料

団交メモ 2023.2.24Ys

<雇用年限の廃止を!>
1 雇用の安定こそが大切では?
① 安心して働き続けられることが当事者の願い 継続的・安定的な行政運営に不可欠
② 雇用不安定では、(仕事の進め方や労働条件面で)言いたいことも言えないこととなりがち

2 地域最大の雇用主、模範的使用者としての責任は?
① 地域に於ける雇用の確保・安定は自治体の責務なのでは?
② 自治体は、最大限雇止めを回避する「模範的使用者」であるべきでは?
・杉並区は「日本一、非正規公務員を大切にする自治体」を目指すべきでは?

3 大量離職通知について
① 提出したか否か? 提出していないとすれば、いかなる理由によるものか?
② 厚労省の見解によれば、会計年度任用職員全員約 2,500 名が対象となるのでは?
③ 通知書には「⑦再就職のための援助の措置」、「⑧再就職先の確保の状況」欄がある
・通知書の例示に沿って、どのように記載したのか?
・また、実効性のある再就職先の確保のために実施した具体的内容と労力・費用は?
④ 公募にさらされる6年目の約300名の生活と人格の尊厳に心を寄せるべきでは?
・「更新」であれば、対象とはならずに済む。
・毎年の条件付き採用期間をやめ、雇用年限を廃止すれば、「更新」と扱われるはず
⑤ 毎年 2,500 名もの会計年度任用職員を大量離職として届けなければならないような恥ずかしい事態は、一刻も早く解消するべきでは?

<参考:大量離職通知書(裏面)の記入例より>

 

大量雇用変動届提出状況(平成20年度~平成22年度)

※1 速報値であり、今後変更の可能性がある。
2 当該件数は再就職援助計画の届出状況を含んでおり、一の事業所における離職者が30人に満たない場合も
計上している。
(再就職援助計画の申請をした事業主は、大量雇用変動届を提出したものとみなされることになっている。)
出所:厚生労働省作成資料。

 

 

【2023 募集人数一覧表:杉並区】 合計≒276 名

◆ 2022 年 10 月~2022 年 2 月の区の広報より集計
※実際の募集人数はもっと多く 300 名は超えると思われる
※「若干名」とあるものは2名に換算した。
※児童館・学童クラブについては、広報に募集人数の記載がないため、今年度初めに入手した「年度末で 6 年雇用年限満了者数」を?付きで記載した。
※表で「フルタイム 16 日/月」とあるのは「7 時間 45 分勤務日が月に 16 日」の意味

◆ 杉並区の概要
1 2022 年度:人口≒57万人、常勤職員数 3,526 人、会計年度任用職員 2,337 人
2 「上限」:5回(6年雇用年限) ※1985 年より雇用年限制度導入
3 募集手続き ※職種によって違いがあるがおおむね以下の通り
年末:応募締め切り~1 月中旬:書類選考合格者の面接実施~2月中旬:合否通知

No 職種 人数 労働時間 賃金
事務系(35)
事務:産休・育休代替など 30 フルタイム 16 日/月 185,600/月~
事務:国民年金担当 2 フルタイム 16 日/月 215,424/月~
事務:地域課 2 フルタイム 16 日/月 185,856/月~
事務:筆耕 1 フルタイム 16 日/月 185,856/月~
福祉・医療系(24)
資産調査専門員 1 フルタイム 16 日/月 215,424/月~
面接相談員 1 フルタイム 16 日/月 215,424/月~
家庭相談員 2 4H/日で週 3 日 13,500/日~
障害者支援課職員 2 フルタイム 16 日/月 185,856/月~
介護保険認定調査員 3 フルタイム 16 日/月 185,856/月~
介護保険指導員 1 フルタイム 16 日/月 215,424/月~
母子保健面接員:保健師など 2 フルタイム 16 日/月 1,678/時~
在宅医療窓口相談員 1 フルタイム 16 日/月 185,856/月~
健診検査事務補助員 2 3~6H/日で週 1~3 日 1,110/時~
10 保健師 3 フルタイム 16 日/月 222,144/月~
11 こども家庭支援相談員 2 フルタイム 16 日/月 185,856/月~
12 障害者支援員(心理) 2 フルタイム 16 日/月 185,856/月~
13 生活衛生検査補助員 2 6H/日で週 2 日程度 1,605/時~
保育園・子供園(114)
保育士 2 フルタイム 16 日/月 185,856/月~
事務:子供園 2 フルタイム 16 日/月 185,856/月~
保育補助員 89 2H~5H/日で週 6 日 1,188/時~
 (同上) 7 6H/日で週 5 日 1,188/時~
調理補助員 8 3H~6H/日で週 3~5 日 1,183/時~
用務補助員 6 6h/日で週 3~5 日 1,149/時~
児童館・学童クラブ(34?)
児童指導員 14? フルタイム 16 日/月 185,600/月~
(同上) 20? 6H/日で週 5 日 1,298/時~
学校関係(69)
学校事務員 20 フルタイム 16 日/月 149,472/月~
給食補助員 2 6H/日で週 5 日 1,183/時~
施設管理員 5 夜間 6H/隔日 1,244/時~
学校司書 2 6H/日で週 5 日 1,416/時~
介助員 10 6H/日で週 5 日 1,188/時~
栄養士 8 フルタイム 16 日/月 214,464/月~
各種教職員:補助教員・理科
支援員・スクールサポートスタッフなど
8 6H/日で週 2~5 日 1,083/時から
1,416/時まで
各種
各種教育専門職:教育研究・指導員・相談員など 12 フルタイム 16 日/月 185,856/月から
215,424/月まで
各種
社会教育担当 2 フルタイム 16 日/月

 

 

 

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2022年度反貧困ネット北海道連続学習会の記録

第1回 川村雅則「自治体の新たな非正規公務員制度問題(2022年度反貧困ネット北海道連続学習会)」

同上  神代知花子「石狩市の非正規公務員問題と問題解決に向けた議員活動(2022年度反貧困ネット北海道連続学習会)」

第3回 吉田雅人「会計年度任用職員制度導入後の実態(2022年度反貧困ネット北海道連続学習会)」

第4回 川村雅則「会計年度任用職員制度の公募制問題と、総務省調査にみる北海道及び道内35市の公募制導入状況」

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