川村雅則ゼミナール『北海学園大学 学生アルバイト白書2022(連載5)』

川村雅則ゼミナール『北海学園大学 学生アルバイト白書2022(連載2)』に書いたとおり、大学生のアルバイト状況等を明らかにするために、2022年6月中旬から7月下旬にかけて、学生たちが聞き取り調査を行いました。

聞き取りの対象は、ゼミ生が話を聞きやすい友人・知人、先輩・後輩です。本稿では1部のゼミで行われた29人の聞き取り調査の結果を報告します。

学生たちは、(1)29人それぞれの聞き取り調査の結果をまとめ、(2)それぞれの働き方や労働条件などを5,6行で要約し、(3)聞き取り項目ごとに29人の集計表を作成しました。そして、(4)4人ずつのグループに分かれて、上記(1)~(3)を「素材」にしたレポートを書きました。レポートで何を扱うかは、それぞれのグループに任せました。

連載2に書いたとおり、事前の準備をしっかり行っていなかったために、レポートの取りまとめ作業では非常に苦労をしました。しかしその苦労を通じて、調査で(とりわけ集団による調査で)留意すべきことなどが学生たちは理解できたのではないかと思います。そういう経験が大事なのだと思います。本稿は、学生たちから出されたレポートに対する指導・助言を再現するかたちでまとめてみました。どうぞお読みください。

 

川村雅則ゼミナール『北海学園大学 学生アルバイト白書2022(連載1)』

川村雅則ゼミナール『北海学園大学 学生アルバイト白書2022(連載2)』

川村雅則ゼミナール『北海学園大学 学生アルバイト白書2022(連載3)』

川村雅則ゼミナール『北海学園大学 学生アルバイト白書2022(連載4)』

 

 

■問題意識と調査の概要

急速な感染拡大から3年目を迎えた新型コロナウイルスも徐々に収束してきています。それに伴い、今年度(2022年度)からは大学の授業形態が変化しました。自宅でいつでも好きな時間帯に受講ができるオンデマンド型のオンライン授業(オンライン授業には、リアルタイム型とオンデマンド型がありますが、本稿ではとくに、オンデマンド型を想定)から、原則として、対面による授業、つまり、コロナ以前の授業になりました。

オンライン授業から対面授業に戻ることは一般的にはよいことと思われていますし、私たちも、キャンパス内で友達とリアルに交流ができることを望むものであります。ただその一方で、対面授業が原則になったことで、これまで、オンライン授業を前提に組んでいたアルバイト生活に支障が出ているのではないか、と思いました。アルバイトの時間を短くしなければならない、時間帯を変更しなければならない、などです。実際、周囲でもそのような声が聞かれました。そこで、授業がオンラインから対面になったことでのアルバイトへの影響を調べようと思いました。

調査では、(1)属性:性別、学年、実家暮らしなのか一人暮らしなのか、(2)アルバイトに関すること:オンライン授業時と対面授業時におけるアルバイトの勤務状況や労働条件、シフトに関すること、働きやすさや働きづらさ、ワークルールに関することなど、そして、(3)大学生活に関すること:オンライン授業と対面授業どちらを希望するのか、奨学金の利用状況など、を尋ねました。

但し、すでにお伝えしているとおり、調査項目を十分に検討せずに、「幅広く聞いていこう!」というラフな姿勢で調査に臨んだために、聞き取りで尋ねた内容や尋ね方などが学生(調査者)によって異なり、結果の取りまとめには非常に苦労をしました。反省点です。

調査の対象は2,3年生に限定しました。同学年で私たちが声をかけやすかった、という事情が大きいですが、4年生(2019年度入学生)の場合には、対面授業から大学生活がスタートしているため、今年度は「元の生活に戻った」という感覚にあることが予想されたのと、そもそも4年生の多くは、受講する授業がゼロかごくわずかであって、大学で出会う機会があまりありません。また、今年の1年生(2022年度入学生)は、原則、対面授業からの開始になります。対面授業が原則であるという期間をこれまで経験していない2,3年生で、色々な混乱がみられるのではないか、と考え、対象を2,3年生に限定しました。

以上の問題意識で29人の北海学園大学学生(以下、学園生)2,3年生から話を聞きました。全員1部(昼間部)の所属です。

 

■ある日のゼミでの作業風景

 

学生:あれー、おかしいな。オンライン授業から対面授業への移行でアルバイトを減らさざるを得なかったという私たちの予想どおりの結果になっていないよ。月の収入は、「変化なし」が最多だ。29人中21人だよ。

 

図表1 オンライン授業時から対面授業時への収入の変化

変化 回答者数
変化なし 21人(72.4%)
減少した 5人(17.2%)
増加した 1人(3.4%)
アルバイトなし 2人(6.9%)

注:小数第2位を四捨五入した(以下、同様)。

 

学生:あれ、ほんとだね。予想と違うね。

 

学生:あ、でもさ、変化なしの人たちの聞き取り結果を読んでみると、(1)授業時間の関係で削らざるを得なかった平日のシフト分を、土日にあてて、収入を維持した人もいるし、(2)そもそも、オンライン授業時も対面授業時も、シフトを夕方以降に入れていたから、変化がみられなかった人も多いんじゃない。今回我々は、話を聞きやすい人に聞いているから、広くアンケートをとったら、結果は変わってくるかもよ。

 

川村:取りまとめ作業、お疲れさまですね。

ふむふむ、予想が違って収入を減らした学生が多くない、ということですね。

まあしかし、皆さんが今話していたように、今回の調査は、友人・知人が対象ですし、人数も限られていますからね。

ちなみに、私が連載4でまとめたアンケート調査結果でも(n=128)、「アルバイト収入が減った」は12.5%でしたが、一方で、「勤務時間帯や曜日を変更した」が41.4%、「勤務回数や勤務時間数を減らした」が27.3%でした。いろいろやりくりして収入を維持した可能性はあるのではないでしょうか。

あわせて言えば、このアンケートでは、「以上のような変化はとくにない」が40.6%でした。つまり、オンライン授業だから/対面授業だから、といってアルバイトの時間帯や時間数を変えている学生ばかり、というわけでもないのではないでしょうか。

いずれにせよ、調査の方法(対象を含む)や調査の内容はよく吟味すること、調査結果もよく考察することが大事です。

 

学生:わかりました。

 

川村:ところで、いきなり、月の収入の変化から取りまとめているようですが、まずは調査に回答してくれた29人がどういう人たちなのかを紹介して欲しいです。

 

学生:学年ですか?それなら集計表を作っています。

 

川村:それから、回答者が従事している仕事の業種や職種もまず示さなければね。アルバイトという仕事があるわけではありませんからね。そして、労働条件は業種や職種に影響を受けますからね。

総務省の産業分類職業分類に従っての厳密な整理までは必要がないですよ。ざっくりと、回答者がどういう仕事に従事しているかが分かればよいです。

 

学生:業種や職種の集計表は作っていませんでした。

 

川村:業種や職種は欠かせない情報、いわば学生アルバイトの「顔」です。それから、図表1をみると、そもそも29人のうち「アルバイトなし」という学生が2人いるようですね。

 

学生:はい。2人はバイトをしていませんでしたけれども、奨学金のことなどを尋ねたので調査結果としてそのまま残しておきました。

 

川村:それはそれで結構ですが、その場合、今回の調査の対象は、「アルバイトをしている学園生2,3年生」ではなく、単なる「学園生2,3年生」になりますね。「我々が話を聞きやすい友人・知人の学園生2,3年生29人から話を聞いたところ、27人がアルバイトをしていた。この27人のアルバイトに関する調査結果をみていくことにする」となりますね。

 

学生:そう言えば、アルバイトを掛け持ちでしている学生が2人いたのですが、彼らの調査結果はどう扱ったらよいのでしょうか。先ほどの調査結果では、月の収入の変化だったので、とくに問題はなかったのですが、例えば、勤務時間などは、掛け持ちのバイトそれぞれについてまとめればよいのでしょうか。

 

川村:メイン(収入が多い、勤務時間数が長い)のアルバイトの結果だけを取り上げる方法もありますが、せっかく話を聞いているなら、いずれもまとめたらよいのではないでしょうか。先ほどの結果を修正すると、「・・・27人がアルバイトをしていた。そのうち2人は掛け持ちでアルバイトをしていたので、以下では、延べ29人のアルバイトに関する調査結果をみていくことにする」でどうでしょうか。

では、さっそく図表を整理しましょう。仕事の集計表は、皆さんの聞き取りデータから私のほうで作成してみましたから、これを使ってください。

 

学生:はい。(ガチャガチャガチャガチャ)こんな感じでどうでしょうか。

 

図表2 29人の学年、住まい、仕事内容

回答者 学年 住まい 仕事内容
No.1 2年生 実家暮らし 飲食店・キッチン
No.2 3年生 実家暮らし No.2-1 飲食店・ホール
No.2-2 飲食店・ホール
No.3 2年生 実家暮らし 飲食店・ホール
No.4 2年生 一人暮らし 非該当(アルバイトをしていない)
No.5 3年生 実家暮らし 飲食店
No.6 2年生 実家暮らし ホームセンター
No.7 2年生 実家暮らし No.7-1 小売店(菓子小売業)
No.7-2 飲食店
No.8 2年生 実家暮らし スーパー
No.9 3年生 実家暮らし ドラッグストア
No.10 3年生 実家暮らし 飲食店・ホール
No.11 2年生 実家暮らし スーパー
No.12 2年生 一人暮らし コンビニ
No.13 3年生 実家暮らし ガソリンスタンド
No.14 3年生 一人暮らし 非該当(アルバイトをしていない)
No.15 3年生 実家暮らし スーパー
No.16 2年生 実家暮らし 小売店(パン)
No.17 3年生 実家暮らし スーパー
No.18 2年生 一人暮らし 飲食店(寿司)
No.19 2年生 実家暮らし 飲食店・キッチン
No.20 2年生 一人暮らし コールセンター
No.21 2年生 実家暮らし イベントスタッフ
No.22 2年生 実家暮らし ドラッグストア
No.23 2年生 一人暮らし 飲食店・ホール
No.24 2年生 実家暮らし ホームセンター
No.25 2年生 実家暮らし 飲食店・ホール
No.26 2年生 実家暮らし 飲食店・キッチン
No.27 2年生 実家暮らし 小売店(お惣菜)
No.28 2年生 実家暮らし ドラッグストア
No.29 2年生 実家暮らし 飲食店・ホール

 

川村:いいですね。

29人のうち21人が「2年生」、8人が「3年生」ですね。「一人暮らし」が6人ですか。この情報は、学生の生活状況などをみる際に有効な情報ですね。

 

学生:今回は、アルバイト収入の使い道は尋ねたのですが、生活に関することまでは深く聞くことができていません。

 

川村:そのあたりはやはり、調査に入る前に調査項目をよく検討しておくべきでしたね。次回の課題にしてください。

さてと、No.2とNo.7が掛け持ちですね。それぞれNo.2-1、No.2-2、No.7-1、No.7-2として使いましょう。

No.4とNo.14はアルバイトをしていないから、アルバイトに関する調査結果では、取り除いて(非該当扱いで)結構です。

仕事をみると、小売店が14人、飲食店が13人ですね。ちなみにこの人数は、掛け持ちを考慮していますから、延べ人数です(以下、同様)。

 

学生:なるほど。こういう属性やアルバイトに関する基本的な情報をまずは示す必要があるんですね。

 

川村:自分たちの関心事の結果がどうであったかを紹介したいという、はやる気持ちは分かりますが、まずはこういう基本的な情報を出すことで、今回の調査回答者の「顔」が見えてきますよね。

さてそれでは、先ほどの調査結果に戻りましょう。

 

図表1(再度集計) オンライン授業時から対面授業時への収入の変化

変化 回答者数
変化なし 21人(77.8%)
減少した 5人(18.5%)
増加した 1人(3.7%)

注:非該当(No.4、14)は除いて再集計。

 

学生:はい、これです。予想に反して、月の収入が「変化なし」が最多でした。

 

学生:ただ、先ほど述べたとおり、「変化なし」は、(1)減った平日のシフト分を土日で増やしていたり、(2)シフトが夕方以降の回答者が多かったことなども背景にあるのではないかなと思います。

 

川村:なるほど、なるほど。

ただ、そうであれば余計に、この調査結果の示し方では問題がある、というか不親切です。

 

学生:え?どうしてですか?

 

川村:そもそも今回の調査の目的は、オンライン授業時と対面授業時の学生アルバイトの実態を示すことが目的ですよね。

オンラインから対面に切り替わったことで収入が減ったのではないか、という皆さんの関心事はよく分かるのですが、まずそもそも、両時点での勤務状況を示すことから始めないと。調査者である皆さんのアタマの中には調査結果が共有されているのかもしれませんが、読む人にはまだ示されていません。いわば、結果を示さずに話を進めていることになります。

調査結果をちゃんと示すこと、そして、調査結果に基づきながら話を進めること──それはアンケート調査でも聞き取り調査でも同じです。このことをしっかり肝に銘じてください。

 

学生:なるほど。両時点の勤務状況ならちゃんと集計表を作っているよね。

 

学生:うん。だけど、一部は、開始時刻~終了時刻ではなく、時間数だけ──例えば、17時から21時まで、ではなくて、4時間という回答だけ──しか書いていない。ここも、開始時刻と終了時刻を聞くのか、時間数を聞くのかを調査前に統一しなかったからね。

 

川村:まあまあ。調査の不備を嘆いても仕方ありません。まずは、手元にあるデータを使い切ることにしましょう。

えーと、「一日(一回)の勤務時間数」と「週の勤務時間数」をまとめたのですね。ここに先ほどの、「月の収入」のデータを足し合わせてはどうですか。

それから、「勤務シフト回数」もせっかく尋ねているなら、これも集計表にくっつけてみましょう。

データが細かくて目がちかちかするかもしれませんが、回答者それぞれの働き方や収入、そして、その変化が分かりやすくなると思いますよ。

 

(ガチャガチャ)

 

図表3 オンライン授業時と対面授業時における一日(一回)の勤務時間数、勤務シフト回数、週の勤務時間数、月の収入及びその増減

回答者 オンライン授業時 対面授業時 増減
一日(一回)の勤務時間数 勤務シフト回数 週の勤務時間数 月の収入 一日(一回)の勤務時間数 勤務シフト回数 週の勤務時間数 月の収入 一日(一回)の勤務時間数 勤務シフト回数 週の勤務時間数 月の収入
No.1 16:45~21:00 週1~3回 4時間15分~12時間45分 2~5万円
No.2-1 10:30~18:00 週2~3回 15時間~21時間30分 2~3万円 週1回(月3~4回) 7時間30分 1~2万円 減少 減少 減少
No.2-2 平日16:00~22:00/休日15:00~22:00 週3~4回 5~6万円 平日17:00~22:00/休日15:00~22:00 週2回 2~3万円 減少 減少 減少
No.3 1日4時間 週3回 12時間 5~6万円 1日6~7時間 週2回 12~14時間 増加 減少 増加
No.5 10:00~21:00の間で3~5時間 週3~4回 12~20時間 5~6万円 平日15:00~21:00の間の3~5時間/休日10:00~17:00の間の4~5時間
No.6 平日17:00~20:15/休日9:00~17:00(たまに13:00~20:15) 週5回 21時間15分~36時間15分 6~7万円 週4回 17時間~29時間 6万円 減少 減少 減少
No.7-1 平日も休日も3~5時間 週3回 9~15時間 3万円 週2回 6~10時間 2~3万円 減少 減少 減少
No.7-2 平日4時間(最大8時間) 週3~5回 12~20時間超 4~6万円 週2回 8~16時間 2~3万円 減少 減少 減少
No.8 9:00~15:00 週3回 18時間 5~6万円 週1回 6時間 2~3万円 減少 減少 減少
No.9 平日4時間/休日6時間 週4回 16~24時間 6~7万円 平日3~4時間/休日6時間 12~24時間 6~7万円(数千円減少) 減少 減少 減少
No.10 平日3時間/休日6~7時間 週3~4回 9~28時間 5万円
No.11 18:00~22:00 週4回 16時間 7万2千円 週4回(但し休みを取ることが多くなった) 6万8千円~7万円 減少 減少
No.12 17:00~22:00 週3回 15時間 5~5.5万円
No.13 17:00~22:00 週3~4回 15~20時間 6~7万円
No.15 17:00~22:00 週4回 20時間 8万円
No.16 16:00~20:00 週1~5回 4~20時間 3~5万円
No.17 14:00~19:00 週4回 20時間 7~10万円 15~20時間 減少
No.18 16:30~22:45 週1~5回 6時間15分~31時間15分 4万円強~8万円
No.19 平日18:00~23:00/休日10:00~22:00 週4回 20~?時間 9万円
No.20 16:00~20:00 週3~4回 12~16時間 7~8万円
No.21 8時間 週3~5回 24~40時間 8~10万円
No.22 平日17:00~22:00/休日9時間 週3回 15~27時間 7万円 平日も休日も18:00~22:00 週4回 16時間 減少 増加 減少
No.23 15:00~24:00 週4~5回 7~12万円 17:00~21:00 週3回 15時間 5~6万円 減少 減少 減少 減少
No.24 17:00~20:00 週2~4回 6~12時間 3~4万円
No.25 18:00~23:00 週3回 15時間 6万円 18:00~24:00 週4回 24時間 8~9万円 増加 増加 増加 増加
No.26 10:00~19:00 週2回 18時間 5~7万円 17:00~21:00 週4回 16時間 減少 増加 減少
No.27 17:00~21:00 週3~4回 12~16時間 6万円
No.28 17:15~21:15 週3~4回 12~16時間 6万5千円
No.29 19:00~23:00 週2~4回 8~16時間 4~7万円 17:00~23:00 週4回 24時間 7万円 減少 増加 増加 増加

注:本文中に記載のとおり、週の勤務時間数には、一日の勤務時間数と勤務シフト回数に基づき調査者によって計算されたものもある。

 

 

川村:右側の増減は私のほうで追加で作成してみました。どうですか。こうすれば、増えた、減ったも分かりやすいでしょう。

 

学生:これは分かりやすいですね。

 

川村:ですよね(どや顔)。

さて、この図表に基づき数えてみると、「変化なし」が18人、「減少」が9人、「増加」が2人です。3割は「減少」に分類されますね。「減少」がそこそこにいるようですが。

 

学生:あれ、私たちの結果(21人、5人、1人)と違うね。

 

川村:まず、延べ人数になっているので、その点で結果が違ってきていますね。No.2もNo.7も、掛け持ちで行っているどちらの仕事においても、収入が「減少」でしたから、その分だけ「減少」が増えています。

また、皆さんは、どう集計をしたのか私には分かりませんが、私の集計は、例えば、オンライン時に「3万円」だったのが、対面時に「2~3万円」になっていた場合には、「減少」としました。オンライン授業時には3万円を稼げていたのが、対面授業時には、3万円を稼げないこともあるようになったから、です。

逆に、オンライン授業時には「4~7万円」だったのが対面授業時には「7万円」と回答されていた場合には、「増加」としました。理由は、先に述べたのと同じです。

 

学生:なるほどー。

 

川村:ちなみに、逆に聞きたいのですが、皆さんはどう分類して、21人、5人、1人という結果になったのですか。

 

学生:あれ?どうだったけ?

減少は、明確な減少だけを取り上げたのかな?

(がやがや)

 

川村:まあ、一人で調査をしたわけではありませんので、29人分の結果を整理しているうちに、結果がごちゃごちゃになった可能性はありますよね。

今回の場合のように、集団で調査を行う場合には、調査の結果が自分の手を離れても問題ないように整理をする必要があります。

そういう意味でも、繰り返しになりますが、一つ一つの調査結果をちゃんと整理して、それをオープンにすること、そして、調査結果に基づきながら話を進めること、が大事になるのです。我々以外の人たちが我々の仕事の誤りをチェックできるようにしておくこと(反証可能性があること)が研究上の欠かせないルールなのです。

こういう作法は、皆さんの日常生活ではあまりないかもしれませんが──エビデンスを一つ一つ示しながら会話を進めていくことはあまりありませんよね──調査・研究においては大事なことですから、覚えておいてください。

 

学生:この間作成していた集計表は、自分たち用に作成していたわけじゃなく、レポートで示すためのものだったんですね。

 

川村:そうです。

皆さんがせっかく時間をかけて調べて、まとめたものなのですから、それを示さないだなんて、もったいなさすぎ!です。

そして、繰り返すとおり、調査に色々と不備はありましたが、それでも、調査結果から多くのことが分かります。

例えば、週の勤務時間数は減っているけれども月の収入は同じケースもありますよね(No.22やNo.26)。

理由は、皆さんの聞き取り結果によれば、No.22は「対面授業が増えて以降、勤務時間が短くはなったものの、勤務日数を増やしているため、あまり大きな変化はないそうだ」、No.26は、「オンラインの時は、10:00~19:00のように長時間働く分、日数を週2にしていて、対面になってからは、17:00~21:00のように、短時間勤務で週4にしたから、変化はあまりないそうだ」というわけですね。つまり、働き方を変えて対応しているのですね。

ですから、月の収入が変化していないケースであっても、対面授業の原則化がアルバイト生活に影響を与えているケースもある。つまり、結果を丁寧にみていく必要があるのです。

 

学生:なるほどー。

 

川村:ところで、ここまで話を展開しておきながらなんですが、どうやら、週の勤務時間数については、聞き取り調査で得た回答ではなく、一日の勤務時間数とシフト回数を掛け合わせて算出・記載したケースもあるのではないでしょうか。そのような方法で算出したのであれば、その旨も書いておかないと、問題になります。

というのも、読み手にしてみれば、ここで示された数値は、回答者によって回答されたものであると理解されているからです。それが実は、調査者によって算出されたものであったというなら、それを明記しておかないと、存在しないデータをねつ造したことになります。

学生:えー(驚き)。

そんな悪意はなくて、週の勤務時間数が書かれていなかったケースは、一日の勤務時間数と(週の)シフト回数をかければ求めることができると思っただけなのですが。

 

川村:いや。それがダメだと言っているわけではなくて、それならそうと書いておくことが必要なのです。

そもそも、一日の勤務時間数とシフト回数をかければ週の勤務時間数が導き出せるとは必ずしも限りません。

例えば、一日2時間から5時間の勤務で、週に4,5回のシフトに入っている、と回答されたとします。計算上は、最少で計8時間(2時間×4回)、最大25時間(5時間×5回)となるかもしれませんが(週8~25時間)、実際には、毎週15時間とか20時間と決まった一定の時間数で勤務をしているかもしれません。両者には乖離があります。

ですから、聞くことができたならその回答を書けばよいですし、聞くことができずにこちらで算出した回答なのであれば、その旨を明記しておかなければならないのです。

 

学生:そうなんですね。週の勤務時間数は聞いていない事例も少なくなかったので、どうやって整理したらよいのかと思って。

 

川村:勤務時間数は日によって異なったり、平日と土日とで異なるケースもあるでしょうから、週当たりで把握しておくことが必要ですね。

ですから今回の調査では、(1)一日の勤務時間数(開始時刻と終了時刻)、(2)週の勤務シフト回数、(3)週の勤務時間数、(4)月の収入、という4点について、オンライン授業時と対面授業時のそれぞれについて、尋ねるという姿勢で調査に臨むとよかったですよね。(3)が抜けていたのでしょうね。

 

学生:回答に幅があったのも、扱いに苦労しました。例えば、週の勤務時間数が○○時間から△△時間のあいだ、などです。

 

川村:その場合、中間の値を使うこともありますが、今回の場合は、そのまま記載してよいと思いますよ。ただ、週の勤務時間数が○○時間から△△時間のあいだ、であれば、月の収入も○○万円から△△万円のあいだ、でなければおかしいですよね。そういうことも意識して聞き取るとよいですね。

いずれにせよ、繰り返しになりますが、直接聞いた(得た)結果ではなく、自分たちで何か計算をして導き出した結果なのであれば、その旨は記載すること。その手続きを経なければ、ねつ造と指摘されかねませんのでね。

 

学生:分かりました、、、(涙)

 

川村:こうして集計表を作ることまで想定していなかったこともあって、苦労は多かったでしょうね。少し厳しめに指摘しましたが、それぞれの聞き取りでは、話をよく聞けている、と思いましたよ。

例えば、皆さんが気にかけている、収入が「減少した」ケースのその内容を教えてもらえますか。

 

学生:はい。例えば、No.2-1です。

No.2-1の働いている飲食店は夜の営業がなくて、元々は週に2,3日働いていたのが、対面になってからは、平日の勤務に入れなくなり、土日の勤務になりました。その土日も、他の用事があってシフトに入れないこともあるため、収入は1,2万円減ったそうです。

 

学生:私はNo.8の結果を紹介します。

小売店で働くNo.8の現在の勤務時間は、日曜日の9時から15時(6時間)で、月の収入は約3万円です。希望する収入は5~6万円で、オンライン授業のときにはその位の収入があったそうです。対面授業になって、シフトを週3日から週1日に減らさざるを得ず、2~3万円にまで収入が減ってしまった。実家暮らしのため生活に困っているわけではないようですが、逆に言えば、アルバイト収入に頼っている学生であれば、困った事態になっていたと思います。

 

川村:勤務時間数が3分の1になったのだから、収入も3分の1位になっていなければ、と少し疑問を感じるけれども、なるほど、大筋では理解できます。

 

学生:ちなみに、バイトの変更や掛け持ちを考えなかったのかをNo.8に質問したのですが、「人見知りのため1年ちょっとかけて築いてきた社員さんやバイト・パートさんとの交友関係をまたイチから築く負担や、仕事を覚えるのが大変であることを思うと、考えていません。掛け持ちも考えましたが、現在のバイト先は、休み希望をとった日以外は不規則にシフトが入るため、掛け持ち先のシフトとの調整が難しくなるためしてない」とのことでした。

 

川村:なるほど。週1日の勤務であっても、シフト作成・調整との関係で掛け持ちは難しいのですね。

 

学生:私はNo.23の経験を紹介します。No.23は対面授業に切り替わる際にアルバイトを変えています。業種は、以前も今も飲食店です。

ただ、働き方が、オンライン授業時には、16時~24時の間で、週4,5日シフトを入れていたのが、アルバイトを変えてから17時~21時、シフトは週3程度になっています。結果、月の収入は5万円ほど減っています。シフトを増やさないのか尋ねたのですが、授業との関係でバイト時間をあまり費やせないのと、アルバイト先が人件費の削減でシフトにあまり入れてもらえないと聞きました。また、暇なときは早めに上がらされるため、出勤時間が短くなることも多々あるそうです。

 

川村:その際の所得補償(休業手当)はないのか、が気になりますね。

 

学生:とくにそういう話は聞かなかったから、何もないんじゃないかなと思います。

ただ、シフトが1週間単位のため、その点は働きやすいとのことでした。

 

川村:なるほど。

 

学生:余談になりますが、No.23は、学業優先という面では、対面のほうがしっかり授業を受けられるので良いのだけれども、収入の面では、少し生活が苦しくなった──収入が減少したのに対して、学食やちょっとした買い物などで支出は増加した──ため、対面とオンラインの併用が良いと言っていました。

 

川村:ふむふむ、なるほど。いや、よく聞けていますね。

こういうことはアンケートでは明らかにするのは難しい、やはり聞き取り調査ならでは、です。よく聞けています。その意味では、聞き取り調査という手法を使ったからこそ明らかにできたことはもっと示しておいたほうがよいですよ。

ちなみに、対面授業になって収入が「増加した」学生とはどういう学生なのでしょうか。

 

学生:飲食店で働くNo.25の場合には、お店が忙しくなったことが理由のようです。お店の営業時間が18時から23時までで、No.25の勤務は18:00から24時までです。コロナ禍では営業の終了が22時だったのが、現在は23時までになった分、勤務時間も1時間延びたようです。

 

川村:営業終了後も仕事なんですね。

 

学生:営業時間内はホールの仕事で、営業終了後は、お店の締めの作業だそうです。閉店作業が終わるまで帰れないと聞きました。今は店が忙しくて人手が足りずにシフトを増やしたので、収入は2、3万増加。お店は基本的に忙しいのですが、イベント時はテイクアウトの注文が多いため、特に忙しくなる。ホールを少人数で回しているため、すごく忙しいときは休憩に入れないことがあるそうです。シフトは1週間おきで、シフトの提出はシフトの作成時まででよいから、融通が利くそうです。

 

川村:コロナ禍では勤務に入れないことが問題でしたが、飲食業では、コロナの収束・利用客の回復に伴い、逆に、多忙のケースが出てきているようですね。対面授業になったから忙しくなった、ではなく、対面授業への切り替えとコロナの収束とがちょうど重なったということですね。

 

学生:No.29も飲食業で働いている学生ですが、店が忙しくなったのと学生スタッフの入れ替わりが激しく、人手不足で大変のようですね。オンラインで好きな時間帯に授業を受けていたときと違って、1コマ目の授業に対応するのがつらく感じるとのことです。

 

川村:ありがとう。よく分かりました。聞き取りという手法を使ったからこそ明らかにできたことですね。

以上にみてきた働き方や賃金・収入に関する調査結果は、整理するのが大変だったかと思います。ただ、これらは、とても大事な情報ですから、今後の聞き取りの際にも、丁寧に聞くようにつとめてください。

さて、名残惜しいですが、今回の聞き取りではまだまだたくさんのことを聞いているわけですから、次の調査結果に移りましょうか。

(続く)

 

 

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