「アルバイトを始めるあなたへ──北海学園大学経済学部教授・川村雅則さんのアドバイス」『しんぶん赤旗』朝刊2022年4月10日付
この間、学生アルバイト問題のことを取り上げていただいている「しんぶん赤旗」からのご依頼で、新歓にあわせて、アルバイト生活や大学生活に関する助言をまとめました。「アルバイトを始めるあなたへ──北海学園大学経済学部教授・川村雅則さんのアドバイス」という題で、2022年4月10日の紙面に掲載されました。本サイトに転載させていただくにあたって、(1)紙面では図で掲載されたのを表にしました。データはいずれも、『北海学園大学学生アルバイト白書2021』によるものです。(2)紙幅の都合で割愛された文章を加筆しました。〔 〕部分です。(3)「調べてみよう!」という3つの課題を設けました。挑戦してみてください。/では、どうぞお読みください。
大学1年生のみなさん、入学おめでとうございます。残念ながら大学の授業はまだオンラインも多いでしょうが、アルバイトをさっそく始める人が多いのではないでしょうか。アルバイト生活や大学生活がより充実したものになるように、北海学園大学経済学部教授・川村雅則さんからのアドバイスです。
■仕事の世界にもルール──労働法
勤務シフトに全く入れない。休業手当が支給されない─。これは、2021年にゼミで行ったアルバイト調査に寄せられた声の一部です。
私は大学で、アルバイトをめぐるトラブルや奨学金利用・学費負担のことを調べたり、労働法(ワークルール)の普及活動をしたりしています。
ワークルールという言葉は、聞いたことがありますよね? 労働者を守るために設けられた法で、例えば「○○円以下の賃金で働かせてはならない」という最低賃金制が、よく知られているのではないでしょうか?
皆さんが足を踏み入れる「働く」という世界にも、ルールが当然あります。社長がルールではありません。企業はともすれば利益の過度な追求に走りがちなので、こうした規制がかけられています。ところが学校でちゃんと教わる機会もないものですから、知らずに働き始めてトラブルに遭う学生が多いんです。
ちなみにコロナ以前は、人手不足という事情もあって「勤務シフトを勝手に増やされる」「所定の時刻になっても上がらせてもらえない」などの声が多く聞かれました。勤務シフトなど労働条件は、働く側と使用者との間の労働契約、両者の合意で決まるのが基本ですから、勝手に変更される、というのは問題です。
なお、民法の改定でこの4月から成人年齢が18歳に引き下げられました。働く「ルール」や労働「契約」などを、働く側がこれまで以上に自覚してほしいと思います。
表1 2020年度のアルバイトでの経験(複数回答可)/単位:人,%
464 | 100.0 | |
勤務シフト・労働時間が減った | 177 | 38.1 |
バイト先が休業することがあった | 124 | 26.7 |
自分が希望するだけの労働時間数を働くことができなかった | 109 | 23.5 |
勤務シフト・労働時間がゼロになる期間があった | 97 | 20.9 |
仕事を探したが、見つけるのに苦労した | 72 | 15.5 |
コロナ感染をおそれてアルバイトをひかえた | 62 | 13.4 |
収入を増やすため労働時間数や仕事・アルバイト先を増やした | 56 | 12.1 |
コロナで仕事が逆に忙しくなった | 44 | 9.5 |
仕事を探したが、最後まで見つけられなかった | 23 | 5.0 |
バイト先の廃業・閉店を経験した | 21 | 4.5 |
コロナ感染をおそれてアルバイトを辞めた | 15 | 3.2 |
バイト先を解雇された | 14 | 3.0 |
とくに問題はなく、安定的に働くことができた | 153 | 33.0 |
〔無回答〕 | 3 | 0.6 |
■休業手当と非正規雇用──社会の「穴」
人手不足の状況は、コロナで一転しました。就業の機会は以前よりも回復・安定したとはいえ、業種による差がまだみられますね。とくに学生バイトが多い飲食業は大変です。
ところで、予定されていた仕事がなくなった際に賃金(給料)が保障されなければ、働く側は困ってしまいます。労働基準法にうたわれた「休業手当」という言葉を、コロナ下でよく聞いたのではないでしょうか。
ところがこの休業手当、学生アルバイトなどシフト制で働く非正規雇用者の多くには、支給されませんでした。一定期間ごとに勤務シフトが組まれる労働者には勤務が約束されていたわけではないから、というのです。
非正規雇用者は親や夫に扶養されているから、経済的に困らないだろうという「偏見」も、不支給を支えました。われわれの調査でも、学生の半数が休業手当を全く受け取れていませんでした。非正規雇用者が守られぬ私たちの社会の「穴」が、発見されたのです。
表2 勤務シフトや労働時間の減少を経験した場合、休業手当は支給されましたか(複数回答可)/単位:人,%
254 | 100.0 | |
休業手当が支給された | 103 | 40.6 |
休業手当ではないが、シフト・労働時間の減少に対する手当が支給された | 26 | 10.2 |
有給休暇の使用で処理された | 9 | 3.5 |
とくに何も支給されなかった | 127 | 50.0 |
その他 | 4 | 1.6 |
注:対象は、勤務シフトや労働時間の減少を経験した者に限定。
■身近に政治をたぐりよせ──学費負担
〔政府も、休業手当を支給する企業に対して財政的な支援を行いましたし(雇用調整助成金)、休業手当が支給されない労働者に対しては新たな休業支援金制度を設けたりもしました。労働組合を中心とした現場からの要求で制度が改善もされました。ちょっと複雑な話なのですが、こうした動きをみていると、私たちの暮らしが政治と深く結びついていることや発言をすることで政治が変わっていくことを感じました。〕
さて、皆さんが政治をもっと身近に感じる例として、そもそもなぜアルバイトができないと、修学の継続が困難になるのでしょうか。多くの学生がアルバイト収入に依存せざるを得ないのは、なぜだと思いますか。
日本では、高等教育に投じられる予算が少なくて、大学の授業料が非常に高いことが原因です。皆さんの多くが利用しているであろう日本学生支援機構の奨学金も「貸与型」が中心です。つまり借金です。20年度から始まった高等教育における就学支援新制度(授業料の減免+給付型奨学金)も、利用できる対象は非常に限定的です。学生アルバイト事情から、こうした高い学費問題までが透けて見えてくるのです。
表3 日本学生支援機構による貸与型奨学金利用者の、第1種(無利子)・第2種(有利子)奨学金利用金額合計(月額)/単位:人,%
314 | 100.0 | |
2~3万円台 | 52 | 16.6 |
4~5万円台 | 107 | 34.1 |
6~7万円台 | 47 | 15.0 |
8~9万円台 | 26 | 8.3 |
10~11万円台 | 24 | 7.6 |
それ以上(12万円以上) | 16 | 5.1 |
金額はわからない | 33 | 10.5 |
〔無回答〕 | 9 | 2.9 |
■発言するトレーニング──主体性
ワークルールを実際に使えるようになることの重要性も、コロナ禍は示しました。休業手当が支給されない、と嘆く学生に一連の制度の説明をした上で、店長に聞いてみるよう勧めても、あきらめてしまうケースが多かったです。
こんな調査結果もあります。学生アルバイトでも年次有給休暇制度を使えることを知っているのは、回答者の4分の3を占めました。その一方で、自分の職場で使えるかを尋ねたところ「できる」という回答は4割にまでダウン(4割超がわからないと回答)。学んだルールが〝ジブンゴト〟として吸収されていない、とでも言えばよいのでしょうか。誰でも見られるはずの就業規則(職場のルールブック)を見たことのない学生が、ほとんどなのでしょう。
もっとも「法を知っていても使えないよ」という、その気持ちはよく分かります。働く側のそうした立場の弱さを埋めて、法に実効性をもたせるのが労働組合(ユニオン)なのです。
学校の世界では、皆さんの主体性を育てることがあまり大事にされてきませんでした。理不尽な校則に疑問を感じても発言を封じられてきた、という経験も聞かれます。対面授業やサークル活動への制約など、コロナ下の大学でもそれは同様で、大学づくりに学生の声をもっと反映しなければと私たちも自省しています。
構成メンバーの発言が尊重されてこその民主主義です。アルバイト先で声をあげるのも大学で声をあげるのも、根っこはつながっています。疑問などは臆せずに、でも一人ではなくみんなで発言するトレーニングを、積んでいきましょう。
表4 勤務期間など条件を満たせば学生アルバイトでも有給休暇を使うことができることを知っていましたか(左)/現在のアルバイト先では学生アルバイトは有給休暇を使うことはできますか(右)/単位:人,%
495 | 100.0 | 495 | 100.0 | |||
知っていた | 371 | 74.9 | できる | 195 | 39.4 | |
知らなかった | 113 | 22.8 | できない | 77 | 15.6 | |
有給休暇制度そのものを知らなかった | 6 | 1.2 | わからない | 221 | 44.6 | |
〔無回答〕 | 5 | 1.0 | 〔無回答〕 | 2 | 0.4 |
注:対象は現在アルバイトをしている者。
■皆で考え、動いてみる──望む社会へ
全国の大学や地域で学生に対する食料支援活動や「生理の貧困」問題への対応が始まっています。その中で、学生自身が主催者側にまわる動きも出ています。コロナは、私たちの社会のもろさを浮き彫りにしました。戻る(進む)べき社会をみんなで考え、つくっていきましょう。
◇
続きは、私たちの運営しているサイト(北海道労働情報NAVI)にアクセスしてみてください。
調べてみよう!
1.大学生・大学生活の現状を調べてみよう!
コロナは大学生活にどのような影響をもたらしているでしょうか。大学での授業や学生アルバイトのほか、経済的な状況から心身の状態まで幅広く調べてみましょう。なお、ここでの調べる取り組み(調査活動)とは、新聞記事や雑誌論文、インターネット上で配信された情報などを収集したり、お互いの経験・情報を出し合うことをさしあたり想定しています。
2.各種の法制度や運動・取り組みを調べてみよう!
大学生活を支える法制度にはどのようなものがあるでしょうか。例えば、学費負担(軽減)に関わる制度にはどのようなものがあるでしょうか。あるいは、もしもアルバイトでトラブルにあったら? 調べてみましょう。あわせて、こうした学費問題やアルバイト問題のほか、生活困窮・生理の貧困などの解決を求める運動・取り組みも各地で始まっています。調べてみましょう。
3.大学生・大学生活の現状を実際に自分たちで調べてみよう!
自分たちで実際に現状を調べてみることやそこで得られたデータは、自分たちの認識を深め、かつ、各種の取り組み(例えば、集会や社会へのアピール、関係者・関係機関への申し入れ、政治への働きかけなど)を行う上での重要な経験・土台になります。1,2で得られた情報や、自分たちの問題意識・関心事を持ち寄り、調査を企画して、大学生・大学生活の現状を実際に調べてみましょう。私たちの調査活動・調査票などもぜひ参考にしてみてください。
ところで、いろいろと問題を提起しましたが、生活が大きく変化したり何かと張り切りすぎたりして体調を崩しやすいのも、年度初めというこの時期です。コロナ下の大学生活は何かと制限・自粛を求められて、知らず知らずのうちに心も体もじつは疲弊しているかも。不調を感じたら何も考えずぼーっとする時間も必要かも。思いっきり、休んでみよう!
(関連記事)
川村雅則ゼミナール『北海学園大学 学生アルバイト白書2020』
川村雅則ゼミナール『北海学園大学 学生アルバイト白書2021(暫定版)』
川村雅則ゼミナール「2021年度学生アルバイト調査・研究報告その1」
川村雅則ゼミナール「2021年度学生アルバイト調査・研究報告その2」
川村雅則ゼミナール「2021年度学生アルバイト調査・研究報告その3」
(追記)紙面で使われたイラストはフリーのイラストレーターの方の作品です。二次使用料をお支払いしてこの投稿でも使わせていただいています。個人事業主の権利・収入問題という古くて新しい課題が、フリーランスという働き方が急増し、かつ、それが政府によっても後押しされる中で、あらためてクローズアップされています。作品利用にあたっての作者の方との短いやりとりは、この問題をリアルに考えさせられる契機になりました。注視していきましょう。 |