本田宏「複雑な選挙制度と野党共闘の耐えられない曖昧さ」

NPO法人さっぽろ自由学校「遊」が発行する『ゆうひろば』第181号(2021年12月号)に掲載された本田宏さん(北海学園大学法学部教授、「遊」理事)の原稿です(一部修正)。お読みください。

 

 

 

今回の衆議院選挙では、小選挙区では選挙協力の成立した数や立憲民主党の獲得議席数は増えたものの、比例代表では立憲と共産が振るわず、国民民主党や「れいわ」に票が流れ、自民党を離れた層は大半が維新に流れた。全体に占める女性議員の比率も10.1%から9.7%へ微減。当選者の平均年齢も前回の54.7歳から上昇して55.5歳となった。こうした結果の背景として、日本の複雑な選挙制度と、野党共闘に内在する弱点を指摘したい。

国政選挙だけでも衆参両院の選挙制度が微妙に異なり、それぞれ複合的な要素から成っている。衆議院は小選挙区と11ブロックに細分化された比例代表(拘束名簿式)の並立制である。参議院も並立制だが、まず都道府県単位の選挙区は半数改選数が1、2、3、4、6(2015年改正までは5)とバラバラ、比例区は全国単位で名簿方式は自民党の党利党略により、2000年から非拘束名簿式になり、2018年からは特定比例枠という優先順位も設定できるよう改正された。

こうした複雑な制度は野党の戦略を複雑にする。小選挙区では小党の当選可能性は低いが、全く候補者を立てないと有権者からの政党の認知度が低下して比例票に影響するので、小党も候補を立てる誘因が働く。比例区も衆院では細分化されているので小党に不利だが、野党は比例に全て候補を立てようとするので共倒れになりやすい。しかし比例での候補者調整は各党の思惑もあり、有権者の協力も必要なので困難である。参院選の比例代表は全国区なので小党に十分チャンスがあり、選挙協力の意欲は低下する。また一般に複雑な選挙制度や多党乱立状態は有権者の認知上の負担を高め、投票率を下げる要因となる。投票率が低い若年層の中で自民党支持率が比較的高いのは、自民党の認知度とともに野党間の違いの認識の難しさもあるだろう。

比例代表を主体とする選挙制度では、名簿順位を男女交互にすれば女性議員を容易に増やすことができる。しかし日本では比例代表部分が少なく、「身を切る改革」の掛け声で定数が再三削減されてきた。小選挙区は二世議員や有力利益団体出身の候補者に有利である。選挙運動期間も年々短縮されているため、知名度の低い新人候補者に不利である。女性の新人候補者を多数立てたくても、現職に有利な選挙制度の下では議席増加の目的とうまくかみ合わない。共産党は女性候補者の数自体は多いが、当選を度外視して候補者を立てている。また選挙の投票年齢が18歳に引き下げられたのに被選挙権は諸外国とは異なって据え置かれ(衆院25歳、参院30歳)、若者は議員になれない。

今回の選挙では立憲と国民民主がともに「民主党」を略称とすることで譲らず、「民主党」票は案分され、約2割が国民民主に入った。また島根選挙区では立憲民主党の現職候補を妨害するかのように同姓同名(漢字異字)の候補が立てられた。いずれも自筆式投票に由来する脆弱性である。多くの国では識字能力の面で投票権が奪われないように投票用紙には政党の名前やシンボル・マーク、候補者名があらかじめ印刷されており、投票者はチェック・マークをつければよい。

今回の選挙では「れいわ」が比例区(東海)で1議席確保したのに重複立候補していた小選挙区で供託金没収基準である有効投票の10分の1以上に達しなかったため、比例区での当選が認められなかった。これは高い供託金やその没収基準の問題でもあるが、小選挙区と比例区は本来別で優劣はないはずであり、小選挙区で「落選」、比例区で「復活」という優劣は奇妙である。

ドイツでは各党の議席数はほぼ比例代表で決まるが、総議席数の約半数の小選挙区で勝利した候補には優先して議席を与える。比例で大半の議席を得る小政党も小選挙区に候補者は一応立てるが、小選挙区で敗北しても比例で当選することでバツが悪いのは大政党の幹部議員だけである。

今回の選挙では自民党が新総裁選出からできるだけ早い時期を選んで解散総選挙を仕かけた。日本では与党の都合のよい時期に首相が議会を解散することを裁判所が容認しているが、これも異例である。議員内閣制の発祥の地イギリスでも2011年の法改正で議会任期を5年に固定し、与野党合意の場合のみ解散を認めている。ドイツでもナチス台頭の教訓から、内閣不信任案の提出と首相の議会解散権に制約があり、国政選挙はほぼ4年ごと行われる。

野党共闘自体にも脆弱性がある。野党の選挙協力が有効なのは定数1~2の選挙区に限られ、そこでの当選可能性も立憲の候補者に限られる。にもかかわらず立憲は、共産党とは基本政策が相いれないので連立まではできないという態度をとってきた。立憲は地方議員や党員が少なく、選挙運動は労組に頼らざるをえないため、会社組合的勢力が主流派を構成する「連合」に配慮せざるをえない。それでも市民団体が提示した政策項目への合意は、立憲、共産、社民、れいわの選挙協力の基盤となった(れいわとの協力は十分機能したとはいいがたいが)。他方で市民団体の政策項目(脱原発など)を拒否した国民民主党とは連立を組めるような姿勢を立憲はとっており、市民連合の政策項目は反故にされかねなかった。これでは投票が政権交代や政府の政策転換に結び付くという期待は高まらない。

また共産党は、正式の政権参加は「連立」政権、閣外協力は「連合」政権とする詭弁を展開した。だが閣外協力とは、過半数の反対がなければ少数政権が制度的に許される北欧に多く見られる慣行である。スウェーデンでは伝統的に左右のブロックに政界が分かれ、また近年は保守諸政党が極右政党と一線を画しているため、社会民主労働党に緑の党を加えた少数政権が左翼党(1990年に共産党から改名)の閣外協力を受けて成立できる。しかし日本を含めた多くの国では少数政権が容認されていないので、閣外協力とは大臣ポストを要求しないだけで多数派の一部となる。

立憲には単独過半数をとる力はなく、友好的野党の議席をかき集めることが政権交代を目指す前提である。立憲には、共産党との協力に小選挙区での戦術上の必要悪以上の積極的な意味付けをすべきである。また立憲も共産も社民もれいわも、似たような政策で似たような有権者を奪い合ってきたように見える。しかしこれからはそれぞれどの地域のどの社会経済的地位の人々を主に代表するのかを意識して政策の切り口を変え、すみ分けを図ることが求められる。この数年間の野党共闘は2010年代の脱原発デモや安保法制反対デモの盛り上がりを追い風に発展したが、これらの争点への社会的関心は低下している。野党共闘をつなぐ役割を担ってきた市民団体も高齢化しているが、40代以下の世代の関心の高い日常的な争点に関心を切り替えるべきだろう。

 

 

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