『北海道新聞』夕刊2019年3月11日4面「魚眼図」に掲載された、本田宏氏(北海学園大学教授)によるコラムです。
2006年から2007年にかけ、ドイツの第一公共テレビ放送の調査報道番組「モニター」が衝撃的な事実を暴露した。官民の「人事交流」の名の下に、ドイツの連邦や州の省庁、欧州連合(EU)の行政機構に大企業が社員を期限付き公務員として多数送り込んでいるというのである。「潜入ロビイスト」「潜水艦」とも呼ばれる彼らは、所属先企業から報酬をもらい続け、法案の原案作成にも関与していた疑いが出た。事例に挙げられたのは、空港騒音規制・電力市場自由化・EU化学物質登録制度の骨抜き、金融市場への投機資本の参入規制撤廃、PFI(民間資金活用による社会資本整備)の手法による公共施設の建設・運営などである。
取材のきっかけは、野党の一つ、左翼党の政策秘書が銀行員時代の同僚と偶然再会したこと。元同僚が連邦財務省の臨時公務員として働いていることを知り、左翼党会派が連邦議会で政府に質問書を出した。EU議会の緑の党議員も取材に協力し、はぐらかそうとするEUの行政機構に回答を要求し続けた。その結果、2006年12月にドイツ連邦会計検査院は連邦各省庁に派遣公務員の情報開示を命じた。連邦政府は2008年6月、派遣公務員採用に関する規則を制定し、年2回の報告書作成も決めた。またEUの行政機構は派遣公務員の新規契約中止を表明した。2人の記者の調査結果は2008年に出版されている(*1)。
日本でも2018年末の水道法改正をめぐる国会審議で、外資の巨大水道企業の社員が内閣府の臨時職員として働いていた事実が社民党議員によって明らかにされた。官民の「交流」「連携」の名の下で起きうる新手の癒着は、対岸の火事ではないのである(本田宏・北海学園大学教授=政治過程論)(*2)
*1: Adamek, Sascha, und Kim Otto (2013) Der gekaufte Staat. Wie Konzernvertreter in deutschen Ministerien sich ihre Gesetze selbst schreiben. 4. Auflage. Köln: Kiepenheuer & Witsch.
*2: 本コラムは内田聖子「歪められる政策形成 企業ロビイ 新たな利権構造」『世界』2019年5月号:48-57頁で引用されているので、そちらも参照されたい。
(本田宏のその他の記事)