川村雅則「職場に引き寄せて議論を/非正規格差で最高裁判決」

大阪医科薬科大学、メトロコマース、日本郵便で働く/働いていた非正規労働者の賃金格差をめぐる最高裁判決が2020年10月に出されたことをうけて共同通信社から依頼されて書いた原稿です。各紙で報じていただきました。

 

非正規で働く人にも扶養手当などを支給すべきだが、退職金やボーナスの不支給は容認する─。正社員との待遇格差の是非を巡る五つの訴訟で、そう判断した10月の最高裁判決。個別事例への判断だが、どう受け止めるのか。労働や格差の問題に詳しい、北海学園大の川村雅則教授(労働経済論)に寄稿してもらった。

 

 

せっかく高まってきた「同一労働、同一賃金」を求める社会の機運に水を差すのか。一連の判決は全体として非正規労働者に厳しい内容だった。だが別の受け止め方をする人も少なくない。

「非正規なんだから(退職金やボーナスが)ないのは、しょうがないんじゃないですか」。判決を勤務先で話題にすると、そう口にする学生もいた。インターネット上でも、「非正規がもらえるはずがない」といった意見が散見される。

そうした考えのベースにあるのは、非正規に対する固定観念だろう。「多くは主婦や学生で被扶養者」「業務は補助的で短時間の勤務」─。だが実際には、家計の主な担い手としてフルタイムで長年勤務し、職場の基幹業務を担う人は珍しくない。今や非正規は約2千万人、働く人全体の4割弱を占める。

それでも、非正規に対する固定観念がはびこるのは、旧来の日本型雇用慣行の中で位置付けられたイメージが根強いからだろう。年功賃金と終身雇用を軸にした「日本型」は、社員を「平等に処遇する」ともてはやされもしたが、正社員でない人には冷たく、排除する差別性をはらんでいた。その慣行は職場にとどまらず、家庭内の性別役割分業や社会保障制度とも深く結び付いてきた。

非正規の割合が低い頃は問題が顕在化しにくく、社会は不問に付すこともできた。だが「非正規だから」と説明なく切り捨てられる時代ではない。「職務遂行能力」といった曖昧な基準ではなく、現にその人がどんな職責を果たしているのか。手間は掛かっても正社員の業務との重なりや差異をつぶさに問い、公正に評価する必要がある。

今回の判決は個別事例の判断にすぎず、一般的な基準を示したのではない。肝心なのは判決をそれぞれの職場に引き寄せ、どんな理由で、どこまでの差なら皆が納得できるのか、話し合うことだ。退職金やボーナスに比べ判断しやすい手当の扱いから議論し始めてもいい。経営者はもちろん正社員が中心の労働組合の意識も問われている。

研究者としてさまざまな労働の現場に入ってきたが、格差是正が議論にすらなっていない職場も多い。多くの人を不公正な処遇に追いやったままで、個々人が能力を発揮できる職場や社会の発展など望めるだろうか。

 

 

 

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くましろちかこ「(手記)非正規公務員として働いていたときのこと」

 

(参考文献)

脇田滋「日本における「同一労働同一賃金」の課題─2018年改正法活用の意義」『月刊全労連』2019年11月号

 

筆者が把握している(教えていただいた)掲載紙一覧

『沖縄タイムス』20201026日付

『山陰日日新聞』20201026日付

『日本海新聞』20201026日付

『神奈川新聞』20201027日付

『高知新聞』20201027日付

『長崎新聞』20201027日付

『千葉日報』20201028日付

『愛媛新聞』20201029日付

『信濃毎日新聞』20201029日付

『徳島新聞』20201029日付

『熊本日日新聞』20201030日付

『北日本新聞』20201031日付

『京都新聞』20201031日付

『山陰中央新報』2020112日付

『南日本新聞』2020112日付

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