川村雅則「(提言2010)非正規労働 格差是正 労組も責務」

『北海道新聞』朝刊2010年3月28日付に掲載された、非正規労働に関する「提言」です。10年も前のものですが、あらためて問題提起をしたいと思い掲載しました。

 

現在、労働者の3人に1人が非正規労働者といわれている。今、必要なのは、野放図な有期雇用の乱用を規制するとともに、労働組合が自らの活動を、非正規労働者を含めた全労働者を代表するものに転換することだ。

昨年、連合北海道と行った実態調査では、道内でも多くの非正規労働者が、正規労働者との処遇格差や低賃金に苦悩している実態が浮かび上がった。

 

〇休暇すら放棄

 

例えば、労働時間が週40時間以上の非正規労働者は、自治体職場では3人に1人、郵政職場では全体の半数に及んだ。一方、年収200万円未満は自治体職場では6割超、郵政職場では7割近くに上り、「正職員と同じ仕事内容で賃金は半分程度」という不満は、けっして少なくない。

多くの非正規労働者が「雇い止め」に不安を感じながら働いていることも深刻だ。雇い止めを恐れ、休憩や休暇の取得さえ放棄して懸命に働き続ける非正規労働者もいる。

欧州連合加盟諸国は、採用時や更新時の有期雇用の乱用を規制し、一定の更新回数や期間に達した場合の無期雇用化を義務づけている。非正規労働を「多様な働き方」と位置付けるのならば、日本でも何らかの歯止めが必要だ。

労働者派遣法改正など、民主党政権が雇用政策を規制緩和から保護へと転換していることは、不十分ではあるが一定評価する。ただ、現行の諸制度は非正規労働の拡大や大量失業に対応できていない。最低賃金の引き上げや社会保障制度の見直し、均等待遇の実現が早急に求められる。

労組も格差社会の是正に向けて本気で取り組むべきだ。今春闘では連合、全労連ともに、非正規労働者を含む全労働者の条件改善を打ち出した。ただ、道内では今、大手労組が定期昇給の維持に必死になっているが、実際にどれだけの労組が本気で非正規労働者の昇給や待遇改善に取り組んでいるだろうか。

 

〇鈍い人権感覚

 

これまで日本の多くの企業労組は正規労働者を中心に組織され、非正規労働者は蚊帳の外におかれてきた。賃金や労働条件が異なる正規と非正規の間には「壁」があり、非正規労働者の組合加入を認めることにさえ、反発する労組もある。

一方で、正規と非正規が連携する動きも出ている。路面電車で知られる広島電鉄(広島市)は昨年、全契約社員を正社員化した。契約社員のために労使が歩み寄って実現したもので、一部の正社員は賃金引き下げ、経営者側は定年延長など人件費増額を受け入れた。当初は正社員から反発もあったが、3年越しの労使交渉で妥結した。

ここから学ぶべきは、労組が「職場の差別を放置しない」という基本姿勢に立ち、正規と非正規の壁を乗り越えるために、粘り強く努力し続けたことだ。

非正規労働問題の放置は、正規から非正規への転換を拡大し、正規労働者の足場さえ切り崩す。このことに労組はもっと危機感を持つべきだ。非正規労働者の組合加入を認め、職場の労働実態や格差の把握、待遇改善にぜひ取り組んでほしい。

今、問われているのは、一部の労働者を犠牲にして成り立つような会社や社会を容認するのかということだ。労働者が闘う相手は理不尽な経営者ばかりではない。私たちは、職場での格差に鈍感になっている自らの人権感覚の欠如とも向き合う必要がある。

 

 

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川村雅則「職場の不公正を直視し、労働組合は具体的な取り組みに着手を(前編)」(外部リンク)

川村雅則「職場の不公正を直視し、労働組合は具体的な取り組みに着手を(後編)」(外部リンク)

 

 

 

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