高騰する大学授業料
Bくん:それにしてもAさんはずいぶんとアルバイトをしているんだね。前期の単位はどうだった?
Aさん:前期はそこまでバイトをしていなかったんだけれども、最近は、アルバイトが忙しくて体力的にちょっときついです。このままだと後期の単位が危ないかも、と心配。
Bくん:アルバイトを減らすのは難しいの?
Aさん:学費とか生活費とかを稼がなければならないので、、、
Yくん:学生の本分は勉強なのにこれでは本末転倒になってしまうね。根っこには、国立・私立ともに大学の学費が高すぎるという問題があるんだよ。
Bくん:うーん、でも、大学はお金がかかるのが当たり前なんじゃないですか?
Yくん:そういう考えが一般的かもね。僕もゼミ論を書くのにまだまだ勉強中の身だけれども、みんなでちょっと考えてみようか[1]。
図表 国公私立大学の授業料等の推移
注1:年度は入学年度である。
注2:国立大学の平成16年度以降の額は国が示す標準額である。
注3:公立大学・私立大学の額は平均であり、公立大学入学料は地域外からの入学者の平均である。
出所:文部科学省「国公私立大学の授業料等の推移」より。
Yくん:このデータをみてもらえるかな。国立・私立ともに年々、学費が上がっていってることが理解できるよね。大学への進学者が増加する一方で、大学教育への公的な支出は増えていかない、むしろ受益者負担という考えの下で抑制されてきたことが、こうした値上げにつながっているようだね。
Bくん:こ、こんなにも学費が上がっていたんですね(汗
Xさん:昔の大学生に比べると負担が非常に大きくなっていることにあらためて驚きますよね。学生の場合、アルバイトで稼げる金額には限界がありますし、日本では、奨学金の多くは貸与型、つまり借金になりますから、奨学金での対応にも限界がありますよね。
Cくん:こういう学費負担の問題は、学費を稼ぐためにと、労働条件が整っていない、いわゆるブラックアルバイトで働かざるを得なくなるケースも出てくるかもしれない、という点でも問題ですよね。
Bくん:こんな状況だとアルバイトに追われて大学生活を楽しめないですよー。
Aさん:ゼミの調査では、学費のことも尋ねているんですか?
Xさん:ええ。調査結果を紹介しますね。
奨学金やアルバイト収入で学費を負担
表Ⅲ-2a 学費負担・学費の原資【複数回答可】
単位:人、%
全体 | 1部 | 2部 | ||||
431 | 100.0 | 289 | 100.0 | 142 | 100.0 | |
親の収入 | 346 | 80.3 | 259 | 89.6 | 87 | 61.3 |
高等教育の修学支援新制度(授業料の減免、給付型奨学金) | 82 | 19.0 | 46 | 15.9 | 36 | 25.4 |
その他の給付型奨学金 | 35 | 8.1 | 22 | 7.6 | 13 | 9.2 |
貸与型奨学金(返済を必要とする奨学金) | 152 | 35.3 | 95 | 32.9 | 57 | 40.1 |
自分自身のアルバイト収入 | 105 | 24.4 | 47 | 16.3 | 58 | 40.8 |
その他 | 11 | 2.6 | 6 | 2.1 | 5 | 3.5 |
Aさん:1部生に比べると2部生では、「自分自身のアルバイト収入」をあげている学生が多いですね。家庭の経済状況によって進学や進学後の苦労が左右されてしまうんですね。
Xさん:その学費負担を少しでも軽減させる制度として奨学金があるんですがね。
ただ、先ほども言ったように、日本では、給付型ではなく、返済を必要とする貸与型が中心ですから、言い換えれば、負担の先送りという面はありますよね。
Aさん:Xさんは奨学金を借りてるんですか?
Xさん:借りていますよ。Aさんは?
Aさん:私は、給付型の奨学金を利用しているんですが、生活していくのにお金がちょっと足りなくて、貸与型の奨学金も使おうかと考えているんです。だけど、貸与型は返済しなきゃいけないから、将来果たして返せるかなーって悩んでるって感じです。
Xさん:確かに貸与型の奨学金は、借金ですからね。
ただ、ちょっと語弊があるかもしれませんが、1部でも2部でも、給付型の奨学金の利用に対して、貸与型の奨学金を利用している学生のほうが多いんですよ。2部生では貸与型の利用は46.5%でした。
金額などをよく考えてかしこく利用するという考え方もありだと思います。
何より、お金を稼ぐのにアルバイトで無理をしてからだを壊して、単位を落としてしまったら本末転倒ですからね。
表Ⅲ-4 給付型奨学金の利用状況【複数回答可】 の一部
単位:人、%
全体 | 1部 | 2部 | ||||
431 | 100 | 289 | 100 | 142 | 100 | |
(再掲)利用している計 | 30.2 | 24.9 | 40.8 |
表Ⅲ-5 日本学生支援機構による「貸与型」奨学金の利用状況 の一部
単位:人、%
全体 | 1部 | 2部 | ||||
431 | 100.0 | 289 | 100.0 | 142 | 100.0 | |
(再掲)利用している計 | 40.8 | 38.1 | 46.5 |
Aさん:借金、借金と言われて、躊躇していたんですが、こんなにも利用している学生がいるんですね。ビックリしました。ちなみにXさんは奨学金をいくら借りてるんですか?
Xさん:私は、第1種(無利子)の最高額の64,000円を借りています。4年間で300万円ですね(3,072,000円)。
区分 | 自宅 | 自宅外 |
国公立 | 20,000、30,000、45,000 | 20,000、30,000、40,000、51,000 |
私立 | 20,000、30,000、40,000、54,000 | 20,000、30,000、40,000、50,000、64,000 |
出所:日本学生支援機構ウェブサイトより作成。
Bくん:300万円ですかっ!
Xさん:そうです。
かしこく利用をなんてさっきは言いましたけれども、こうして数字でみると、返済ができるかやはり不安になってきますね。
Cくん:北海学園大学でも幾つかの給付型奨学金制度が設けられていて、成績が良ければ受けられるようだよ。
Aさんも、もしかしたら受けられるものがあるかもしれないから調べてみるといいよ。
Aさん:ありがとうございます。
高等教育の就学支援新制度って?
Bくん:質問なんですが、皆さんが今回の調査で取り上げた高等教育の修学支援新制度っていうのは何なんですか?
Cくん:これは、2020年4月から始まった制度で、授業料と入学金の減免プラス給付型の奨学金を受けられる制度だよ。
今回の調査結果では、知らないという学生も4割弱いたんだけれども、Bくんもその一人のようだね。
表Ⅲ-1 2020年度から開始された高等教育の修学支援新制度の認知状況
単位:人、%
全体 | 1部 | 2部 | ||||
431 | 100.0 | 289 | 100.0 | 142 | 100.0 | |
知っている | 267 | 61.9 | 174 | 60.2 | 93 | 65.5 |
知らない | 163 | 37.8 | 114 | 39.4 | 49 | 34.5 |
無回答 | 1 | 0.2 | 1 | 0.3 |
Cくん:この制度の利用条件は、世帯収入や資産の要件を満たしていることと、進学先で学ぶ意欲があることで、これを満たすことが出来れば利用することができるんだよ。
Bくん:へぇ、初めて知った。Aさん、これを使えばいいんじゃないの?
Xさん:ただ、世帯収入の条件がかなり厳しいんですよ。4人家族の例が示されていますが、Aさんは、当てはまりますか?
出所:文部科学省「高等教育の修学支援新制度」より。
Aさん:実家の経済状況について詳しくは分からないんですが、でも、たぶん当てはまらないと思います。
Bくん:そうか、残念。
でもこの制度、すごく魅力的な制度ですね。授業料等の減免と給付型奨学金を受けて進学が支援されるなんて。
ちなみに、どれくらいの学生がこの制度を利用していたんですか。
表Ⅲ-3 高等教育の修学支援新制度の利用状況
単位:人、%
全体 | 1部 | 2部 | ||||
431 | 100.0 | 289 | 100.0 | 142 | 100.0 | |
利用していない | 323 | 74.9 | 228 | 78.9 | 95 | 66.9 |
利用している(区分は、第Ⅰ区分・住民非課税世帯) | 42 | 9.7 | 22 | 7.6 | 20 | 14.1 |
利用している(区分は、第Ⅱ区分) | 19 | 4.4 | 13 | 4.5 | 6 | 4.2 |
利用している(区分は、第Ⅲ区分) | 10 | 2.3 | 4 | 1.4 | 6 | 4.2 |
利用している(区分は、分からない) | 31 | 7.2 | 17 | 5.9 | 14 | 9.9 |
無回答 | 6 | 1.4 | 5 | 1.7 | 1 | 0.7 |
Xさん:今回の私たちの調査では、1部では2割、2部では3割ちょっとでしたね。現在の基準には該当しなくても、生活に苦労している学生は少なくないと思うので、利用できる人がもっと増えるとよいですよね。
Cくん:この新制度の特徴や問題点については、僕らのゼミでは、小林雅之先生(東京大学名誉教授、桜美林大学教授)の論文を読んだんだ。インターネット上でも読めるものがあるので、紹介しておくよ[2]。
それから、文部科学省の「高等教育の修学支援新制度に係る質問と回答(Q&A)」にも、Aさんに何か役立つ情報があるかもしれないので紹介しておくね。
Aさん:ありがとうございます。わー、情報がいっぱいですね。
なるほどなるほど。
「(資料3)授業料等減免・給付型奨学金(新制度)の支援を受けた場合の無利子奨学金の額の調整」をみると、新制度を使った場合、無利子の貸与型奨学金(第一種奨学金)には利用制限が入るようですね。いろいろ複雑ですね。
Cくん:日本学生支援機構では、「進学支援シミュレーター」というサイトが運用されていて、手元に詳細な情報がなくても、制度の対象になりそうかどうかを大まかに調べることができると紹介されているよ。こちらも参考までに。
Aさん:ありがとうございます。
自分ごとと政治を結びつけて
Bくん:でもほんと、大学の授業料ってもっと安くならないもんですかねぇ。
Yくん:そうだね。僕はもうすぐ卒業で、学業とアルバイトをなんとか両立させてきたけれども、両立はやはり大変だったな。経済的負担は、大学生にとって大きな問題だよ。
Xさん:奨学金収入やアルバイト収入が無かった場合の修学の継続の可能性は、こういう結果だったんですよ。
表Ⅲ-9 奨学金収入やアルバイト収入がなかった場合、学費負担者からの支出だけで修学の継続は可能か
単位:人、%
全体 | 1部 | 2部 | ||||
431 | 100.0 | 289 | 100.0 | 142 | 100.0 | |
十分に可能である | 184 | 42.7 | 146 | 50.5 | 38 | 26.8 |
修学の継続は不自由になる | 103 | 23.9 | 70 | 24.2 | 33 | 23.2 |
修学の継続は困難になる | 138 | 32.0 | 69 | 23.9 | 69 | 48.6 |
無回答 | 6 | 1.4 | 4 | 1.4 | 2 | 1.4 |
Xさん:私たち2部生に限定すると、「十分に可能である」は26.8%で、「修学の継続は困難になる」は48.6%ですからね。切実ですよ。
Yくん:それから、学費の負担が少子化をもたらしている、という指摘もあるからね。その意味でも問題だと思うね。
最近、大学無償化の対象を拡大するという政府の方針が報じられていたよ[3]。政治のこういう動きにも関心をもたないとね。
Bくん:え、そうなんですね!うちは3人兄妹だから、対象範囲が早く広がらないかなぁ。
Aさん:もっともっと無償化の対象が広がるといいね。
Cくん:Aさんは、あらためて、この問題をどう思った?
Aさん:うーん。私は、大学の授業料を減らすべきだと思いました。
Yさんが紹介していた「国公私立大学の授業料等の推移」データにはびっくりしました。でも、なるほど、大学教育に対して国がお金をあまりかけてこなかった分を私たちが授業料で払っていたんだと分かりました。国がもっと教育に対する投資をしないと、私みたいにこれから先も奨学金問題に悩む学生が出ると思いました。
Cくん:そうだね。2部生ではとくに、アルバイトで稼いだ収入や奨学金で大学に通っている学生が少なくないからね。大学の無償化に近づいていけば、今の学生自身にとってのメリットはもちろんだけれども、大学で沢山学んだ学生が社会人になれば、日本社会にとってもメリットがあると思うんだよね。Bくんはどう思った?
Bくん:新しく始まった修学支援制度の認定基準を変える必要があると思いました。制度の説明を聞いて、利用したいなと僕も思ったけれども、4人家族で世帯年収が380万円以下というのは、たぶんウチはあてはまらないと思う。でも、それじゃあウチが裕福かというとそんなことはないんですよ。
Xさん:そうですね。学費問題への支援については、所得の低い層だけでなく中間層へも支援を拡充すべきだと指摘もされているんですよ。そんなこともこれから一緒に勉強していきましょう。
先生:AさんもBくんも、川村ゼミに入る前からいろいろ勉強しましたね。
皆さんの話を横で聞いていて、学生にとって学費の負担が切実であることをあらためて強く感じました。問題解決のため、私も一生懸命頑張ります。皆さんもぜひ、自分ごとと政治の問題などを結びつけながら考えを深めてもらえると嬉しく思います[4]。
来年度からどうぞよろしくね。
Aさん、Bくん:はい!
[1]川村雅則ゼミナール「大学生の学費負担・奨学金利用に関するデータ」も参照。
[2] 小林雅之「「新型コロナ」から日本の社会を考える(第16回)コロナ禍における学生の困難と支援の課題」『住民と自治』第702号(2021年10月号)pp.7-10
[3] 「「多子世帯」学生支援を拡充 給付型奨学金、24年度にも」『北海道新聞』2022年12月12日15:32。詳細は、文部科学省「高等教育の修学支援新制度の在り方検討会議」を参照。
[4] 私たちのゼミの取り組みが紹介されました。「<デジタル発>奨学金、増える自治体の独自制度 Uターン促進、地域医療の担い手確保図る」『北海道新聞』2022年10月7日 12:21 更新をご覧ください。
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