是村高市「単産レポート 全印総連 ダンピング競争の激化 若者が立ち上がる」『労働総研クォータリー』第94号(2014年春季号)pp.20-22
是村高市「「産業政策提言」の具体化と賛同を広げるために」で、印刷通販最大手のプリントパックでの労働組合結成の経験にふれた。このことに関連して、『労働総研クォータリー』第94号(2014年春季号、特集 ブラック化する職場と労働者のたたかい)に掲載された原稿を転載する。お読みください。
印刷関連企業でもブラック化する職場実態
印刷関連産業にインターネットをツールとした「印刷通販」と言う業態が出来たのは、15年ほど前である。もともと、印刷関連産業は、受注産業ということもあって、製造業の中でもダンピング競争が激化していた。この低価格競争は、近年の出版産業の低迷と電子メディアの台頭によって、いよいよ深刻な状況になっていた。
この状況にさらに追い打ちをかけたのが、「印刷通販」という業態である。「印刷通販」の最大手は、プリントパックである。京都にあった小さな製版会社が、インターネットをツールとしたプリントパックに社名変更し、現在は、従業員500名、全国に工場と店舗を持ち、年商150億円を超える中堅企業に発展した。
小さな製版会社が、今や「印刷通販」の最大手、プリントパックに急激に成長し、多分家族労働的にやっていた製版会社の働き方、働かせ方が、今日も残っているところに、このプリントパックの労働実態が、印刷関連産業の中でも突出して劣悪なものになっている要因の一つである。
この企業は、インターネットをツールとし、また、店舗展開もしているので、ユーザーが来店し受注するので、いわゆる営業はいらない。さらに、完全データ入稿が基本なので、印刷企業では多くを抱えるデータ作成部門であるプリプレス職場もいらない。
管理部門と店舗従業員、印刷加工従業員が多くを占め、営業とプリプレスという一般の印刷企業では大きな部所である部門がない。この特徴を生かして、低価格・短納期を売り物に、そのシュアを伸ばしてきた。しかし、低単価・短納期は、もともと利益率が低い印刷産業にあって、相当な薄利多売でも利益率はかなり低い。これも、劣悪な労働条件の要因でもある。
全印総連は、この単価問題に対して、「産業政策提言」を公表し、公契約条例制定や文字活字文化の振興、入札制度改善とともに、その賛同と具体化のために、運動を開始している。しかし、適正単価の確立は難しく、まず、官公需印刷物の適正単価を確立するために、入札制度の改善と公契約条例の制定の運動を進めている。また、民間単価の適正化のために、関連産別との懇談会も予定している。
さて、プリントパックの労働実態だが、印刷と加工職場では、12時間拘束の交替制シフトをとっているが、昼勤シフトと夜勤シフトがあり、夜勤専業の労働者が多くいる。これは、他の印刷企業では考えられないシフトである。1年を通じて、昼寝て夜働く労働が、いかに過酷か、想像できると思う。それも、基本給が10数万円という低賃金である。あとは基準外賃金の諸手当である。時給単価で見ると最賃違反も考えられる。
ここには、労基法違反の疑いがある。また、プリントパックを始め、いくつかの「印刷通販」で働く外国人研修生がいる。この働かせ方にも、問題がある。研修生制度と働かせ方については、継続して別途考察が必要だと考える。
急激に成長した企業は、その速度故に、企業としての組織体制が追いつかず、オーナー経営にありがちなワンマン体質によって、労基法違反やパワハラ・セクハラといった人権侵害が、往々にして起こり易い。ワタミやすき家などの飲食業やユニクロなどのアパレル業、いくつかのIT企業等は、「ブラック企業」の代名詞にさえなっている。
プリントパックも同様の実態がある、と告発が続いていた。後述するが、告発や訴訟だけでは、企業のブラック化は阻止しにくい。そこに、日常的に監視し交渉できる労働組合がなければ、劣悪な賃金や労働条件によって利益を得てきた企業は、利益の源泉を人件費などの「コスト」削減にあると考えているため、早晩にブラック企業化してしまう。
労働相談から労働組合結成に向かうケースは、全印総連では、近年そう多くはない。労働相談当事者の問題解決後、なかなか職場に留まって組合を維持していくことが少なくなっているか、留まっても「孤立化」させられるケースが多い。
個人加盟ユニオンによって、団体交渉権を持つことはできるが、周辺の労働者の組織化が進まないと、経営とユニオンの最前線での闘いになってしまって、未組織労働者は蚊帳の外に置かれてしまう課題もある。組織化する側は、このジレンマを常に意識して取り組んでいくことが、大きな課題になっている。
大日本印刷関連の二重偽装請負の実態
印刷関連企業のブラック企業化は、新興の企業に留まらない。業界のリーディングカンパニーと言われる大日本印刷では、その関連子会社で二重偽装請負が行われており、埼玉労働局は大日本印刷関連の3社を指導し、春日部労基署は、労基法違反で送検した。世界有数の大企業、大日本印刷関連企業で、このような労働者を搾取しピンハネするヤクザまがいの不法行為が、まかり通っていた。偽装請負は、大日本印刷に限らず、キャノン、トヨタグループ、パナソニックグループ、果ては独立行政法人の医療センターにまで及んでいる。大日本印刷関連企業の偽装請負と不当解雇については、現在さいたま地裁で係争中だが、今年には判決が出る予定だ。
商取引に、名前だけ企業が介在することは、珍しくない。印刷では、官公需印刷物等の公契約でも、落札企業が必ずしも生産をしていない。設備すら所有していない企業もある。官公需印刷物は、今も多くが物品扱いで、最低制限価格制度も導入されず、予定価格の公表もされていない。各地で制定されている公契約条例にも適用されていない。
官公需印刷物の入札には、印刷関連企業だけではなく、設備を一切持たない広告代理店等の企業も参加している。これらの企業は、落札した場合、印刷企業に仕事を丸投げし進行管理すらしない。ここでは、合法的「ピンハネ」が日常的に行われ、官公需印刷物は、原則現金であるが、しかし、丸投げした企業には、長期の手形決済をし、ここでも利益を得ようとしている。
この不備な入札制度そのものが、合法的「ピンハネ」の温床になっており、入札制度そのものの規制と公平公正化が急務であり、公契約条例によって、公共調達の適正化が当面の課題になっている。
少し古いデータだが、2010年2月22日付の日経新聞に掲載された就職人気企業225社のうち、60.8%にあたる137社が、国の過労死基準を超える三六協定を締結していることが、労働局に対する文書開示請求によって明らかとなった。1年間で見た場合の時間外労働時間の1位が、大日本印刷(1920時間)だった。2位が任天堂(1600時間)、3位がソニーとニコン(1500時間)だが、大日本印刷が飛び抜けて長時間なのが明らかになった。ここでは、労使一体となって労働者を死ぬまで働かせる仕組みになっていることが、改めてはっきりした。
これは、もうブラック企業の何者でもない。労働組合のない企業だけが、ブラック企業化するのではない。ここが悲劇なのは、労働組合も認める形で、非人間的な働かせ方が、まかり通っていることである。名ばかり労働組合の功罪は、大きい。
「印刷通販」の最大手、プリントパック分会の闘い
前述したプリントパック京都本社に全印総連加盟の労働組合ができた。「このままでは体が持たない、会社を辞めるしかない」との労働相談から、組合作りは始まった。
プリントパック京都分会の中山悠平分会長は、組合を結成するに至った思いを次のように話し、職場の労働者に組合加入を訴えている。
「今回、労働組合を結成するに至ったのは、過酷労働、有休がとれないこと、残業代の支払いなどが不明瞭であること、退職金制度がないことなどに疑問を持ったことからでした。何より、ここで働いて本当によかったと思える職場にしたいという思いから動き始めました。
私達には、一生に使える限られた時間です。その時間に、自分が誇りを持って働ける、そんな人生を送りたいと私は考えています。今、組合を結成した私は、会社にとっては邪魔な存在と言えるかもしれません。しかし、私は、決して会社に刃向いたいわけではありません。社長がいう「家族にもここで働いて本当によかったと思ってもらえる職場にしたい」という言葉を本当に実現してもらいたいのです。
それには、十分な休息、自分自身の為にも使える時間、家族と過ごす大切な時間が必要ではありませんか。ちゃんと、疑問を持ったら同等に会社と話し合える、そんな場所が必要ではありませんか。社員、アシスタント、バイト、ここで働く人たちは決して使い捨てにされる存在であってはならないと思います。何かあれば切り捨てられる、そんな職場で自分の一生を捧げられるでしょうか。みなさん、一度ゆっくり考えてみてください。」
労働組合を知らなかった若者が、目の前にあるブラック企業を変えよう、と立ち上がった。労働相談から組合結成になるケースは、全印総連では近年少ない。全印総連京都地連は、労働相談に寄せられた問題を解決するには、労働組合の結成が急務と考え、個人加盟から職場に根を張る分会結成へと駒を進めた。だが、団交での会社対応とは裏腹に、公然化した分会役員に日常的な監視者がつき、分会員の言動を監視する人権侵害が行われている。しかし、彼らはめげてはいない。公然化していない分会員とともに、組織拡大と要求実現に向けて頑張っている。
今、京都地連は全国に工場と店舗を持つ「印刷通販」最大手のプリントパックでの組織化を最重要課題として、本部とともに奮闘している。ブラック企業根絶の闘いの第一歩である。
ブラック企業を合法化する安倍「労働諸法制改悪」阻止に全力を
昨年末に特定秘密保護法を強行採決し、靖国神社参拝や憲法改悪を目論む安倍自民党は、労働諸法制の改悪も画策している。ブラック企業根絶の掛け声の裏に、ブラック企業を合法化する労働諸法制の改悪も、国会で強行突破しようと考えているようである。しかし、特定秘密保護法を強行採決させてしまった轍を踏まない運動が必要だ。
既にある労基法や労組法も、それを守らせる運動や組織がないと、絵に書いた餅である。組合のない職場に限らず、大企業職場や非正規労働者に対しては、労基法も労組法も役に立たないことがある。私たちは、この事実をしっかりと受け止め、今ある労働諸法を守らせる運動と労働法制を改悪させない闘いの両立した運動が必要だ。そして何よりも、職場に労働組合を確立し、職場での要求実現の闘いと労働法制改悪反対の闘いを同時に行っていくことが、急務である。
14春闘は、職場と地域、産業と政治にユニオンフラッグを見せる闘いが重要であり、フル回転の運動が求められている。
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