「前半」では、アルバイトをめぐる問題をみてきた。「後半」は、学費負担・奨学金利用や生活全般に関わることをみていく。(2021年10月24日記)
前半:2021年度2部アンケート調査結果報告会・座談会(アルバイト編)
後半:2021年度2部アンケート調査結果報告会・座談会(学費負担・奨学金利用、生活全般編)
主な学費負担者・原資
表1 北海学園大学の授業料等
経済学部 2部 経営学部 2部 法学部 2部 |
人文学部 2部 | 経済学部 1部 経営学部 1部 法学部 1部 |
人文学部 1部 | 工学部 | ||
前期 | 入学金 | 100,000 | 100,000 | 200,000 | 200,000 | 200,000 |
授業料 | 218,000 | 224,000 | 436,000 | 448,000 | 570,000 | |
後期 | 授業料 | 218,000 | 224,000 | 436,000 | 448,000 | 570,000 |
初年度合計 | 609,000 | 621,000 | 1,204,000 | 1,228,000 | 1,552,000 | |
(参考)2~4年生 | 493,000 | 505,000 | 987,000 | 1,011,000 | 1,333,000 |
注:入学金、授業料以外に、教育充実費、実験実習費、大学諸費、自治会費、同窓会費などが合計の金額には含まれる。
出所:北海学園大学ウェブサイトより作成。
川村 表1は、本学の授業料をまとめたものです。ここから話しを始めましょう。「前半」で要領をつかんだと思いますので、「後半」は皆さんがどんどん進めてください。
表2 あなたの主な学費負担者・原資【複数回答、1つのみ】
学生 はい。今回の調査では、学費負担者・原資について複数回答可で尋ねた上で、1つのみを選択してもらいました。
結果は(表2)、まず複数回答可の場合には、「親の収入」が67.3%で、「奨学金」が54.6%でした。1部生に比べると「親の収入」の割合が低く(1部生では87.4%)、逆に「奨学金」の割合は高い(同、45.4%)ですよね。それから、「自分自身のアルバイト収入」が32.1%と1部生の倍でした。
1部生との以上の差異は、1つのみ回答してもらった場合も、同じようにみられました。結果は、「親の収入」が51.5%、「奨学金」が32.7%、「自分自身のアルバイト収入」が12.2%です。
川村 この設問には特徴があらわれていますよね。ところで、先に言っておきますが、今回の設問には改善の余地があるのだけれども、誰か気がつきましたか。
学生 え、どこですか。
学生 自分も分からないです。
川村 この後でみる「高等教育の修学支援新制度」も選択肢に設けるべきだったと思うんですよ。この制度は、授業料等の減免と給付型奨学金から成り立っていますから、これが学費の主な原資になっている学生もいますよね。実際、この制度を利用していると回答した学生では、「奨学金」を選択している学生の割合が高かったです。
学生 なるほど。
川村 次回は改善しましょう。
ところで、みなさんのことを聞かせてもらえますか。皆さんもやはり、奨学金やアルバイト収入で学費を負担しているのでしょうか。
学生 僕は、給付型奨学金と貸与型奨学金の両方を利用してそれを学費にあてています。周りでも、奨学金を利用している学生は多いですね。ただ僕自身は、アルバイト収入までは学費にはあてていません。
学生 僕はアルバイト収入を学費にあてています。月10万円以上を稼いでいます。多いときだと15万とかを稼いだこともあります。奨学金も借りてはいるのですが、返済のことを考えると、なるべく使わないようにはしていますね。
川村 10万円を稼ぐとなるとかなりの時間をアルバイトに割かざるを得ないでしょう。それで大学にも通っているのですから頭が下がります。
高等教育の修学支援新制度と、その利用状況
川村 では、次は高等教育の修学支援新制度の結果をみていきましょうか。
学生 この制度ってどんな内容でしたっけ。
川村 あれあれ、夏休みをはさんで忘れてしまいましたか。では、調査票を作る際に参考にした文部科学省のサイトをみながら、誰か説明をしてもらえますか。
資料1 高等教育の修学支援新制度特設ページ
出所:文部科学省「高等教育の修学支援新制度」より。
学生 この制度は、「大学等における修学の支援に関する法律」に基づく制度で、「しっかりとした進路への意識や進学意欲があれば、家庭の経済状況に関わらず、大学、短期大学、高等専門学校、専門学校に進学できるチャンスを確保できるよう」2020年度から始まった制度だと説明されています。
資料2 高等教育の修学支援新制度の概要
出所:資料1に同じ。
学生 ただ、それこそ僕たち自身がこの説明で誤解をしたように、誰でも支援の対象になるわけではありません。次のような収入要件があります。住民税非課税世帯で──目安であげられているのは、両親・本人・中学生の家族4人世帯で、年収約270万円までが満額の対象になるようです。あとは、収入に応じて、受けられる支援の内容も、3分の2、3分の1まで下がっていきます。年収約380万円までが支給の対象になっていますね。
川村 この収入要件がポイントですね。とくに法案が審議されていたときに、無償化法などと呼ばれていたために、授業料が無償になる普遍的な法制度なのか? という誤解が生まれていましたよね。
学生 この制度を知っているかどうかを今回の調査でも尋ねましたが、結果は、2部では、「知っている」は62.2%(「知らない」が37.2%。残り0.5%は無回答)で、1部では56.2%でした(同44.6%、0.2%)。
この結果は、どうみたらよいのでしょうか。割と知られていると評価してよいものなのでしょうか。
川村 そうですね。大学でも周知には力を入れていると聞いていますが、皆さん自身に関わる大事な制度の割にはまだ十分に知られていないとも言えそうだし、逆に、わりと高い値とも言えそうだし。
ただ皆さん自身もそうだったように、制度の内容の詳細までは十分に知られていないのではないかな。ですから、「知っている」に回答したこの数値も、少し割り引いてみる必要があるかもしれませんね。
学生 それは思います。僕らも正直言って、内容の詳細を正確に理解できているわけではなく、繰り返し学んでいる感じですから。
表3 修学支援新制度の利用状況
学生 この表3は、制度の利用状況をまとめたものです。「利用していない」と回答する学生は2部生では75.5%で、無回答の2.0%を除き、残りの22.4%が「利用している」という回答でした。1部生よりも利用している学生が多いのは、それだけ経済的な条件が厳しいということを示しているのですよね。
学生 実際の利用希望はまだまだ多いと思うので、今度調査するときには、利用を希望しますか、とか、申請をしましたか、とかも聞いてみたらいいですよね。たぶん収入要件ではじかれると思うのですが、家はそんなに裕福ではありませんから、私自身も、利用できるなら利用したいです。
学生 ゼミで読んだ論文(注)にも書いてあったとおり、問題点などもあわせて、もっと多くの学生にこの制度のことや学費問題を知らせることが大事ですよね。
注:大内裕和・中京大学教授の論文のほか、小林雅之・東京大学名誉教授(現在、桜美林大学教授)の次の論文を参照。「大学無償化法の何が問題か:特異で曖昧な制度設計」『世界』第923号(2019年8月号)、「コロナ禍における学生の困難と支援の課題」『住民と自治』第702号(2021年10月号)。
日本学生支援機構による貸与型奨学金の利用状況
川村 では次は、学生の多くが利用している日本学生支援機構(以下、支援機構)の「貸与型」奨学金をみていきましょうか。奨学金制度をざっくりと説明してもらっていいかな。
学生 支援機構の説明によれば、奨学金には、「給付型」奨学金と「貸与型」奨学金がありまして、貸与型奨学金とは、卒業後に返還しなければならない奨学金制度です。支援機構の貸与型奨学金には、利子がつかない「第一種奨学金」と、利子がつく「第二種奨学金」の2種類があります。
「第一種」は、成績優秀な学生で、家庭の経済的な理由で修学が困難な学生が利用することができます。それから、学校の種別(大学院・大学・短期大学・高等専門学校・専修学校)と通学形態によって借りられる上限が決められています。
学生 僕は「第一種」を申請したのですが、落ちてしまいました。成績は別に悪くない、というかよいほうだと思うのですが、収入要件に該当しなかったのかな。
学生 うーん、どうなんだろう。支援機構のサイトには、いろいろな条件が細かく書かれているよ。
川村 奨学金に関するハウツー本も読んでみるといいかもしれないですね(注)。
注:久米忠史(2019)『最新版 奨学金 借りる? 借りない? 見極めガイド:ここが知りたかった109のQ&A(第2刷)』合同出版
図1 第一種・第二種別にみた奨学金貸与金額及び貸与人員の推移
出所:支援機構「日本学生支援機構について(IR資料)」2021年10月。
学生 ちなみにこの図は、支援機構のウェブサイトからもってきたものなのだけれども、「第一種」の金額や人数が増えてきているみたいよ。
学生 でも、昨年度(2020年度)は下がっているね。給付型が充実したことによるのかな。
川村 大学生に対する支援制度が「動いている」からね。最近の動きは別の機会に調べて整理してみましょう。
表4 日本学生支援機構による貸与型奨学金の利用状況
学生 今回の調査結果に話しをうつします。表のとおり、「利用していない」は2部生では51.0%、1部生では54.8%です。無回答を除いて、残りが「利用している」ことになりますから、2部生では48.0%、1部生では44.0%が「利用している」です。
表5 利用者のうち、第一種奨学金と第二種奨学金の利用合計金額(合計)
学生 こちらの表は、第一種奨学金と第二種奨学金の月額の利用合計金額についてまとめたものです。回答が集中しているのは「2~3万円台」、「4~5万円台」、「6~7万円台」です。
月に4万円で4年間(48か月)借りたとすると192万円です。4年間で400万円弱に該当する「8万円以上」(正確には384万円)も、2部生では10.6%です。さらに、1部生に限るとその値は25.5%にも及びます。
学生 僕の友人でも5万円が多いかな。1人はたしか「第二種」で月額5万円を、もう1人は「第一種」を月額3万円と「第二種」を月額2万円だったと記憶しています。1部生の皆さんは借りている金額が大きいケースが多いですね。
川村 冒頭でみたとおり、1部生の授業料は2部生の倍で、およそ100万円ですから、その分やはり高額の奨学金を利用しているのでしょうね。
ただそれでも、以前の調査結果に比べると8万円以上を借りている割合が低くなっているかな。例えば、本学で実施された「2017年度学生生活実態調査」では、8万円以上借りているのは、2部生では25.0%、1部では39.8%でしたから。過去に遡って、利用状況を整理してみる必要があるかもね。
表6 大学卒業後の貸与型奨学金の返済予定者
学生 貸与奨学金を借りている学生に、卒業後の返済予定が誰かを尋ねました。
結果は、「自分自身」が多数です。2部生では88.3%、1部生でも81.8%です。
川村 皆さんは返済の予定はどうなっているのですか。
学生 私は、有利子の「第二種」だけを月額で5万円借りています。返還総額は245万8千円で、月に1万3,600円を15年間かけて返す予定だったと思います。
私自身は、奨学金をほとんど使わずに貯金していますが、一人暮らしをしている友達の中には、家賃や生活費を奨学金から捻出している人もいまして、奨学金の返還に苦労しそうと言っていました。
学生 僕はじつは、借りている毎月の金額はもちろん分かるのですが、利子を含めた返済総額や毎月の返済額は分かっていません。一括で返そうと思っているものですから。
川村 過去の調査では、奨学金を管理しているのは親というケースが多かったです。それゆえに返済の詳細を理解していないことは少なくないかもしれません。
ただいずれにせよ、学生がこうして、借金を背負っての社会人生活をスタートさせることが当たり前になっている社会にあらためて驚きます。
コロナ下での家族の仕事・収入の変化
川村 ではここからは、コロナ下における生活全般の状況をみていきましょうか。
コロナ下でご家族の仕事や収入はどうなったかを尋ねました。学費負担者で「親の収入」の選択が多かったことを考えても、ご家族の仕事・収入状況には留意が必要ですからね。
学生 私の家庭では、父親が会社員で働いていて、母親は専業主婦です。収入が減ったなどの話は父親からはとくに聞いてはいないのですが、ただ、そもそも親とそういう話をする機会自体がありません。
川村 調査票を作成する際にもそのことは検討したよね。確かに、学生が親の収入を詳しく知るという機会は多くないかもしれません。そういう限界をもった調査結果だということは念頭においたほうがよいかもしれませんね。
学生 前期にゼミで配られた「新型コロナウイルスと雇用・暮らしに関するNHK・JILPT共同調査」では、男性か女性か、正規雇用か非正規雇用かでも違いが出ていましたよね。
川村 我々の調査では、そういうことまで詳しく聞いていません。その点でもざっくりとした内容ですよね。では調査結果を説明してもらえるかな。
表7 コロナ下での家族の仕事や収入が減るようなことの有無【複数回答可】
学生 設問では、「あなたのご家族で、コロナ下で、仕事や収入が減るようなことはありましたか」と聞いています。つまり、本人は除いて回答してもらいました。
結果は(表7)、「家族では仕事や収入が減った者はいない」が約7割(68.9%)でした。一方で、「親など学費負担者の仕事収入が減った」が17.9%、「学費負担者以外の家族の仕事や収入が減った」が7.7%でした。
表8 コロナ下での家族全体の収入状況の変化
学生 こちらの表8は家族全体の収入状況を詳しくまとめたものです。
「とくに変化はない」とが4分の3(76.0%)を占めます。その一方で、2割弱では収入が減っています。「収入が減った」が15.3%、「収入が大きく減った」が2.0%です(1部生では、17.8%、2.4%)。
学生 どちらの設問でも変化がないと回答した学生が約7割いる一方で、約2割がコロナ禍の影響で仕事や収入が減少していました。
私自身は親にはとくに影響がなかったのですが、月に10万円ほど減少したとか、商売の売上げが減ったなどの自由記述を読むと、家庭によっては、コロナの影響が大きいのだなと思いました。
川村 自分やまわりのこと以外は、理解するのがなかなか難しいですよね。そういう意味でも、他者や社会を理解する上で調査というものは役立つと思います。収入が減った、に回答した人に尋ねたその内容(自由記述)の幾つかを示しておきます。
「収入が大きく減った」を選択した者
【165】1ヶ月あたり10万程度減少。
【247】不景気のため手当等がなくなった。
【327】母がタクシー会社で働いていて、1/3くらいに給料が減った月が何回かあると聞いています。現在もコロナ以前と比べると減ったままです。
【703】飲食業に携わっている父の収入は大幅に減少した。ボーナスもありません。
「収入が減った」を選択した者
【45】姉(21卒)が、内定は貰っているが入社が延期になり、その間アルバイトで生活することになった。
【54】父が、ライブの機材など、大きなものを運送する運送業をしているが、ライブなど実施されなくなり、運送する物が減った→仕事が減った。
【122】両親ともパート勤務で、母が空港の弁当を製造する工場勤務のため、発注が大きく減少。時給制なので影響を強く受けてしまった。
【144】飲食店で働いている親の収入が時短要請により減少した。
【161】実家が飲食店なので、夜の営業分の売り上げが特に減りました。
【180】父親のボーナス減額など。
【197】父親の収入減少。
【223】親は酒屋を営んでいますが、まん防によって酒類の提供に時間指定、あるいは禁止がかけられたことで、酒類の売れ行きが下がりました。
【248】父親の仕事が無く家にいる機会が増えた。
【266】親が雑貨屋との取引をしているが、多くの店が休業中のため、取引をする会社が減っているから、仕事も減っている。
【276】観光業バスの仕事は緊急事態宣言が出されると全てキャンセルになり仕事がなくなる。
【286】母が介護関係の仕事をしており、家族が「濃厚接触者になったかもしれない」となると、仮にそうではなかったとしてもPCRを受けるまで出勤が出来なくなり、更に手当が出ないため。
【310】飲食店を経営しているから。
【319】妹が濃厚接触者と判定された2週間、母も会社を休んでいたのですが、休業手当などは一切つかずその分の収入は0でした。
【353】母が学校給食センターでパートで働いていて、自粛中はかなり減ったと言っていました。
【429】兄が飲食店で社員として働いているが休業要請で給料が減った、ボーナスが減ったと言っていた。
【482】父が理髪店を営んでいるのですが、コロナ禍でお客さんが来なくなってしまった。
【513】人件費などの問題のため、母が店に出る回数が減った。
【669】特にボーナスが大幅に減らされたと聞きました。
【675】父が第一次産業となる職業に就いているのですが、取引先が減少したことによって収入が減ったという経験があります。
学生自身の経済的な状況や心身の状況
学生 次に学生自身への影響です。コロナで経済的な状況や自身の状況(複数回答可)にどのような影響があったのか尋ねてみました。
表9 あなた自身の経済的な状況や心身の状況について【複数回答可】
学生 結果をみると、まず、「生活リズムが乱れている」、「大学で友人ができない」、「大学生活がつまらない」、「気力がわかない」が4割台から4割弱でみられます(順に、45.9%、42.3%、41.8%、39.8%)。これらは学年によっても差があるので、後で確認します。
それから私が気になったのは、「学費の支払いが困難になっている」が11.7%、「生活費を稼ぐのに大変である」が18.9%みられることです。1部生に比べても2部生で割合が高いです。
学生 「前半」でみた、アルバイト収入の使途に関する調査結果でも、2部生は、学費・生活費を稼ぐためにアルバイトをしている割合が1部生に比べて多かったですよね。コロナはそういう点で2部生に影響を及ぼしているのかなと思いました。
川村 具体例を少し聞かせてもらえますか。
学生 私自身は、学費の支払いのためにアルバイトをしています。業種は小売業のため、幸い、コロナの影響はあまり受けていません。ただ友達には、バイトが減って生活費を稼ぐのに困っている学生がいます。
学生 僕自身は、「前半」でもお話ししたとおり、コロナ初期の頃が混乱しました。LINEで突然、「明日から休業になります」と言われました。学費を自分で払っているものですから、補償の話も何もなくて焦りました。今は仕事量も復活しましたが、初期の頃はとにかく焦りました。
川村 いまはそういった連絡もLINEで送られてくるのですね。
学生 コロナ下における生活リズムのことでいうと、オンライン(オンデマンド)授業は自分の好きな時間に授業を受けられるメリットがあるのですが、手を付けるのはいつでもいいだろうということでルーズになってしまい、課題を溜めてしまい苦労しました。
川村 大学に毎日通うことには生活リズムの維持という意味もあったということですかね。
表10 学年別にみた、あなた自身の経済的な状況や心身の状況【複数回答可】
注:対象は2部生。
学生 この表は、2部生の、学年別の結果をまとめたものです。
川村 先ほどみた結果のうち、「大学で友人ができない」は、2年生で60.4%という高さです。1年生も53.2%で多いですが、それよりも高い。3,4年生とは結果がまったく異なります。「大学生活がつまらない」は3,4年生でも高いのですが、それでも、先の選択肢と同じく、2年生で最多です。これらの結果は私にはショックでした。
学生 あと、「サークル活動や部活動に入り損ねた」は、1,2年生と3,4年生で結果が異なりますね。これもコロナの影響ですよね。ちなみに、「生活費を稼ぐのに大変である」が3,4年生で多いのが気になりました。
川村 学年別にみると、一グループの回答数が少なくなりますので、結果の分析、評価には慎重になったほうがよいですね。もう少し、皆さん自身の経験などを可能な範囲でご紹介してもらえますか。
学生 私は2年生ですが、昨年のことも振り返りながら言うと、まず入学式の中止から大学生活が始まりました。そして、入学当初からオンライン授業でとまどいました。対面が解禁されましたが、その数は多くありませんので、結局いまも、学生同士の交流はこのゼミぐらいしかないのが現状です。
サークル活動も、当時、大学に通学する機会がほとんどなかったため、この調査結果と同じく、私も入り損ねたくちです。今回の調査結果と自分の経験を見比べながら、大学生活へのコロナの影響は大きいなとあらためて思いました。
川村 教員としては、学生同士とくに1,2年生が交流する場を、あらためてどこかで作れないかなと考えています。
学生 コロナ感染を考えると難しいかもしれませんが、そういう場がもっとあると嬉しいです。私自身はそうでもないのですが、「気力がわかない」とか「生活リズムが乱れている」という回答が多かったことにちょっと驚きました。
表11 住まいの種類別にみた、あなた自身の経済的な状況や心身の状況【複数回答可】
注:対象は2部生の1,2生に限定。
川村 表は、住まいの種類別に集計した結果です。対象は、1,2年生に限定しています。参考データとして提供しておきます。回答者数が少ないのと、1部と2部とでは異なる傾向も出ていることなどから、あくまでも参考にとどめてください。
「大学で友人ができない」も「大学生活がつまらない」も、「「実家・親元」以外」群で高いです。加えて、やはりというべきか、特徴的なのは、「生活費を稼ぐのに大変である」が「「実家・親元」以外」群で高く、4人に1人(26.4%)を占めています(「実家・親元」群では1.4%)。
学生 以下の大学生活に関する自由記述の一部を読んでいて、自分も同じ思いだなと感じました。
【83】一番可哀想なのはコロナ禍に入学した後輩たちだと思います。私はLMSやG-plusの使い方を対面で詳しく教えてもらえた上、さらにわからない部分は先輩などに気軽にきけて理解していきました。しかし後輩たちは配られた資料などから読み取り履修登録などをしなければいけません。きっと初期は使い方がわからず最悪単位を落とすこともあったのではないでしょうか。
【107】よくTwitterで大学生活について、勉強するために入ったのだから人間関係が築けないのは問題ないなどという声が、学費関連等ニュースのリプ欄で見受けられます。当事者(大学生)でない人達がそのような事を言うのは心無いと思うので、今回のような調査結果を学外にも強く発信して欲しいです。
【137】生きているのがつまらないと感じるままただ時が流れてゆくのに焦りを感じる。
【138】大学に行くことがないので大学生という実感がない。ほぼオンラインのため学んでいるという実感もない。
【261】簡易カウンセリングのようなことを大学で行ってくれるとありがたい。
【300】周りの学生が今どのように生活しているのかオンラインだと中々友達と会う機会がないためわからない。
【321】学費を払っているのに、学食も学生協も2時過ぎで閉まってしまうことに納得いかない。夜間の生徒に優しくない。閉めるなら学費減らして欲しい
【324】週に1回程度学校に通学しているが、その度に約3000円の交通費がかかるため、大半の講義がオンライン講義になっている間は、対面のみの講義を増やすのではなく、オンラインと対面のハイブリッド講義を増やしてほしい。
【473】一人暮らしで心細い生活を送る毎日ですが、学校に行く機会も少なく毎日つまらないです。
【500】今年入学したものです。友達が出来ないので、交流できるイベントなどがあればいいなと思います。
【512】学費は蓄えの中から負担するので問題はないが、こんな状況になると知っていたら入学しなかったかもしれない。
【624】少しでも授業料が減免される嬉しいと感じる。人と話す機会が欲しい。
【638】大学での授業が全く行われていないのに、去年のような給付金や学費の削減を行わないのは疑問。大学はもっと学生の意見を聞いてほしい。
【675】人との交流が少なくなってきているので、やはりそれが少し寂しいように感じます。
コロナ下における収入減への対応策と、大学における食糧支援の取り組み
表12 コロナ下における収入減への対応策【複数回答可】
注:全体と「「実家・親元」以外」とを集計した。矛盾する回答が一部にみられるがそのまま扱っている。
学生 コロナ下における収入の減少に対してとった対応策(複数回答可)を次にみます。
まず「収入はとくに減っていない」が半数弱(47.4%)を占めています。次に、「収入は減ったがとくに何もしていない」が5.1%です。無回答の1割弱を除き、残りが、なにがしかの対策をとったというケースです。
多いのは、「貯金を取り崩した」で19.9%です。また、「食費を削った」は17.9%、「交際費を削った」が12.8%で続きます。支出を削った以上のケースに対して、「アルバイトの勤務時間を増やした、かけもちをした」というケースも13.3%みられます。
学生 ただこの結果は、実家暮らしかそうでないかで異なるだろうということで、集計をし直したのですよね。
川村 もともと、実家暮らしではない学生向けの選択肢も盛り込んでいましたからね。結果はどうでしたか。
学生 「「実家・親元」以外」の学生では、まず「収入はとくに減っていない」は35.5%にまで低下し、一方で、「食費を削った」は35.5%にまで増加しています。また、「貯金を取り崩した」も23.7%になっています。
川村 ところで、「一時期、実家に帰った」は14.5%(1部生では22.2%)にとどまります。もっと多いと思ったのですが、設問や選択肢に問題があったかな。
学生 どうでしょうか。市町村をまたいだ移動に関して厳しく言われていた時期がありましたよね。僕自身も親から、札幌からは戻ってくるな、みたいな感じで言われましたよ。
学生 そうそう、札幌からの移動が最初はすごく敬遠されたよね。そういうのもあるのではないですか。
川村 なるほどね。
学生 選択肢のことで言えば、調査票を作る際に議論になったことですが、学生にはもともと食費を削って生活しているのが多いじゃないですか。僕自身もそうです。そういう場合は、「食費を削った」を選択しない可能性はないでしょうか。
もっとも、そうは言っても僕自身も、以前より食費は減ったと思います。コロナ感染のことがあるから、友達との外食は完全になくなりましたし、コンビニも、以前より行かなくなったので。
川村 意識的に「削った」わけではないけれども、「減った」ということですよね。ともあれ、ちゃんと食べることができているか、という学生の普段の食事状況については何らかのかたちで詳しく調べたいと思っています。
表13 北海学園大学で開催されている食糧支援の認知状況、利用状況、利用希望
学生 食事のことでいうと、大学で実施されている食糧支援の利用状況や今後の利用希望を今回の調査では尋ねましたが、2部生では、利用したことが「ある」が33.3%で、今後の使用希望が「ある」は37.2%でした。
川村 食糧支援のことを調査項目に入れることを思いついてくれて皆さんに感謝します。回答者の96.4%でこの取り組みが知られていたことを含めて、これらは貴重なデータです。
学生 僕も食糧支援を利用させていただきました。学外からもご支援いただいているのですよね。
川村 この食糧支援の取り組みを紹介させてもらうと、皆さんたち学生の代表である自治会執行部、北海学園生協・北海学園生協委員会(通称:G′ stAff)、大学の教職員有志で主催しているものです。大学の同窓会のほか、自治体・企業・本学のOBOG・市民の皆さまからご支援をいただいています(注)。昨年末(2020年12月)から定期的に開催しており、次回は2021年11月の開催を予定しています。この場を借りて感謝申し上げます。
ささやかな支援ではありますが、アルバイト収入が減った分などを少しでもカバーしてもらえたらと思います。
注:「学生自治会主体で食糧支援/食糧支援を通じた自治の模索」『北海学園大学学報』2021年9月1日8面掲載、「食糧支援プロジェクト」『豊平會報』第87号(2021年9月15日号)9面掲載
【129】アルバイトの収入が減少しましたが、本年度から就職活動を始めております。そのような中でも学業を本業に、就職活動とアルバイトとの両立を図らなければなりません。ですので、実質的にアルバイトの掛け持ちは困難ですし、私の親も私生活を営んでおりますので苦労を掛けさせるわけにはいきません。それでも、大学が主催してくださる食糧支援等をもとに、今の生活を残り1年弱ではありますが頑張っていきます。
【194】自分は幸運にもコロナによって困窮することにはなりませんでしたが、アルバイトの収入が減ったことで学費や生活費の支払いに困っている友人がいるため、食糧支援等の活動やこういった調査をしていただけることはたいへん意義のあることだと思います。
【233】女の人にとっての生活必需品(生理用品とか)の値段が高いため、通常の生活用品とやりくりするのが大変。
【387】食糧支援には助けられているため、ぜひ今後も継続していただけたら嬉しいです。
【604】食糧支援をやめないでいただけるとありがたいです。
修学継続の可能性と、私たちに期待される今後の取り組み
表14 奨学金やアルバイト収入がなかった場合、学費負担者からの支出だけで修学の継続は可能か
学生 奨学金やアルバイト収入がない場合、学費負担者の支出のみで修学の継続が可能かどうかを尋ねました。
2部生では「修学は困難になる」が最多の40.3%です(1部生では27.8%)。残りは、「十分に可能である」が34.7%、「修学の継続は不自由になる」が23.0%です。
川村 例年の調査結果ではありますが、学費・生活費が奨学金やアルバイト収入に依存した構造になっていることをあらためて感じますね。
学生 学費は高いけれども、1部生では、「十分に可能である」が49.6%ですよね。学費が安い2部生のほうが「修学の継続は不自由になる」、「修学は困難になる」と回答している割合が大きいのは、やはり2部生の経済的な事情を反映しているのでしょうか。
川村 そうではないでしょうか。
経済的な理由で進学を断念する生徒も多い中で、2部(夜間部)は、学費を相対的に低く抑えて学生を受け入れてきました。その役割は、今後コロナによる経済状況の悪化が続く中で、あらためて増すかもしれません。私たちもそのことを自覚していこうと思います。
学生 ゼミで学んだ、修学支援の制度やコロナ下での学費の減免の取り組みなど、大学生の学費問題に社会的な注目が集まっています。自分事として僕たちも学費問題に注目していきたいです。
表15 4つの活動における「実施すべきと強く思う」割合
注:調査票では、「実施すべきと強く思う」、「実施すべきと思う」、「実施の必要性はあまり感じない」、「実施の必要性はまったく感じない」のほか、「わからない」という選択肢を設けて、回答をしてもらった。ここでは、「実施すべきと強く思う」のみ取り上げている。
学生 今回の調査結果に基づきながら今後我々が実施すべきと考えた4つの活動を取り上げて、実施すべきと思うかを四段階に分けて尋ねました。表では、「実施すべきと強く思う」のみを取り上げています。
学生 「学習会の開催」が低かったですよね。
川村 この結果はちょっとショックでした。学習をした上で、各種の取り組みに発展させていくというイメージを勝手にもっていたものですから。
学生 「学習会」という言葉の響きがかたくて敬遠された面もあるのではないでしょうか。
川村 んー、どうでしょうかね。
学生 「大学への申し入れ」が高い割合だったのは納得です。学費のこととかオンライン授業のこととか、やっぱりみんな同じ思いなんだなって。
川村 その点は、大学に身を置くものとしては身の縮む思いです。皆さんが支払う授業料と大学運営に要する経費を「切断」するためにも、授業料の無償化を求めていきたいです。
ただ一方で、語弊があるかもしれませんが、学生と教員・大学という、意見、考え方や利害の異なる集団が協議・交渉する場は絶対に必要だと私は思っています。コロナ下に限らず平時においても、学生の皆さんからの「大学への申し入れ」は実現されるべきことではないでしょうか。
学生 「政治への働きかけ」は、正直イメージがわかないのですが、私たち学生の声を聞いてもらえるなら、そういうのも経験してみたいです。
学生 政治が大事と言われるけれども、僕も、高校までそういう経験を全くしたことがないです。
川村 「大学への申し入れ」や「政治への働きかけ」を求める声がこれだけみられることに対しては、教員としてどう向き合うべきか非常に考えさせられました。教育実践に活かしていきたいと思います。
学生 僕は、このコンテンツ作りもそうですが、もっと情報発信をして、大学生の現状を知ってもらいたいと思います。
川村 「『白書』は文字ばかりだから、ぶっちゃけ、学生には読まれない」という皆さんからの指摘は、グサッときました。ぜひ皆さんの感性で素晴らしいコンテンツを作って欲しいと思います。お互いオーバーワーク気味ですが、引き続き頑張っていきましょう。
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