川村雅則「自動車運転労働者の労働条件と労働時間規制の現状」

旬報社が発行する『労働法律旬報第1924号(2018年11月下旬号)に掲載された原稿の転載です。自動車運転者の長時間労働が特集テーマでした。ご承知のとおり、自動車運転職は過労死が数多く発生している代表的な職種の一つです。本文にも書きましたとおり、本稿では、政府統計調査にもとづく自動車運転職の労働条件やその背景にある問題点などを整理し、現場からの各報告につなげました。どうぞお読みください。

なお、元の原稿の図表10(「自動車運転者の健康状態に起因する事案発生状況の推移」)に誤りがありました。お詫びして訂正をいたします。

 

 

はじめに

 

二〇一八年六月、過労死遺族や労働組合らが強く抗議するなか、働き方改革関連法が制定され、時間外労働に関する罰則付きの上限規制がわが国で初めて成立した。過労死遺族らの批判は、一定の要件を満たした者を労働時間規制から外す高度プロフェッショナル制度や、法案から途中で撤回された裁量労働制の拡大など、労働時間規制の緩和策が抱き合わせで導入されようとしていたことだけではなく、単月で一〇〇時間未満、複数月で八〇時間の時間外労働の容認という、法案の建て前とは逆に過労死ラインの働かせ方を法で認めるというその内容にも向けられていた。はたしてこれで過労死がなくなるのか。むしろ、各企業の時間外労働の上限値がここまで引き上げられるのではないか、労災認定行政や企業に対する民事の責任追及でマイナスの影響が生じるのではないか、ということが懸念された。しかも、七二〇時間の年間上限値には休日労働は含まれず、その分を含めると年間で九六〇時間までの時間外・休日労働が認められることが法案審議の途中で明らかにされた。

 

図表1 導入された時間外労働の上限規制の内容

出所:厚生労働省「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律(概要)」より一部を抜粋。

 

こうした、およそ過労死職場の現状を変えるには程遠い規制が導入された一方で、その適用さえも猶予・除外される職場が残った。その一つが自動車運転業務である(図表1)。同業務には、改正法施行の五年後に上限規制が適用される。その上限時間は年九六〇時間である(休日労働は別枠)。また、一般則の適用は引き続き検討事項とされた。

 

自動車運転労働者(以下、運転労働者)の長時間労働を特集した今号での本稿の役割は、政府統計調査にもとづく彼らの労働条件やその背景にある問題点などを整理し、現場からの各報告につなげることである。同様の問題意識で本誌にかつて書いた川村(二〇一二a)、(二〇一二b)も参照されたい。なお、整理した政府統計では、基本的には雇用された者を対象にしているが、長時間労働の是正は自営の運転者を含む職業運転者全体の課題である。

 

規制緩和と政府統計にみる運転者の労働条件

◆―規制緩和政策の導入

図表2 各事業の規模等

事業者数 営業収入 従業員数 運転者数
トラック事業 6.2万 14.5兆円 188万人 83万人
バス事業 0.7万 1.4兆円 18万人 13万人
タクシー事業 5.2万 1.6兆円 34万人 32万人

注:数値は2014~2016年度のもので概数。
出所:国土交通省『2017年版 交通政策白書』の図表1-30、図表1-32より作成。

 

従業員数で二〇〇万人を、運転者数で一〇〇万人を超える自動車運送業がわれわれの日々の生活を支えている(図表2)。貨物輸送(トンベース)では、自営を含めると九割が自動車による輸送である。旅客輸送(輸送人員)では、バスが約四六億人、タクシーが約一四億五〇〇〇万人を運んでいる(二〇一六年度)。

 

しかし、自動車運送事業はその九割以上が中小事業者に分類され、経営基盤は脆弱である。運送費に占める人件費の割合も高く、事業者間の競争が運転者の賃金・労働条件に向かいがちである。しかもトラックや貸切バスでは、荷主や旅行業者との間の契約面において不利な状況に置かれ──現実には、優越的地位の濫用の認定や公正取引行政の介入は困難である──、運送業者だけの努力で労務管理や運行管理を整備するのは容易ではない。

 

図表3 自動車運送業における規制緩和の内容

参入 運賃・料金 改正法施行日
乗合バス 路線毎の免許制
→事業毎の許可制
認可制
→上限認可制の下での事前届出制
2002年2月
貸切バス 事業区域毎の免許制
→事業毎の許可制(事業区域規制あり、増車規制の緩和(認可→届出))
認可制
→事前届出制
2000年2月
タクシー 事業区域毎の免許制
→事業毎の許可制(事業区域規制あり、増車規制の緩和(認可→届出))
(ただし、緊急調整地域においては新規参入、増車は不可。タクシー適正化・活性化法の特定地域においては新規参入は厳に抑制、増車は認可。)
認可制
→区域毎の一定価格帯の申請は自動認可
2002年2月
トラック 事業区域毎の免許制→事業毎の許可制(1990年12月)(事業区域規制あり、増車規制の緩和)
事業区域規制の廃止(2003年4月)
認可制→事前届出制(1990年12月)

事前届出制→事後届出制(2003年4月)

1990年12月

2003年4月

出所:国土交通省自動車交通局「自動車交通局の主な政策課題について」2010年4月より。

 

こうした特徴に拍車をかけたのが交通政策の転換──トラック事業における一九九〇年のいわゆる物流二法(貨物自動車運送事業法、貨物運送取扱事業法)の施行を皮切りとする、自動車運送業における規制緩和政策であった(図表3)。すなわち、新規参入や増車といった需給調整に関する規制や運賃・価格規制など経済的規制の存在が運送事業を高コスト体質とし新規のサービスや低価格のサービスの創出を妨げている、という認識にもとづき、その緩和ないし廃止が求められた。そのことで市場メカニズムが機能し良質なサービス(事業者)の創出と悪質なサービスの淘汰が実現すると主張された。経済的な規制の緩和にともなう安全面での懸念に対しては、社会的な規制の強化で対応可能とされた。

 

図表4 貸切バス事業及びタクシー事業における規制緩和後の業界動向

出所:国土交通省『2017年版 交通政策白書』の図表1-37、1-38。

 

もっとも実際にはそうはならなかった。参入コストの低さや、運転者の労働条件に負担を転嫁できるという条件もあって、規制緩和後、たとえばタクシーや貸切バスでは、需要をはるかに上回る新規参入──しかも零細規模の事業者の参入──や増車が相次ぎ(図表4)、運賃は下落した。政府は、規制緩和の経済的な効果を試算しその政策効果を喧伝したものの、現実には、その分だけ運転者の労働条件が悪化した。少ない選択肢のなかで採用されたコスト削減策である老朽化した車両の使用と点検整備の不十分を背景に事故・火災もバス業界では多発した。後でふれるとおり、規制緩和政策には一定の修正が図られている。しかし政策が根本的に転換されたわけではない。深刻な労働力不足時代を迎えて、労働力の無尽蔵な供給を前提とした政策の見直しが必要であると考える。

 

 

◆―運転労働の特質と低下する賃金・労働条件

 

運転労働に求められるのは、その形状を変化させることなく、ヒトやモノを空間的に移動させることである。迅速性や正確性などはもちろんであるが、何よりも安全性が要求される。その安全性を担保するのが運転労働者の状態、労働条件である。

 

自らも移動をともない、他の車両や歩行者も通行する空間で仕事を行なうという交通労働の特質から運転労働者はさまざまな不利な条件にある。参考文献にあげた野沢・小木編(一九八〇)など、産業衛生・労働科学の分野では、自動車運転労働に関する知見にもとづき問題点の是正が早くから指摘されてきたが、根本的な対策はとられずにむしろ問題に拍車をかけるかのような政策が採用されてきた。

 

さて、政府統計で運転労働者の労働条件を確認しよう。女性の参入はなおわずかにとどまるので、ここでは男性労働者に限定する。

 

図表5 賃金構造基本統計調査にみる運転労働者の賃金・労働時間等

注:対象はいずれも男性(図表9まで同様)。
出所:厚生労働省「2017年 賃金構造基本統計調査」より作成。

 

図表6 賃金構造基本統計調査にみる運転労働者の年間収入(試算)の推移

注:「きまって支給する現金給与額」と「年間賞与その他特別給与額」で試算した年間収入。
出所:厚生労働省「賃金構造基本統計調査」より作成。

 

まず図表5は、輸送モード別に運転労働者の労働条件が把握された「賃金構造基本統計」による賃金、労働時間等の整理である。全産業平均に比べていずれにおいても労働時間が長く、賃金水準が逆に低い。とくにタクシーでは年収(試算)で二〇〇万円もの差が生じている。またさかのぼってみると(図表6)、かつて全産業平均を上回り職業運転者のなかでも「花形」であったバスでは、年収は一九九四年をピークにその後は大きく下落し、二〇〇〇年に入って逆転をしている(労働時間が長かったので時間当たり賃金は九〇年代初頭で逆転)。

 

ところで自動車運送業の賃金の特徴は、固定給部分が小さく変動給部分が大きい点である。運転者の労働意欲を引き出し、事業所外での労務管理に代替する機能をそれは果たしていた。とくにタクシー業界で今日多く採用されているオール歩合制では、最低賃金や時間外・深夜割増で支給されなければならない水準が固定・補償されているのみである(実際にはそれさえも支給されずに紛争に発展するケースもある)。運転者に責任転嫁が可能なこうした弾力的な賃金システムが、規制緩和後の野放図な増車競争を可能にした。

 

 

◆―長い労働時間と過労死の発生状況

図表7 週60時間以上労働者割合の推移(2013~2017年)

注:15~64歳の男性雇用者を対象に、週60時間以上就業の者を、従業者全体で割って算出。
出所:総務省「労働力調査(各年平均値)」より作成。

 

事業者を対象とした調査である「賃構」に対して、労働者を対象に行なわれ、より実態に近い労働時間数を「労働力調査」でみると(図表7)、週六〇時間以上労働者──いわゆる過労死の労災認定基準である月八〇時間以上の時間外労働に該当する労働者の割合は、とくに道路貨物運送業で高く、三割を占める。しかも減少傾向がみられる全産業平均に対して高まりである。また、図表には示していないが、月別の変動もあり、道路貨物運送業では二〇一七年を例に言うと、週六〇時間以上割合は、五、六月には二七・二%にまで減少するが、輸送量が多い一二月には三三・六%にまで上昇する。

 

図表8 就業構造基本調査にみる、雇用形態別にみた長時間労働者・割合等

注:60時間以上の割合は、200日以上を母数に算出。
出所:総務省「2017年 就業構造基本調査」より作成。

 

「労調」とは異なり五年に一度の低頻度であるものの、調査規模が大きい就業構造調査の結果でみると(図表8)、二〇〇日以上を母数とした週六〇時間以上の雇用者割合は、二〇一二年値に比べて二〇一七年には低下しているものの、とりわけ正規雇用者で値が高い(非正規雇用者でもその値は一割を超える点も確認しておきたい)。また、道路貨物運送業を例にみると、二〇〇日以上のうち「二五〇〜二九九日」、すなわち、祝日などのない完全週休二日制前後からそれ以下に該当する日数の者が多くを占めている。

 

図表9 運転労働者の年齢の推移

出所:厚生労働省「賃金構造基本統計調査」より作成。

 

図表10 自動車運転者の健康状態に起因する事案発生状況の推移

注1:2002年に事故件数が急増しているのは、報告規則の改正による。
注2:2014年のバス事故件数の急増は、特定の一事業者の報告が急増したことによる。
出所:国土交通省自動車交通局「自動車運送事業用自動車事故統計年報」より作成。

 

図表11 道路貨物・道路旅客運送業及び自動車運転従事者の脳・心臓疾患の労災補償状況(2013~2017年度の累積値)

注1:2013~2017年度の累積値。
注2:道路貨物運送業と道路旅客運送業は業種、自動車運転従事者は職種。
出所:厚生労働省「脳・心臓疾患および精神障害などの労災補償状況まとめ」より作成。

 

こうした長時間労働や運転者の高齢化(図表9)を背景にしてか、健康状態を起因とする事故が増加している(図表10)。また五年分の労災補償状況をまとめた図表11のとおり、脳・心臓疾患、いわゆる過労死の発生件数がとりわけ道路貨物運送業では(同事業の雇用者規模を考えても)抜きん出ている。しかも支給決定割合の高さからは彼らの過酷な働き方が示唆される。

 

なお、仕事に追い詰められ本来は被害者である彼ら運転労働者は、とはいえ事故を起こせば加害者として処分される点に、交通労働者の労働災害の特異性がある。

 

以上のような広義の労働条件が敬遠され業界では労働力不足が深刻である。全職業の有効求人倍率(二〇一七年各月の平均値)が一・二八であるのに対して、「自動車運転の職業」では二・六八とその倍である(厚生労働省「職業別一般職業紹介状況(常用(除パート))」より算出)。

 

 

運転労働者の労働時間規制の現状

 

規制緩和政策をめぐっては、経済的規制は緩和しても社会的規制の強化で対応は可能である、という「穏和」な主張も聞かれたが、運転労働者の社会的な規制はどうだったか。

 

図表12 時間外労働の延長時間の限度(一般の労働者の場合)

期間 1週間 2週間 4週間 1か月 2か月 3か月 1年間
限度時間 15時間 27時間 43時間 45時間 81時間 120時間 360時間

出所:厚生労働省「時間外労働の限度に関する基準」より作成。

 

まず労働分野の規制に関しては、周知のとおり、日本の労働時間法制では、労使で協定を締結することで時間外労働がいくらでも延長が可能だった。厚生労働省による時間外労働の限度基準(図表12)は設けられていたが、特別条項付きの協定を締結すれば、それを上回る時間外労働の締結が可能であるという実効性に乏しいものであった。そして、「自動車の運転の業務」には、延長時間限度の適用がそもそも除外されていた。

 

図表13 「改善基準告示」の内容(一部抜粋)

注:特例の規定は省略。
出所:労働調査会出版局編(2013)から主な項目を整理。

 

とはいえ、職業運転者(雇用者)の場合には、「労働時間等の労働条件の向上を図ることを目的」に自動車運転者の労働時間等の改善のための基準が定められている。「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準」(平元・二・九労告七号、本誌一九一五号六〇頁参照)、通称「改善基準告示」である。この告示で、拘束時間や運転時間、勤務と勤務の間の休息期間などに規制が設けられている(図表13)。

しかし、第一に、一瞥するとわかるように、過労死ラインを超えるような水準の低さ──トラックを例にあげると、一日の拘束時間は原則一三時間、最大一六時間(一五時間超えは一週二回以内)で、一ヵ月の拘束時間は二九三時間まで可能とされ(しかも後者は、労使協定があるときは、一年のうち六ヵ月までは、一年間の拘束時間が三五一六時間を超えない範囲内において三二〇時間まで延長可)、通勤時間を含む休息期間は八時間以上設けられていれば可、さらに、休日労働は二週間に一回以内で可という規制水準なのである。拘束時間と労働時間の違いはあるとはいえ、過労死を容認する水準と言えよう。

 

図表14 自動車運転者を使用する事業場に対する監督指導状況(2013~2017年の累積値)

注:2013~2017年の累積値。
出所:厚生労働省「自動車運転者を使用する事業場に対する監督指導の状況」より作成。

 

そのうえに、これらの基準に違反しても直接的な罰則などは存在しないという実効性の問題(ただし、「改善基準告示」を引用するかたちで定められた国土交通省による「事業用自動車の運転者の勤務時間及び乗務時間に係る基準」では、違反事業者には行政処分が課される)、そして、実際に、違反が広く確認されること(図表14)──違反の可能性が高い事業者への集中的な監査結果によるという側面もあるが、一方で、重大事故の後に行なわれる業界への調査結果を鑑みると、法令違反は水面下で常態化しているという判断に無理はないと思われる──さらに、同じ職業運転者でありながら非雇用者は対象とならないなどの問題があげられる。

 

なお、安全規制の柱である行政監査・処分に関してもきわめて不十分に推移してきた。軽井沢バス事故が発生した時点の報道によれば、トラック・バス・タクシー(個人タクシーを含む)など事業者数が計一二万に対して、職員数はわずか三六五人とのことだった。トラックでは民間団体による適正化事業が実施されているとはいえ、規制緩和推進の代替策として主張されていた事後チェック体制の強化には程遠い状況であったと言えるだろう。

 

 

過労死防止法の制定と自動車運転労働者

 

今般成立した働き方改革関連法以前の二〇一四年に、過労死遺族やその支援者・団体を推進母体に制定されたのが「過労死等防止対策推進法」(以下、過労死防止法)である。

 

過労死防止法の制定自体が労働規制の強化か緩和かをめぐる攻防であった(制定過程の中心におられた関西大学名誉教授の森岡(二〇一四)を参照)。その結果として同法は、時間外労働に関する直接的な規制をその内容とするものにはなっていない。最終的にその目的は、「過労死等に関する調査研究等について定めることにより、過労死等の防止のための対策を推進し、もって過労死等がなく、仕事と生活を調和させ、健康で充実して働き続けることのできる社会の実現に寄与すること」にとどまる。

 

一方で、同法にもとづき「過労死等の防止のための対策に関する大綱」が策定され、過労死等の防止のための各種の対策(調査研究等、啓発、相談体制の整備等、民間団体の活動に対する支援など)が講じられている。自動車運転者は、過労死等が多く発生している重点業種・職種のひとつとして分析が行なわれている。また、今般の働き方改革の流れを鑑みると慎重な評価が必要だが、たとえば、二〇二〇年までに週労働時間六〇時間以上の雇用者の割合を五%以下とするなど「過労死等防止対策の数値目標」も掲げられている。同法制度を足がかりにした労働時間短縮の取組みが関係者に求められている。

なお、この点に関わって労働科学分野における課題を一つ述べると、たとえば、規則的に不規則な勤務に従事するのが一般的な乗合バスや、労働時間と非労働時間との境目があいまいな長距離トラックなど、運転労働者の拘束時間・労働時間の位置と長さや、生活への影響などの詳細な把握である。

 

まとめに代えて──交通政策の転換と労働規制の強化を

 

規制緩和政策による弊害への修正は一定程度進んでいる。たとえば、タクシー事業における適正化及び活性化に関する特別措置法(二〇〇九年制定、二〇一三年改正)や、重大事故をうけての貸切バス事業での規制の強化──直近では、軽井沢バス事故をうけての事業許可の更新性の導入や民間指定機関による適正化事業の実施など──などがあげられる。行政処分も強化され、直近では、二〇一八年七月より、過労防止関連違反等に係る車両停止等の処分量定が引き上げられるなどしている。

 

図表15 長時間労働の是正に関する工程表(抜粋)

出所:「建設業・自動車運送事業の働き方改革に関する関係省庁連絡会議第1回連絡会議配布資料」(2017年6月29日)。

 

また、働き方改革関連法案の審議にあわせて、自動車運送業における長時間労働の是正に向けた議論・取組みが進められている(図表15)。自動車運送事業の働き方改革に関する関係省庁連絡会議において策定された「自動車運送事業の働き方改革の実現に向けた政府行動計画〜「運び方改革」と安全・安心・安定(3A)の職業運転者の実現〜」(二〇一八年五月三〇日)もその一つである。トラック運送事業でも、運転労働者の不足を背景に、不公正な商慣行の是正、荷主等との協力や運送業者間の共同輸送による拘束時間の短縮化などが一定程度は進むと思われる。

 

しかしながら以上は、自動車運送業における規制緩和路線の転換を意味するものではない。たとえば、タクシー事業の規制強化もあくまでも特別措置(法)にとどまる。労働力不足に対する強い危機感はみられるものの、労働規制の強化は先送りにされている。本稿でみてきた問題状況の是正には限界がある。

 

労働規制の弱さが需要を大きく上回る供給を可能にし、引き下げられた運転労働者の労働条件を構成要素に作り上げられた輸送体系が労働規制の強化を困難にする、という悪循環に現状はある。そこからの脱却、すなわち、交通政策における規制緩和路線からの転換と、人間らしい働き方の実現のための労働規制の強化が必要である。

 

 

(参考文献)

* 安部誠治(二〇一七)「運輸産業の安全と労働問題──貸切バス事業を中心に」法政大学大原社会問題研究所『日本労働年鑑(二〇一七年版)』旬報社。

* 川村雅則(二〇一二a)「タクシー産業における規制緩和路線の破綻:タクシー運転者の賃金・労働条件をふまえて」『労働法律旬報』一七六六号(二〇一二年四月号)。

* 川村雅則(二〇一二b)「規制緩和と交通労働:高速バスツアー事故が問うもの」『労働法律旬報』一七七七号(二〇一二年一〇月号)。

* 川村雅則(二〇一七)「タクシー労働をめぐる問題」太田和博ら編『総合研究日本のタクシー産業──現状と変革に向けての分析』慶應義塾大学出版会。

* 厚生労働省(二〇一六)『平成二八年版過労死等防止対策白書』正陽文庫。

* 厚生労働省(二〇一七)『平成二九年版過労死等防止対策白書』正陽文庫。

* 交通運輸政策研究会(二〇一三)『安全な貸切バス・高速バスを求めて』交通運輸政策研究会。

* 交通運輸政策研究会(二〇一六)『交通政策の提言二〇一六──人口減・災害多発時代の日本の交通』交通運輸政策研究会。

* 国土交通省(二〇一七)『平成二九年版交通政策白書』勝美印刷株式会社。

* 野沢浩・小木和孝編(一九八〇)『(労働科学叢書五五)自動車運転労働』財団法人労働科学研究所。

* 村尾質(一九八二)『貨物輸送の自動車化』白桃書房。

* 森岡孝二(二〇一四)「大詰めを迎えた過労死防止基本法制定運動」『職場の人権』八八号(二〇一四年一〇月号)。

* 森岡孝二(二〇一七)「この「改革」で過労死はなくならない」『世界』九〇一号(二〇一七年一一月号)。

* 労働調査会出版局(二〇一三)『(改訂五版)自動車運転者労務改善基準の解説』労働調査会。

 

 

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